No.644310

【獣機特警K-9ⅡG】12月24日の夜空に

2013-12-10 23:34:28 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:851   閲覧ユーザー数:830

  ガコン……!

 超大型輸送機「カシマ」の後部ハッチがゆっくりと開いていく。外気温は氷点下を下回っているだろう。だが、普段飛んでいる、絶対零度の真空に比べれば、はるかに暖かい大気が、彼女たちを包み込んだ。

「スペースエンジェル01・長谷川麗美、出ます!」

「同じく、スペースエンジェル02・サナ、発進する」

 二人の天使が、夜空にふわりと身を躍らせた。背中のイオンスラスターからの噴射が、空気と反応して、大きな光の翼を形作る。

『わかっているとは思うが、このミッションは遊びではない。非常に重要な作戦だから気を抜くな』

 司令官の、真面目くさった通信が入ってくる。

「りょーかいっ!」

 麗美は笑いながら返事をした。その後で、愚痴っぽくつぶやく。

「あーあ、せっかくのクリスマスイブだってのに仕事かあ。タッくんとイチャイチャしたかったな……」

「レイミ大尉、ブリーフィングは受けたが、この任務の意味が今ひとつ理解できない。説明を求める」

 サナが尋ねる。

「えーっとね、最初から話すと長くなるんだけど、いい? 今日は12月24日でしょ? 今日はね、クリスマスイブって言って、キリスト教の救世主、イエス・キリストが生まれたとされる日なの。それは知ってるわよね?」

「ポジティブ(肯定)。知識はある。データベースで閲覧した」

「で、クリスマスイブにはね、いい子のもとにサンタクロースっていうおじいさんがやってきて、プレゼントを枕元に置いていく、っていう言い伝えもあるの。白いヒゲを生やした、赤と白の服を着たおじいさんでね、トナカイが引くそりに乗って空を飛ぶの」

「ネガティブ(否定)。そりが飛行するなど、航空力学的に考えて不可能だ」

「身も蓋もないわね。でね、そのサンタさんを追跡するミッションってのが、地球の空軍の司令部で行われているの。ずっと昔からね。で、我がファンガルド軍も、それにならって、クリスマスの夜にこうやってデモンストレーション飛行をやってるってわけ」

 二人は、フライトスーツの上から、赤と白のサンタクロースの衣装を着込んでいた。そして、児童福祉施設へのプレゼントを詰めた袋を担いでいる。見た目も華やかなスペースエンジェルは、このミッションに最適な存在だ。

 麗美とサナは、ラミナ市の上空に差しかかっていた。宝石箱をひっくり返したような、きらびやかな光の街だ。摩天楼の頂上でゆっくりと明滅する航空障害灯が、この街の息遣いのようだった。

「きれい……」

 麗美がため息をつく。この街には、犯罪や悪徳が渦巻いていることも知っている。だが、それ以上に、人々のつつましい暮らしがあるのだ。

 ラミナ市のはるか向こうに、人工的な灯りがほとんどない、おだやかな闇の海が広がっている。自然保護区だ。

「レイミ大尉。ANCFの自然保護官たちは、あの保護区で活動しているんだな」

「そうよ」

 サナは胸に手を当てて、ゆっくりと言葉をつむぎ出した。服の下に、小さな牙のペンダントがある。

「……非論理的ではあるが、自分は、ナディ、マイ、シンディたちと、つながっていると確かに感じている。彼女たちの存在を感じられる」

 レイミはうなずいた。

「そうね。それを絆、っていうの。そういうのは理屈じゃないわ」

「理解した」

 デモンストレーションもそろそろ終了だ。二人はゆっくりと旋回して、カシマへの帰投ルートを取ろうとした。

 その時。

「レイミ大尉。レーダーに未確認機の反応がある」

「うん。でも、たぶん民間機でしょ?」

「だが、気になる。近づいて確認したい」

「わかったわ。あたしも行く」

 サナと麗美は、レーダーでとらえた未確認機の方向へ向かった。

「この辺りよね、レーダーの反応は」

 麗美が辺りを見回す。

 先に見つけたのはサナだった。

「前方に小型機を確認。もっと接近する」

 サナと麗美は、光の帯を引きながら加速した。

 そして見た。

 赤と白の服を着て、トナカイが引くそりに乗った、白いひげの老人を。

「……!」

「Hohoho! Merry Christmas!!」

 老人は、二人にそう言って笑いかけると、鈴の音を残してクリスマスの夜空に消えていった。

 


 

 
 
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