第二十二話、『陶謙の頼み、そして再会の洛陽へ』
―徐州・東海郡のとある村で、俺達は以前から保護を図っていた張三姉妹を保護することに成功した。
地和の記憶が戻っていたり、同じ方法で皆の記憶を戻したりなどいろいろあったが、皆が改めて『計画』への
参加表明をしてくれ、俺は言葉にできないくらいの頼もしさを感じていた。
そこで突然現れた老婆…徐州州牧・陶謙は、三姉妹の罪を責めるようなことはせず、彼女達の決意を支持した。
そして陶謙がやってきた理由は、驚くべきものだった―
「―わしは陶謙。字は恭祖だ」
小屋に突然来訪した老婆は、そう名乗った。陶謙恭祖。徐州の州牧を務める老将。
そんな人物が何故ここにいる?
「東海郡に新しい村が急に出来るという話を聞いてな。ひっそりと来てみたら黄色い布がちらほら見えた。
黄巾党の残党だと思ったね。ま、でも悪さをしようとしているようには見えなんだ。だからわしは無理言って
ここに一人で潜入していたんだよ。戦も無い現状、わしがいなくとも政は回るようになっているからね」
そう言って、陶謙は乾いた笑い声をあげる。州牧が潜入調査とは…随分と剛毅なものだ。大胆不敵と言ってもいい。
確かにここにいる連中は張三姉妹のファンでしかない連中だ。悪さはしない。しかし、それでも黄巾党の一師団に
匹敵する規模の人数はいるのだ。そんなところに一人で潜り込むとは…。
「…北郷一刀です。今は特定の組織には属さず、旅をしています」
「北郷朱里と申します。同じく、旅をしています」
「私は徐庶、字は元直と申します。幽州より彼らと共に旅をしています」
「私は典韋です。徐庶さんと同じで幽州からお二人とご一緒させていただいています」
「私は楽進、字は文謙です。彼らの旅の目的に賛同し、青州より旅路を共にしています」
「李典、字は曼成や。同じく一緒に旅をしとる」
「于禁、字は文則なのー。二人に同じく、なの」
俺たち一行が一斉に自己紹介するのを、陶謙は満足そうに聞いていた。そしてそれぞれの顔を見、やはり満足げに
何度も頷いてから口を開く。
「どの子も大した逸材だね。これも御遣い殿の人徳かね」
「…私は長いこと大陸中を旅していましたが、彼のような方には出会ったことがありませんでした」
「かっかっか。まあ確かにそうだねぇ。良い面構えをしておるわ。若いが、何度も修羅場を潜り抜けた男の顔だ」
灯里が答えると、やはり心底愉快そうに笑う。どうも彼女の意図が読めない。一体何のために現れたのか。
いやそもそも何故ここにいたのか。州牧である彼女が自らここに潜入する必要は無い。考え得る理由は…
「北郷、お主はわしがここにおる理由を考えておるのだろう?」
「…読まれていましたか」
「かっかっか。わしとてこの徐州で州牧をし、以前は幽州でも刺史をやっておったのだぞ。なめるでないわ」
これだから年長者というのは厄介だ。ポーカーフェイスになったらしい俺だが、それでも読まれてしまうのはやはり
対人関係の経験の豊富さからなのだろう。人間の領域を外れた年月を生きている俺だが、やっぱりまだ若造か。
「わしがここにいる理由そのものは、さっき話したが…『天の御遣い』の名が聞こえたもんで、これは良い機会じゃと
こうしてお邪魔させてもらったというわけだ。北郷、お主は上洛しようとしておるのだろう?」
「はい」
俺が答えると、陶謙は少しの間を置き、ややあって居住まいを正しながら口を開いた。
「そこでお主に頼みがある。董卓を救ってやってほしいのだよ」
「…!」
驚くべき言葉が飛び出て来た。陶謙は月を知っているのか…となると、この小屋に突然来訪した真の理由とは、俺にそれを
依頼するためだったのか。しかし、俺がここに来ることを彼女は知らなかった筈…行き当たりばったりもいいところだ。
俺達がまだ平原にいる時に劉備軍に対して依頼をするというのならまだわかるが…そうできない理由でもあったのか?
「なに、旧友の娘が辛い立場に立たされているのを見過ごせぬというだけだ。とはいえわしが動くにしてもまずい状況…
連合に参加しようと、すまいと、どの道待っているのは乱世。その時に民が傷つくのを少しでも防ぐためには、今は
力を蓄えねばならぬ。たとえ、この連合の戦いの後にわしが徐州州牧の職を降りることになったとしてもだ」
「何故、州牧の職を降りると?」
「…わしには子がおらぬ。家臣にも有能な者はおるが、州牧は本来中央の信頼が無ければ就けぬ職。十常侍が消え去った
以上、この戦いの後に中央の体制は変わるだろう。なればこそ、時代の変遷というこの節目に、わしのような老人は去る
ことを考えるべきじゃろう…劉表のタヌキジジイも、今は病に臥せっておる…お家騒動に決着がつく気配はないがな。
益州の方では劉焉が死に、娘の劉璋は何をやっておるのか…。幽州州牧も今や慮植の教え子である公孫賛が拝命しておる。
公孫賛にしても、青州の孔融にしても、立派にやっておる。もう、わしのような老人は去り時ということなのじゃろうよ」
「後継者の目星はついているのですか?」
「目星はついておらぬ。かといってこのままでは袁術の戯けめか、居丈高に過ぎる誇大妄想の曹操に乗っ取られるだけよな。
お主になら任せても良いやもしれぬが、お主にはやらねばならぬことがある…それも、本当にお主にしかできないことが。
そこでな。今は平原におる劉備を中央に推薦しようと思うのだ」
「…彼女に州牧の職が務まるとは思えませんが」
「…わかっておる。お主らがここにおるということは、劉備は見限られたのだろうて。どうにも怪しいとは思っておったわ。
お主ら二人の『天の御遣い』の名は今や大陸中に広まっておるが…どうにも臭い。劉備は仁徳の君として噂が広まったが、
それよりもお主らのことが聞こえて来るばかりでな…ふむ、わしが思うに、劉備はお主らを神輿として祭り上げ、そして
名を売っておるのだろうて。そして、洛陽の民を助けるという名目で、連合にも参加するのだろう?お主らを旗印にな」
「…仰る通りです。しかし、それがわかっていて何故?」
「わかっておるからこそ、じゃよ。わしはの、公孫賛の善政ぶりを慮植から聞いておる。お主らが幽州に降り立ってから、
その存在が知られるまでにかなりの間があったこともな。じゃが、お主らが平原に移ったことは劉備らが平原に移ってから
間をおかずして知れ渡ったであろう?つまりそれは、お主らに頼り切った売名であると思ったのだよ。違うかい?」
「…」
なんという慧眼…この人の言っていることは完全に正解だ…俺達も有名にはなったが、桃香らのやり方によっては白蓮と同じく
多少の期間なら俺達の存在を秘匿しておくこともできたはずだ。俺達も静かに平原に来たし…来た翌日から喧伝が始まった。
しかし、ごく僅かな情報でそこまで推理するとは…さすが経験豊富な老将と言えた。
「じゃから、お主らがいずれは平原を出るやもしれぬということは考えておった。結果的にその洞察は正しかったわけだな。
太守はおろか県令や都尉の経験も無い劉備が急に名が売れるのは不自然過ぎる。まあ、黄巾党との戦いで名をあげたのは
確かだが…それにしても、どこかを治めた経験が無いものが、急に善政を敷けるものか。たとえ優秀な軍師が付いていても
無理があるだろうてな…わしもそうであった。学はあったが、経験が無いもので四苦八苦であった」
経験者は語る…陶謙といえば太学にも行っていたエリートだ。そんな彼女でさえ、苦労して今の地位にある。故に、桃香の名が
急に売れてきたことに違和感を覚えたのだろう。それ以前から州や郡を治めている面々はともかく、桃香達は最初は拠点の無い
流浪の義勇軍であったのだから…。
「だからこそ劉備をこの徐州州牧の職に推薦しようと思うのだ。慮植の言を信じるなら、能力はある…後はそれを活かすのみ。
なれば、わしが先達として劉備に叩き込んでくれようと思うてな…国を治めるというのはどういうことか、ということをな」
…ああ、そういうことか。そして今の俺…月を救いに上洛しようとしている俺にこう言うということは、その意図は…
「…やりたいことと、やらなければならないことの区別、ですね」
「ほう、わしの意図を見抜きおったな。その通りだ。わしは董卓を救いたい…だが徐州の民を守らねばならぬ。この葛藤こそ、
君主たるものが持つべきものよ。わしの我儘で民を振り回すわけにはゆかぬ。お主らと出会うまでは、董卓自身に乗り越えて
もらうより他あるまいと諦めておったが…なんと、天はわしを見放さなかったようだな」
「ええ…俺も、ここであなたとお会いするとは思ってもみませんでした…ここにいる面々のうち、張三姉妹は以前より俺の手で
保護するべしと手を打っていましたが…それ以外の面々とは、まったく偶然の出会いです。青州では孔融にも会いました」
「ふむ…袖擦り合うも多生の縁、ということなのじゃろうな。お主が張三姉妹を保護したのも、おそらく黄巾党がらみでの事、
わしは詮索もせんし、責める気も無い。じゃが、こうして出会い、目的が一致しているからには、この婆の頼みを、どうか
聞き入れてはくれぬか。本来であればお主らが平原におる時に使者を出して依頼をすべきであったが、劉備を怪しいと思い、
使者を出せなんだ…なればこそ、お主らに頼みたい。中央に口利きもしよう…あの子を助けてやってくれはしまいか」
「…」
この人の推測は、恐ろしいくらいに当たっている。
理穏は同じ青州であってもほとんど人柄が知れない所から、桃香に対してほとんどイメージを持っていなかった。陶謙は慮植と
繋がりを持ち、ある程度のことは知っている…人柄についても知っている可能性は高い。桃香の学生時代を知っている白蓮は、
現在の彼女と過去の彼女とでイメージが違うと述べていたが、話を聞く限り、夢見がちなのは昔から変わっていないようだ…
そうとなれば、この人の推測も当然のものと言えるかもしれないな。言及はしていないが、おそらく俺達が桃香を見限った経緯や
意図もある程度までは推測できているのだろう。
それに、陶謙は月の親と知人であり、月自身とも知己なのだろう。月も陶謙を見知っている可能性が高い。陶謙の口利きがあれば、
交渉を有利に進めることができるだろう。連合に参加していない諸侯のうち、かなり有力な候の後ろ盾を得られる絶好の機会だ。
そして、陶謙の想い…助けたいものと守らなければならないものを秤に掛けなければならないという葛藤は、俺の心に響いてきた。
…ならば。
俺も改めて居住まいを正し、右拳を左掌で包み込む、武人としての最敬礼の姿勢を取る。
「…陶謙様。あなたの頼みは、この北郷一刀がしかと承りました。必ず、董卓を助けます。既に公孫賛、及び涼州の馬騰から
協力の確約をいただいています。董卓についても、以前より調査をしていました。そして、打てるだけの手は打ちました。
不審に思われても仕方ありませんが、俺達はこうなることを予測していました。こうなった場合、董卓を助けるために…。
劉備を試したことは認めます。何も考えようとしない彼女の許で董卓を救おうとするのは無謀だと思い、俺達は彼女を見限り、
こうしてここにいます…彼女が乱世の犠牲者になるのは、絶対に許容できません。必ず、助けます。この命にかけて…」
「ほう、そこまで…先見の明にも優れておるな。そして覚悟も…まこと素晴らしい若者じゃ。わしの目に狂いはなかったようだな。
お主らが行ってきたことを考えれば、疑う方が愚かというものだろうよ。しかし、すまぬな。この婆の我儘だというのに…」
「…いえ」
我儘でも、葛藤した上でのものであるなら、俺は構わないと思う。葛藤すらしない人間の我儘は、本当に性質が悪い。
だからこそ、俺達は…桃香を見限ったんだ。選択の葛藤を知らない彼女に、我儘を言う資格などないのだから。
―――
――
―
数日後、俺は新たに張三姉妹を加えた一行を率い、陶謙の案内で下邳を訪れていた。
村の残党連中はもう普通の農民として生活していくつもりであったらしく、同行を申し出るようなことはなかった。
その代わり、何があっても三姉妹を守ってあげてほしいと頼まれたので、もちろんそれを固く約束し、村を出た。村を
出る直前に纏め役の男が来て、「もし必要とあらばいつでも力になる」と言ってくれた。今後の布石になるだろう…。
下邳で朱里が三羽烏と流琉、張三姉妹を連れて物資を調達している間に、陶謙の腹心という男が宿にいた俺に陶謙から
董卓…月に宛てられた書簡を届けに来た。陶謙に届いていた連合の檄文も添えられている。
男が出ていくと、俺は背嚢から防水用のチャック付きビニールケースを取り出す。書類などを入れるようなあれだ。
「一刀さん、それは?」
「天の国で普及している、手紙なんかを入れておく袋だよ。水をかけても中身は濡れない」
「わぁ…すごいですね、天の国の技術って…」
俺と同じく留守番の灯里が感心したように、既に俺が書簡を入れたケースを手にとってしげしげと眺めていた。
俺達が持って来ている道具は少ない。俺が持っているものを挙げてみると、武器を除けば戦装束、普段着の制服、陣羽織、
饅頭笠、折り畳み式ツールナイフ、先程出したビニールケースが三つ、外史製テント、ランプ、白蓮の書簡、馬騰の書簡、
あとは使途不明の鍵二つだ。一つはお袋、もう一つはばあちゃんから渡されたのだが…用途は結局教えてもらえなかった。
一体なんだというのだろう。外史に行くのにこれを渡してきたということは、これで開けられるものが何か存在するのか。
…考えられる線としては、洛陽にそれが存在するのかもしれない。お袋は後漢の首都を洛陽に定めた光武帝なのだから。
そうなるともう一つの鍵は、前漢の首都であった長安に関連するものだろうか。ばあちゃんは劉邦だしな…。
あるいは、俺の出自を証明するためにこれを?だとすればこれはとんでもなく重要な…それに今になって思い至るって、
俺も大概余裕が無かったんだな。
だが、俺の出自が明らかにされれば…それを理由としてついてくる人間が多数出てきそうなので、まずは董卓軍の面々の
信頼を得てからだな…月や詠、恋、霞、今となっては音々音も含め、記憶を甦らせるのもそれからだ。
―翌日、俺達はいよいよ洛陽への出立の時を迎えた。
俺たち一行は十五人の編成になっていた。というのも、忍者兵連中は残党連中に張三姉妹の護衛役として認識されていた
ことから、忍者兵達は連れて行かないとならなかったからだ。色々と後始末を済ませ、後から追いかけてきたのである。
今後徐州に残る必要は無いので、選出された五名以外は涿に帰ることになった。まだ連合集結まで二月近い時間があるので
公孫賛軍が出立するまでに涿に戻ることができる。そして、白蓮への中間報告も兼ねている。張三姉妹はともかく、三羽烏が
加わることは予想していないだろうし、今現在俺が何をしているのかも報告しておく必要があった。白蓮にしたって、俺達の
無事がわかれば安心して連合の集結地点へと出発できるだろう。
荷物が増えることから、陶謙から提供された荷車に食料や荷物を載せ、それを真桜の馬に牽かせながら、一路洛陽を目指し、
徐州を出てからは豫州を横断する。
そして何日も旅を続け、俺達は豫州の外れ、荊州・南陽郡と接する潁川郡の西部に辿り着いていた。
「一刀様、ここから山岳地帯になります。明日からはこれまでよりもペースは落ちるでしょう」
「ああ。さて、こうやって洛陽に南から接近するというのは前々から考えていたことだけど、大変そうだな」
「ええ。でも東から行こうとすれば連合と鉢合わせする可能性がありますし…まだ集まってきていないとはいえ、何が
あるかわかりませんからね。函谷関まで行くのは遠い上に時間も掛かりますし…どちらにせよ、目は付けられています」
今現在、汜水関や虎牢関のある東には連合はいない。だが、曹操あたりが間者を放っていないとも限らない。見つかれば
不味いことになる。西にしてもそれは同じだろうけどね。一方の南は選択肢に挙げられることはないだろうから、比較的
ノーマークに近いと言えるだろう。連合の集結地点を考えれば、おそらく曹操もこちらには目を向けてはいまい。
つまり、比較的安全に洛陽まで行くことができるのだ。洛陽付近の間者は見つけ次第捕えるように洛陽組の忍者兵達に
言ってある。洛陽に諸侯の間者はいない。それに詠はそう言うことに敏感だから、詠が見つけてしまえば始末されるだろう。
しかし忍者兵が減ったという報告は無かったので、詠は忍者兵には気づいていないと見える。
「うう、なんか洛陽に南から行くって…嫌なこと思い出すなぁ~…恋さんのことは未だに怖いよ~」
天和の情けない声が聞こえてくる。そりゃ、恋にあんな目に遭わされてはね…トラウマになるか。三国統一後も、三姉妹は
恋に対してぎくしゃくしていた。当の恋は気にした様子はなかったけど…。
「これから梁、新城の付近を経由して洛陽に行く。強行軍になるから、今夜はしっかり休むんだ」
そして、日が暮れる前に俺達はテントと、徐州から持ってきた天幕を張る。テントは二つあったので、女性陣で二つを分け、
俺を含めた男連中は天幕で寝ることになった。男が増えたし、それも当然といえた。
―――
――
―
そんなこんなで旅を続けること数日、ついに俺達は洛陽に辿り着いた。
俺は忍者兵の内三人に命じ、洛陽に先行させる。洛陽組の忍者兵達に俺達が来たことを伝えるためだ。
忍者兵は先行した三人を除けば一般的な旅装だったので、門番に怪しまれることなく俺達は洛陽入りすることができた。
変に正体を名乗って最初から混乱を招くより、洛陽に入って城に向かい、そこで名乗る方がいいだろうと思ってのことだ。
誰か見知った顔でも見るだろうか。霞や恋、音々音あたり。
俺達は取り敢えず宿を取る。意外にも宿は空いていたため、全員が十分宿泊することができた。俺は董卓と交渉を行うため、
俺と同じく『天の御遣い』としてその名が知れ渡っている朱里と、董卓と面識のある灯里を伴い、城に向かった。ちなみに、
服は旅装から普段着代わりの制服に着替えている。目立つので羽織で隠してあるが。
残りの皆は留守番である。
「やっぱり都は賑やかですねー」
この外史に来てからというもの、張り詰めた口調の時が多かった朱里が、天にいたときのようなほわりとした口調で感嘆する。
昼下がりの洛陽は活気溢れるという言葉が相応しいくらいに賑わっていた。連合の立つ瀬無しと言える。
「しかし、賑わってるわね。こんなに平和な都に、連合は押し寄せてこようというの…」
洛陽の賑わいぶりを見て改めて連合への怒りをあらわにする灯里。かく言う俺も少しキている…滅多に怒らない人間だとは
言われるが、俺は割と怒りでヒートアップするクチだ。努めて冷静にしているが、胸の内の炎が激しくなるのを感じた。
少しの間会話は無かったが、しばらく歩いていると落ち着いてきたのか、灯里がまた口を開く。
「月も頑張ってるわね…天水も良いところだったけど、洛陽に来てからさらに頑張っているみたい」
「そうだな。灯里にとっては久しぶりの再会になるんだよな」
「ええ。天水で会った時も、しばらくお世話になった時も…仕官しないかって誘われてはいたんですけど…」
「顔を合わせづらいか?」
「いえ、全然そんなことないですよ。でも、お誘いを断っているわけなので、なんとなく…」
「なんとなく気まずいってわけか」
「はい。でも、そんなことを気にしていてもいけませんね」
一度誘いを断っている相手に、今度は誰かの配下…この場合は俺なのだが、別の人間の配下となって「味方になります」って
会いに行くのは確かに気まずい。別にやましいことをしているわけではないが、俺だってそんな状況になったら気まずいしな。
「…ん?」
向こうの方がなんだか賑やかだ。いや、洛陽は賑やかなんだが…周囲よりも賑やかになっている場所があった。
「あそこ、賑やかですね…」
「ええ、喧嘩…とは考えづらいわね。怒鳴り声も無いし」
確かにあれは喧嘩ではなさそうだ。怒りの気配を感じない。
なんというか、俺が涿で見回りをしている時とかに民から声をかけられてその場が賑やかになっていくのと似ている。
誰か董卓軍の将でもいるのだろうか…。
「行ってみます?」
「…その必要はなさそうよ、朱里。向こうから来るわ」
人々の中を、一人の少女が歩いてくる。
小柄だが、一目で身分の高い人間だとわかる衣装を纏い、月光に染まったかのような、柔らかそうな髪を靡かせる少女。
―そうか、彼女だったのか。
少女はこちらまで歩いてくると、灯里に向かって微笑みかけた。
「―お久しぶりですね、灯里さん」
「―久しぶりね…月」
そう。俺達の前に歩み寄ってきた少女こそ、雍州州牧にして現在は相国を務める董卓軍大将・董卓仲頴であった。
董卓の案内で、俺達は城に入り、彼女の執務室に通された。
そこにはやはりと言うべきか、賈駆が待っていた。董卓が先頭で扉を開けて入ると、机から顔を上げる。
「あら、早かったわね、月…って、灯里!?」
「久しぶりね、詠。さっき町中で月に会って、それでここまで来たのよ」
「今更、仕官しにきたの?募集はもうしていないんだけど」
「いいえ。私はもう仕官先は決まったの。そして、今日は私の主君に連れられて、あなた達と交渉するために来たのよ」
「主君?…もしかして、そこの胡散臭そうな男?」
賈駆が俺を一瞥して鼻を鳴らしながらそう言う。途端、董卓の雰囲気が変わる。
「詠ちゃん…初対面の人に向かっていきなりそういうことを言っちゃだめだよ。詠ちゃんの悪い癖だよ、それ」
「だって胡散臭そうじゃない」
「…そういうところ、直さないと…詠ちゃんは軍師でしょ?自分の感情と評価を混同する愚を犯しちゃ駄目」
「混同してないわよ。客観的に見たって胡散臭いわよ、その男。ここに来たのだって、月に…」
そこまで賈駆が言ったところで、董卓は一瞬で賈駆に肉薄すると、その頭上に神速の拳を振り下ろした。
「あ痛ぁ!?」
それはもう「ゴツン!」なんていうありきたりな快音が響いた気がするほどの、見事なまでの拳骨だった。
…月って実は強かったりしたのか?これまでは名を捨てるより他なかったから、戦場には出なかったし、剣を握る機会も
無かったのは確かだから、強いのかどうかはわからなかったけど…董卓だから、と言われれば納得してしまうかも。
「いいかげんにして、詠ちゃん。みっともないよ」
「で、でも月~…」
「…もう一回?」
「う」
「話すどころか、名前もまだ聞いてないのにそれは失礼だよ。ちゃんとして」
董卓に叱られ、俯いてしまう賈駆。だが数瞬の後、はっとしたように顔を上げて口を開く。
「ちょっと月!灯里はともかく、あとの二人の名前も聞かないでここまで連れて来たのっ!?」
「あ…へぅ」
そういえば、ここに来るまでに董卓から名前を聞かれることはなかった。俺もまた彼女に会えたのが嬉しかったので、
そのまま名乗らずに来たのだが…まあ、月はたまにうっかり屋な性質を発動するので、今回もそうなんだろうな…。
とりあえず、名乗っておくか…
「お初にお目にかかる。俺は北郷一刀。相国閣下を御守りするべく、幽州より馳せ参じた」
「はじめまして。北郷朱里と申します。あなた方のお力となるべく、ここ洛陽に馳せ参じました」
俺達の名を聞いた董卓と賈駆が目を見開く。
「北郷、って…『天の御遣い』って言われてる、あの!?」
「へぅ…あなた方がかの高名な御遣い様方なのですか…申し遅れました。私は董卓、字は仲頴と申します」
「…賈駆、字は文和よ」
董卓はかなり色白のため、頬が赤くなればすぐにわかってしまう。そして、董卓はかなり赤くなっている。
一方の賈駆はと言えば、俺達をじろじろと舐めるように見ている。よくあることなので気にしてはいないが、いかにも
「胡散臭い」と思っているといった様子だ。きつい目つきがさらにきつくなっている。特に俺に対しては…。
「でも、御遣い様は確か平原の劉備さんの許にいらっしゃると噂になっていたのですが…なぜ上洛を?」
「月、一つツッコミを忘れてるわよ。どうして『幽州から来た』なんて言ったのよ。
確かにあんた達は幽州に降り立った『天の御遣い』として噂が広まったけど…平原は青州よ?」
「それは当然の疑問、と言えるかな。まずはそこから話さなければならない…俺達が今、上洛してきた理由を」
そして、俺は話し始める。俺達が幽州へと降り立ってからここに来るまでの経緯を、『計画』のことを除いて。
平原から出ることになったきっかけ…反董卓連合の足音が、すぐそこまで迫っているということも。
―――
――
―
「―やはり、そうなるのですね…」
「月を踏み台にしようなんて!どいつもこいつも俗物ね!」
俺の話が終わっても、董卓は落ち着いたままだった。一方の賈駆は連合を組んでまで攻めてくる諸侯を罵っていた。
だが、俺は董卓の言動が気になったので、そこを訊いてみることにする。
「董卓、君はもしかしてある程度予測はしていたのかい?」
「はい。どうも最近、馬騰さんから何か意味ありげな書簡が増えたので…私が相国となって以来、どうにも何かを
警戒するような文面だったんです。最初は私も訝しんでいたのですが、やりとりの中でそういった調子の文面が
増えてきたので…よく考えてみたんです。そうしたら、たぶん、陛下を御守りする立場にある私は、諸侯からの
嫉妬を受けるかもしれないと…」
「月!?そこまで考えておいて、なんでボクに相談してくれなかったの!?」
「詠ちゃん、ただでさえ気苦労が多いのに…その時はまだ私が不安に思っていただけで、確証なんてなかったから…」
「でも…!」
「そんな不確かなことで詠ちゃんを困らせたくなかったの。ごめんね?」
「あ…え、ええ。もういいわよ」
確かに、董卓の予測はその時点では不確定要素が多すぎるものだったのだろう。馬騰には俺が根回しをしておいたので
あちらも遠回し気味に董卓に警告を行っていたようだ。直接指摘するのではなく、董卓に気付かせる形で。俺の布石は
ここに来て生きてきたな…うん、馬騰がアドリブをやってくれたおかげで、やりやすくなったかな。
「それで、俺達はいよいよもって上洛すべきだと思って、劉備の許を離れたのさ…劉備は連合の檄文に乗せられている。
真に受けてしまっているんだよ。事実を知っている俺としては、それが許せなくてね…平原を離れることにしたんだ」
「それなら、それを指摘してやればよかったじゃない」
「…それを指摘して、俺達が劉備軍に残ったとして…君達を助けることは、できなかっただろう。命は助けられても、
君達は名前を失うことになっていたはずだ。はっきり言って、連合は…董卓、君がどういう人間であろうが関係ないと
言っているようなものだからね。劉備は例外だが…それ以外の面々は、野心を持って君を討ちに来る」
「…」
「元々、反董卓連合が組まれる時に劉備がどういう反応をするかで、その後どうするかを考えていたんだけど…やっぱり
彼女は何も考えず、連合の檄文に流されただけ…だから、俺達は劉備を見限った。そして、この大陸に降り立った時から
打っておいた布石を利用し、状況を変える仕上げとしてここに来たんだ。董卓…君を救うために」
「…何故、私を?」
「…そう問われると弱いな…ただ、民の為にひたむきに頑張っている君を守りたくなっただけ、っていうのは駄目かな?」
「お気持ちは嬉しいのですが…私は相国の職を拝命するより以前、雍州刺史の職にありました。ですが、私の名がそう
売れたとは思えないんです。売るつもりもなかったのですけど…なぜ、御遣い様は私の事をご存じだったのですか?」
「そうね、そこが知りたいわね。調べればわかることでしょうけど、まるで降り立つ前から知ってたみたいな口ぶりね」
そうだよな。確かにそこは疑問だろう。天の世界の実態を知らない者にはね。この外史は『三国志』…つまり西暦二〇〇年
前後の時代にある。俺がすごしていた二○○○年代初頭からすれば千八百年も前の時代だ。
「そうだね。まずはそこから説明しよう。俺と朱里がいた天の国というのは、この時代から千八百年後にあたる時代だ。
この世界の現在の時代は、俺達から見ればはるか過去の時代なんだよ。この時代については『三国志』という歴史書に
詳しいことが書かれているけど、君達二人は有名人だ…特に、董卓…君はね」
「私が…?」
「…怒らずに聞いてもらいたいんだが、天の国の歴史では董卓は献帝…つまり劉協陛下だけど、当時陳留王だった陛下を
皇帝として擁立し、暴政の限りを尽くし…袁紹や曹操によって反董卓連合が組まれた。そして洛陽の皇帝陵を荒らして
都を焼き払い、劉協陛下を長安に遷都させて洛陽を砦とした。それで諸国の動揺を突いて連合軍を大いに破ったんだが、
その後陽人が陥落してしまったから自分も長安に移動し、その後も連合が瓦解するまで連合の攻撃を良く防いでいた。
しかし、そこで事は起こった。司徒・王允と…義理の息子であった呂布の裏切りに遭い、殺害されてしまったんだ」
「…」
「ゆ、月がそんなことをするはずがないわ!ふんっ、天の国の歴史も当てにならないわね!」
「そう、まさに君の言う通りなんだよ、賈駆。ここの董卓は俺達の世界で語られているような人物ではない。まあ、俺達の
世界の歴史の董卓は、儒教的な視点から見れば大罪人だったから、殊更悪く書かれていたっていうだけでね…武芸に長け、
義侠的な性格も持ち合わせ、人物眼に優れていた…支配すれど皇帝を僭称することもしなかった。皇帝を保護するとは即ち、
朝廷を護るという大任を得るということでもあるから、儒教的観点を抜きにしても、諸国の諸侯が董卓に嫉妬しないはずは
なかったんだ。歴史っていうのは人間の手で編纂される以上、後で脚色されることもある。歴史には常に政治が絡むのさ。
だが、董卓という人物がいたということは疑いようのない事実だとは言っておく。董卓が相国という任を得て、諸侯の
嫉妬によって反董卓連合が組まれてしまったことも、変え難い事実だ。だから、俺は予めこうなると知っていたんだよ」
「…」
「事実だけを端的に見ていけば、ここの董卓にも当てはまることがいくつかあるだろう?相国という任を得て、皇帝を
保護している…ここの董卓は素晴らしい人物だが、『事実』があれば諸侯が連合を組む理由にはなる…嫉妬されるのさ。
後は民衆の支持を得るために、あることないこと吹聴すればいい。そうすれば連合が正義となる。そして、もう連合を
止めることはできない…だから、君達が名前を捨てずに、再起することができるよう、俺達が来た」
長々と話してしまったが、俺が言葉を切ってからしばらく、誰も口を開かなかった。正直、うろ覚えなのは認めるが、これが
俺達の世界で語られている『正史』だ。だが『外史』は…大枠は同じでも、内容は異なる部分の方が多いのである。
「…証拠はあるの?あんた達が月を助けに来たっていう証拠。それに、手立てはあるの?」
「ああ。既に俺達が最初に降り立った幽州涿郡で世話を焼いてくれた公孫賛、涼州連合の馬騰、徐州州牧の陶謙は真実を知り、
協力の確約を貰っている。陶謙は徐州を守るために動けないことから、俺が名代に指名された。馬騰とは以前から書簡を
やり取りし、こうなった時に協力してくれるよう頼んでいた。俺達の人柄が広まっていたからか、馬騰は好意的でね。また、
公孫賛については連合に参加するが、いわゆる埋伏の毒だ。それぞれから書簡を預かっている…これらがそうだ。後、陶謙の
所に届いた袁紹からの檄文も持って来ている。それも併せて渡すよ」
俺は懐から四つの書簡を取り出し、董卓に手渡す。董卓は驚きながらも一つ一つに目を通し、賈駆は董卓の手元の書簡を覗き、
ちらちらこちらを見ながら目を通している。董卓は驚いているだけだが、賈駆の方はどうにも信じられないと言った面持ちだ。
まあ理由からして怪しいから、それはわかる。ややあって、董卓は書簡を畳むと、俺に返してきた。そして口を開く。
「…正直、驚いていますが…このような困難な状況の中、私達の為に洛陽まで来てくださり、本当にありがとうございます。
御遣い様のお気持ち、本当に嬉しく思います。でも一つお訊きしたいのです。どうして私についてご存じだったのですか?」
「ああ、こうなることを見越して、俺の部下の隠密兵を何人か董卓軍に潜入させていたんだよ。連絡役は別としてね」
「なんですって!?ぜんぜん気付かなかった…!」
「見たままを報告するように命じていただけだから。特別なことは何もするな、ただそこにいて見ているだけでいい、とね」
「…はぁ。うまく盲点を突いたわね…気付かないわけだわ」
「かつては軍師もやっていたことがあるからね。とはいっても、そう命じたのはこの朱里だけど」
「えっ?」
俺が今の今まで一言も発さずに黙っている朱里の名前を出すと、賈駆は驚いたような表情を浮かべる。朱里は一呼吸置くと、
静かに進み出て口を開いた。
「…私は一刀様と出会ってからずっと、軍師としてお仕えして参りました。今では戦闘もこなしますが、本職は軍師です」
「へぇ…」
そこで賈駆の目が光る。軍師として優秀な彼女のことだ、朱里を試そうと考えているのだろう。
「あんた、軍師だったのね。でも、主君が馬鹿にされても何も感じなかったの?」
「何も感じないなんてことはありませんよ?ただ、そこで感情的になって話がこじれてはいけませんからね」
「あんた達がやってきたことを認めない、って言ったら?」
「一向に構いません。私達は私達にできることをするだけです。それ以上のことは必要ありませんよ」
「うぐ…」
「…詠ちゃんの負けだね」
「ちょ、月!」
「だって、詠ちゃんと正反対なんだもの。詠ちゃんはすぐ感情的になるからさっきも話がこじれかけたし、認められないと
すぐ怒るし、まして私が馬鹿になんてされたら何をするかわからないもん…詠ちゃん、墓穴掘っちゃったね…」
「ゆ、月ぇ~…ひどいよぉ~…」
よよよ、と泣き崩れる賈駆とは対照的にひどく落ち着き払っている董卓だったが、その口角は微妙に上がっており、彼女が
この状況を楽しんでいることに俺は気付いてしまった。しかも自分で賈駆をいじっているし…まあ、いじりやすい子なのは
認めるが、月ってこんな子だったかな…あ、そういえば何度か詠をからかっている場面があったような記憶が。
「では、御遣い様…皆さんにご紹介したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ。俺も一人の武人だ。董卓軍には猛将が揃っていると聞く。今から楽しみだよ」
「そうですね…私も武を嗜みますから、あなたが嘘をついていないことはその眼の光から気付いていました」
「そうか…じゃあ、俺は君に試されたというわけだな?」
「私とて太守や州牧を経験し、今は相国の地位に在る身です。このくらいの腹芸はやってみせますよ。尤も、あなたの口から
出てきた答えが想像の斜め上すぎてすっかりそんなことは忘れてしまったのですけど…ふふっ、私も負けてしまいました」
そう言って、董卓は柔らかい笑みを浮かべた。
董卓達が普段会合に使っている広間に通された俺達は、将の到着を待っていた。一応、もう羽織は脱いでいるのだが、まあ
当然、董卓と賈駆は俺達の服に興味を持った。あんなことを聞いた後でこういう普通な話ができるのは、度胸が据わっている
証拠だろう。賈駆は落ち着かなそうな態度でまだこちらを警戒していたが、董卓が落ち着いている手前、無闇に事を荒立てる
ようなことはしなかった。さっきいじられたから、っていうのもあるだろうけど…彼女が異性に対して警戒心が強いのはよく
知っているからね。内心では色々と考えているのだろう…一体何を考えているのかは詮索しないでおくけど。
やがて最初にやって来たのは華雄、次に張遼、続いて呂布と陳宮だった。報告の通り、これ以外の将はいないみたいだな。
…兵力約二十万を抱えているのに、これは少なすぎる。ここも人材難だったか…全員優秀な将なのはわかっているんだが…。
「む、お主は徐庶ではないか。いつこちらに来たのだ?」
「お~、灯里やん~!元気しとったか~?」
「灯里殿、お久しぶりなのです!」
「…久しぶり。元気?」
面々は灯里に気付くと、それぞれに声をかける。真名を呼んでいるあたり、灯里はこの面々には真名を許しているのだろう。
華雄の真名は聞いたことが無いし、華雄自身も灯里を真名で呼んではいないので微妙だが…言っておくが、俺は彼女を忘れた
ことはない。皆が忘れていたりしたけど、俺と月はずっと覚えていた。それだけは言っておくぞ?
「ええ。皆も元気そうでなにより。洛陽に来たのはまあ数刻前のこと。それより、月から大切な話があるの。よく聞いて」
笑顔でそう返した灯里だったが、一瞬で真剣な表情になると、董卓に話を振る。董卓は二呼吸ほど置いて話し始めた。
「…皆さん、大変なことになりました。私が皇帝陛下を手中にし、洛陽で酷い悪政を敷いているとの噂が流れてしまいました。
そしてこれを受け、袁紹殿から諸侯に檄文が発せられました…諸侯による連合軍…反董卓連合が結成されてしまったのです」
一瞬の沈黙。そして四人が一斉に憤怒の表情を浮かべる。
「なんですとーっ!?」
「俗物共め…董卓様が何をしたというのだ!」
「袁紹のドアホめ…嫉妬に狂いよったか!」
「…許せない…!」
董卓が言葉を切るか切らないうちに、一斉に怒りを露わにする面々。董卓がよく慕われているのがわかる。
大人数がいるわけでもない広間に喧騒が満ちるが、ややあって董卓がそれを手で制し、話を続ける。
「連合集結まで、まだ一月以上の時間がありますが…こうなってしまった以上、この段階での情報操作は効果をあげられない
ことは明々白々の事実です。そのため、私達は連合を迎え撃つよりほかありません。皆さん、よろしくお願いします」
一斉に頷く面々だったが、そこで陳宮が不思議そうな表情になり、問うてきた。
「そういえば、そこのお二方はどなたなのです?」
「見たこと無い服着とるなぁ。しかも服が光っとるし…」
張遼も興味深そうな様子でこちらを見つめてくる。董卓はやはりまた一呼吸おいてから、話し始めた。
「…この方々が、連合が結成されたというこの危機を知らせに来てくれた方々です。皆さんも一度は耳にしているでしょう?
幽州に降り立った、乱世を鎮めるという『天の御遣い』の噂…このお二方が、かの高名な御遣い様方です」
「なんですとー!?」
「…ねねちゃん、ちょっと落ち着いてね。今焦ってもしょうがないから…御遣い様、お名前をお願いします」
董卓に促されたので、俺達は将の面々に向かって名乗る。
「お初にお目にかかる。俺は北郷一刀。姓が北郷で名が一刀。此度の危難を打開せんと、幽州より馳せ参じた」
「はじめまして。北郷朱里と申します。姓が北郷、名が朱里。皆さんのお力になるため、一刀様と共に参じました」
名乗りを終えると、雰囲気がだんだん落ち着いてくる。そこでまず張遼が近寄ってくる。
「へぇ…あんたらがそうなんやな…けど、見た目はウチらと変わらんなぁ。
お、そうや。あんたらが名乗ったし、ウチも名乗らんとアカンな。ウチは張遼、字は文遠や。よろしゅうな」
「華雄だ。お主らの噂は聞き及んでいる」
「…恋は呂布…字は奉先…よろしく」
「陳宮、字は公台なのです」
…音々音が変な反応をしないのは新しいな。
「けど、平原の劉備んとこにいるっちゅうあんたらが、なんで洛陽におるん?劉備からの使いなんか?」
「そうですね。まずはそこからもう一度ご説明します。董卓さんと賈駆さんには繰り返しになってしまうのですが…」
張遼の疑問に朱里が応じ、これまでの経緯を簡単に説明していく。張遼はそれを黙って聞いていたが、朱里が話し終わると
納得したように頷いた。
「アンタらも災難やったなぁ…劉備も試されたっちゅう意味では災難やろうけど…悪いんは自分やしな」
「…正直、あそこに留まっていても、董卓さんたちを助けようとする場合、名前を捨てて死を偽装しなければならなかったと
思います。というより、劉備さんの視野は狭く、見たままを信じ、自分のやったことに罪悪感を感じない人ですから…例え
私たちが真実を話したところで、彼女は自分の理想に囚われた発言をし、董卓さんをあくまでも悪と断じたでしょう。また、
実際の洛陽を見て、董卓さんを助けたとしても、彼女から何らかの謝意が示されることはなかったと思いますね。自分達は
人を助けられたのだからそれで良い、と。その段階で思考をやめてしまうんです。連合への参戦も、檄文に乗せられ、その
時点で思考を停止してしまっていますから、情報収集をしようともしませんでした。提案はしたのですが…」
「…そんでロクに情報も集めんと、アンタらを旗印に…か。ホンマにお疲れさんやったなぁ」
意図せずして張遼に労われる。しかしそこで、陳宮が激しい疑惑の目を向けてくる。
「ですが!こんな胡散臭いやつら、信用できないのです!」
「…そうね。その通りよ、ねね」
それに賈駆も同調する。やはり、そうくるか…予想通りだな。本音では何が何でも俺達を排除したいだろう。特に俺はね。
先程はある程度受け入れてくれたとは思っていたけど、自分の意見の支持者が出てきたから今になってまた蒸し返すのだろう。
「詠ちゃん!」
「月、やっぱりこいつら怪しすぎるわ。きっと月を良いように利用しようとしてるのよ。『天の御遣い』なんて言ってるけど
胡散臭いったらありゃしない。善政の手伝いなんて誰でもできるわ。実際に見てはいないけど、きっとボクだったらもっと
良い案を思いつく程度のものよ。武の方だって有名ではあるけど、誇張され過ぎてるのよ。『天の御遣いが降り立つ』って
予言を利用しているだけのけがらわしい連中よ。こんな奴らが『天の御遣い』なんて、そんなはずがないわ」
賈駆がそこまで言い切ったところで、灯里が静かに口を開いた。
「詠…あなたは本当に何もわかっていない。理解しようとも思わないのね。悲しい人。最初から決めつけてかかってしまうのは
あなたの悪い癖。軍師がそんな調子では、いつ主君に危害が及ぶか知れないわ。それに、あなたは人としてやってはいけない
ことをやっている。そうやって相手をただ否定して楽しい?そうやって月を守った気になっていて楽しい?随分と歪んだ英雄
願望ね。そんなに月を守っているっていう気分になりたいなら、部屋に篭って妄想でもしていなさい。月はあなたにそうまで
守ってもらわなきゃいけないほど、弱くないわよ。現実は、あなたの思い通りになんかならないわ。そして、そうした現実を
受け入れなければ、本当に守りたいもの、守らなければならないものを失うことになる」
「…でも」
「あなた自身がどう思おうが勝手。それは私も関知しない。でも、人間は見た目だけで理解できるようなものじゃないわよ。
それが理解できていないようでは、あなたは軍師どころか、人間としても失格。陶謙様が頭を下げてまで信じた人なのよ。
それなのにあなたは、陶謙様のみならず公孫賛様、馬騰様の顔にも泥を塗っている…そんなことをしていては、いずれは
あなたが信用を失うわよ。それで何もかも失っていく気?失ってから気付いても、遅いのよ。そこ、ちゃんとわかってる?」
灯里の口調は非常に静かなものだった。だが、その言葉の中には言い表せない程の怒りが込められているように思えた。
しかし、賈駆はどうあっても意見を変えるつもりが無いのか、尚も言い募る。
「…でも、『天の御遣い』っていう虚名を持っていて、もっともらしいことを言っていれば、騙せる人間も多いでしょ。けど、
ボクは騙されないわよ。ボクは他のヤツらとは違う。騙せると思ったら大違いよ。灯里、あんた騙されてるのよ。今からでも
遅くないわ、ボク達のところに来なさい」
「あら、あなたは私が騙されていると思っているわけね?」
「そうよ。そんなやつらなんてほっとけばいいのよ。というか、ほっとかなきゃダメ。良いように利用されるだけよ」
賈駆の言葉は無遠慮に過ぎるものであった。確かに、俺達は上手くやり過ぎた所があるのは認める。それこそ信じがたいほどに。
だから、彼女が不審がるのはわかる。しかし、どうにも感情が先立って実際的な話が一つもないように感じるのは気のせいか?
相手をただ認めたくないという感情が表に出てきてしまっているため、言葉に説得力が感じられない。個人の意見としてはそう
間違ったものでもないのだが、集団の中での意見なので説得力には十分配慮する必要があるだろう。
「…月は?」
ふと、今まで黙って聞いていた呂布が、董卓に話を振る。
「恋さん?」
「…月は、御遣い様の言うこと、信じる?」
それは問いかけだった。そしてそれは二重の意味を持っているのだろう。董卓軍の主としての董卓、そして一人の人間としての
董卓に問いかけているのだ。俺達の言葉を信じるのか、と。その語調は相も変わらず感情が読みにくいものだったが、董卓への
強い信頼が感じられるものであった。
「はい。私は御遣い様を信じます」
「月!?ボクの言葉より、こんな胡散臭い奴らの言葉を信じるわけ!?」
董卓は呂布の質問の意味するところをすぐさま理解したようで、いつもよりはっきりとした声で答えた。
当然、賈駆は裏切られたような表情を浮かべ、それに反論したが、董卓はそんな賈駆を冷たい眼で見やると、静かに問いかけた。
「…じゃあ、御遣い様が仰っていることが嘘だっていう証拠はあるの?」
「うっ…」
「…根拠も示せないのに、こんな重要な場面で私情を持ち出さないで」
董卓の口調は至極落ち着いたものだったが、はっきりとした怒りが感じ取れた。さすがに相国の地位にあるだけあって、感情が
先立つ論をこうした実際的な問題に交えるつもりはないらしい。実際に根拠を示すならまだしも、賈駆の言葉は完全に感情論で
あると董卓は判断したのだろう。一方の俺達は、既に動かぬ証拠を示しているのだから尚更である。
「で、でも!こいつらが連合の間者っていう線も捨てきれないじゃない!それどころか、こいつらが連合を仕組んだ可能性も、
決して考えられない話じゃないのよ!?それに、袁紹や曹操の名前を持ち出せばがぜん真実味を帯びてくる…これは陰謀よ!」
「そう、陰謀だよ、詠ちゃん」
「なら!」
「…でもね、詠ちゃん。私は相国なの。ただの憶測で動くわけにはいかないの。御遣い様はちゃんと証拠を示してくれたから、
私も心を決めることができた。でも、詠ちゃんやねねちゃんのそれは憶測の域を出ない…胡散臭いと言うなら、なんで陶謙様
はじめ三人の州牧…馬騰さんは涼州連合の盟主だけど、どうしてそういった人たちからの信頼を得られるの?」
「う…」
「それは、ちゃんと実績があって、名前が広まったからだよ。名前だけが広まっているわけじゃない。幽州涿郡は御遣い様方の
ご尽力で発展したって公孫賛さんが広めたんだから…。陶謙様は慮植将軍ともお親しいから、涿郡がどうなっているかはよく
ご存じのはずだよ。こんなに多くの人が証明している事なのに、まだ詠ちゃんは御遣い様を疑っているの?」
「そ、それは…!」
「…詠ちゃんは私のことになるとすぐにムキになるけど、それが今、状況を混乱させているだけだってわかってる?」
「うっ…」
董卓の問いに一つも答えられなかった賈駆は、沈黙せざるを得なかった。董卓はこちらに向き直って頭を下げてくる。
「…御遣い様、ごめんなさい…」
「…いや、いいよ。俺達も君と同じなんだ、董卓…良いように利用される、っていう点ではね」
「え…どういうことですか…?」
「…俺達の虚名は、利用価値が高いからさ。曹操と孫策がそうだ…曹操は俺達を自身の覇道の為に取り込もうとし、特に朱里を
狙っている…あの子は男嫌いで、同性愛…女好きだから。俺のことも取り込もうとしたが、引き離す気は満々だったと思うよ」
「覇道…」
「ああ、それについては後で説明する。そして孫策は、今は袁術の客将だが、いずれ独立して国を興そうとするはずだ。そして
後の世までその権威を継続させるため、俺達『天の御遣い』の血を入れようと考え、俺を狙っている…こちらは曹操と逆だ」
「…」
「そういう意味でも、君を放っておくことはできなかったんだよ。乱世の犠牲者にされようとしている君をね」
「…そうでしたか。では、劉備さんも…同じだったのですね」
「結果的にはそうだと断言できる。俺達だって人間だから、そういうのは嫌だった」
「公孫賛殿も私たちの虚名を利用したことに変わりはありませんが…私たちの意志は、尊重してくれました」
こう言っては何だが、俺達の意志を尊重してくれたのは白蓮だけだ。他の面々は利用することしか考えていないのである。
理穏も強く求めてくることはしなかった。桃香は口調は柔らかいが、どうにも「私に協力するべき」という考えが見え隠れして、
結果的に強要しているようにしか聞こえなかったのだ。これまでの外史では、俺には目的もなく、理想も無く、生きていくために
彼女達の許で『天の御遣い』となるより他なかったが…もうこれまでとは違う。
「わかりました。北郷一刀様、北郷朱里様…私はあなた方と結盟いたします」
「ゆ、月!それはだめよ!こいつらを受け入れるにしても、配下にしてこき使ってやらないと!」
「そうなのです!こんなやつら、こき使って使い潰してやるのが良いのです!」
「…詠ちゃん、ねねちゃん。それじゃあ私は、連合を組もうとしている諸侯と同じになっちゃう。お二人は私を助けようと洛陽に
来てくれたんだもの。お二人の意志を無視するわけにはいかないの。詠ちゃんたちが言っていることは、お二人の意志を無下に
してしまって、良いように利用するっていうことになるんだよ?それこそ、詠ちゃんがさんざん言っていた、人を騙すような、
最低な人間っていうことになるよ?」
「うぐ…」
董卓の宣言に即座に反対しようとした賈駆と陳宮だったが、董卓はあくまで穏やかな口調でそれを諌めた。
「…皆さんはどう思われますか?」
そして、董卓は他の面々…つまり武将連中に意見を求めた。
「ええと思うで。ちゃんとお墨付きもあるんや、月の判断は間違っとらん思うよ」
「私も賛成です。こやつらの目、気に入りました」
「…月を助けに来た…信用できる…恋も、賛成。たくさんに抗うって、なかなかできることじゃない…」
武将連中は軒並み賛成のようであった。しかし、それが軍師二人には納得がいかないようだ。
「月!こんなやつら受け入れちゃダメ!利用されるだけよ!お願い、目を覚まして!」
「恋殿ぉ~っ!こんなやつらを信用しちゃいけませんぞ~っ!」
ここまで来るともう単なる意地である。あれだけ否定したのだ、いまさら賛成することもできないという気持ちもわかるが、その
意見が聞き入れられない理由をちゃんとわかっているのだろうか。先ほど董卓が言っていたように、根拠も無しにただ喚いても、
董卓の立場上それだけで動くことはできないというのがそれだが…。
「ドアホ!詠、あんたの主君が受け入れる言うとるんや!アンタも腹を決めんかい!」
「…ちんきゅ、それ以上はダメ」
そこで武将連中と軍師二人の言い争いが始まってしまった。それを呆れたように見ながら、灯里が董卓に話しかける。
「…ねえ月、詠ったら月がこんな地位になってから警戒心が強くなったんじゃない?」
「仰る通りです…詠ちゃんはますます刺々しくなっちゃって…私も何度か諌めたんですけど…」
「あの子、特に男の人への警戒心が強かったわよね。月を良いように…って反対してたのも、半分はそれ由来じゃないかしら?」
「たぶん、そうだと思います…」
「まったく失礼な話よね。一刀さんにはもう朱里がいるのだし、こんなに好ましい男性も他にいないと思うのだけど」
「灯里さんはどちらで彼と?」
「涿よ。彼らは平原を出て来た後、涿に戻っていたの。私はその後に涿に着いたんだけど、そこで会ってね。ついていくなら
この人達だって思って、お願いして今まで一緒に旅をしてきたの。私の他にも何人か旅の仲間がいるのだけど、今は宿屋で
留守番中なの」
「そうだったんですか…」
「結果的にはあなたの誘いを蹴ることになってしまったわね。ごめんなさい」
「いえ、いいんです。それで、そのお仲間さんというのは?」
「それはまた後で説明するわ。ここで説明するとさらにややこしいことになるから。色々と訳ありなのよ、私達」
「はぁ…じゃあ灯里さんだけがここにいらしたのは…」
「そう。あなたとの顔繋ぎ役ってところね」
言い争いは続いているのだが、二人とも少し小声気味に話している。だが、二人の近くに立っている俺達には会話の内容が
はっきりと聞き取れた。確かに灯里に顔繋ぎを頼んではいたが、彼女無しでは交渉はうまくいかなかっただろうな。仮に、
俺達だけで交渉しようとしても突っぱねられるだけだ。主に賈駆に。ここまで交渉を持ってこれたのは灯里のおかげである。
「でも、灯里がいなかったらここまで交渉を持ってくることもできなかったと思うよ。ありがとう」
「そんな、私は何もしていませんよ。さっきのあれも、正直頭に来たので言っただけで」
「そんなことはありませんよ。灯里ちゃんらしい意見でした。軍師らしく冷静でありながら、人間味に溢れていて…」
「よしてよ、朱里。私なんてまだ齢十六の小娘よ?人間味がわかる齢じゃないわよ」
「お話し中申し訳ありませぬ。董卓様、少々手間取りましたが話し合いに決着が付きました」
そんな話をしているうちに、言い争いに決着がついたのか、華雄が声をかけてきた。話し合いというには随分過激だったが…。
「あんた達を試すことにしたわ」
「…試す?」
「せや。軍師連中が政やら軍略やらの分野で、ウチら武将が武力の試験をする。それで結果が出たら受け入れるっちゅうことや」
「不本意だけどね」
「…賈駆、私たち武官は最初から賛成だったのだぞ。これはお主らの我儘に過ぎぬ」
「うるさいのです。それに、こんな胡散臭い奴ら、恋殿が叩き潰してくれるのです!」
「…やるのはいいけど、潰すのは駄目…月が悲しむから」
なんだかんだで纏まったようだが、どうも軍師二人がゴリ押ししたらしい。確かに、実際に能力を見てみたいという気持ちは
あるのだろう。それはわかる。そして、軍師二人の顔からは「これで化けの皮を剥いでやる」と、敵意丸出しの考えがありありと
見て取れた。どうやらこの二人は相当な難関だ…たぶん、試験を通っても認める気はないのだろう。「不本意」という賈駆の言が
それを物語っている。
「…はぁっ…もう詠ちゃん、何を意固地になってるの?」
「ふん。どうせ噂なんて誇張よ。これで化けの皮を剥いでやるわ」
言いやがった。こいつ口に出して言いやがったぞ。それって普通、言うべきじゃないだろう…俺、間違ってないよな?
「(間違ってないと思います)」
「(…灯里…心を読まないでくれ)」
例によって灯里に読まれてしまった。彼女は謙遜するが、旅の経験がそうさせるのだろうか。
「どうするの?受けるの、受けないの?」
賈駆に返事を促される。まあ、ここまで来たら見せてやろうじゃないか。試験?久しぶりに聞いたフレーズだ。
やってやろうじゃないか。あまり俺達をなめてもらっては困る。正直、私情ばかり口にして喚き立てる彼女には頭に来ていた。
前にも言ったと思うが、俺は割と怒りでヒートアップするクチだぜ?俺を本気にさせたこと、後悔させてやろうじゃないか。
「…いいだろう、賈文和。受けて立とう…朱里、君もそれで良いな?」
「はい」
朱里の表情は相変わらず仮面に隠されていて見えなかったが、明らかに怒っている。こうなった朱里は怖いぞ?
―こうして。
俺達は、董卓との結盟のための試験に臨むこととなった。
あとがき(という名の言い訳)
それほど間を開けずにあげられると思いますと言っておきながら別にそんなことはなかったぜ。
Jack Tlamです。
今回は陶謙の頼みと洛陽での月との再会、そして…皆さんにはもうお分かり頂けるでしょう。
詠ってこんな面倒くさい子だったかな、なんて思ったりもしますけど…私の印象はこうでしたので。
仲間入りしてからはなんだかんだで一刀を慕っているいい子でしたけど、たぶんこうやって一刀の方からやってきたら
こういう態度をとったのではないかと。
一刀達が上手くやり過ぎたのは認めざるを得ませんが、ここまでしないと対処が難しくなるので…。
陶謙様の言動は修正力の残滓の影響もありますが、それなりの理由を付けることにしました。
慮植はもう将軍職に復帰している設定ですが、今はまだ幽州にいます。そして陶謙とは友人という設定にしました。
詠の言葉は完璧な言いがかりです。皆さんはどう思われるでしょうか。
でもこれで詠が素直に受け入れるのも違うだろうな、と思いまして…どうしてこうなったorz
武官連中の方が遥かに頭が柔らかいようですね。
それと、董卓軍にオリキャラの追加はしませんでした。まだ出てきてませんが、陛下がおられるので…。
次回はその試験の模様をお送りしますが、政治・軍略分野の試験は軽く流す程度にします。
つまり、戦闘回にします。
ではでは。
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二話分くらいを一話にまとめてしまいました。
詠ちゃん押しの人にはちょっと申し訳ないことに…。