~聖side~
「―――とのことです!!」
「ほい、御苦労さま。下がって良いよ。」
「はっ!! 失礼します!!」
斥候が連合軍の様子を伝え終えて下がっていく。
それと入れ替わりに俺の下に一刀と奏がやってくる。
「おう、二人ともお疲れさん。連合軍の先陣は四半里下がったそうだ、まずは先手での強襲は成功したと言えるだろう。」
「そうかい!? じゃあ、上手く言ったんだね。」
「まったく、聖がいきなり風を吹かせろなんて言うから何かと思えば……もう少し説明してくれても良かっただろ?」
「まぁ、そう言うなよ。お陰で一刀との連携も出来ることがわかったし、奏の能力についてもよく知ることが出来たんだ。」
「これが……あたいの力か………。初めはもっと別な力かと思ってたんだけどね…。」
「まぁ、奏らしいくていいじゃねぇか。俺は好きだぞ、そう言うの。」
「…………ありがと、お頭。( ///)」
頑張った奏の頭を撫でてあげると、顔を真っ赤にしながらも素直に応じる奏。
なんだか、こういうやり取りだけで自然と元気になれる。
やはり、奏はそう言う性格なのだろう…。
先ほど行った遠距離奇襲攻撃は、俺、一刀、奏の連携攻撃の訓練の結果だ
この方法は理論上は問題ないだろうが、やはりそこは実際にやってみないと分からない。
あくまで広陵での実験、二里先までの投射結果を基にやってみたのだが、これは素晴らしい発見となりそうだ…。
奏がその能力に目覚めたのは、二週間ほどの前のある日の夜のことだ。
奏が鍛錬をしていると聞いたので、久しぶりに手合わせをしたのだが、そこで俺は奏の問題を発見してしまった。
「……どうしたんだ、奏。全くと言っていいほど一撃一撃に力が籠ってないぞ?」
「……そう……かい…。」
「いったい何があったんだよ…。調子でも悪いのか??」
「………いや、そんなことは……。」
「……俺にも話せない様な事なのか??」
「………。」
黙り込んでしまう奏。
奏が何かで悩んでいるのは明白だ。
だが、俺が解決できるほどの悩みなら、奏は俺にはっきりとその悩みを言うだろう。
つまり相談しないと言うことは……俺には解決できない、奏で自身の問題と言うことだろう。
なんとも歯痒い気がしてならない。
妻の悩みを解決できなくて、誰が夫などと言えるか…。
「………なぁお頭。少しだけ話を聞いてもらっても良いか?」
「あぁ。なんでも言え。」
すると奏は、決心がいったのか、胸の奥にしまっていた心の悩みを一つ一つ話してくれた。
「……蓮音様ってさ、偉大なお方だったよな…。」
「………あぁ。偉大な人だ。」
「……民に慕われ、部下の信望も篤く、武に優れ、おまけに美人……。人として女としてあれほど尊敬できる人物は他には会ったことが無いね…。」
「皆が認める立派な人だ。」
「……あたいもね、将軍としてあの人みたいな人になりたいと思って頑張ってるのさ…。勿論、全てが全て思い通りに行くわけではない。武も人望も女としても負けているのは分かってるからね…。でもいつかは……って思って………。」
そう言って物憂げな表情で虚空を見上げる奏。
視線の先に浮かぶ眩しいぐらいに輝く月に、奏は今は亡きあの方の姿を思っているのだろう。
「そうしたら………こんなんになっちまって………。あた…い…………グスッ………もう……何を目標にしたら良いのか………分がらなくなっで………。」
ぼろぼろと零れ落ちる涙は地面に染みをつくるが、一瞬の内に元の地面へと変わっていく。
「こんな風に、地面に涙が吸収されるみたいに………あの人の事もあたいの中からいつの間にか消えちまうんじゃないかってすごく不安で……。」
奏は悩んでいた。
自分の目指すべき目標である人が死んでしまって、自分は次に何を目標にすれば良いのかと…。
そして、次に目標が見つかってしまえば、初めの目標だった彼女の事を忘れてしまうのではないかと言う事を…。
それは、一人の少女の悩みとしてはとても重いもので、奏自身それに耐えきれなくなって最近は気が滅入っていたと言う。
俺は、奏がそんな風に悩んでいるなんて思ってもいなかった。
いやっ、気付けなかったと言う方が正しいのかもしれない。
俺自身、蓮音様の死について割り切れない思いがあったのは確かだ。
「………お頭は凄いよな…。蓮音様が亡くなった次の日から、いつも通りに仕事をして……。」
「…………。」
「あんなふうに切り替えが出来るのって凄いなって思う反面、あたいは怖いんだよ………。」
「…………。」
「なぁ、お頭。お頭にとって、蓮音様ってのは一体何だったんだい……??」
「………っ!?」
「お頭にとって、蓮音様の死ってのはそんな簡単に割り切れるようなもんなのかい…?好きだったんじゃないのかい…?」
「…………。」
「そんな風に黙ってちゃ分かんないね……。もしかして、あたいや芽衣が死んでもそんな風に割り切って次の事に集中するのかい!? えぇ…?? どうなんだい!!!!!!」
奏は怒っていた。
そして同時に泣いていた。
彼女は怖かったのだ。
彼女の目標が無くなり、誇れる武が衰え、彼女の存在意義が消えれば、彼女はここに居られなくなるのではないかと…。
そして、最愛の人から忘れられるのではないかと…。
これは、俺が起こした問題だ……。
俺が大した説明もせず、このような事態に持って言ったから……。
でも、これだけは言わせてほしい。
たとえ分かってくれなくても、この気持ちが変わることはない。
多くはまだ終わっていない。
だからこそ、大した説明は出来ないけれど、それでも俺はこれだけは伝えなければならない。
「……なんとか言ったらどうなんだい、お頭!!!!!!」
「…………馬鹿を言うな。」
「………えっ…??」
「俺は………自分が愛した人、自分を愛してくれた人を決して忘れはしない!!何故なら、それは俺の思い出に、記憶に深く深く刻まれてるからだ。その人と話したこと、一緒に笑った事、泣いたこと全てが全部俺の思い出だからだ!!だから、俺は蓮音様を忘れもしないし奏の事も、芽衣の事も、勿論他の皆の事も忘れることはない。それだけは忘れて良いものではないんだ。」
「…………お頭…。」
「奏も、蓮音様との事は思い出に残ってるんじゃないのか?」
「………うん。今でも、思い出せばあの笑顔が浮かんでくるよ…。」
「ならば、蓮音様はお前の心の中で一生生きている。そうすれば、忘れることなんてないさ。」
「………あぁ……そうだね…。」
そっと自分の胸に手を当てて目を閉じてみる。
まぶたの裏にはあの人の笑った顔が……。
やはり、蓮音様は俺たちの心の中で生きている。
「それに、目標は目標だ…。一度決めたことを変えるのは俺は好かない…。達成してから目標は変えるようにしような。」
「でも……あたいに出来るかな………。」
「出来るさ。奏の笑顔も蓮音様のように皆に元気を与えてくれる。今はまだ及ばないかもしれないけど、いつかきっと肩を並べるくらいまでに成長できるはずさ。」
「笑顔………ね………へへっ……。」
ちょっと照れくさそうに鼻の下をこする奏を見れば、問題はないみたいだ。
こういう風に問題を抱えている人が、他にもいるかもしれないと思うと怖い所ではあるが、今はまぁ様子を見るしかないか……。
「…………お頭ってさ、何だか太陽みたいだよな…。」
「……ん?? どうしてだ……。」
あの後、二人で月を見ながら並んで座っていると、奏がぽつりと呟いた。
でも、俺にはその意図が分からず聞き返す。
「あたいとかがさ、こうして気落ちして暗くなっている所に、お頭は明るい日差しで包んでくれて、あったかい気持ちにしてくれるんだ……。だから、お頭は太陽なんだよ……。」
「だとしたら、太陽は奏だよ。皆に元気と勇気を与えてくれる。そんな希望の光だ……。」
「………はっ……恥ずかしいことを言わないでおくれよ。( ///)」
「そんなことないよ。」
実際に奏の元気さに救われたところは多い。皆に元気を与えるのが太陽の目的だと言うなら、太陽は俺ではなく奏だろう。
『日輪か………。なかなかうまいことを言うじゃねぇか……。』
「…っ!!? 誰の声だい!!!?」
「………まさか…。」
辺りに響く声と姿が見えない事が俺の中で一つの答えに繋がる。
『お初だな、我が主よ。そして天の御使い。俺の名はウゥルカーヌス。ご察しの通り、指輪の精霊の一人さ。』
「ウゥルカーヌス……。」
「……ローマ神話の火の神様か……。」
『そう。我が主が日輪だと言うなら、俺が選ばれたのも運命ってやつかね??』
「あたいが……太陽…………。」
「しかし、なんでまた急に……。」
『我が主の心が変わったからさ……。前とは違って、今は目標への活力で満ち溢れてる。俺はそう言う熱い気持ちが好きだから協力すんだよ。』
ウゥルカーヌスがそう言った瞬間、奏の表情が青ざめる。
「なっ…!? あんた、あたいの心が読めるのかい!?」
『勿論ですとも…。我が主が悩んでることも、思っていることも、昨日何処で何してt「そっ…それ以上言うなぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」………へいへい。』
顔を真っ赤にして指輪に怒鳴りつける奏。
その光景は傍から見れば何と滑稽なことだろう…。
「…………奏、お前何したんだよ…。」
「なっ…!! …何も……してないよ…。」
「なら何で視線をそらすんだよ…。」
「さっ…さぁ、何の事だか…??」
下手くそな口笛で話を変えようとする奏。
このままでは話が進まないので、この話はここまでにしよう…。
「まぁ、良い。それでだ。ウゥルカーヌス様、あなたの力とはどういったものですか?」
『ん?? あぁ、普通で良いぞ? 所詮この指輪を介しないと何も出来ないし、我が主の上司なら余計に気を使う必要はないさ。』
「……では、あなたの力はどんな力なんだ??」
『俺は火の神だからな…。火以外を扱うのは大変なんだ…。だが、一般人に簡単に火は扱えるもんじゃないし、この指輪程度だと………火を何かに付与するってことぐらいか。』
「付与する……。ってことは、奏が触れた物に火がつくってことで良いのか?」
『まぁ、そう考えてくれて構わない。』
「火を与える力……か……まさに奏にぴったりじゃないか……。」
「………お頭……。あたい、これで頑張れるよ…。これで、あたいにもやるべきことが出来た!!」
「………あぁ。期待してるからな、奏。」
「任せとけって、お頭!!!!」
それから先、奏の力が何になら対して有効かを検討した結果、今回の作戦を思いついた。
遠距離からの火矢での狙撃…。
付与された火は簡単なことでは消えず、火は確実に被害をもたらす。
相手が大群であることを考えれば最も効果的な策のはずだ。
さらに遠距離を可能にするために、一刀に風を起こしてもらい、火矢の飛ぶ距離も伸ばした。
これが汜水関の戦いが始まる前日の夜に起こった事態の全容である。
「さてと、これで敵さんに簡単に近づく事は出来ないって分かってもらえたと思うし、第一段階は終了だ。」
「分かった。じゃあ、引き続き第二段階に移れば良いか?」
「そうしたいのは山々だが………まずは、あの煩いのを何とかしないとな……。」
「こら~!!!!聖~!!!!!! 私と勝負しろ~!!!!!!!!!!」
城壁の下で騒ぐ華雄とそれを必死になって止める霞。
正直、付きまとわれて迷惑してる…。
「………あは……あはは……。」
「何だって脳筋は戦うことしか考えられないんだよ……全く……。」
「なぁ、お頭。戦ってやったらどうだ? そうすれば少しは落ち着くと思うし……。」
「あぁ~…それ逆効果……絶対駄目だからな…。ああいう奴は戦って負けるともう一回だって言って聞かないんだよ…。そうなるとめんどくさいし、この際放っておいてこの戦で好き放題暴れさせておいた方が、案外すっきりして忘れるかもな。」
「…………酷い言われようだな、華雄さん。」
「猛将と呼ばれる人なんだけどねぇ……。」
「あんなんに構って、大事な作戦に支障が出たら問題だからな…。触らぬ神に祟りなしだ。」
「こら~!!!!!! 勝負しろ~!!!!!!!」
この夜、城壁上でため息をつく三人と、城壁下でずっと叫び続けている華雄の姿を多くの兵士が苦笑いで目撃していたと言う。
翌朝
「さて。じゃあ、今日から本格的に防衛戦が始まるわけだが……。華雄、やることと言えば?」
「討って出て、敵を殲滅する!!!!」
「却下!!!」
「何だと!!!!」
「どこまで脳筋なんだよお前は………。この戦いは防衛戦だって言っただろうが!!!」
「ふん!!! あんなやつら、私が討って出れば負けるはずがない!!! 我が華雄軍にあんな雑魚共に後れをとる奴は一人も居らん!!!!」
「じゃあてめぇは、月を危険にさらすって言うのか!!!?」
「…っ!?」
「俺たちがここで時間を稼ぐのは、月が無事に洛陽から出れるようにだろうが……。それが、いきなり討って出たら確実に時間を稼げなくて月は殺される。その原因はお前の行動の所為だぞ。それでも良いのか!?」
「………月様を……危険に……この私が……。」
「分かったら、しばらくはじっとしててくれ。頃合いになったら、思う存分暴れて貰うからよ……。」
「……………分かった。今はお前の指示に従おう…。」
「そうしてくれ。それじゃあ、これからの方針だが―――――。これでいこうと思う。」
「よっしゃ、ほなうちが頑張る番やね……。」
「あぁ。期待してるぜ?」
「任せとき!! 神速の張遼隊の恐ろしさ、思い知らせてやるわ!!」
こうして、汜水関の戦いの初日の幕が開ける…。
真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第九話 火の化身 END
後書きです。
第九章第九話の投降が終わりましたが、タイトルの変更があるかもしれないので、今回はタイトルは仮としときます。
さて、火を付与する力というのは実は結構便利なもので、この時代、ライターなどが無いこの世界では、火を扱うのにいちいち火おこしからしないといけないわけですが、そんな手間を全て省くこの能力!! まさにサバイバルにうってつけ!! えっ?違う?? 武器に付与する?? 勿論、武器に付与すれば切れ味も増しますし、追加効果で燃えますよね……。まぁ、そう考えるとこの能力は結構使いやすいものです。欠点としては……触れなければ付与できないことか………。
さて、次話はまた日曜日に!!
ではまた!!
Tweet |
|
|
9
|
0
|
追加するフォルダを選択
どうも、作者のkikkomanです。
今話では、前話の火矢襲来の裏側が分かります。
果たしてどのようにして飛ばしていたのか……。
続きを表示