No.644919

黒外史  第四話

雷起さん

バケモノの集う世界へようこそ♪

【今回新たに登場するキャラ】
高順・劉備・関羽・張飛・陳宮・張角・張宝・張梁

2013-12-13 19:42:06 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2865   閲覧ユーザー数:2387

 

黒外史  第四話

 

 

 太平道の信者達が黄巾党を名乗り各地で一斉蜂起した。

 一刀達の居る晋陽は、黄巾党の本拠地である冀州鉅鹿とは太行山を挟んで西に位置している。

 しかし、朝廷から丁原に下された命令は并州内の黄巾党殲滅と洛陽へと続く街道の防衛であった。

 冀州へは正史と同じく盧植が討伐軍を率いて洛陽から北上した。

 一刀達は丁原に助力し、并州内の黄巾党を鎮圧しながら盧植軍と黄巾党の戦いの情報を入手しつつ時期を待った。

 その間に鎮圧した黄巾党を僅かずつだが取り込み私兵を増やして行く。

 盧植軍は連戦連勝していたが、正史と同じ様に監察の佐豊からの賄賂の要求を断った為に失脚してしまう。

 ここに至り朝廷から丁原に対し鉅鹿攻略の命令が下った。

 そして于吉は丁原に鉅鹿攻略の策を進言する。

 策は採用され、早速実行に移された。

 丁原率いる本隊が洛陽への街道を防衛しつつ北上し鉅鹿を目指す。

 黄巾党の目が南に向いている隙に太行山の北を迂回した遊撃軍が背後を突く。

 遊撃軍は勿論一刀が指揮を執り、貂蝉、卑弥呼、左慈、于吉が随行する。

 張遼、呂布、そして呂布の副官高順も遊撃軍に加わった。

 

 現在、一刀率いる遊撃軍は冀州北部を鉅鹿に向かい南下中であった。

 張遼、呂布、高順が斥候に出た所で、一刀は于吉に話し掛ける。

 匈奴との戦闘以来一刀は于吉と左慈に対して話し掛ける事が多くなった。

 

「あのまま史実通りに董卓と皇甫嵩が出てくるかとヒヤヒヤしたぞ。」

 

「所詮は外史。結局は貴方に都合よくなると云う事でしょう。」

 于吉は冷ややかに笑って答えた。

 これに貂蝉が口を挟む。

「元々ご主人さまが活躍する為に用意した外史ですもの。

チャンスが巡って来なきゃしょうがないじゃなぁい。」

 一刀は先の事を考えて溜息が出た。

「チャンスなぁ……………張角、張宝、張梁がどんな姿か想像したくないなぁ………」

 曹操、夏侯惇、張遼の例が有る。

 これから先どんな変態と出会う事になるのか考えて、一刀は憂鬱になっていた。

 一刀がそこに思い至った原因は呂布に有る。

 今は斥候に出ていて姿は見えないが、呂布はこの戦の為に戦装束を着用している。

 

 それが恋と同じデザインの物だったのだ。

 

「(ミニスカートと絶対領域さえ無ければまだ我慢出来たんだが………)」

 そう呟いた時、前方から張遼が偵察から戻って来るのが見えた。

 どうもかなり急いでいる様なので何か見付けたのだろう。

 

「一刀はん!大変や!黄巾党の一団がこっちに向かって来とる!!数は二千!!」

 

「なに!?まさか敵の威力偵察か!?」

「それは分からんけど、なんか逃げてる最中って感じやった!

なんにしろウチらの行軍を見られたら鉅鹿に行かす訳にはいかんやろ!」

「逃げてる?」

「呂布ちんと高順は迎え撃つ準備に入っとる。一刀はんも早う迎撃に向かってや!!」

 

 張遼の言う通り、こちらの軍の存在を鉅鹿の黄巾党に知られる訳けにはいかない。

 ひとり残らず殲滅か捕縛する必要があった。

 

「全軍抜刀っ!!我々はこれよりやって来る黄巾党の一団を迎え撃つ!

我らの存在を鉅鹿に伝えられぬ様、ひとりとして逃すなっ!!」

 

 一刀の号令で五千人の兵が戦闘態勢に入った。

 

「進めええええええぇぇぇええっ!!」

 

 五千人の上げる足音が地響きとなって敵に向かって突き進む。

 先頭に立って馬を駆る一刀の目に敵の一団が目に入った。

 そこでは既に戦闘が始まっており、呂布隊が敵を蹴散らしている。

 敵がバラけて逃げ出さない様に高順が上手く呂布に指示を出していた。

 

「高順の用兵の上手さは流石だな。出来ればあの格好はどうにかして欲しいけど………」

 

 高順の格好は一言で言うと“ミニスカポリス”だった。

 

「ん?呂布隊以外にも戦ってるのが居るぞ。」

 呂布隊が戦っているのとは別の場所で繰り広げられている戦闘に目を凝らす。

 上がる血しぶきと逃げ惑う黄巾兵。

 その中に得物を振り回す姿が在った。

 

「我が名は関羽っ!!匪賊どもよ!我が青龍刀の血錆となれいっ!!」

 

 その声は正に愛紗だった!

 服装も一刀のよく知る愛紗と同じ。

 その動きに合わせてなびく黒く長い艶やかな…………髭。

 

 一刀は思わず視線をずらした。

 

「うりゃりゃりゃりゃーーーーーっ!!鈴々の蛇矛から逃げられると思うななのだーーーっ!!」

 

 こちらも声は鈴々なのだが鬼ヒゲを生やした顔に、ゴツイ体躯。

 そんなおっさんが鈴々と同じ服を着て暴れている。

 

「愛紗ちゃん!鈴々ちゃん!ガンバレーーーー♪」

 

 そして二人を応援する声は桃香だが………。

 やはり桃香のコスプレをした髭のアニキだった。

 しかも明るく応援しながら、自らも剣を振り回して黄巾兵を屠っている。

 その剣は一刀もよく知る靖王伝家だ。

 

「へえ、なんか結構強い奴らが紛れ込んどるやんか。

もしかしてこの黄巾共は、あいつらから逃げとったんか?」

「張遼、推測は後だ。黄巾兵を取り囲んで退路を断つぞ!」

「へいへい♪了解♪」

 

 一刀の指示で黄巾兵を包囲すると、決着は直ぐに着いた。

 敵が抵抗を諦め投降したからだ。

 この時点で黄巾兵の残りは二百人程度になっていた。

 

 

 

 

 戦闘を終えた頃に東から義勇軍と思われる一団が到着した。

 掲げた旗は『劉』。

 しかしその旗は何の飾りも無く、白い布に墨で書かれた物だった。

 

「もしかして貴方がたは『天の御遣い』様ですか!?」

 

 桃香のコスプレをした髭アニキが親しげに一刀達の所にやって来た。

 愛紗と鈴々のコスプレをしたおっさん二人も一緒である。

 

「あ、ああ。俺の名は北郷一刀。世間ではそう呼ばれている。」

 

「ウホッ!いい男♪」

 

 一刀はもう突っ込まない。

 これはこの世界での挨拶なのだと割り切った。

 

「私の名前は劉備玄徳です♪幽州で義勇軍を立ち上げてここまで来ました。」

「私の名は関羽雲長。玄徳様を守る青龍刀とお思い下さい。」

「鈴々の名前は張飛なのだ♪」

 

 声だけ聞けば懐かしい三人なのだが、ビジュアル的に一刀は耐えられそうに無かった。

 何しろ劉備のミニスカートの下からモッコリとしたパンツがはみ出している。

 桃香は正史の“劉備”の福耳の代わりに“福乳”だ。

 目の前の劉備は福耳も持ってはいるが、桃香のデータが逆輸入され股間にその影響が出ている様である。

 一刀は焦点をずらす事で対抗した。

 

「義勇軍とは自分ら根性有るやないか♪」

 張遼が楽しそうに声を掛けると、劉備達三人は突然手にした武器を掲げた。

 

「「「我ら三人生まれた日は違えどもっ!!」」」

 

 いきなりの行動に見ていた全員の目が点になった。

 

「「「逝く時は同時を願わんっ!!」」」

 

「端折り過ぎで意味が変わってんじゃねえかっ!!」

 流石に一刀が突っ込んだ。

 そんな一刀の突っ込みを無視して劉備は話し出す。

 

「私達は義憤に駆られて義勇軍を立ち上げたけど、黄巾党の本拠地に乗り込むには兵の数が少ないです。

どうか私達も同行させてもらえませんか?」

 

 いきなりの申し出だが戦力がアップするのは有難い話だ。

 引っかかるのは劉備、関羽、張飛の見た目だけである。

 左慈と于吉は既に正視に耐えられなくなりこの三人を見ていなかった。

 

「ご主人さま、こんなに頑張ってる子達ですもの。一緒に連れて行ってあげましょう♪」

「うむ、真っ直ぐな目をした良きオノコ達ではないか。」

 

 対して貂蝉と卑弥呼は劉備達に好意的である。

「お兄ちゃん達はもしかして貂蝉と卑弥呼なのか?」

 張飛が目を輝かせて二人を見ていた。

「あ~ら?わたし達の事知ってるの?」

「うん!匈奴をぶっ飛ばした話は鈴々たちの所にまで聞こえてきたのだ♪」

「う~む、少し気恥ずかしいのう。」

 これを聞いていた関羽も貂蝉と卑弥呼に頭を下げる。

「貂蝉殿と卑弥呼殿が主と認める北郷一刀様はやはりお強い方なのでしょうね。」

「強いだけじゃ無いわよぉん。見た目通りスンバラしい方なんだからん♪」

「うむ♪やはりおぬし達は良き眼を持っておる♪

是非とも御主人様の活躍する姿を直接見せてやりたいぞ♪」

 

 結局、一刀は貂蝉と卑弥呼に押し切られる形で劉備義勇軍の同行を認めたのだった。

 劉備達が義勇兵に伝えに行くと高順が心配そうに一刀の下へやって来た。

 

「一刀様、あの様な胡散臭い格好の連中を連れて行っても大丈夫なのでしょうか?」

 格好に関しては一刀にとって高順も変わらない存在なのだが、

高順が言いたいのは義勇兵の見窄らしさだった。

 立派な装束は相手に劣等感を与え、己に自尊心と優越感を与える。

 つまり敵の士気を下げ、味方の士気を上げるのだ。

 その事を知り尽くしている高順は己の兵にも揃いの装束を着せていた。

 一刀の目にはミニスカポリスのコスプレをしたアニキ集団にしか見えなかったが。

 

「他所の懐事情にまで首を突っ込む物じゃないぞ。

『ボロを着てても心は錦』って言うだろ。彼らの心意気は認めてやれよ。」

「はい!そうですね。」

 高順の服装はこんなだが、性格は清廉潔白で酒を一滴も呑まない程自分に厳しい。

 そんな高順を一刀は結構気に入っていた。

「私に私財があれば義勇軍の兵にもう少しまともな武器と防具を与えてやれるのに………」

「はは♪輜重隊の荷から武器と防具を回す準備をしておけ。

俺が劉備に受け取るように話しておく。」

「ありがとうございます!一刀様!」

 高順は義勇兵の若者たちを死なせたく無かったのだ。

 その優しさも一刀が気に入った要因の一つだ。

 後方の輜重隊に走って行く高順を見送り、一刀は劉備の所に向かう為に気合を入れた。

 それは劉備の顔を見て殴りかからない為である。

 

「「「我ら三人生まれた日は違えども!逝く時は同時を願わんっ!」」」

 

 またしても聞こえて来たこの台詞に早くも決意が鈍りかけた。

「何をやってるんだ、いったい?」

 一刀の問い掛けに三人が振り返った。

「あ、一刀さん♪これをやると気合が入るんですよ♪」

「へ、へえ……………そうなんだ……………」

 一刀は深く突っ込むのは止める事にした。

「所でひとつ話が有るんだけど。」

 一刀は義勇兵への武器と防具の譲渡を申し出た。

 

「そんなっ!そこまでして貰う訳には行きませんよ!」

 

 劉備は手を振って断ったが、一刀も引く気は無い。

「これは義勇兵が少しでも生き残れる様にしてあげたいっていう俺達の気持ちだ。

彼らの無事を祈るその家族の為にも受け取ってくれないか?」

 この言葉に劉備、関羽、張飛は折れた。

「分かりました。そのお気持ち、受け取らせていただきます。」

 劉備は恭しく頭を下げる。

「鈴々は感動したのだ!お兄ちゃんって呼んでもいいかな?」

「え“?」

 思わぬ張飛の発言に一刀が固まった。

 鬼ヒゲのおっさんに甘えた口調で『お兄ちゃん』などと呼ばれて嬉しい筈がない。

「このご恩。我が武を以て必ずお返し致します。」

 関羽も深々と頭を下げていた。

 劉備が更に続ける。

「戦での働きでお返しするのは当然ですけど、もし良ければ…………」

 顔を赤くしてモジモジし始めた。

 

「私達のお尻をいつでも使って下さいっ!!」

「いらねえよっ!!」

 

 即答する一刀だったが、三人の耳には届いていない様だった。

 

「「「我ら三人生まれた日は違えども!逝く時は同時を願わんっ!」」」

 

 お尻を突き出す劉備、関羽、張飛。

 

「やっぱりそう云う意味なのかあああああああああっ!!」

 

 

 

 

 三日後。

 鉅鹿を目前にした所まで進軍した一刀率いる遊撃軍。

 後は丁原の本隊が攻撃を開始するのを待つのだが、

どうやら本隊は黄巾軍に阻まれて到着が遅れている様だった。

 そんな時、呂布が偵察の最中にひとりの少年を拾って来た。

 

「…………行き倒れてたから連れてきた。」

 

 意識を失っているその少年の格好を見て一刀はそれが誰か解った。

 ブカブカの黒い外套に白い肩掛け。

 黒い帽子にパンダのワンポイント。

 ショートパンツに縞々のニーソ。

 これだけ記号が揃えば嫌でも解る。

「(陳宮か………………でも何でアニキでもおっさんでも無く少年なんだ?)」

 疑問には思うが答えが解る筈も無いので、取り敢えず棚上げする事にした。

 

 呂布が水筒を出し、気を失っている少年の口に少しだけ水を含ませる。

 やはり喉が渇いていたのだろう。

 その水を飲み込むと意識を取り戻した。

 

「……………ここは…………」

 

 その声はやはり音々音と同じ物だった。

「………気が付いた?」

 呂布は優しくその腕に抱きながら問いかけた。

「……あなたは?………」

「呂布…………もう少し水飲む?」

 少年は最初ゆっくりと飲んでいたが水分が体に行き渡るに連れ体が動く様になったのか、

次第に飲む早さが増していき、結局革の水筒に入っていた水を飲み干してしまった。

 

「ぷはぁ………た、助けて頂きありがとうございますなのです。我が名は陳宮と申すのです。」

 

「無理しないでもっと休んでいて良いのですよ。水が欲しいならこちらもどうぞ。」

 于吉が見せる優しい態度に一刀は度肝を抜かれた。

 こんな于吉を見るのは初めてだったからだ。

「(成程………于吉は美少年趣味なのか………道理で…)」

 チラリと左慈を盗み見る。

 

「呂布殿ということは、北郷一刀殿もこちらにいらっしゃるのですか?」

 

「え?北郷一刀は俺だけど?どうして」

 

「曹操軍が南東から鉅鹿に攻め上って来てるのです!」

 一刀の言葉を遮って陳宮は声を上げた。

 

「曹操が!?どうして君がその事を知ってるんだ?」

「ねねは数日前まで曹操軍に居たのです!ねねは真に仕える方を求めてここまで逃げて来たのです!」

 一刀は陳宮を落ち着かせる為に、于吉へ水を飲ませる様に指示した。

 水を飲んで一息吐いた陳宮はここに来た経緯を話し始める。

 

「ねねは曹操に見出されて仕えていたのです。

ですが曹操は事あるごとにねねのお尻を要求してきたのですよ。」

 

 一刀は心底陳宮に同情した。

「曹操は大将軍の密命を受けて丁原軍とは別に黄巾党本拠地を目指して進軍しているのです。」

 つまり一刀達が行っている作戦と同じ事を洛陽の軍本部も考えていたと云う事だ。

 丁原に知らされていないのは曹操進軍の情報を隠し成功率を上げる為。

 その事については一刀も納得が行く。

「曹操は途中に出会った黄巾軍を殲滅して行きました。そこまでは良かったのですよ。

ですが曹操軍は捕えた黄巾兵を犯し始めたのです!」

 一刀は自らの想像にストップを掛けた。

「ねねはその光景を見て、ここに居ては駄目だと思い逃げ出しました。

何処に逃げようかと考えた時、北郷一刀殿が曹操を拒絶し対抗している事を思い出したのです!

どうかねねを北郷一刀殿、いえ、北郷一刀様の配下にお加えくださいなのです!

ねねの真名。音々音をお預けするのです!」

 

 陳宮の熱い懇願に一刀は即答しかけた。

 一刀は一度深呼吸をしてから陳宮に答える。

「分かった。真名は預かろう。だけど音々音の事は呂布と高順に預ける。

高順、陳宮の事を頼む。曹操に見出される位だ。その才能は期待していいと思うぞ。」

「はっ!畏まりました!」

 一刀が陳宮を高順と呂布に預けたのは于吉から守る為と言うのが第一だった。

 第二に恋とねねの関係を思えば、今後はこの方が上手く行くと思われたからだ。

 

「遂に真名を預かってしまいましたね。今後の計画に支障が出なければ良いのですが……」

 于吉の冷ややかな呟きに一刀の心が締め付けられる。

 真名を預けるのは信頼の証だ。

 一刀はこの外史を終わらせる為に、その信頼を裏切らなければならない日が来るのだ。

 果たして一刀はその時、心の痛みに耐え切れるのか。

 

「そんな事で一々落ち込むな。今は黄巾党の本拠地に攻め込む事に集中しろ!」

 

 左慈の言葉に一刀は我に返った。

「解ってるっての!曹操軍がどこまで迫ってるか斥候を出してくれ!」

 

「その必要は無いみたいだぞ。」

 左慈が指差した方角に砂塵が上がった。

 それは丁原と予定していた場所とは明らかに違う場所だった。

 

「総員!鋒矢陣を組めっ!!狙うは黄巾党首領!張角!張宝!張梁だっ!!」

 

 一刀の号令に兵達は雄叫びを上げながら陣を組んで行く。

 陣の完成を確認し、彼らは黄巾党の本拠地へと突入を開始した!

 

 

 

 

 一方、黄巾党の本拠地となっている鉅鹿の城では張三兄弟がその信者を鼓舞していた。

 

「「「官軍が攻めて来たけど、みんなの力でやっつけよう♪」」」

 

 その声はやはり天和、地和、人和と同じ物だった。

『ホアアアァァァ!ホアアアァァァ!ホアアアアアアアアアァァァァァァッ!!』

 

「みんな大好きいーーーーー♪」

『天公将軍――――――!!』

 

「みんなの弟♪」

『地公将軍――――――!!』

 

「とってもカワイイ♪」

『人公将軍――――――!!』

 

「「「みんな行っくよーーーーーーーー♪」」」

『ホアアアァァァ!ホアアアァァァ!ホアアアアアアアアアァァァァァァッ!!』

 

 それは一刀の知る張三姉妹のステージそっくりだった。

 決定的に違うのは………

 

 ステージに立っているのが数え役満シスターズのコスプレをしたアニキ達だった事。

 

「「「蒼いお天はもう死んじゃったの♪

    黄天今こそ勃つ時よ♪」」」

 

 この時一刀達がこのライブ会場と化した鉅鹿城に突入した。

 一刀は一瞬でこの状況を理解し、ステージ上の三人を見て怒りが頂点に達する。

 

 それはこのおっさん達に張三姉妹を穢された気持ちになった事も有るが、

数え役満シスターズのマネージャー兼プロデューサーとして、

このステージの拙さに我慢ならなかったからだった。

 

「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!!」

 

 一刀は雄叫びを上げ、一人でステージに向かって飛び出した。

 

「あれぇ?元気で若いお兄さんだねぇ♪君にだったらわたしのお尻あげちゃってもいいかもぉ♪」

 張角がそんな事を宣った。

 一刀は黄巾兵を殴って弾き飛ばしながらステージに向かって一直線に突進して行く。

 張角はそんな一刀を信者の一人と勘違いしていた。

 一刀に向かってお尻を突き出し待ち構える張角。

 一刀は剣を抜き放ちステージに駆け上がる。

 

「ねぇ~、お願いぃ、早く来て~♪」

 

 一刀は手にした剣を張角の尻に向け、深々と突き刺した。

 

「すごい~~~~~!逝っちゃう~~~~♪♪ゲフッ!」

 

 その言葉通り、張角は血を吐いて絶命した。

「天和兄さんズルイ~~~!」

「私にもしてくださ~~~い♪」

 張宝と張梁は何を勘違いしているのか?

 そんなことには構わず張角の死体から剣を引き抜き、張宝と張梁の首を一瞬で刎ね飛ばした。

 

 ライブ会場となっていた鉅鹿城は静まり返った。

 

 誰もが目の前で何が起こったのか理解出来ていなかった。

 

「拙いぞ、貂蝉!この状況では黄巾兵が我に返ったら今の御主人様でも命が無い!!」

「こんな時こそわたし達の出番よ!卑弥呼!」

 

「「とうっ!!」」

 

 貂蝉と卑弥呼はジャンプしてステージの上に降り立ち、一刀をその巨体の背後に隠した。

 

「さあ!坊や達!わたし達の歌を聞きなさぁ~~~い♪」

「私達の美声に聞き惚れるが良いわっ♪」

 

 何処からともなく軽快な音楽が流れ出す。

 

「ダダダ、ダンダンダダン、ダンダンダ、ダーリン!」

「リンリンリリン、勇気凛リーーーン!!」

 

 呆然としていた黄巾兵は貂蝉と卑弥呼の歌と踊りに引き込まれて行く。

 人は虚脱状態の時に暗示に掛かり易いと言われている。

 これは一種の集団催眠に近かった。

 

 一曲目を終わり、二曲目『演歌†漢女道』に入ると黄巾兵は涙を流し始めた。

 黄巾兵、いや、彼らは既に漢女道信者となっていた。

 

 貂蝉と卑弥呼は信者のアンコールに応え続け二時間近く『絶唱†漢女道』と『演歌†漢女道』を歌い続けた。

 歌い終わった時には鉅鹿城内のみならず、曹操軍、そして遅れて到着した丁原軍からも拍手が湧き上がっていた。

 

 その時張三兄弟の楽屋では、一刀と左慈と于吉だけが青い顔をして項垂れていたのだった。

「あいつらの歌を二時間聞かされ続けるって…………」

「なんの拷問だ…………これは…………」

「漸く…………終わってくれましたか………」

 

 三人がへばっている楽屋の祭壇に『JUN〇N』と『P〇TAT〇』が祀られていた。

 それはかつて于吉の所有物だった雑誌である。

 

 どうやらこれが今回の『太平要術の書』の代わりになったらしい。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

一回で黄巾の乱を終結させてしまいました。

張三兄弟がキモチ悪かったので即刻退場して貰いたかったもので………。

 

次回は曹操と一刀の二度目の邂逅を少しだけやってから

洛陽に向かう話にしたいと思います。

 

 


 
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