No.642127

武術訓練―二次災害ー

小紋さん

武16同士の武術訓練は何が起こるかわかりません。見学される方は十分お気を付けください。

登場するここのつ者
遠山黒犬/魚住涼/砥草鶸/鳶代飾/熊染/音澄寧子

2013-12-02 18:36:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:413   閲覧ユーザー数:390

 

 

「黒犬君は強いのかにゃ?」

 

頭巾に付いた猫耳をぴこぴこと動かしながら(どんな仕組みかは不明である)寧子は黒犬に声をかけた。

以前行われた武術訓練の話を聞き、向上心も好奇心も高い彼女は意欲をそそられたらしい。ちょうどそこを通りかかった黒犬に飛び付いたのは、ある意味当然だった。

突然手を捕まれて目を丸くする黒犬に、寧子は目を輝かせてながら続けて言う。

 

「私と手合わせしてほしいのにゃ!」

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いいたしまーす!」

 

屈伸、伸脚、背伸びと体をほぐし、二人は構える。

念のためにと薬箱を傍らに置いた涼は、自身の武器でもある大幣を真上に上げた。

 

「お二人とも腕は立ちますので問題はないかと思いますが、くれぐれも大怪我はしないでくださいね。」

「ちょっと待った」

「何でしょう、黒犬さん」

 

制止のために上げた右手で、黒犬は寧子の傍らを指差した。

 

「こいつの武器……なんだあれ?」

 

訓練用の武器は全て木で作られており、万が一の時に重大な怪我を負うのを避ける工夫がなされている。しかし寧子が持っているのは角張った棒の先に四角い木の塊が付いた、ちょうど槌のような形をしていた。

キョトンとした寧子だが、すぐに納得したようでそれを小脇に抱えて構えて見せた。

 

「私の得物は三味線なのにゃ。普段はちゃんと楽器なのだけども、今日のは模型にゃ。あと、私の名前はこいつじゃなくて寧子にゃ!」

「じゃあ‘ねーこ’な」

「あの、そろそろ良いですか?」

 

上げっぱなしの腕が辛いのか、涼が口を挟んだ。鉄仕込みの大幣は長時間持ち上げるのに向いておらず、腕が明らかにぷるぷると震えている。

 

「悪い、何時でもいいぞ!」

「同じくにゃ!」

「では!始めて下さい」

 

大幣が降り下ろされ、開始が宣言された。

しかし体制を低くした寧子とは対称的に、黒犬は警戒するだけで動こうとしない。

寧子が首を傾げると、黒犬は気まずそうに頬を掻いた。

 

「女相手はやりにくいんだ。先手いいぞ」

「ふーん?では、遠慮なく♪」

 

柔らかく曲げた足をバネに、寧子は一気に懐に飛び込む。 大きく踏み込み、長く持った三味線モドキを鋭く振り込む。黒犬が半ば本能で腹を両手で覆った一瞬後に三味線モドキが押し当てられかと思うと、ガードの上から遠慮容赦なく………吹っ飛ばした。

 

「ぎゃん!!」

 

ガサガサガサ、バキバキバキと小枝が折れる音と、驚いた鳥が勢いよく飛び立つ音が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

「おーおーやってるやってる!若いってのはいいねぇ」

「なるほど、黒犬さんと寧子さんでしたか」

 

音に引かれてやって来た雨合と砥草がそれぞれ適当に腰を下ろす。たまたま通りがかった熊染と飾も、知り合って日が浅い寧子の動きが気になるのか足を止めていた。

 

「あ、音澄さんだ。三味線モドキ早速使ってくれてるんですね」

「…今、どんな感じじゃろ」

 

飾は涼の横に座り、三味線モドキの活躍に手を打った。確かにその辺に転がっている形ではないが、どうやら飾のお手製らしい。

 

「えっと……、寧子さんの一撃が思いの外強烈で、本気を出して問題ないと判断された黒犬さんと、黒犬さんを自分より強い相手と判断された寧子さんが思う存分じゃれあっているところです」

 

涼の解説をBGMに手合せは続く。三味線モドキを支えにくるりと宙に舞った寧子が威力の高い踵落としを仕掛け、それを受け止めた黒犬が足を弾いて体制を崩しにかかる。開いた体に膝をくれてやると、寧子の体は面白いように飛んだ。

 

「うわっ!痛そう!」

「問題ねぇよ。嬢ちゃんあの体制から腕とけで力の方向に飛んだな~。ほら、ピンピンしてるだろ?」

 

雨合の言葉通り、寧子は地面を軽く滑ったかと思えばすぐさま跳ね起きた。三味線モドキを持ってあの動きとは恐れ入る。

 

「二人とも結構凄いことやってますね。寧子さんも凄いですが黒犬さんもあの一撃を正面から受けてあの余裕だなんて」

「体格差もあるでしょうね。ああでもしないと、黒犬さんなら片手で受け止めてしまいそうです」

 

私を片手で抱えれる方ですし。と涼がため息をつく。これは組手なのか喧嘩なのか、はたまた大道芸なのか判断しかねているらしい。

解説の間も攻防は続いている。寧子の足技と三味線モドキの複雑な動きを黒犬は捌き、黒犬の重い蹴りと食らいつくような拳を寧子は三味線モドキを使っていなした。

 

「……もう少し丈夫な木で作ればよかったかな?」

 

飾が三味線モドキの心配を始める。彼は途中から目で動きを追うのを諦め、自分のお手製品の出来映えを見極めることにしたらしい。

 

 

 

「ねーこ!お前足癖悪い!」

 

鋭い蹴りに肘を合わせて黒犬が叫ぶ。

 

「くろたんは何かこわいにゃ!野生の狼相手にしてる気分にゃ!」

 

その手を三味線モドキで払い、寧子も叫ぶ。

 

「くろたんはやめろ!」

 

寧子が距離を取るのを止めず、また黒犬が叫ぶ。

お互い叫ばずとも聞こえるのだが、どうやら気分の高揚の性らしい。

三味線モドキを構え直し、寧子がふたたび姿勢を低くする。

 

「じゃあとーちゃん!」

「くろたんのがマシだ!」

 

 

ふたたび距離を詰め、三味線モドキを水平に振り回す。受けても避けてもその反動で追撃をかけ、それで勝負を決めるのだ。

 

「喰らうにゃー!」

 

三味線モドキが寧子の真横を通過した瞬間、黒犬が動いた。

 

 

トス、と三味線モドキの柄の根元に足がかけられる。そして、

 

「おりゃあ!」

 

 

 

 

蹴り飛ばした。

 

 

 

 

驚いたのは寧子だけではなく……いや、むしろ見物人の方が驚いただろう。

 

 

「え?」

 

 

三味線モドキが、かなりの勢いで飛んできたのだから。

 

 

「きゃああ!」

「うわああ!」

 

直線上には涼と飾。二人が慌てて伏せるより早く、刀が振られた。

 

 

「そのままでな!」

 

 

雨合が縦に。

 

 

「後お願いします」

 

 

砥草が横に。

 

 

「……ん」

 

 

4等分された三味線モドキを、熊染が棒術で払い捨てる。

 

 

カランカランと軽い音を立てて、細くなった三味線モドキが転がる。

 

「すげえ…」

 

「早業にゃ…」

 

流れるような連携に、張本人の二人が先程の体制のままでパチパチと手を叩いた。

 

 

「あ、三味線モドキ!飾君ごめんにゃ!」

「良いですよ。今度はもっと丈夫な木で作りますね」

「丈夫なのはいいが、刀で切れる程度にしてくれよ?」

 

駆け寄り手を合わせる寧子に、刀を納めた雨合が横から頭に手を乗せる。

 

「涼!悪い!当たって…ないよな?」

「ええ、お陰さまで」

 

同じく駆け寄る黒犬に、涼はにっこりと笑いかける。

そのあまりに完璧な笑顔に、砥草と熊染は三歩後ろに下がった。

 

「ところで一つお伺いしたいのですが…」

 

察した雨合が、飾を抱えて離れた。

 

 

 

「お二人とも何を考えているんですかー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手合わせ、武術訓練、これらを真剣に行うのは悪いことではありません!しかしです!それによって回りに被害が出るようであればそれは手合わせでも訓練でも無いんです!今日はたまたま腕の立つ雨合さん達がいらしたから良いものを!これが陽乃さんや苺さんだったらどうなると思っているのですか!お二人は腕が立つ分もっと回りを見て頂かなくては困るんです!そもそも………………」

 

 

 

 

 

 

「おー、嬢ちゃんのガチ説教見るのも久しぶりだな」

 

「あはは……これは最長記録達成しそうですね」

 

「半刻して終わってなかったら止めに来た方がいいのかな?」

 

「……ん」

 

 


 
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