No.638096

BADO〜風雲騎士〜羅々

i-pod男さん

今回はララ視点のお話です。

2013-11-19 03:30:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:568   閲覧ユーザー数:568

「♪〜〜」

 

ララは魔導筆を構え、踊り子の様にクルクルと回りながら演武をしていた。筆を振るうその都度、空中に鮮やかな色彩の文字や光が現れては消えて行く。その中心にいるララはまるで御伽話の舞台となる幻想世界に住まう妖精の様に見える。

 

「んっ。」

 

最後に力強く踏み込んで筆を斜め上に突き上げると、筆先から眩い光が閃き、白、水色、そして金色の花弁の様な物を吹き出した。その花弁は暫くの間宙に舞っていたが、地面に落ちると、蜃気楼の様に揺らいで消えた。

 

「凪〜。」

 

「こやつならまだ『死んだまま』だ。我の一ヶ月分の命は、凪の一日分の命に相当する。後数時間もすれば起きるだろう。」

 

「ん、分かった。」

 

二人(?)の間に再び沈黙が訪れたが、相変わらず凪の左腕に巻き付いたゲルバが口火を切った。

 

「時にララよ、我は一つ問いたい。」

 

「ん?」

 

「今でも凪を好いておるのか?」

 

ララは何も言わず、頬をほんのり赤く染めて俯くと、微笑を浮かべて一度だけ小さく頷いた。

 

「ふむ。凪が命を賭けてホラーからお前を守ったあの日からか。」

 

「ん。凪、強い。でも、優しい。お爺ちゃんが死んだ日、ずっと側、いてくれた。凪、言ってた。『強くなる。だから俺は泣かない』。凪、本当に泣かなかった。好きになったの、その時。ホラーに食べられそうになった時、守ってくれた。もっと、好きになった。」

 

でも、とララの表情が曇る。

 

「十六歳。凪、お父さん殺された。お母さん、悲しむ。ホラーになって、凪、お母さん殺した。今の凪、優しさ、全然見えない。今の凪、心、体も、全部冷たい。」

 

そう言いながら、ポロポロと涙をこぼすララ。目尻から顎に滑って行き、滴り落ちる涙はカーテンから差し込む陽光で光り、落ちて弾けた。ベッドで横たわる凪のひんやりした手をララは自分の両手で包んだ。凪を見る彼女の目は、病床に臥した人間を心配する者のそれだった。彼の手の大きさはララと殆ど変わらない。その柔らかな手はとてもではないが、剣を握る様な手とは思えない程指は細く、華奢に見えた。だが、見た目とは裏腹に、彼のその手は何人もの造反した騎士や法師、そして幾多のホラーを葬って来た手だ。

 

「ララ、凪暖める。また凪の笑顔、見る。見たい。見るまで、ララ、凪とずっと一緒。」

 

凪の隣に座り、凪の頬にほんの一瞬だけ自分の唇を付けて直ぐに離れた。

 

「凪が今まで経験した事を鑑みれば、誰でもそうなる。旋風もよう言っておった。甘えと優しさを一時とは言え捨てなければ、手が止まる、手元が狂ってしまう、とな。波怒は、何故『風雲騎士』なのか、と思った事はあるか?」

 

「ん、ある。でも意味、騎士しか知らない。法師、教えてもらえない。」

 

不貞腐れ、膨れっ面でララはそう答えた。むくれたまま指先で凪の頬を何度か突く。

 

「減る物でもないのに渋る輩もおるのだ。まあ、特別に我が教えてやろう。風とはどこにでも吹き、雲はどこにでも在る。風雲騎士とは、風の如く素早くどこにでも駆けつけ、雲の如く蒼天から全てを見下ろす、天空を司りし騎士だからだ。故に、風雲騎士波怒。遥か昔は『天空の監視者』とも呼ばれていた。」

 

成る程とララは頷く。

 

「ゲルバ、ありがと。後で、これで磨く。」

 

クリスタルガラスの達磨瓶を取り出して振った。中には透き通った無色の液体が入っているが、振る度に微かな青白い光を放つ。それを見たゲルバは感嘆の息を漏らした。

 

「おお・・・・魔導水か・・・・!!」

 

「結界、張る。ゲート、浄化。」

 

「うむ。留守は任せろ。結界の強化は我がやろう。」

 

ララはもう一度だけしっかりと凪の手を握り締め、名残惜しそうに未だに横たわる凪を一瞥したが、意を決して部屋を出た。街に出たララは、懐から羅針盤を取り出した。注意深く水を張って小さく筆を振ると、そこから浮かび上がった光の指針が指し示す方向に足を向ける。この間、彼女は四六時中鼻歌を歌っていた。

 

「♪♪〜〜」

 

そして、辿り着いたのは街の外れにある古い洋館だった。敷地内のあちこちに投棄された空き缶や箱、ゴミ袋が散乱していた。それを囲う煉瓦作りの壁はまるで寄生でもされたかの様に蔦に覆われ、建物も時と共に老朽していた。屋根は崩れ、窓ガラスは抜け落ち、扉も蝶番が馬鹿になっている所為で正面玄関の扉が大きく開いている。数メートル以上の高さがある鉄製の正門は堅く閉ざされ、鎖と南京錠で開かない様にしてある。もっとも、門も、鎖も、錠も、錆び付いている所為でたとえ鍵があっても開くかどうか怪しい所はあるが。

 

「む〜〜・・・・といやっ。」

 

門が開かないと分かるや、数秒は門と睨めっこをしていたが、助走をつけると、可愛らしいかけ声で飛び上がり、門を飛び越えた。

 

「♪〜〜」

 

鼻歌を歌いながら右手に魔導筆、左手には魔戒銃を持って中を捜索し、オブジェを次々と浄化して行く。だが、気配を感じたララは咄嗟に振り向いて魔戒銃を構えた。

 

「おいおい、やめろって。そんな物騒なモンこっちに向けんな、全く。」

 

「・・・・・魔戒騎士・・・・?」

 

「ああ、そうだ。 俺様の名前は立神獅子緒、獣身騎士戯牙だ。よろしく。」

 

「覚えてる。私、ララ。凪、怪我。原因作った。」

 

敵ではないと分かったララはゆっくりと魔導筆と魔戒銃を下ろしたが、獅子緒の姿を見るや否や、口元に浮かぶ笑みはたちまちなりを潜めた。

 

「何よ、それ!?まるであたし達が喧嘩吹っかけたみたいじゃない!あの雲平凪があたしたちを目の敵にして道場に連れ出したんでしょ?!それとも何?心滅獣身に最も近い家系だから、みたいな下らない事を言いたい訳?!」

 

ララの表情は益々険しい物に豹変して行くのを見て旗色悪しと見た獅子緒は、ルルバがそれ以上言う前に獅子緒が仲裁した。

 

「ルルバ、やめろ。彼女も他意があった訳じゃない。ちょっと黙っててくれ。」

 

ララの冷たい表情を見て獅子緒は金髪をボリボリとかいてバツが悪そうにする。

 

「あー・・・・・雲平凪の事に関しては悪かった。素直に謝る。俺も一度ああなると自分でも歯止めが利かなくてなあ。悪癖が染み付いちまったんだ、すまん。にしても、ララちゃん、だっけ?すげえな、あれだけのオブジェの陰我を浄化しておいて息一つ乱さないなんてよぉ。並大抵の法師じゃ出来ねえぜ?やっぱ子は親に似るんだなぁ。」

 

親と言う単語に反応したララは獅子緒に背中を向けた。

 

「あ、悪い・・・・いらん事言っちまって・・・・」

 

獅子緒は再度墓穴を掘った自分の不注意さを呪った。

 

「良い。でも凪、傷つける、駄目。次、ララ許さない。」

 

ララはそう言い残すと、魔導筆の先から花弁にも見える光を放った。その花弁はララの周りを何度も回り、やがてララの姿を完全に覆い隠した。そして次の瞬間、花弁は目映い閃光を放ち、ララの姿と共に洋館の中から姿を掻き消していた。

 

「あいつ、やるな。あの術、多分独学だ。」

 

「何か変な奴ね。」

 

「そう言うな。ルルバ、毎度毎度言うが、一々俺に突っかかる奴の相手をするのやめてくれねえか?お前が喋ると火に油どころか石油と火薬をぶち込んで状況が更に更に悪い方向に進む気がするんだ。」

 

「だって・・・・・悔しくないの?あんな風に言われてさ。」

 

「別に。相手がそう思うならそう思わせておけば良い。俺は俺だ。はーあ、仕事もララちゃんに取られちまったから、他の所探すか。」

 


 
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