~袁術side~
その頃、汜水関から遠く離れた戦場の端っこ。
ここには、袁術軍が布陣していた。
「のぉ~七乃。わらわ暇なのじゃ~……。」
「そうですね~…。でも、美羽様には袁紹さんから頼まれた役割があるじゃないですか。」
「そうなのじゃが…。こんな戦場から離れた後ろ側で、輜重隊を守っているだけなんて暇すぎて嫌なのじゃ…。」
「そうですか?? この方が落ち着いて見ているだけで良い分楽だと思いますよ??」
「それは……そうなのじゃが……。まぁ、良い七乃。わらわは蜂蜜水が飲みたいぞ。」
「駄目ですよ、美羽様。さっき飲んだばかりじゃないですか…。次は夕御飯の時まで駄目です。」
「嫌じゃ嫌じゃ!! わらわは今すぐに蜂蜜水が飲みたいのじゃ!!」
「駄目です。蜂蜜水ばかり飲んでいると直ぐに虫歯になりますよ?」
「うっ……。虫歯は……痛いから嫌なのじゃ……。」
「なら、今はただの水で我慢してくださいね。」
「…………うむ…。」
七乃から水の入った竹筒を受け取り、栓を開けて中に入っている水を飲む。
中の水は思っている以上に温く、水を飲み下した時の不快感はなんとも言えない。
しかし、こんな戦場で冷たい水など飲めるわけが無いのだから、しょうがないと言えばしょうがない。
「んくっ…んくっ……ぷはっ…。 はぁ~…。冷たい蜂蜜水が飲みたいのじゃ…。」
「戦場でそんなこと言っても無理ですよ~…。この戦いが終わるまで我慢してください。」
七乃にそう言われてしまったら、仕方ない…。
飲みたいものは飲みたいが、七乃が蜂蜜水を管理しているのだから許しが出なければ飲めないのは道理…。
まったく……この戦いさえなければ……。
「ふみゅ~……。なら、こんな戦い直ぐに終わらせるのじゃ!!!」
「いや~ん、流石美羽様。現状の連合軍の経緯を知らずにその大胆発言!! よっ!!流石袁家の正当後継者!! 」
「はっはっはっ!!!! もっと褒めるのじゃ!!!!!」
七乃に褒められ、気分を良くする。
「それならば、直ぐにでもあの関を抜いて、董卓を倒しに行くのじゃ!!!」
「それは無理ですよ、美羽様。連合軍は、今必死に汜水関を抜こうとしていますけど、思うように進まず四苦八苦してるんですから…。」
「何故抜けんのじゃ? こんだけ兵士がいて、相手より随分と多いというのに…。」
「それがですね、美羽様。どうやら、あの関にいる徳種さんという方がどうも邪魔をしているみたいで。」
「徳種……?? 誰じゃ??」
「ほらっ、美羽様。軍議の時にいきなり天幕に入ってきたあの男の…。」
「おぉ~…。そう言えばそんな奴も……。」
あの男の姿を思い出したところで、その後に自分に起こったことを思い出して体がガタガタと震える…。
「…………ガクガクブルブル…。」
「美羽様。大丈夫ですか、美羽様??」
「徳種怖い……徳種怖い……。ガクガクブルブル……。」
「あぁ~……あの時の首筋に剣を突きつけられたことを思い出したんですね~…。よしよ~し……怖い人はここには居ませんからね~・・・。」
「徳種怖い……徳種怖い……。ガクガクブルブル……。」
「はぁ~……恐怖に震える美羽様も可愛い……。(うっとり)」
ここはここで楽しく戦場の端に布陣しているのかもしれない…。
「袁術様!!!」
「ほぇ!? な……なんじゃ!!? どうしたのじゃ!?」
「落ち着いてください、美羽様。私たちの所の兵ですよ。」
「ほっ………コホン。で、一体どうしたのじゃ?」
「安全だと分かった瞬間のその代わり身の速さ。流石美羽様!!!」
「ぬはははっ!!! もっと褒めてたも~!!!!」
張勲に褒められたと勘違いして調子による袁術。
その光景を見ている兵士も苦笑いを浮かべるしかない。
「…………ご報告よろしいでしょうか?」
「うむ。良いぞ。」
「はっ!! 前線が膠着状態のため、本陣の袁紹様が直々に軍を率いて前線へとうって出たそうです。」
「なぬっ!? 七乃、まずいのじゃ!!!」
「どうしたんですか、美羽様??」
「麗羽姉様が前線に行ったという事は、手柄を取りに行ったといっても良いのじゃ!!このままだと、麗羽姉様に手柄を独り占めされ、わらわの手柄が無くなるのじゃ!! そんなことは、あってはならぬ!!!!」
「しかし、美羽様。私たちの軍は輜重隊を守るのが役目であって、前線に出て行く権利なんて何もありませんよ?」
「ぐぬぬっ…。そこは七乃、何とかするのじゃ!!!!」
「そんな、無茶ですよ~!!!!」
張勲の叫び声は、何処までも遠く遠く木霊していった。
~袁紹side~
「今が好機ですわ!!! 一気に攻め潰して差し上げなさい!!!!」
「よぉ~し!!!! 一気に攻め込むぞ!!! あたいに続け~!!!!!」
「文ちゃんたちに遅れないように、皆さん着いてきてください!!!!」
汜水関の関に攻め込み始めて二刻程が経過したであろうか…。
先ほどから敵の抵抗が弱まってきた気がする。
だがそれも当たり前。
これだけの数で一気呵成に攻め立てているのだ。
敵も此方の対処にずっと神経を使っているのだからそろそろ疲れも出てくる頃である。
攻め抜くなら今の機会を逃す術は無い。
「城壁の上まであと少しですわよ!!!!! 全軍進軍!!!!!!」
「「「「「「おおおおぉぉぉ~~~~!!!!!!!!!!」」」」」」
今まで以上の人数で圧力をかけながら攻め込む。
そして、それは丁度城壁下に一番人が集まった頃であろうか…。
「………登らせるわけには………いかねぇんだよ!!!!!!!」
一番上まで登っていた兵士がいきなりぶっ飛んだかと思えば、その梯子の先端が一刀両断される。
支えを無くした梯子はそのまま倒れこみ、城壁を擦るようにしながら地面まで落ちる。
当然、登っていた兵士達も地面まで落ちて行く。
「うわわぁぁあああああ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!」
その絶叫が木霊する中、どんどんと梯子は落とされていく。
その光景を見た袁紹軍兵士は、我先にと梯子を降りていく。
「こっこれは……こらっ!!! あなた達、逃げるのは許しませんわよ!!!! 相手はたった一人。さっさとやっつけなさい!!!!」
袁紹の命令も空しく、梯子の下に更に集まる袁紹軍兵士。
身動きが出来なくなり、袁紹軍の指揮系統は混乱し始める。
「落ち着きなさい!!!!! 私の言うことを聞きなさい!!!!」
「あっ!!!! アレは何だ!!!!!!!!」
混乱極まりない袁紹軍をその一言がすっと駆け抜けると、皆の視線は城壁上より落ちてくる一つの亀樽に注がれた。
その亀樽はゆっくりゆっくりと、しかし確実に重力によって落ちてくると、袁紹軍の兵士が数多く居る真ん中に落ち、
ずっがあああああぁぁぁぁんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!
大音量の爆音と共に、その破片をあたりに撒き散らし、その場に居た袁紹軍の兵士に重症を負わせていく。
袁紹軍の一同はその瞬間何が起こったのかすぐには理解できなかった。
そして次の瞬間、何が起きたのか理解した瞬間には、辺りを絶望の悲鳴が包み込む。
「なっ!!!??? なんじゃあの兵器は~!!!!!!!!!」
「物凄い轟音と共に爆発しおった!!!!???」
「なんと………怖ろしい武器よ……。」
ある兵士はその表情を絶望に染め膝から崩れ落ち、ある兵士は叫び声を上げながら一目散に逃げ出し、残りの兵士はあまりに衝撃的な出来事過ぎてその場から動けずに居た。
勿論それは、袁紹軍の兵士に限ったことではない。
袁紹軍の武官筆頭の顔良、文醜の二人でさえも、その轟音とその破壊力にその動きを止め、総大将の袁紹に至ってはパニックのあまり右往左往している。
「な……何がどうなってますの!!!??? あんな兵器聞いたことがありませんわよ!!!!」
「おいっ!!! あれ見ろ!!!!!」
再びどこかの兵士が発した一言で城壁上に視線を移した袁紹は、その光景に絶句する。
城壁上には、先ほどと同様の亀樽が数十個は用意されていた。
そしてその先頭に立ってこっちを鋭い視線で睨みつけている男、徳種聖…。
彼の口が何か動いているように見えるが、辺りを絶叫が支配しているため音は何も聞こえない。
何とか彼の口の動きを読もうと努力すると彼がなんと言っているのか理解は出来たが……その言葉は袁紹にとって死の宣告と言っても過言ではなかった。
「(袁紹、お前だけは絶対に許しはしない。董卓に無実の罪を着せた罰、必ずお前に味合わせてやる。)」
袁紹は、自身の足が震えていることに気付き、そこで初めて自分自身があの男に恐怖を抱いているのだと実感したのだった。
~袁術side~
「なっ!!?? なんじゃなんじゃ!!!??? 一体今のは何の音なのじゃ!!??」
「……分かりません…。でも、どうやら前線の方で何かあったようですね~……。」
「あの爆音は何のじゃ一体……。怖い……ひぐっ……怖いのじゃ……ぐすっ…。」
「流石に……あの爆音には私も少々恐怖を覚えます…。しかし、それこそあの徳種とか言う男の狙いかもしれませんがね……。」
「………ひっく……ど…どういうことじゃ??」
「つまりは、あの爆音を聞かせて此方の戦意を削ごうって事ですよ。あの爆音を聞かせれば誰であろうと恐怖を覚えるもの。その兵器が相手にあることが分かれば、此方の兵士が戦っても無理だと考えるようになるので勝手に戦意が喪失する。すると、士気が下がった部隊は戦いに向かないので撤退するしかない。という所でしょうかね~。」
「おぉ~!!! すごいのじゃ、七乃。褒めて遣わすぞ!!!」
「へへへっ。ありがとうございます~!!!!」
「ふむっ。すればどうすれば良いのじゃ??」
「あの爆音に怯まずに攻めれれば良いんですけどね…。」
「伝令!!! 伝令!!!!」
七乃と話していると、先ほど報告に来た兵士が再び駆け込んできた。
「どうした、何か用か?」
「はっ!!!! 袁紹様より伝令です。敵の抵抗が激しく、思うように攻めきれていないこの現状。至急援軍に来て欲しいとの事です!!!!」
「なんじゃ…。援軍を送れということ言うのか…。麗羽姉様は相変わらず我侭なのじゃ…。」
はぁ~と溜息を一つ吐くと、七乃が耳元に口を近づけてひそひそ話をはじめる。
『美羽様。この話乗ったほうが得かもしれませんよ?』
『どうしてじゃ七乃?』
『私たちはあの爆音が此方の戦意を削ぐためだと分かっていますから、気にせず攻め込めますし、今なら袁紹さんに大きな恩を売ることと、汜水関攻略の一番功績を手に入れることが出来ますよ!!!』
『おおっ!!? それは凄いのじゃ!!!! 早速前線へと移動するのじゃ!!!』
『はいっ!!! 伝令さんには快諾したと伝えておきましょう。』
ひそひそ話を終え、伝令兵に向き直り、コホンとわざとらしい咳払いを一つすると、毅然とした態度で口を開いた。
「うむ。麗羽姉様の頼みとあらば、同じ袁家の者として助けに行かぬわけにはいかないのじゃ。わらわたちは、直ぐにでも準備をして袁紹軍に救援にいくと伝えておいてくれるか?」
「はっ!!! 了解いたしました。それではその様に伝えておきます。」
伝令兵はそう言うと、くるりと踵を返して袁術軍の陣を出て行った。
その背に目もくれず、袁術と張勲はにししっと笑い合う。
「やりましたね、美羽様。これで袁紹さんから一本取れますよ。」
「うむっ。これで麗羽姉様に大きい顔されずに済むのじゃ!!!」
「よっ!! 流石袁家の正当後継者にして荊州太守の美羽様!!! 狡賢いことに関しては天下一品!!!!! 中華一の漁夫の利太守!!!!!」
「ぬははっ!!!! もっと褒めてたもぉ~。」
袁術の高笑いが続く中、張勲はふと疑問に思ったことがあった。
「(そう言えば……あんな渋い声と礼儀正しい所作をする伝令兵なんてうちの軍にいましたっけ…??)」
しかし、今目の前で馬鹿にされたのも分からず高笑いをしている袁術を見て、まぁ良いかと考える張勲であった。
その頃、先ほどの伝令兵は袁術の軍から少しはなれた岩陰に隠れていた一軍の中に居た。
「そいでダダさん。首尾はどげんやった??」
「はっ!!! 徳種様の作戦通り、袁術に嘘の進軍命令を出し、出陣をさせました。」
「ご苦労やった。次はウチん番やね。全軍、準備はよかやか?」
「「「「おぉぉぉ~~~!!!!」」」」
「そいじゃ、いっちょやっちやりますか!!!!」
この後、袁術軍がその持ち場である輜重隊の守備を離れると同時に、音流率いる別働部隊により、輜重隊を狙った奇襲が行われたのだった。
弓史に一生 第九章 第十二話 轟音の響くその裏で END
後書きです。
第九章第十二話の投降が終わりました。皆さんいかがでしょうか。
今回はいきなり爆発物を用いてみました。
目的は七乃さんが言っていた通りのことと視線を汜水関に集めさせて輜重隊を撃破することでした。
さて、愈々汜水関の戦いも終わりを向かえる予定。
次は一体どうなるのか、乞うご期待ください。
次も日曜日に上げれるように頑張ります。
それではまた来週!!!!!
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どうも、作者のkikkomanです。
今回は投降が遅れてしまって本当に申し訳ないです。
最近忙しく、書き溜めも使い切ってしまっていたため、書き上げるのに時間がかかってしまいました。
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