弐之二 『 虎と狐と三姉妹 Ⅱ 』
「さ~てと。」
食事を終え、食後のお茶を頼んだところで、話は張三姉妹の旅の話になっていた。
その会話に耳を傾けながら、狐燐は部屋から持ってきた紙を取り出すとそれを折り始める。
「それで、こうやって三人で各地を巡って歌を歌ってるんです。」
「本当に歌が好きなのね。」
「はい!歌は私達の全てですから。」
張角は満面の笑みでそう答える。そこからは歌に対する嘘偽りの無い純粋な想いを感じられる。
と、狐燐は二枚目を取り出してまた折り始める。
「それでここにはどのくらい滞在する予定なの。」
「三日くらいの予定です。」
「そう、なら何か困ったことがあったら相談してね。ここにいる間は力になってあげられると思うから。」
(そんな事言って、冥琳にばれたら怒られそうだなぁ。)
なんて事を考えながら三枚目を取り出す。が、視線に気づいて隣を見ると、張宝と張梁の二人が覗き込んでいた。とくに、張宝は目をキラキラとさせている。
「・・・どうかしましたか?」
「ねえねえ、これって蝶々?」
張宝が狐燐の作っていた折り紙を指差しながら尋ねてくる。
「ええ。っと、はいどうぞ。」
「えっ?ちぃ達にくれるの?」
「うん、まあ僕からの御礼かな。今はこんなのくらいしか用意できないけど、僕も君達のこと応援したいからさ。」
そう言って狐燐は出来上がったばかりの三匹の蝶を手渡す。それぞれに受け取った蝶を見て喜んでくれている。
が・・・
「こ~り~ん~?私には何も無いの?」
一方では雪蓮の機嫌を損ねてしまい睨まれる結果となり、追加でもう一匹蝶を折ることになった。
その様子を張梁はな眺めていた。正確にいえば狐燐が蝶を折り上げる様子を、だが。
狐燐が蝶を折る間、紙が淡い光を帯びているように張梁には視えていた。
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「あの!ここまでしてもらったのに私達、なにもお返しできないので。せめて真名を受け取ってもらえませんか?」
お勘定を済ませて店を出た時、唐突に張角がそんなことを言い出した。しかも、張角の独断らしく、妹の方も目を丸くしている。
「そう、じゃあ、私のことは雪蓮でいいわ。」
「へ?」
名乗る名乗らないで揉めている張三姉妹にむかって、雪蓮が己の真名を口にした。その事に全員驚きはしたが、狐燐は昔もそんな軽く真名を交わしていた訳で、とりあえずの平静を装うと
「僕は狐燐です。」
と雪蓮に続く。
「あの、わたしは
「ちょっと姉s」
「ちぃは
「ちぃ姉さんまで。はぁ…
結局流されるようにして全員が真名を交わす。ただ、なんというか人和にはどこか冥琳と似た印象を受けた。
「じゃあ、私達は明日の準備もあるのでこれで。」
「あ、待ってよ人和ちゃん。あのお昼ありがとうございました。待って~れんほ~ちゃ~ん。」
「ばいば~い。」
去っていく三人に雪蓮は手を振って見送る。
その背が見えなくなると狐燐にだけ聞こえる声で問う。
「狐燐…気付いた?」
何が、とは言わない。だが狐燐には何のことか検討はついていた。
「一応ね。それを確かめるためにもう一枚折らせたんでしょ?」
「それもあるけどね。で…どう思う?」
どう?とは曖昧な訊き方ではあるが、これに関しては雪蓮も専門外なのでしかたないともいえる。
「もし、本当に視えてたんなら術者としての才能は有ると思うよ。まぁちゃんとした先生がいれば形になるんじゃないかな?」
「ふぅん。じゃあ私も使える?」
そう言って雪蓮はこちらを向いて聞いてくる。
「無理。雪蓮の場合は術よりかも
「まあね。暗いところ照らすのに便利よね、あれ。」
本来の使用用途とはまったく違う使い方に溜息が出る狐燐だが、あの日贈った物を持っていてくれたことが分かると、やはり嬉しかった。
だが、それも長くは続かなかった。
「孫策様!蘇業隊長!周瑜様より至急戻られよとのご命令です!」
そう伝える兵士の言葉に、先程までの和やかな空気は一蹴され、狐燐と雪蓮は城に向かって走り出した。
あとがき
見直すと「真名の扱い軽っ!!」と思ってしまう今回です。多分みんなそう思ってるんじゃないかなぁ。(汗)
というか色々やばい設定の出てくる噺になりましたねぇ。
あと、役萬☆姉妹こんな口調だっけ?が心配なツナまんです。しかも人和ちゃんには結構重要かつ面倒な役を用意してたりしてます。
短いくせに色んなモンをぶち込んだ回になりました。質問などあれば訊いてくれればあまりネタバレしない範疇で答えるつもりです。あと出してほしい
では、また次回。
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今回は短くなりました
注:オリ主作品です。一部オマージュもあります。