弐之一 『 虎と狐と三姉妹 Ⅰ 』
狐燐が雪蓮に仕えることになってから数日が経ち、この日も狐燐はいつものように警邏に出ていた。というのも、最初のうち、冥琳は狐燐の知識で
「雪蓮の治めてる街のことをよく知りたいな。」
という意見が採用され現在は警邏隊隊長として働いている。
が、これがなかなか功を奏し、狐燐が警邏に出るようになってから街中の大小様々な問題を見つけて来るので早期解決に繋がっていた。
そんなことが日常になりつつあるそんな日、狐燐はいつものように警邏に出ようとしていた時、突然部屋の扉が勢い良く開かれる。
「おっはよー。こーりん~。」
「わわわっ。わっぷ。」
扉を開くと同時に飛びついてきた雪蓮を抱き止めようとして狐燐はその胸に埋もれる形になってしまう。
「ちょっ、いきなりどうしたの雪蓮?」
「ん?今日は私も一緒に廻ろうと思って。」
「・・・それ、冥琳には伝えたの?」
「ぜ~んぜん。」
なんだか、冥琳の気苦労の一端を垣間見た気がした。とはいえ雪蓮のその申し出は狐燐としても嬉しいものだった。
「じゃあ、一応書置きだけしておいたら?何か重要な案件とかあったら呼びに来れるように。」
「んん~じゃあ筆貸してね。」
そう言って机の上に置いてある筆を執るとさらさらと書き出す。その間に狐燐は最低限の装備を整え、なぜか狐を
「さてとじゃあ、行きましょうか。」
「うん。」
お互いに準備を終えて街に向かって出発した。
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「それで、どこから廻るの?」
「今日は商店街を廻ってから居住区を廻る予定だよ。」
街に着いてすぐ、商店街に向かい歩き出す。
「ところで、なんで頭に狐の面なんて掛けてる訳?」
「まっ、今に分かるよ。」
どういう意味かその時の雪蓮には分からなかったが、その意味は人通りが増えるにつれて徐々に分かり始める。
最初は屋台の店主が「狐の兄ちゃん!」と呼んだ事に始まり、今は子供達に囲まれてとても警邏をしているようには見えない。
「ねえ、狐燐っていつもこんな風に警邏してるの?」
「うん。泣いてた子をあやしてて、気がついたらいつの間にか『狐さん』が定着しちゃってね。」
「ふ~ん、でも街に馴染んでるようでちょっと安心したわ。」
「ねえねえ!狐のお兄ちゃん。今日ねあっちの方で何か面白いことやってるんだよ。」
そう言って手を引く子供達に苦笑を浮かべて後ろにいる兵を見やると、兵のほうも狐燐の意図を汲んだのか苦笑して頷くと、会釈をして通り過ぎ警邏に戻って行った。
その一連のやり取りを見て、雪蓮が疑問に感じていると
「最近こういうことが増えちゃってね。」
と言って狐燐が説明した。
「そうやってサボってると、冥琳に怒られちゃうわよ?」
「雪蓮にはあんまり言われたくないなぁ~。」
「ちょっと、それっていったいどういう意味よ!」
そんなやり取りに笑い合いながら、子供達に誘われるままに付いて行くと、声が聞こえてくる、若い女性の声。どうやら子供達の言う『面白いこと』と関係があるらしく、なおも声のする方へと進んでいく。
やがて、その声がはっきりと聞こえてくると少しばかり開けた場所に出た。
「・・・歌だったんだ。」
狐燐と雪蓮の前では三人の少女達が歌っていた。木箱を敷き詰めただけの小さな舞台。それでも彼女達は笑顔で歌い続ける。その歌に二人もいつしか聞き惚れていた。
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「ありがとうございました~。」
どれくらい時間がたったか分からないが、そんな声が聞こえてきて最後まで聴いていたのだと理解した。隣を見ると雪蓮は彼女達に拍手を贈っていたので、自分も心からの賞賛を贈った。
舞台の後片付けが始まると、ふいに雪蓮が手を引いて歩き出す。二人の向かう先には、今まさに片付けの真っ最中である先程の三人組がいる。
「あなた達さっきの歌、すっごくよかったわ。」
「ふぇっ!えっ?あ、ありがとうございます!」
「ねっ。よかったら一緒にお昼食べない?ね、狐燐もいいでしょ?」
「雪蓮がそうしたいなら、僕は全然構わないよ。」
「なら決まりね。じゃあ早速行きましょ。」
「え?え?ええぇ!?」
半ば強引に決め手しまう雪蓮に三人は困惑していたが、結局雪蓮に押し切られるようにして五人は連れ立って歩き出した。
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「本当にご馳走になっていいんですか?」
「ええ、私がそうしたいだけだから気にせず食べて。」
店に着いてすぐ、雪蓮は店主に注文を済ませ席に着くと程なくして、雪蓮が注文した料理の数々が並べられた。
「それじゃあ、頂きましょうか。」
「ちょっと待って雪蓮!せめて自己紹介くらいしようよ!?」
「あ、それもそっか。私は孫策。で、こっちが・・・」
「蘇業、白貴です。」
「えっと、私は張角っていいます。それで、こっちは妹で」
「はーい!ちぃは張宝だよ。」
「・・・張梁です。」
と、流されるままになんとか全員自己紹介を済ませる。が、狐燐は1つ気になった事があった。それは、
「張梁さんだったよね。もしかして僕達の事警戒してる?」
「そういう事はないですけど、ただ、どうして初対面の私達にこんなことしてくれるのか気になって。」
「ん~、私があなた達の歌を気に入ったって理由じゃだめ?」
「いっ、いえ。その、ありがとうございます。」
その言葉を聴いた雪蓮は彼女に笑顔で返し、各々並べられた料理にてを伸ばした。
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あとがき
なんだかね怖いんだ、ほっとくと際限なく文字数増えそうで。実際、自分の書いている他の二作品に比べて文字数多いしね。
これがPCの力か・・・なんて思ってます。まあ他の作者の方々に比べれば短いですけどね。
そんなこんなで、このタイミングで張三姉妹の登場となりました。このタイミングでの登場の意味は近いうちにわかります。
では、また次回、Ⅱに続きます。
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なんか、拠点に近い流れになってる気がしなくもない。
注:オリ主作品です。一部オマージュもあります