episode232 失ったものと得たもの
バインドとの決戦から数日後・・・・
「・・・・」
千冬は深くため息を吐く。
周りでは様々な作業に追われる教員や生徒が行き来している。
ラウラ以外の専用機持ちは前回の国の命令違反の件もあって、隼人の死のショックがあるまま一時帰国している。
しかしショックが一番大きかったシャルロットはとても帰国できる状態では無い為に部屋で眠っている。
それ以上にショックを受けている簪は先日政府より戻ってきているが、瞳には光が灯っていない。
(犠牲無くして勝利なし。だが、犠牲となった者は大きすぎる)
内心で呟くと、『左手』を握り締める。
千冬の左腕には切り落とされたはずの腕があるが、これは束が数日の間で急造した義手である。
急造品とあって日常生活では困らない程度に性能はあるが、それでも千冬自身には不備が色々とあるので、現在束は性能に凝った義手を製作中のこと。
(・・・・隼人)
「・・・・しかし、本当に色々とありましたね、先輩」
と、千冬の後ろより綾瀬がやって来る。
「あぁ。この戦いで、多く者を失った」
少なくとも、この戦闘での犠牲者は世界中で約数十万以上もの尊い命が失われた。
その中で、どれだけの大切な人が失われた事か・・・・
「・・・・」
「だが、同時に得られる物もあった」
「そう、ですね」
その尊い犠牲の上に、平和と言う物を手にした。
「しかし、綾瀬。お前はあの時どこにいた?」
「私はあの巨大な船の周囲でバインドと戦っていましたよ。時よりでかい無人機と当たってしまった事もありましたけど」
「そうか」
「あぁそれと、この間私が話したバンシィと白式に似たISの事を覚えていますか?」
「あぁ。結局現れる事が無かったから捜索が中止しただろ。それがどうした?」
「それが戦闘中にまた現れたんですよ。しかも多くの仲間を連れて」
「なに?」
「そのIS達のお陰で窮地に陥った私は助かったんですよ。会ってないんですか?」
「いいや。私は私で激戦を繰り広げていた。このような姿になるまでな」
千冬は左腕の義手を見せる。
「そ、そうですね」
「・・・・」
「それと、その中に・・・・ヴィヴィオでしたっけ?隼人の娘のって言うか女性の名前って?」
「正確には養子だがな。まぁあの姿じゃそう思うのも仕方無い。で、ヴィヴィオがどうした?」
「いやぁ、あの時周りに気を配っていたので、もしかしたら見間違いかもしれませんが、そのヴィヴィオって子にそっくりな女性が居たんですよね」
「ヴィヴィオに?」
「あくまでそれっぽいって気がしただけで、もしかしたら見間違いかもしれません」
「・・・・」
「・・・・でも、本当に信じられませんね」
と、綾瀬は少し悲しげな声を漏らす。
「・・・・」
「まだ、本当に死んだって証拠は無いんでしょ?」
「確かにそうだが、状況が状況である以上、生存率は限りなくゼロに近い。いや、ハッキリ言ってゼロだ」
「・・・・」
宇宙空間で、ユニコーンの計測からの推定でも木星辺りまで飛んでいっている。
そこまでの距離を短時間で行った隼人も尋常ではないが、とてもじゃないが生存率は極めて絶望的。
「お前はまだ隼人が生きていると言うのか?お前だって状況は聞いているはずだ」
「それは・・・・そうですが・・・・でも――――」
「でも何だ?」
「・・・・よくは分からないんです。でも、私はまだ隼人が生きてそうな・・・・そんな気がするんです」
「姉としての勘、と言うやつか?」
「そういう所です」
「・・・・」
「先輩だって、隼人が死んだとは、思ってませんよね」
「・・・・まぁ、私だってあいつが死んだとは・・・・思いたくは無い」
少し間を置いて口を開いた。
「信じたい、さ。だが、それでも絶望的だ」
「・・・・」
――――――――――――――――――――
「・・・・」
ユニコーンは投影型モニターを見つめ、捜索範囲を可能な限りまで広げて、隼人の捜索を続けている。
(地球を滅ぼせれる程の威力を放った爆発を受けているのなら、いくらなんでも隼人君でも耐えられない)
(でも、仮に耐えられたとしても、地球からかなり離れた距離だと思う。そこから爆発で吹き飛ばされたのなら・・・・)
(・・・・)
念話でバンシィが話し掛け、ユニコーンは顔を俯かせる。
(可能性はゼロに等しいけど、それでも隼人君は諦める事は無かった。決定的な証拠が出るまで、私は諦めない)
(ユニコーン。なら、私も諦めない)
二人はそのままモニターを見て捜索を続行する。
――――――――――――――――――――
IS学園の地下区画で、シノンは束より左腕の修理を受けている。
「これでどう?」
シノンは半身を起き上げると、機械の部品が剥き出しの左腕の動作を確認する。
「問題は無い。さすがだな、篠ノ之博士」
「戦闘機人の技術は前から少し興味はあったからね。ちょっとばかり拝見はさせてもらってた」
「・・・・」
「もちろん、あのイカレた科学者みたいには使わないよ。少なからず別の方向で使うつもりだよ」
「そうか」
台から降りると、動作を確認しながら歩き出す。
「後で人工皮膚の定着を行うから、来てね」
「分かっている」
そう言ってシノンは部屋を出る。
「・・・・」
束は深くため息を付くと、後ろから浮遊しながら近付いてきたイスに座る。
(はっくん・・・・)
表情に影が差し、悲しげになる。
(みんなを守る為だと言っても、自分の身を犠牲にしてまでする必要があったのかな)
一夏達から状況を聞いた時の事を思い出す。
その戦いの後日に千冬が目を覚まし、その事を伝えられて動揺を隠し切れなかった事を思い出す。
(そりゃ、みんなを守りたいって言うはっくんの気持ちは分かるけど・・・・)
複雑な気持ちが胸の中で渦巻き、俯く。
(残った者の気持ちは・・・・良くは無いよ)
「・・・・」
シノンはしばらく歩き、離れた場所の壁にもたれかかっていた。
(ゼロ・・・・あなたと言う人は)
右手を握り締め、勢いよく壁を殴りつける。
それにより、壁が拳の半分ぐらいめり込む。
(死ぬなと言っておいて、あえて言ったあなたが死ぬなど・・・・!)
ガリッ!と歯軋りを立てる。
(それがゼロのやり方と言うのですか!あまりにも馬鹿げて、非論理的過ぎる!)
不機嫌な状態で、その場を離れる。
―――――――――――――――――――――
「・・・・」
ラウラは腕を組んで広場にある木にもたれかかっていた。
「神風隼人。あそこまで仲間を大切に想い、自らの身を犠牲にするか」
反対側でリアスが同じように腕を組んで木にもたれかかって口を開く。
「それで、お前達はこれからどうするのだ」
「さぁな。しかし私たちは協力をしたとは言っても、犯罪者に変わりは無い。罪はその分償うつもりだ」
「その後は?」
「どうだろうな。今は考えていない」
「・・・・そうか」
「それで、お前のルームメイトはどうなっている」
「・・・・良くは無い。ハッキリ言えば、魂が抜けているような状態だな。反応が殆ど無い」
「そうか」
「颯も、リインフォースの話ではかなり精神的にマズイらしい」
「・・・・」
「リインフォースも、今の所気持ちは保ってるが、それもいつまで続くか」
「・・・・」
リアスは空を見上げると、目を細める。
(お前はこれでいいのか。残された者達はここまで気を落としていると言うのに・・・・)
内心で呟くと、深くため息を付く。
そこは漆黒の闇に包まれた暗い空間。周りには何も無い・・・・。無の世界・・・・
しかしそこに一つだけ、その空間に漂う物があった。
星を滅ぼす程の爆発を受けながらも原形を留めたそれは、ゆっくりと漆黒の空間を漂っていく。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!