No.64216

家族

ユングさん

真恋姫†無双をモチーフにしたものです。

2009-03-20 01:58:38 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4510   閲覧ユーザー数:3486

 

~家族~

 

「ん?」

城壁から町並みを見ていると城門に近づいてきた影が見えた。

夕闇に邪魔されそうになったが、目を凝らすと2人と2匹の犬の姿がはっきり見えた。

「おかえり!! 恋!! ねね!!」

高々と声を張り上げた後で下に走って行くのは天の御遣いと称される一刀だった。

 

「もう泣いちゃ・・・だめ・・・」

「ひっ・・・ふぐッ・・・」

恋がねねの涙を拭って優しく抱きしめていた。

セキトと張々も主を心配そうに見上げている。

「どうしたんだ? ねね?」

どこか怪我をしたのだろうか? それとも誰かに苛められたのだろうか?

 

今日は恋とねねは見回りをしていたはずだ。

とある町で黄巾の残党や敗残兵が徒党を組んで襲来したからだ。

幸い愛紗・星・鈴々により賊は鎮圧され、朱里・雛里・紫苑の手腕により

町は既に復興の途についている。

その為恋とねねには賊の潜んでいそうな山中を見回ってもらったのだ。

 

「ねね、帽子を川に落とした。追いかけたけど暗くなってたから見失った...」

そう言って恋はねねの水色の髪を優しく撫でた。

確かにトレードマークの帽子があるべきところになかった。

涙をポロポロと溢しながらねねは小さな声でつぶやいた。

「ぇぐっ 恋殿ぉ申し訳ありません。折角買って頂いた帽子なのに...」

その言葉を反芻する前にねねは走って部屋に戻って行ってしまった。

 

「なぁ恋、あの帽子って」

「ねねと真名を交換した日、ねねは恋に肉まんをくれた。

だから恋は帽子をあげた。

ねねは軍師だから帽子が良いと思った。

詠も帽子被ってるし。」

軍師だから帽子被るのかなぁ...まぁ朱里も雛里被ってるしなぁ...

「そっか」

 

 

夕食の時間が来たが、その日ねねは来なかった...

 

 

 

自領とはいえ、まだまだ安心できる訳ではない。

ましてや城外の山中には明かりはなく月明かりだけが全てだった。

そんな宵闇の中に一刀はいた。

ねねがそれ程大事にしている帽子なら是が非でも見つけてやりたかった。

身の危険、蜀という国の中での立場、それらが頭に過らなかった訳ではないが、

それでも一刻でも早くねねに届けてやりたかった。

 

「早く戻らないとなぁ。愛紗のお説教は勘弁だ。」

苦笑いと共にそう呟いた瞬間、目を吊上げ腰に手を当てた姿が目に浮かんだ...

 

「ここか」

そこはやや開けた場所で眼前には小川が流れる場所だった。

夕食時に恋にそれとなく帽子を落とした場所を聞いていたのだ。

「この水量ならそれ程遠くには流れてないな。どこかに引っかかってでもいればいいけど。」

そう言って一刀は下流に向かって歩き始めた。

 

 

ぐぅぅぅ...きゅるるるぅ

そっと大合唱しているお腹をねねは撫でていた。

あんなに大事にしている帽子なのに無くしてしまった。

それが悲しくて悲しくて持てる知識を総動員しても己を慰める術は思いつかなかった。

「ねね」

扉の向こうから遠慮がちな主の声が聞こえた。

「恋殿...? 今開けるのです。」

「このままでいい。」

「???」

ねねは恋の言葉で主を出迎えかけた足を止めた。

「明日帽子探しに行く。見つかるまで恋も一緒に探す。

でもお腹空いてると力でない。だからこれを食べて力つける。

恋はねねの笑った顔が好きだから泣いている顔は見ない。

ごはん置いていくから食べて。」

「分かったのです。」

その返事に満足したのか恋は自分の部屋に戻っていった。

ねねは心配してきてくれた恋に、うれしいやら恥ずかしいやら色々な思いを馳せながら

持って来てくれたご飯を食べようと扉を開けた。

いや、開けようとした。

何かがつっかえているのか扉が開かないのだ。

「なっにっがッ! つっっかえて! いるのですっっ!!」

顔を真っ赤にしながら渾身の力で扉を押すとゆっくりと開き始めた。

「なっ!!!!!」

そこにはいつも使っている10人前用のお釜があった。

中には炊きたての白米がギッチリ。

「恋殿ぉぉ。うれしゅうございますぅ。明日は一日がんばるのです!!   でも...」

これだけの量を今までに食べたことがないねねは困惑した顔で呟いた。

「恋殿の1食は...ねねの10食分なのです...」

 

 

空が白み始めた。

さらさらと流れる小川の水音は眠気を誘う。

ともすればこのまま寝てしまいそうだ。

睡魔を振り切るかのように一刀は頭を振り、顔でも洗おうと腰を屈めた時、

ふと視線の先にある水面に違和感を覚えた。

流れは強くない。

水面まで頭を覗かせる石も見当たらない。

なら何故あんなにも流れに逆らうように水飛沫が踊っているのか?

「もしかして...」

結局顔も洗わなかった為に目を擦りながら、だが期待に抱いた一筋の光明に胸を躍らせ近づく一刀。

「あった...」

帽子のつばに当たった水が飛沫を飛ばしていた。

高揚と安堵に包まれた一刀は思わず、

「ヨッシャー!!!!!」と声高らかに万歳した。

その瞬間体のキャパシティを超えた疲労からか一刀は仰向けにすッ転んだ...

 

 

結局愛紗にはこれまでにない位怒られた。

説き教える説教とは違い、文字通り怒られた。

その様子は翠と鈴々が真面目に調練を行い、星と桔梗が酒も持たずに警邏に向かった程だった。

その他の将達はというと、布団を被って自室に引きこもって震えていたそうな。

 

 

「全く己の分をわきまえろです。」

水に浸した手ぬぐいを絞って一刀の額にそれを乗せながら、ねねは悪態をついた。

ずぶぬれのまま帰ってきた一刀は想像に難くないくらい風邪を引いていたのだ。

「そんなこと...言っちゃだめ。」

ポコン。

「あぅ」

ねねと一緒に来ていた恋がねねの頭を小突く。

だが悪意のあるものではないこと位、ぼやけた頭の一刀にも分かっていた。

「うれしいことして貰ったらちゃんとお礼を言う。」

「むむむ。借りを作っておくのは癪なのです。

今回はありがとうなのですよ。」

ペコンと頭を下げるねね。

「いいんだよ、ねね。俺がしたくてやっただけなんだから。」

それにしても恋の言う事だけは聞くんだよなぁ。

「じゃあ恋は見回りに行く。ねねはご主人様の看病をする。」

「分かりましたなのです。」

ねねも閻魔様...もとい愛紗の姿は見ていた。

震えながら内股で何かを我慢しながら...

 

 

「なぜなのです。」

「ん?」

ねねの真剣な声にこちらも思わず身を起こす。

「なぜねねの帽子を探しにいったのです。」

「だからさっきも言ったけど俺がやりたくてやっただけだって」

「そんな説明を聞きたいわけではないのです!!!」

ねねは怒っていた。

こちらを、一刀をキッと見据えながら。

「帽子は確かに大事ですがおまえもこの国にとっては大事なのです。

己の分をわきまえろとはそういうことなのです。

それなのにこれではねねが迷惑掛けたみたいなのです。」

今度はうって変わって悲しそうな顔をした。

 

そんなねねの顔を見て一刀も真摯に答えた。

「迷惑を掛けた...か。確かにそうだね。」

「ッ!」

ねねはキュッと唇を結んだ。

「でもね、それでいいんだよ。」

「?」

「俺たちは家族なんだ。

桃香も愛紗も鈴々も他の皆も。

勿論、恋もねねも。」

「か...ぞく?」

「そう、家族。一つの目的に向かって歩いている。

その途中には嬉しいことも悲しいことも沢山ある。

それを皆で分かち合う。

だから家族。」

 

その言葉を聞いたねねの目にアッと言う間に涙が浮かんだ。

昔は一人ぼっちだった・・・

よく悪童に苛められたりもした・・・

でも恋と出会ってからはそんなこともなくなった。

恋さえいれば良かった。

でも・・・

目の前の人間は自分を家族だと言ってくれた。

受け入れてくれた。

単純に、だけど言い様のない嬉しさがねねの涙を誘った。

「ひゃっ!!」

ねねは涙を拭ってくれた一刀にびっくりして冷やし直した手ぬぐいを投げつけた。

「うわっ! ひどいなぁ...」

その言葉が終わらぬうちにねねは部屋を出て行こうとしていた。

「それだけ元気があれば大丈夫なのです。

風邪を引いてもやっぱりおまえはち○こなのです!!

暫く大人しく寝ていろなのです。」

そう言ってねねは扉を閉めた。

 

 

冷たい水を取りに行こうとしたねねは頭から帽子を取って見つめた。

そしておもむろに懐から取り出した小さな水鳥の羽を帽子に差した。

一刀が帰って来た時に服についていたものだった。

恐らく転んだときにでも付いたのだろう。

「いい天気なのです。」

空を見上げると雲ひとつない、まさに晴天であった。

にっこり微笑んで帽子を被り、ねねは歩き出した。

帽子のパンダも羽を見て微笑んだようだった。

 

~了~

 

 

 

 

長々とお付き合いありがとうございました。

初めて作成しましたので稚文・乱文だったと思います。

また機会があれば書いてみたいと思います。

 

ありがとうございました。

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
85
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択