No.643755 【獣機特警K-9ⅡG】謎めいた二輪の花(後編)【交流】2013-12-08 18:53:16 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:735 閲覧ユーザー数:668 |
謎の死を遂げたアビー・アクトンと入れ替わるように出現したアシュリー・アッカー。
その関連性を調べるべく動き出したトリッカーズがまず目をつけたのは、アシュリーを製造した場所であった。
そこは裏通りの小さなロボット開発センター。その製造履歴を管理するコンピュータに、怪盗バニーがハッキングを仕掛けていた。
「…えっと、『7ヶ月前にアビー・アクトンの依頼で女性型ロボットの製造開始。アビーはそのまま当店でメンテナンスを実施』か…」
手持ちのパソコンで次々にセキュリティを突破し、必要と思われる情報を片っ端から引っこ抜いていくバニー。
サーバーの履歴を1日、また1日と追っていく。
同じ頃、ラピヌとルプスはアシュリーの後を追っていた。
9to10Ⅱの通用口から出てきたアシュリーの背中に、気づかれないように発信機を取り付けていたのだ。
「アシュリーはあの車に乗ったみたいね」
「一体どこへ行くつもりなんだろう?ラピヌ、ディアとヴィクセンに連絡を」
すぐさま、ラピヌはディアに連絡を入れる。
連絡を受けたディアとヴィクセンは、どこから持ち出したのか、ハンググライダーを使ってアシュリーの乗った車を追いかけていた。
「あれね…ラピヌたちがいってた車は。…ん?速度を落とし始めたわね」
アシュリーを乗せた車は、住宅地の中にある低層ビルの手前で停まった。
「あのビル…半年前にアビーが飛び降りたっていう…」
ディアの勘は当たっていた。半年前の事件現場でもある、アビーの自宅だったのである。
アシュリーは車を降りると、その家を目指して歩き始めた。
「アシュリーさん、どこへ向かうつもりでしょうか?」
「わからない…地上に降りて様子を見てみましょ」
ディアとヴィクセンは近場の河川敷に着陸すると、アビーの家へと忍び寄る。
「頼みましたわよ」
と、きつねまんじゅう形のマイクを壁際に設置する。壁伝いにあらゆる音声を拾うことが出来るという優れものだ。
ディアは、すぐに受信装置を用意する。
『ついに帰ってきたわ。久しぶりの我が家…!』
「我が家?アビーは死んでるはず…だいたい、アシュリーはアビーと全く別のロボットよね?」
「でも、彼女はこの家に帰ってきて『我が家』という言葉を発しています。何か引っかかりませんか?」
ディアはルプスとラピヌに連絡を入れる。
「ルプス。ラピヌ。あなたたちの見立てどおり、やっぱり何かおかしいわよ」
無線の向こうではルプスが答える。
「わかった。アビーの身辺を洗ってみるよ」
さて、ハッキングをしていたバニーは…アビーが死亡した日時のデータを発見していた。
「アビー・アクトンが自殺した日はこの日のはず…こ、これは!?」
バニーが驚いたのも無理はない。そこには驚愕の内容が映し出されていた。
『アビーの依頼により製造されていたロボットが起動、逃走を図る。その際にアビーの行動データのバックアップが盗難された模様』
「…これだわ!」
バニーはさらに複数のコンピュータにハッキングを試みる。
すると出てくるのは、アビーの人格や行動パターン、すなわちアビーの『心』がコピーされ、例のロボットに移されていたというのである。
「これで第一の謎は解けたわね…でもなんでわざわざ、別のロボットに心を移したのかしら…」
バニーはすぐに作業を終えると、風のようにその場を立ち去った。
一方、市庁舎のコンピュータルームに侵入したルプスとラピヌも、アビー・アクトンの身辺に関する情報を盗み出すことに成功。
早速調べてみると、やはり不可解な文字列が浮かんでいた。
「『死亡保険に加入』…ね。確かアビーって一人暮らしだったよな?」
「そうね。子供や兄弟姉妹がいるならともかく、一人暮らしなのに保険に入る理由は…あ、待って!?」
「ラピヌ、どうした!?」
「…バニーから入った情報よ。アビーは死の直前に人格を別のロボットに移し変えてたみたい」
「そのロボットの機体データはどうなってるんだ?」
「それも一緒に送られてきたけど…調べてみるわね」
ラピヌは機体データを、現時点で登録されている市民IDと照合していく。
すると、ある一人の人物がヒットしたのだった。
「アシュリー・アッカー…!?あのロボットってまさか!?」
「どうもおかしいぜ!アシュリーのデータも調べよう!」
ラピヌが驚愕する中で、ルプスは盗み出していたアシュリーのデータを調べる。
すると、とんでもない事実が浮かんでいたのである。
「アビー・アクトンは保険金の受取人をアシュリー・アッカーに指定。アシュリーはアビーの保険金1500ホーンを受け取った…そうか、そういうことだったんだな!!」
「これで、謎は全部解けたわね!!すぐにディアたちに報告しなきゃ!!」
ルプスとラピヌは、すぐに残りのメンバー全員に連絡を入れた。
…翌日、ラミナ警察署・生活警備課。
「な、なんやて!?トリッカーズが複数の場所から情報盗ったん!?」
驚きの声を発したのはテムナだった。
「そうです。そしてそれらをまとめたと思われる封書が我々の元に届きました」
警備課に入ってきたミンスターが、一つの封書を手渡す。
ミウが恐る恐るその中身を開けると、そこに書かれていたのはにわかには信じがたいような事実だった。
「…なるほど…アシュリーはアビーだったってわけね…」
「死んだフリして保険金受け取るんが目的やったんか!あいつめ!!どうりで服のデザインが似すぎてる思うたわ!!」
「でもこの場合、容疑はなんになるのかな…」
「決まっとるやろ!自殺した思わせてまんまとカネせしめたんや。つまり保険金をダマし盗ったっちゅうことや!!」
「よし!すぐに現場に出向くわよ!!」
…そして、ラミナ郊外の小さな低層ビル。例の事件現場である。
そこに一台のミニパトが停まると、ミウとテムナが降りてきた。
「失礼します。アシュリー・アッカーさんですか?」
ドアが開き、中からアシュリーが出てきた。
「ええいかにも。私がアシュリー・アッカーです…あら、あなたたちは確か9to10Ⅱで展示会を見に来てくれた…」
と、アシュリーが言い切らないうちにテムナが切り返す。
「それはそれはよう覚えてはりますなァ、アシュリーさん…いや、アビー・アクトンさん?」
その名前を聞いたアシュリーは一瞬面食らったが、何事もなかったかのように笑ってみせる。
「あ…アビー・アクトン?さぁ、あの方は半年前になくなったと聞きましたが?」
「ええ、確かに書類上ではね。でもあなたはこうして生きてるじゃありませんか」
「待って。あ、あなたたち、言ってることが…ちょっとわからないわ。と、とりあえず少し落ち着いてはいかがかしら…?」
平静を装ってみせるアシュリーだが、その声は明らかに震えている。
「へー。せやったらなんで声が震えてはるんですか。目も泳いではりますけど?」
「そ、それは、その…あ、アビー・アクトンは、私に保険金を、私に、アシュリー・アッカーに、渡して…」
「そうそう。その保険金のことでね…こんなのが出てるんですよ」
ミウがアシュリーに突きつけたもの。それは逮捕状だった。
「あ、わ、私は…そんな、アビー・アクトンが、保険金を、私が、アシュリー…わたし…アビー…わた、ワタ…アシュ、アビー…?」
「どうしたんですか?素直に吐いたらどうですか。それともこのままシラ切り通すつもりですか?」
「わた、わたし、アビー…アシュ、リー…わたしがっ…わた…」
呂律が回らなくなっているアシュリーは顔面蒼白になり、目からは涙がこぼれ始めていた。
「ねえ!?どうなんですか!!アビーさんっ!!」
押し迫るミウの気迫に耐えかねたのか、ついにアシュリー…いや、アビーはその場に泣き崩れてしまった。
「わっ、私が…私がっ…アビー・アクトン…ですっ、うぁ、うああぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
テムナはアビーの背中に手を置くと、優しく語りかけるように告げた。
「よう自首しましたなアビーさん。…さ、ウチらと一緒に署まで来てもらえますか?」
「うっ、ぐす…は、はい……」
自らの死を偽り、保険金を騙し取った美人ロボットの逮捕の瞬間であった。
『アシュリー・アッカーと名乗っていたアビー・アクトンは昨日、保険金詐欺の容疑で逮捕され…』
カチャーシーの店内のテレビから流れるニュースを見て、ユキヨとタカトは考えていた。
「…なんだか、こうしてみるとアビーさんって可哀相だよな…」
「自分の死を偽って保険金を受け取るなんて…でも、考えてみると本当に悲しいわよね…」
「今頃どうしてるかな…あの人刑務所の中なんだろ?」
すると隣のテーブルに座っていたテムナが答える。
「いや、あの人はきっと帰ってくるで。今度こそ真面目なロボットになってな」
「テムナさん!」
さらにミウが続く。
「嘘をついたことを相当後悔してたみたいだし…これで懲りてくれればいいんだけどね」
「ま、重苦しい話はナシや!蘭さーん!いつもの頼むわー!!」
「はいよ!すぐ作るからね!!」
…後日、アビーは獄中で執筆した自身の著書の中でこう綴っている。
『人生は一度しかない…。私はその事実から逃げ出したかっただけなのかもしれません。
しかし、一度人生を捨てて生まれ変わったつもりでも、実際にはそんなことはなかったのです。
心が生きている限り人生は続いているものであり、結局のところ私はその続きを生きているだけにすぎないのです…。
死を偽ってまで欲しかった物…でもそれは私が本当に欲しかった物だったのでしょうか?』
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前後編にわたりお届けしてきましたこの事件。
いよいよ解決編です。
■出演
トリッカーズの皆さん
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