【 世を憂う優しき少女の件 その壱 】
とある城の中、満月の光が優しく城の一室を照らす。
そこは、城主の部屋と定められた一室。普通に家具や生活道具類が整理整頓され、部屋の主が几帳面な人物である事を教えてくれる。
??「 人は何故、争わなければならないのでしょうか? 」
一人の少女が窓に向かい祈りを捧げる。窓の傍には、月の明かりに反射する銅鏡。
両指を絡ませ、膝をついて、ただひたすらに。ただ、ひたすらに……。
??「 私は、これ以上この国の人々が血を流し誰かを犠牲にし、自分の欲のために他の人々を不幸にして欲しくないのです。私の友達がこれ以上苦しんで欲しくないんです 」
少女の銀色の髪が細やかに揺れ、頬より清らかな涙がこぼれ落ちる。
その涙の一つが、輝く銅鏡に落ち、僅かだがその輝く光が強くなったように見えた…。
◆◇◆
【 ????の世界に飛ばされるの件 】
義輝「 皆、よくぞ、わらわに付いて来てくれた! これから行くのは、天水で最も有名な『 幽霊市 』じゃ。街の者達は気軽に向かうが、わらわ達は招待された身。いかな歓迎を得るかわからんのでな、腰の物や得物には、よく手入れをしてあるか確認せよ! 」
颯馬「 義輝様、先に三太夫と小太郎に物見で出てもらいますか? 相手は場所も人物も未知なものばかり、少しでも情報が欲しいところかと 」
光秀「 私も賛成です。素直に行き敵の罠に嵌まったとあっては、義輝様の名折れになります。それに、三太夫はかの怪人物にも怯まなかったと聞いております。是非、様子を見てもらうようにして下さい! 」
義輝「 二人の言い分もっともじゃ! 三太夫、小太郎、物見の件、頼めるかの? 」
三太夫、小太郎「「 ハッ!! 」」
義輝「 では、わらわ達はこのまま進もうかの 」
では、いざ出発と号令をかけて、『 幽霊市 』出現場所まで向かう。
光秀「 …颯馬、少し良いですか? 」
光秀が、何か聞きたい事があるらしい。と、同時に残り全員が一斉に俺を取り囲む。
驚いた俺に、義輝様を始めとした各将が尋ねる。
……………………『 貂蝉 』とは、如何なる人物かと ………。
そういえば、あの後、食事していつもの移動の準備した後、丁度刻限になったから教える間もなかったな。
俺は、あまり思い出したくない記憶を引き出し、言葉に変える。
颯馬「 一言で、表すと… 化け物、怪人物、変態 」
昌景「 …ほう? 」
颯馬「 日の本の武将で例えると、柴田勝家殿を下着姿で日焼けをさせて、朝倉義景殿の口調で喋ると、近くなるかな? 」
信長「 ………想像すると、なかなか笑える! ハハハハハ!! 」
鹿介「 信長殿は御家中の方ですから、そう思えますが、某は些か震えがきますよ! 」
義輝「 だが、そのような人物だが、武は一流の腕前…か 」
そう、相手はただの姿だけの怪人物じゃない! 中身も怪人物に相応しい実力を持つ者!
義輝様達が一斉に掛かっても、勝てるかわからない…。
そんな事を話ながら、先を進んでいると三太夫達が、慌てて戻ってきた。
三太夫、小太郎「 た、大変だ( です )! 『 幽霊市 』が消えそうに!!! 」
それを聞いて前方を見れば、いつの間にか街の入り口がすぐ目の前にある?!
まだ、もう少しかかるはずなのに…?
貂蝉「 まぁぁっってぇぇたぁぁわぁぁよぉぉ!!! 」
空から例の怪人物が降ってきた?! 皆が驚いて立ち止まる中、免疫がある俺が叫ぶ!
颯馬「 どうした!! 貂蝉!! 」
貂蝉「 あら、名前呼ばれちゃた、っと、それどころじゃないわね! ごめんなさい! 理由は後で説明するから、急いでこの街に入って頂戴! 街が消えないうちに!! 」
唐突に言い出す貂蝉! 消える『 幽霊市 』に入れと!
俺は、義輝様に顔を向けると、義輝様は貂蝉に叫ぶ!
義輝「 颯馬より話は聞いておる! わらわが足利義輝じゃ! 貂蝉とやら、この街に入ればいいと言うが、わらわ達に危害は一切無い、または加える事は無いのじゃな?! 」
貂蝉「 貂蝉の名に掛けて誓うから、早く入って! 私の力でもあと少しが限界!! 」
切羽詰まった貂蝉の言葉を聞いて義輝様は、大声で街への侵入を指示すると自ら先に入り込もうとする!
颯馬「 まず、最初は俺から!! 」
義輝様が声上げる直前から動きだした俺は、石造りの巨大な門に迫る。
普通なら門番がいて、通行出来るか検査するのだが、その姿がまるで見当たらない。
が、貂蝉が言うとおり、門を含め街全体が、蜃気楼の如く揺らめいているのが分かる!
幽霊市に相応しい佇まい…なんて思っている暇も無いので突ききるように進む。
迷う事はない、覚悟は既に決めている! 皆と共に帰れるようにと誓ったあの時と共に! 俺は後ろを一瞥して確認して、速度を上げた。
後ろには、義輝様、光秀、信長、鹿介殿、小太郎、三太夫が一斉に突っ込んで来ている!
俺は、背に仲間達の気配を感じながら門に踏み込みと、そのまま意識が遠退いていった。
◇◆◇
【 優しき少女の件 その弐 】
私は、午前の政務が一段落したため、窓の外をぼんやり見ていた。
世間で流れる『 天の御遣いの話 』は、この天水にも伝わってきている。
『 黒天を切り裂さく流星が一筋、天の御遣いの現れる前触れなり 』って。
詠ちゃんは、『 そんな得体なしれない者を信じると、後で悔やむ事になるから信じない方がいい 』と言って、頭から不定したけど………ね。
私は、それでも信じたい。
詠ちゃんや恋さん、霞さん、華雄さん、陳宮ちゃん。
私に力を貸してくれる兵の皆さんを、この戦乱から守りたい、幸せに生きてもらいたい、笑顔のままで笑って暮らしてもらいたい!
政務の竹管が置いてある机の引き出しから、大切な銅鏡を取り出し机に置く。
亡き乳母が、私に残してくれた形見の品。
《 …お嬢様、もし、あなたが真に望みたい願いがあるのなら、この銅鏡に祈りを捧げて下さい。 祈りが届けば、必ず銅鏡が、お嬢様の願いを叶えてくれるでしょう… 》
数年前に亡くなった乳母が、そう言った事を思い出し祈り始め、昨日で七日経ったが、
変化は訪れなかっ 『 ーーーーーーーーーーーー! 』 ………え?!
窓から眩しい光が入る!!
思わず目を瞑り、少し後に目を開くと、光が大分収まり、東の森で僅かに輝いているのがわかった! もしかして、天の御遣い様が降臨された?!
バーン!!
部屋のドアを思いっきり開けて飛び込んできたのは、親友である詠ちゃん。
賈駆「 何なのよ、今の光はーー! 月、大丈夫?! 」
私は、詠ちゃんに大丈夫の意味で微笑んだ後、東の森を指差して探索を行うことを提案。
始めは渋る詠ちゃんだったけど、護衛を付けてと言う条件で納得してもらい、興味津々の霞さんと三人で向かった。
…………願いが叶う事を、心から祈りながら……………。
◆◇◆
【 優しき少女、異国の者達と遭遇するの件 】
颯馬「 うっ、うーーん…………ハッ! 」
寝ていた俺は、慌てて起き上がり辺りを確認する!
光秀は?! 義輝様は?! 小太郎、三太夫、信長達は?!
確か、夜にあの『 幽霊市 』の門に皆で、突っ込んだはずなのに…!!
空を見れば、太陽が真上に見える。どうも、正牛(午後12時)らしい?
辺りを再び見渡せば、森の中らしく鬱蒼と木々が重なって、街の様子など何もない。
体の損傷を無い事を確認した後に、ガサガサと叢が揺れ、三人のおなごが現れた!
張遼「 ここやで! さっき光ってた場所は!って、どなたはんかおるねん! 」
賈駆「 月ーー、気をつけて、頭の冠に引っかかるから! もう、なんでその格好で出てきたりするの! 動くのに邪魔……えっ?! 」
薫卓「 ……だって、御遣い様に会えるかもしれないなら、着替える間も…へぅ!? 」
一人は、偃月刀のような武器を持ち、さらしを胸に巻き、袴と下駄を身に付けた武人。
もう一人は、眼鏡を掛け、髪を三つ編みにした学者風の少女。
あと一人は、貴人の服を着用している少女。雰囲気が義昭様に似ている…。
張遼「 にいさん、見たことがない服着てるが、どこぞら来た人や?! 」
颯馬「 えっと、俺の名前は、『 天城颯馬 』だ。 ある軍の軍師をしている 」
その言葉を聞き、二人は警戒を強め、二人に後ろに隠された少女は、悲しげな表情を浮かばせる。
これは、正直に答えすぎたか…。だが、ここがどこだか分からないのに、嘘を言えば誤解を招く事になりかねない。回答としては、正解のはずだ。
張遼「 ほう?! そのどこだか分からへん軍の軍師サマ、しかも、姓に『 天 』を付ける反逆に等しき所業…。怪しさ満杯のにいさん、何故『薫仲穎』様の領地に入り込んでいるのか、分かるよう説明してもらおうかい! 」
颯馬「 えっ? 今、その子の事を『 月 』って? 」
俺の立場や姓は説明すれば分かるとして、なんで名前が違うんだ? 確かこの国は、 『 姓、名、字 』で、人の氏名が表される。普通、臣下が主君を名で呼ばないから
『 月 』は字になるはず。それが、『 仲穎 』ってどこかで聞いた名前が?
ザワッ!
張遼「 貴様!! 薫仲穎様の真名を呼ぶとは! 謝罪せい! 」
賈駆「 何を、急に真名を言い出すの、こいつは! 謝罪しなさい! 」
薫卓「 ………!! 」
颯馬「 ?!?!?! 」
張遼「 謝罪をしたくないと言うのなら、その首を落とすまでや! 」
薫卓「 ……! 霞さん、駄目!!! 」
さっきの偃月刀の武人が、俺に向かって、一足で飛び上がり迫ってくる!!
俺も、少しは皆と稽古をして、腕を上げたつもりだけど、一目で分かるその実力差。
体を動かそうとするが、足が動かない! 相手の唐突な行動が理解出来ないため、頭では分かるが、体が反応についていけないのか?!
それでも、何とか刀を抜刀し、狙い定められている俺の首を庇う。
ガキィィィィンンン!!!
張遼「 ほう…、無駄な抵抗は苦しむだけだなんだが…な! 」
ギィィーーン!
偃月刀が煌めき、俺より得物を弾き飛ばし、返す刃が無情にも、俺に向かってくる!
颯馬「 すみません、義輝様。ごめん、光秀。さようなら、皆……… 」
最後に、短いながらも別れの言葉を発し、目を閉じた。
もう少し足掻いてみたいが、未練たらしいと義輝様達の名を落とす事になりかねない。
潔く覚悟を決めた。 皆……俺の分まで頑張ってくれ!!
シャッシャッシャッシャッシャッ!!
その時、ふいに目の前に光の線が何十も重なり、目蓋を通して見えた……。
義輝「 秘剣、一の太刀!!! 」
偃月刀の武人は、光に反応して即座に後退、戦闘態勢を立て直し、声を上げる!
張遼「 誰や! 」
義輝「 わらわは、足利義輝! この者の主じゃ!! 」
張遼「 へぇー、なかなか強いじゃないか! 燃えてくるわ! 」
ガサガサ! ガサガサ!! ガサガサ!!!
光秀「 颯馬!! 無事ですか?! 」
信長「 何やら、殺気を感じてきてみれば、貴様ら…! 」
昌景「 信長殿、待て! 今は義輝公が対処している。その状況次第だ 」
鹿介「 某も同じ意見です。ただ、相手が話を聞かず向かってきたら、某が真っ先に向かいますぞ!! 事情がどうあれ、颯馬殿に危害を加えようなど許せん! 」
三太夫「 天城の旦那、見つけるのが遅くなって済まない! まさか、こんな遠くまで離されるとは思わなかった…!! 」
小太郎「 颯馬様…良かった…… 」
一方、偃月刀の武人と義輝様が間合いを保ったまま、動かなかった。
義輝( 対長物の対処もよく教わったが、やはり間合いの広さとこやつの得物の振るう速さが尋常ではない! 手加減するつもりが、全力を出さないと不味いかの… )
張遼( チィッ、見た事無い武器、ほんでその使い手か! しかも、相手の方が実力が上。…普段なら大喜びだが、今回うちは守りに徹しなきゃならんし、相手側は同等の使い手が数人も増えた! うちの事はええが、月と詠だけでもなんとか逃がさなぁ! )
俺は皆との再会を喜ぶ間もなく、この事態の打開策を練らなくてはならない!
まず、話し合いをしなければならないが、きっかけが…………。
薫卓「 双方、ここは引いて下さい!! 」
背後に隠された少女が前に出て、戦っている二人に叫び、戦いを止めるように求める。
颯馬「 よ、義輝様、俺からもお願いします! 相手の話も聞かなければ、何も解決などありません! どうか、刀を引いて下さい!! 」
口上では、こうも立派な事を言うが、実は腰が抜けて立てない…。
だが、この機会を失えば止めるのは、無理、無謀、空気読めーー! と言うものだ。
義輝「 …その方、どうするのじゃ? そちらの主と我が方の軍師は停戦を望んでいる。御主ともう一人の眼鏡の少女はどうじゃ? 」
張遼「 どうするんや、詠! こりゃ、どう考えても、ウチが思い切り分が悪い…が、こっちが折れれば戦いを避けられそうやけど…… 」
賈駆「 そいつ等が、本当に戦いを止めるか分からないでしょう! 」
颯馬「 それは、俺を人質として、身柄を預かってくれ! そうすれば、皆が手を出す事は無いはず。それに、俺も手出ししようにも、腰抜けて動けないんだ!! 」
大声で、そう叫ぶと、辺りが静まり返った………。
張遼「 アハハハハ! 敵になるうちらにまで、そのことを大声でバラす軍師なんて変わっておるわ! なんとなく詠に似たようなところがあるやな! 」
賈駆「 ちょっと、なんで私がこんな自称軍師と一緒にされないといけないわけ?! 」
薫卓「 詠ちゃん! この人は正真正銘の軍師さんだよ! さっき将の方が言っていたいたの聞いていなかったの? 」
おっ、なんか好感触で嬉しいな。それに、さっきの停戦の礼を言わなくては!
颯馬「 ありがとうございます! 戦いを止めてくれて! (ニコッ)」
薫卓「 ………へぅ~~ 」
賈駆「 なに、月に色目使っている! そこの変態軍師!! 」
一体何を根拠に人を変態扱いに! それと、人を指で差し示すな!
張遼「 おっと、そやそや。にいさん、名前を名乗ってくれたのに、うちらが名乗らないのは礼に反するな。うちの姓は『 張 』、名は『 遼 』、字は『 文遠 』や! 」
賈駆「 私は、姓は『 賈 』、名は『 駆 』、字は『 文和 』よ 」
薫卓「 私は、姓は『 薫 』、名は『 卓 』、字は『 仲穎 』と申します 」
義輝一行「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! 」
薫卓「それと、こちらで大事な方を危うく害してしまうところでしたので、お詫びに私達の名で呼んで下さい! 」
義輝「 それは、有り難いが他の方々の許可は、宜しいのですか? 」
賈駆「 主君『薫仲穎』が許可したのだから、異論なんてあるわけないわよ! 」
張遼「 そういうことや! …おっと忘れとったが、にいさん、いや「 天城颯馬 」やったな! 姓が「 天 」、名が「 城 」、字が「 颯馬 」でいいんか? 」
颯馬「 いや、姓が「 天城 」、名が「 颯馬 」、字は無いよ。 俺達は、東の島から海を渡ってこの国に来たから、名前の呼び方が違うんだ 」
張遼「 そうか?! 異国も異国、まだ見たこともないあの海から渡ってきたとは。それなら『 真名 』を知らなくて当然やな~! 」
先程、俺を殺そうとした偃月刀の武人、いや、張遼殿が俺の事を聞いてきた。
賈駆「 ち、ちょっと、霞! そんな簡単に信じてもいいの?! もし密偵とかだったらどうするつもりなのよ! 」
張遼「 それは心配し過ぎちゅーもんや! この「 天城 」の覚悟、そして主である
「 足利 」殿との戦いで嘘が無い事は、ようわかったで。 もし、うちらをどうにかするんなら、他の仲間を動かせばそれで終しまい。 詠もわかるやろう? 」
賈駆「 ……………… 」
義輝「 わらわ達は颯馬が無事であれば……! 」
少し無視されていた義輝様が、憮然としながらも語ろうとすると、すぐそばにあの怪人物が急に現れる!!
♬~♪~♪~♬~♬~♪~ 〈 貂蝉があらわれた! 〉
貂蝉「 そこからの説明は、私にお・ま・か・せ・♬ って、なんで急に(ドラクエの)エンカウント曲が流れるのよ!! 」
突然現れて、意味不明の事を言い出す貂蝉。今、貂蝉登場と共に曲が鳴っていたような気がするが、空耳か? 相手の名前も、何故か三国志の有名人物の名前ばかりなんだが?
薫卓「 おば様!!! 」
義輝一行「「「「「「「「 …………なに!!! 」」」」」」
張遼「 おっ、貂蝉やん! どこ行ってたんや! 月が心配していたんよ! 」
賈駆「 そんな図体しているからでしょう! 全く、この漢女は! 」
え、え、えぇ!! もしかして、薫卓様は、貂蝉の血縁者…?! 嘘だーー!!
薫卓「 えっと、この場所では何ですから、私達の居城へ案内致しますので…… 」
薫卓様に誘われて、義輝様達は衝撃の事実を聞いた事に唖然としながら付いて行った。
◇◆◇
【 漢女が語る事実の件 その壱 】
ここは、『 天水 』城の大広間。
玉座には、薫卓様。周囲には、賈駆、張遼、赤毛の武人、大斧の武人、小さい女の子?
陳宮「 そこの貴様! 今、ねねを見て不埒な事を考えたのでしょう! 」
またか…。一体ここは、どこなんだ? 俺は何故虐められる事が多い?! まさか、久秀殿のように『 私の玩具 』扱いされるのか?
張遼「 さて、恋、音々、華雄! うちらは名乗ったから、あんたらも名乗りや! 」
呂布「 恋は…姓は『呂』、名は『布』、字は『奉先』。 …真名は『恋』」
華雄「 我が姓は『華』、名は『雄』。字と真名はない 」
陳宮「 ねねの姓は『陳』、名は『宮』、字は『公台』、真名は…って、真名も教えているのですか? 霞!! 」
張遼「 いや、真名まで教える程仲良しになってないけどな。恋は名乗ったがそれでいいんか? まだ、始めて会ったばかりやろう? 」
呂布「 ………大丈夫。 真名、預けても。…信頼出来る、から 」
陳宮「 ………恋殿が言うなら名乗るのです! 我が真名は、ねねね! 音・音・音と書くのです。 …長ければねねでいいです。 わかったですか? そこの変態!! 」
何故、俺だけ……………。
義輝「 すまぬが、先程、颯馬を害する原因になった真名じゃが、これにはどんな意味があるか、教えてはもらえぬかの? 」
賈駆「 真名とは、自分の心、魂、存在自体を名に変えた物。相手から許可を得なければ、呼んではいけない物。もし、勝手に呼べば、皇帝と言えど首を落とされると心得て下さい! 」
義輝一行「 ーーーーーーーーーー! 」
颯馬「 ……そうか。知らぬとは言え、申し訳ない事をしました。この天城颯馬、伏せて謝らせていただきます。誠に、申し訳ありません!!! 」
そんな、重大な名前を呼んでしまうとは…! 張遼殿に首をはねられても仕方がない。
薫卓「 ……天城様、どうか顔を上げて下さい。異国の文化を知らない方に刃を向けたのは、こちらの罪。私の方こそ、謝罪をさせて下さい 」
張遼「 月は、謝らなくええねん! 刃を振るったのはうちなんだから! 」
薫卓「 いいえ! 将の過ちは即ち太守の過ちになります。それに、私の真名のことで問題になったのですから。謝らせていただくのは当然です 」
玉座より歩いてこちらに向かう。俺は勿論、土下座のまま。
義輝「…それなら、わらわも謝罪しなければならない。まずは改めて名乗らせていただこう。わらわは、颯馬達の主である足利義輝と申す。 颯馬を守るためとはいえ、忠義の武人に刃を向けて交えたのだからの、誠、申し訳ない」
薫卓様は、俺の謝罪を受け入れて、わざわざ立たせてくれた。
義輝様は、張遼殿に頭を下げる。張遼殿も顔を真っ赤にしながらあたふたして、義輝様と俺に『 こっちこそ、勘違いとはいえ、申し訳ない! 』と謝罪をした。
その後に、光秀、信長、昌景殿、鹿介殿、三太夫、小太郎が名前を名乗る。
光秀は控えめに、信長は『 私は大六天魔王だ! 』と言うものだから、少し騒ぎになったり、昌景殿を子供扱いした陳宮殿を窘められたり。 鹿介殿は淡々と、三太夫や小太郎は普通に紹介を行う。
貂蝉「 ちょぉぉぉと!! 私は無視? 無視なの? 無視なの! ねぇぇぇ!! 」
賈駆「 大丈夫よ…! あんたの存在自体、忘れたくても忘れられない程刷り込まれているから。結構、経つんでしょう?……初めて遭ったときから 」
パン! パン!
張遼が手を叩き、二人を静かにさせる。
張遼「 はいはい、今は止めとき! 客人の前だから行儀良くしいや 」
貂蝉「 しょうがないわね、霞ちゃんの顔に免じて止めておくわ。それに説明を双方にしないと始まらないし… 」
腰をくねくねさせながら、全員を見渡す……。ち、力が抜けて、いく。
横を見れば、義輝様達も苦悶の表情を浮かばせる。
恋「 ……貂蝉、ダメ。 あの人達、倒れる 」
華雄「 強そうな奴が沢山いるのに、力を削ってどうする! 」
なんだかとんでもない物を見たせいで、立ってるのがやっと。…早く休みたい。
双方より『 早くしろ!!! 』の視線を受け、貂蝉は説明しだした。
貂蝉「 もう、皆せっかちなんだから~。まずは、この地に来てくれ皆さんに紹介するわ。名前からしてわかったと思うけど、ここは後漢の時代。三国志の時代の前と言えばわかるわよね? その時代の『 天水 』が、ここなの! 」
信長「 ほう、では証拠を見せてみろ! 」
開口して、早くも証拠を要求するか。俺も同じ考えだけど……。
貂蝉「 それじゃ、証拠その1。そこのかっこいい忍びの坊や、外を見てきてもらっていいかしら? 良ければ、そちらの忍びのお嬢ちゃんも 」
三太夫「 あんた、忍びをよく分かっているね! うし、ちょっくら見てくるぜ! 」
小太郎「 子供扱いは、気にくわないですけど…。ちょっと、行ってきます! 」
二人とも、言葉を発すると共に、スッと消えた。
張遼「 なんや! 目が追い付いていけられへん! 」
恋「 …急に早くなって、走って…行った 」
華雄「 恋は見えたのか? 私には何も見えなかったぞ?! 」
薫卓様側の武人達は、大騒ぎ! 忍びの技術は、大陸発祥の地だというのだが、この技術はなかったのか? 日の本独自の技術もあるらしいが。
貂蝉「 次の証拠ね。月ちゃん! あの形見の銅鏡を持っているかしら? 」
薫卓様は、遠くに控えている侍女を呼び、銅鏡を持ってくるように伝える。
昌景「 銅鏡? 昔、読んだ書物によれば、大陸との交流でもらい受けたという、あの銅鏡でいいのか? 古き品を新品で、実際に見れるというのは、とても興味深いが… 」
鹿介「 某も、大分傷んだ物を見た覚えがあります 」
光秀「 ですが、銅鏡が証拠になるとは、とても思えません! 複製を用意するならいくらでもできますし、現に日の本に多くの銅鏡が出ていますよ? 」
義輝「 …だが、あの貂蝉が用意する物だ。 尋常な物ではないであろうな…… 」
義輝様達は、興味津々。それに対して薫卓様側は…。
薫卓「 …グスン 」
賈駆「 ……月。あ、あんた達も、しんみりしなくても、いいじゃない…… 」
張遼「 ……アレを見るとな。どうしても……な… 」
恋「 ……………………… 」
華雄「 ………………………くっ!! 」
陳宮「 ……うっ 」
何やら、やけに浮かない表情だな。
少しして、侍女が大事そうに黒い色の箱を持ってきた。大きさは、人の頭ぐらいか?
横から見れば、幅は大分狭い。例えるなら、お盆を二つ重ねたような状態か。
薫卓様に礼儀正しく渡すと、一礼して先程の位置に戻っていく。
薫卓様は、玉座を降りて貂蝉に黒い箱を渡した。
貂蝉は、少し開けて中身を確認した後、並んでいる双方を近寄らせて、箱を開く。
薫卓側
薫卓「 う、嘘…!! 昨日はあんなに輝いていたのに!! 」
賈駆「 なんで!! 」 張遼「 何があったんや?! 」
陳宮「 なんですと! 」 恋「 …………? 」 華雄「 なんだこれは!! 」
義輝側
義輝「 …これは? 」 光秀「 …えっ! 」 信長「 ……奇っ怪な 」
昌景「 ふーむ… 」 鹿介「 なっ………! 」 颯馬「 …………………? 」
箱から出した物。大きさが直径約一尺程の銅鏡だが、一見しておかしい事に気付く。
半分は、今作らればかりに黄銅色に輝く鏡。周囲を巡らす龍の意匠が鏡をより格式を高く見せ、鏡面も丁寧に磨かれ曇りもない。正に国宝並みの高級感溢れる逸品。
しかし、もう半分が、まるで数百年刻が経過したような緑黄色に覆われ、周囲を巡らしていた龍は、磨滅してかろうじてわかる只の模様となり、鏡面は見る影もなく緑青で映す事を拒む。
丁度、半分。真ん中から綺麗に別れて、その形状を保っていた。『◐』な感じで。
貂蝉は、その銅鏡を優しく撫でて、義輝様側に話す。
貂蝉「 これが、天水で起きた『幽霊市』原因の一つ。私の持っていた銅鏡と月ちゃんが持っていた銅鏡が、世界の一部を短い刻だけど融合させていたから…… 」
光秀「 世界の融合とは…? 」
貂蝉「 あなた達がいた『日の本』の世界の流れとこの『御遣いが来る後漢時代』の世界の流れが、この銅鏡を核として合わさってしまったの 」
信長「…その銅鏡の歪さは、それが原因か? だが、なんでこの時代と我らの時代が重なるわけになるのだ? 」
貂蝉「その理由を探して、あなた達に合う前から、この時代とあなた達の時代を渡り歩いてきたのだけど、どうやら理由は……私のせいかもしれないのよ!!! 」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
実際考えていた内容と記載した内容が大きく離れましたが、こちらの方が面白いかなと
思って書いちゃいました。
勿論、貂蝉が薫卓軍と仲良くなって、あんな風に呼ばれる事もなかったのですが。
颯馬の台詞の中にあります人名表記は、本来はこうなるそうですが、恋姫の設定に合わせて実際に喋るところ以外は、『姓、名』で表記していこうと思います。
後、字数の都合で全部入らなかったので、貂蝉の説明は次回からとなり、オリキャラになります乳母が出る予定になります。
宜しければ、また読んでみて下さい!
Tweet |
|
|
6
|
0
|
追加するフォルダを選択
張遼の言葉使いがエセ関西弁になっています。
また、名前表記も、もしかして違っているかもしれませんが、それでもよろしければ、読んで下さい。