No.63950

ぷるるんプリン

みぃさん

恋愛ショートです。

2009-03-18 15:03:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:773   閲覧ユーザー数:757

「プリン買ってきたんだ。好きでしょ?」

 

 

 

彼女は俺が食べるのが当たり前のように、プリンとスプーンを前に置いた。

まるで子供の扱いだ。

 

 

 

「…いらない」

「そうなの? おいしいのに」

 

 

 

頬杖をついて、プリンから目をそらす。

こんなもの食べるためにきたわけじゃない。

 

付き合い始めて3ヶ月。

初めて彼女の家に呼ばれたのに、どうやら緊張してたのは俺だけみたいだ。

 

 

 

そもそも、俺を男として見てくれていないんじゃないかと思うことがある。

付き合う前から、彼女はずっと言っていたんだ。

 

 

 

「私、弟がほしかったんだ」

 

 

 

1つ学年が上の彼女。

俺より一足先に大学生になり、一人暮らしを始めた。

俺は高校3年になり、地獄の受験生となった。

彼女と同じ大学に入るために、勉強を始めている。

 

高校を卒業して会えなくなってしまう前に、彼女に告白した。

OKをもらえて、飛び上がるほどに喜んだ。

 

部活のマネージャーだった彼女。

他にもマネージャーはいたけれど、部内一のヒロインだった。

選ばれたことは、奇跡だと思った。

こんなに幸せなことはない。

 

だけど…

 

 

 

「受験勉強、はかどってる?」

 

 

 

彼女はもう一つのプリンのフタを開けながら僕の顔を見た。

 

 

 

「まぁね」

 

 

 

本当は、そうでもない。

彼女を追いかけていっていいのか、不安ばかりが大きくなるからだ。

 

 

 

「大学楽しいよ。テニスのサークル入ったんだ」

「…そう」

 

 

 

興味のないふりをしたけれど、より不安が膨らんだ。

サークルなんて、出会いの場みたいなもんじゃないか。

俺がいるのに、なんでそんなものに入るんだよ。

 

 

 

「もしかして、疲れてた? ごめんね、呼び寄せちゃって」

「いや、大丈夫だよ」

 

 

 

謝ることじゃない。

本当は受験勉強なんて気にせず、ずっと一緒にいたいくらいなんだ。

でもここでさぼったら、この先までなかなか会えなくなってしまう。

そんなのは、いやだ。

 

 

 

「よかった。ほら、疲れてるときほど甘いものはいいんだよ。温くなる前にプリン食べて! あ、ほら、ボタンも取れかかってるし、しょうがないな」

 

 

 

シャツのカフスのボタンに気づいた彼女に腕を引かれて、頬がほてるのを感じた。

思わず、手を振りほどく。

 

 

 

「子ども扱い、するなよ!」

 

 

 

しまった、と思った。

こんな言い方をするつもりはなかったのに…

彼女の悲しそうな目が僕を見る。

 

 

 

「子どもでいてよ」

 

 

 

え?

意外な反応に言葉につまる。

 

 

 

「年下の女の子たちが言ってた。大人っぽくなったって。かっこいいって。そんな風に高校生たちから好かれてるの、気づいてないでしょ?」

「…そんなの…でも俺にはっ」

「男の人って、年下の女の方がかわいいと思うんでしょ?」

 

 

 

俺の言葉をさえぎって言った彼女の顔は、より一層悲しそうに歪んだ。

俺が、彼女にこんな顔をさせてしまったんだ。

 

 

 

子どもでいてほしいなんて言われる前に、俺はやっぱり子どもだったんだ。

自分のことしか、見えてないなんて。

 

 

 

不安なのは俺だけじゃなかったのに。

 

 

 

「ごめん…」

 

 

 

ずっと笑顔でいられるような、幸せにできる男に、きっとなるから。

大学で待っててほしいんだ。

 

 

 

これからも二人ずっと、プリンより甘い気持ちでいられるように。


 
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