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ALO~妖精郷の黄昏~ 第1話 新世代フルダイブマシン

本郷 刃さん

第1話です。
今回の話はタイトル通り、新世代のフルダイブマシンについてになります。

どうぞ・・・。

2013-12-08 11:48:48 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:11602   閲覧ユーザー数:10806

 

 

 

 

第1話 新世代フルダイブマシン

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

木綿季の葬儀が行われてから1週間が経過した4月中旬の土曜日。

俺は夕方頃に菊岡から呼び出しを受け、いつもの高級喫茶店に向かっていた。

奢ってくれるとはいえ、毎回あの喫茶店にするというのは会計的に考えても「ないだろう」と思うのは庶民ゆえだろう。

そしてバイクを近くの駅の駐輪場に止め、そこから喫茶店へと向かい、辿り着いた。

入店してみるとこれまたいつものウェイターが出迎え、俺に気が付くとさらにいつもの奥の窓際の席へと案内され、

そこには既に菊岡が座っていたので向かいの席に座る。

 

「わるいね、態々呼び出してしまって」

「いや、私用にはまだまだ時間があるから問題無い……で、今回の呼び出しの内容は?」

「それじゃあ、早速だけど本題に入らせてもらおうかな。まずはこれを見てくれるかい?」

 

菊岡はタブレット端末を鞄から取り出し、それを操作してから俺に画面を見せてきた。

 

「新世代フルダイブマシン開発案…? 『新型フルダイブ・システム:ソウル・トランスレーター(通称:STL)開発計画』…。

 これを俺に見せたということは、今度のバイトはコレってことでいいのか?」

「うん、そうだよ……で、どうかな。受けてくれるかい?」

 

さらりと返答しているがおそらく真面目に言っているのだとは思う。

いつものアルバイトの提案ならば、簡単に説明をしてからのらりくらりと言葉を紡いでくるのだが、

今回に限っては端末を見せるだけでいきなり受けるか否かの有無を問うてきた。

 

「……こういうのは俺に回すバイトじゃないだろ? もっと最適な人間がいるんじゃないのか?」

「長時間のフルダイブが主な内容になるから、キミ以上に最適な人間はいないよ」

「だからと言って、普通は高校生にやらせるようなものじゃないはずだが?」

「色々な面で信用が出来るという点も加えようかな」

 

話していて分かった……どうやらこの場では話せないことが多いらしい、そう推測できる。

しかし、こちらも素直に了解できるほど子供ではない。

 

「会社名は『RATH(ラース)』ということだが、聞かない名前だな…。

 アンタの勧めって事だから信用は出来るが、それでも半信半疑になりそうだ」

「受けてくれるというのならしっかりと説明はするし、バイト代も弾ませてもらうよ」

 

正直な所、個人的にはこの話は受けてみたいと思っている。

身に危険が及ぶことはないのは違いないし、新世代VRマシンの製作に携わることが出来るというのは俺にとっては嬉しい話しだ。

けれど同時に信用しきれない面もある。それは俺たちに対して己の身分を偽って接触していることもあるからだ。

ここはやはり揺さぶりを掛けてみるか…。

 

「1つだけ、聞いても構わないか?」

「どうぞ」

「『オーシャン・タートル』、『アンダーワールド』、そして『プロジェクト・アリシゼーション』。

 これらは今回のフルダイブマシンに関わっているのか?」

「なっ!?」

 

俺の問いかけにガタンッと音を立てながら立ち上がった菊岡。

セレブのおばさま方がそれを怪訝な眼差しでみたことで彼は頭を下げてから席に座り直し、珍しく俺に睨みを効かせてきた。

どうやら揺さぶりは成功したらしい……しかしコイツが睨むとは、面白いものが見ることができたな。

少しばかりの笑みを浮かべると菊岡はバツの悪そうな表情になった。

 

「悪いけど、少しばかりカマをかけさせてもらった。内容に関してはどんなものなのかは知らないから安心しろ」

「はぁ……一体どこからその情報を手に入れたのか気になるけど、それらが今回の話しに関わっているのは間違いないよ」

 

この3つの単語はどうやら相当重要なものらしい。

 

「人の口に鍵は掛けられないものだ……それに、朝霧海童氏が孫娘やその婚約者に近づく防衛省の男を調べないと思ったか?」

「……なるほど、朝霧の人脈を利用して僕や安岐君の素性を調べ上げたわけか…。

 それにさっきの3つに関しては、海童氏の言葉に機嫌を良くした上の人間が口を滑らせたというところかい?」

「さぁ? まぁその線だとは思うけどな」

 

やれやれと言う感じで肩を疎めて首を軽く振る菊岡はかなり呆れているみたいだ。

しかし、俺としてはやはり3つの言葉の意味が知りたいところだ。

 

「受けては、くれないのかな?」

「受けてやってもいい……だが、条件がある」

「内容は?」

「全て教えろ。お前が何をしているのか、何の為なのか、全てだ…」

「………」

 

考え込むのは当然だろう。

だが、それなりの背景があるとはいえ一介の高校生に全てを教えるなど出来るはずはない。

これで諦めるというのであればそれはそれで構わないし、

仕方がないというか当たり前の結果だと思う……が、予想外の結果が返ってきた。

 

「分かった。その条件を呑もう」

「……へぇ。正直、かなり意外に思ったんだが、どういう風の吹き回しだ?」

「キミを相手に隠し事をしてもこちらの分が悪くだけだからね。

 そうするよりかはこちらの思惑を全て話して、対等な関係にした方がよっぽどマシだと考えたんだ」

 

信用を得るにはそれ相応の態度や対価が必要になる場合がある。

今回の場合は態度であり、菊岡はそれを理解し、そして俺に全てを知られてでも、俺の力を望んだということか。

 

「全てを話すにしても時間が足りな過ぎるから、良ければ明日でもいいかな?」

「それは構わない。場所は何処で?」

「六本木にRATHの分室があってね、そこで話しをしよう。こちらから迎えに行くよ」

 

取り敢えず今日はここまでということになり、俺は彼から奢ってもらった1杯のコーヒーを飲み干し、早々に帰宅した。

このあと直葉と共に夕食を取り、ALOにダイブして明日奈に明日は用事があるということを伝えると彼女は非常に落ち込んでいた。

その代わり、彼女をたっぷりと甘えさせ、それなりの時間まで2人で楽しんだのは察してほしい(笑)

 

 

 

 

そして日曜日。早朝に起きた俺は日課である鍛練を行い、終わればシャワーを浴び、途中で起きてきた直葉と朝食を取った。

そして午前9時、菊岡から『家の前に着いた』というメールが届き、俺は身嗜みを整えて鞄を持ち、家を出た。

自宅の前には黒塗りの1台の車が停車しており、俺が近づくとドアが開いたので、車に乗り込んだ。

 

「おはよう、キリト君」

「おはようさん」

 

中には案の定というべきか菊岡が待っており、俺が座るのを確認すると運転している者に発車を促した。

 

「今日の説明についてなんだけど、ある2人に同席してもらうことになっていてね。

 1人は今回の計画の主要人物の1人で、もう1人はキミ同様に参加して貰いたい人だ」

 

発車してから彼はこのあとの事を説明してきた。

六本木にあるRATHの分室に向かい、そこで俺と菊岡、同席する2人の計4人で話しをするということらしい。

 

「それと今回のアルバイトなんだけどね……話しを全て聞いたうえで、受けるかを決めてくれて構わないよ」

「いいのか?」

「キミは誰彼構わず情報を漏らすような人間じゃないからね。こちらとしては信用を万全の状態にしておきたいし」

 

話しを聞けば引き込んでくるかと思ったんだが、そんなのはバカがやることだろう。

俺の背後関係を知っているからこそ、万全の状態で事に臨みたいのは理解できる。

 

「なにはともあれ、まずは話しを聞くところからだろ?」

「ははは、そうだね」

 

そう、全てを聞いてからでなければな…。

 

 

 

到着した六本木にある大きなビル。菊岡に連れられてビルの奥へと向かい、ある一室へと通された。

そこには見知った1人の女性と眼鏡を掛けた見知らぬ男性がソファに腰掛けていた。

 

「1週間ぶりね、キリト君」

「ええ、凜子さん。それとそちらは?」

「初めまして、英雄のキリト君。ボクは比嘉タケル、よろしくっス」

「初めまして、桐ヶ谷和人だ」

 

女性の方は神代凜子さん、そして眼鏡を掛けた男性の方は彼女から聞いたことのある名前の人物だった。

比嘉タケル……東都工業大学電気電子工学科に在籍、重村研究室に所属していたこともあり、

茅場晶彦、須郷伸之、神代凜子、以上3名の後輩だ。

ここら辺は大学について少し調べたらわかったことであり、

新世代フルダイブマシンの開発ということならばこの2人が選ばれたというのは理解できた。

見たところ凜子さんは開発側では無いような反応であるから、おそらくは比嘉タケルの方が今回の説明者なのだろうな。

俺は促されるように凜子さんの隣に座り、菊岡は比嘉タケルの隣に腰を下ろした。

 

「さて……それでは僕、菊岡誠二郎二等陸佐と彼、比嘉タケル君からお二人に今回の計画についての説明をさせてもらうよ」

 

真剣な表情の菊岡、僅かな笑みを浮かべた比嘉、俺と凜子さんはただ静かに2人の言葉に耳を傾ける…。

 

新世代フルダイブマシン、新型フルダイブ・システムのBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)、

名称『ソウル・トランスレーター』は人間の脳を通すことで心や魂、記憶にさえも接触することを可能とされている。

さらに、それを用いることで発見した人間の魂かもしれない光子の集合体…“揺れ動く光”を意味する

英語の『Fluctuating Light』の略で名称された『フラクトライト』と言い、

0に近い状態から人工知能を誕生させることに利用できるとのこと。

それらの研究を行う施設こそが大型海洋研究母船『オーシャン・タートル』であり、日本から離れた沖合にあるらしい。

『アンダーワールド』というのはSTLとフラクトライトを利用し、

研究者たちがフルダイブして0から成長させた人工知能たちが暮らす世界の名を指すという。

アンダーワールドとは物語の『鏡の国のアリス』に由来し、

会社名としている『RATH(ラース)』はそのアリスの『ジャバウォックの詩』に登場する亀か豚とされている空想上の生物だ。

そしてそのラースの実態は日本の防衛省直轄というのが実態である。

 

(なお、かなり説明を省かせてもらったが詳しくは原作9巻と10巻、その他のサイトなどを参考にしてほしい)

 

 

 

 

全ての説明を受けた俺と凜子さんは用意された紅茶を飲むことで落ち着くことにした。

さすがの俺もまさかここまでの内容を話すとは思わなかったからな…。

俺たちが整理し終えたのを見計らってか、菊岡は再び口を開いた。

 

「そして最後に、僕たちの目的を知ってもらいたい…」

「目的、ね…」

 

彼の言葉に凜子さんが呟いた一方で、俺はなんとなくだが目的を予想していた。

防衛省がフルダイブ技術を研究しているのだ、おそらくは…。

 

「戦争において敵の兵士を殺せるAIを作ることだ」

 

やはり、軍事利用か…! 瞬間、俺は怒気を思いきり菊岡と比嘉に向けて放った。

比嘉は顔を青褪めさせ、菊岡もかなり動揺した様子を見せたが俺から視線を逸らさないで向き合う。

 

「よくもまぁ、抜け抜けと俺の前でその言葉を吐けたものだな…」

「っ、キミの信用を得るには、話さなければならないことだからね…」

 

なおも強く睨みつけるが、それでも眼を逸らさないのはさすが自衛隊の二佐というところか。

個人的にはかなり腹立たしいが、度胸は買ってやるし、何よりも事情が理解できないわけではないので怒気を収める。

菊岡も比嘉も大きく息を吐き、隣では凜子さんも小さく息を吐いたのが聞こえた。

 

「戦争でこれ以上人間の犠牲者を出させないため、そうだろう…?

 そのために生身の肉体を持たない…命の無いAIに戦争をさせようと…」

「あ、あぁ、理解が早くて助かるよ…」

 

正直、理解したくないし認めたくもない……けれど、命の重さが分からないわけじゃない。

それでも納得できるかと問われれば、安易に頷けるはずもない。

 

「お前は、自分たちで育ててきたAIが死ぬことに何も感じないのか…?」

「思うところは当然あると思うよ。けれど、肉体を持つ自衛官1人に比べれば、その重さは遥かに軽い…」

「っ…俺とお前らじゃあ、根本的に分かり合うことは出来ないようだな…」

「「「………」」」

 

俺の言葉に大人3人は口を開かない。それはそうだろう…人工知能であるAIを想うような発言をすれば、大体が呆れるものだ。

特に菊岡は俺が現実主義者(リアリスト)であることを強く理解している。

けれど俺には愛娘であるユイを、感情を持ったような表情を浮かべて言葉を話すノルンの3女神たち、

VRMMOという世界を否定することなんてできない…。

 

「……悪い、少しだけ休ませてくれないか…?」

「そうだね…色々と聞きすぎたから、しっかり整理した方がいいだろう。部屋を用意させるから、そこで休んでくるといい」

 

彼の提案に頷き、俺は案内を任された人に付いて行った。

 

案内された一室には簡易的なベッドが備え付けてあり、

俺はそのベッドに身体を横たえて瞳を閉じ、話しについてのことを考える。

 

AIは生きている……俺と明日奈は勿論、仲間たち一同はそう考えており、AIという存在にも権利はあると思う。

それを否定する人の考えも分かるし、否定するという考えを拒む気もない。

だからと言って、自分たちで人工知能を育てておきながら戦場で死ねと言うのはあまりにも酷ではないか…。

 

ならば断るかと考えれば、それも否というものだ…。

俺が断ったところで他にも人はいるのだから、替えはきき、遅かれ早かれ成功してしまう。

それに純粋な発展の為に繋がり、その価値も非常に高い。

 

それらを考えたうえで、俺が出した結論は…。

 

 

 

1時間後、部屋から出た俺は菊岡たちのいる部屋に戻った。

 

「返答をさせてもらう」

「…別に今日でなくとも構わないんだよ?」

「いや、アンタらにとっては早い方が良いだろ?」

 

彼の気遣いに少しだけありがたく思いながらも、俺は自身で決めた答えを言葉にする。

 

「受けるよ、今回のアルバイト……いや、仕事か依頼と言うべきだな」

「っ、そうか…いやありがとう! よろしくお願いするよ!」

「こりゃ楽しくなりそうっスね」

 

菊岡は珍しくも大層喜んだ様子を見せ、比嘉も笑みを浮かべている。

そして俺の隣に座る凜子さんも俺が驚くような発言をした。

 

「キリト君が受けるというのなら、私が断る理由も無いわね。私も受けるわ」

「ありがとうございます、神代博士! 心強いですよ」

 

彼女は俺に向けて軽くウインクしてからそういった。

どうやら凜子さんは俺がYesと言えば受け、Noと答えていれば受けないと決めていたようだ。

そこにどんな意図があるのかは分からないが、おそらくは俺の考えを信頼してくれたのだと思う。

 

「ただ……成長した人工知能であるAIたちにも意思はあると、心の片隅で覚えておいてほしい」

「分かった。少なくとも、判断材料としても1人の人間の考え方としても、それは覚えておくよ」

「ま、苦労して育てた子を死なせるってことに思うところがないってわけじゃないっスからね」

「しっかりと、覚えておくわ」

 

俺の言葉にハッキリと返答した菊岡、比嘉、凜子さんの3人。

こうして、俺はソウル・トランスレーター完成への協力者として、RATHに仮所属する事になった。

 

 

――俺がAIたちにも道を開けるようにすればいい。

  全てとはいかなくとも、心ある者たちが己の道を進めるように、その手助けをする。

  そして純粋なVR技術の発展へと携わることが、俺の進む道だ。

 

和人Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

原作にて、和人が4月からソウル・トランスレーター(STL)のアルバイトを始めたという描写があったのでそれを書きました。

 

さらにこのストーリーでは和人はブレイン・インプラント・チップ(BIT)の研究には行かず、

STLの開発に携わる進路を取ることになります。

 

別に和人がいなくともBITは完成しそうですが、STLは和人がいないと完成しなさそうですからね。

 

さらに和人が参加することで凜子さんも正式に計画に参加します。

 

なに、このチートメンバーズww

 

それではまた次回をお楽しみに・・・。

 

 

 


 
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