「プリン買ってきたんだ。好きでしょ?」
彼女は俺が食べるのが当たり前のように、プリンとスプーンを前に置いた。
まるで子供の扱いだ。
「…いらない」
「そうなの? おいしいのに」
頬杖をついて、プリンから目をそらす。
こんなもの食べるためにきたわけじゃない。
付き合い始めて3ヶ月。
初めて彼女の家に呼ばれたのに、どうやら緊張してたのは俺だけみたいだ。
そもそも、俺を男として見てくれていないんじゃないかと思うことがある。
付き合う前から、彼女はずっと言っていたんだ。
「私、弟がほしかったんだ」
1つ学年が上の彼女。
俺より一足先に大学生になり、一人暮らしを始めた。
俺は高校3年になり、地獄の受験生となった。
彼女と同じ大学に入るために、勉強を始めている。
高校を卒業して会えなくなってしまう前に、彼女に告白した。
OKをもらえて、飛び上がるほどに喜んだ。
部活のマネージャーだった彼女。
他にもマネージャーはいたけれど、部内一のヒロインだった。
選ばれたことは、奇跡だと思った。
こんなに幸せなことはない。
だけど…
「受験勉強、はかどってる?」
彼女はもう一つのプリンのフタを開けながら僕の顔を見た。
「まぁね」
本当は、そうでもない。
彼女を追いかけていっていいのか、不安ばかりが大きくなるからだ。
「大学楽しいよ。テニスのサークル入ったんだ」
「…そう」
興味のないふりをしたけれど、より不安が膨らんだ。
サークルなんて、出会いの場みたいなもんじゃないか。
俺がいるのに、なんでそんなものに入るんだよ。
「もしかして、疲れてた? ごめんね、呼び寄せちゃって」
「いや、大丈夫だよ」
謝ることじゃない。
本当は受験勉強なんて気にせず、ずっと一緒にいたいくらいなんだ。
でもここでさぼったら、この先までなかなか会えなくなってしまう。
そんなのは、いやだ。
「よかった。ほら、疲れてるときほど甘いものはいいんだよ。温くなる前にプリン食べて! あ、ほら、ボタンも取れかかってるし、しょうがないな」
シャツのカフスのボタンに気づいた彼女に腕を引かれて、頬がほてるのを感じた。
思わず、手を振りほどく。
「子ども扱い、するなよ!」
しまった、と思った。
こんな言い方をするつもりはなかったのに…
彼女の悲しそうな目が僕を見る。
「子どもでいてよ」
え?
意外な反応に言葉につまる。
「年下の女の子たちが言ってた。大人っぽくなったって。かっこいいって。そんな風に高校生たちから好かれてるの、気づいてないでしょ?」
「…そんなの…でも俺にはっ」
「男の人って、年下の女の方がかわいいと思うんでしょ?」
俺の言葉をさえぎって言った彼女の顔は、より一層悲しそうに歪んだ。
俺が、彼女にこんな顔をさせてしまったんだ。
子どもでいてほしいなんて言われる前に、俺はやっぱり子どもだったんだ。
自分のことしか、見えてないなんて。
不安なのは俺だけじゃなかったのに。
「ごめん…」
ずっと笑顔でいられるような、幸せにできる男に、きっとなるから。
大学で待っててほしいんだ。
これからも二人ずっと、プリンより甘い気持ちでいられるように。
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