白々と夜が明け始めた。デジタルの腕時計の時刻は午前四時二十二分を指していた。右腰にはサイレンサー付きのUSP、左足には緊急用のコルト・ディテクティブ、後はスリングを付けたサブマシンガンMP5。
「OK、行くか。」
隠していた黒いバッグの中から自前の銃を全て取り出した。
「会いたかったぜ。」
ピストルグリップを装着して携行性の向上を図ったモスバーグM590A1の先にシースを付けた銃剣ナイフを装着し、銃身の下にある延長したチューブマガジンにショットシェルを押し込んだ。狩猟でも使うダブルオーバックは対人でも有効打を与える事が出来る。大型動物でない限り、一撃で殺せる。射程距離もライフルには劣るが、面での攻撃は銃の中ではトップクラス。後は側面とスリングベルトに付けたシェルホルダーに弾を押し込み、準備完了。
次に分解されていたシグザウエルP226 X6 LWを組み立て、紙箱に入った9ミリ弾を三本あるマガジンに押し込み、弾を装填。装着したタクティカルレッグホルスターに差し込んだ。オートマチックの拳銃はやはり大容量に限る。ベレッタはコルトM1911を破った米軍で正式採用されているサイドアームだが、どうも俺にはしっくり来ない。
更に四インチモデルの357マグナム、S&W M627を腰背面のホルスターに入れる。俺にとって一番抜き取り易いナインオクロックのポジションに差し込んである。シリンダーは右側にスイングアウトする最近では珍しい左利き用のオーダーメイドだ。俺は両利きだから、万が一右腕が駄目になっても全く反撃出来ないと言う訳ではない。最後はハーフセレーションがついたアーミーナイフ、そしてブーツの中にはEspadaXLと言う大振りのフォールディングナイフを押し込んで準備は完了だ。
「・・・・・重い。」
だが、拳銃四丁、ライフル一丁、そしてショットガン一丁の計六丁は流石に重過ぎる。加えて予備の弾も持たなきゃならないから尚更だ。MP5は小室達の誰かに・・・・平野にでも渡すか。流石にAR-10だけじゃマズイ。あれは中距離から遠距離用のライフルだ。MP5の方が取り回しが利く。
「随分と『荷物』が多いな。それ全部持つつもりか?」
「田島、こいつを平野に渡してやってくれ。」
皮肉をスルーしてMP5とマガジンをベストから抜き取って渡した。
「了解。」
「使うルートはどうだ?確保出来たか?」
「一応な。婦警の中岡と平野君が屋上からずっと地図や路上と睨めっこしてくれたお陰で使えるルートの目星が幾つかついた。皆もそろそろ起き始めている。リカはありすちゃんやジーク、後先生と一緒にトラックの方に向かった。二階から下りる非常口の前に転がして来るらしい。ハンヴィーは何度か試したんだが、やっぱり駄目だった。銅の三重被覆でもEMPには耐えられなかったらしい。非戦闘員以外は全員チャリで移動するってよ。」
「そうか。いや、待てよ・・・・あのガキも一緒に来るってのか?」
「ああ。それがどうかしたか?」
どうかしたかじゃねえよ!何真顔で連れて行く気満々って顔してるんだ、お前は?!
「あいつを同行させて何になる?」
小学生のガキを一緒に連れ回しても何も意味をなさない。直接的な役目は何も果たしていないし、果たせない。今精々出来るのはジークの遊び相手とグループに癒しのマイナスイオンを振り撒く位だろう。
「それは重々承知している。何度も言い聞かせたんだが、彼女は自衛隊の救助をここで待つ事に猛反対している。遂には泣き出す一歩手前だったんで、俺が折れちまった。本人が言っても聞かないんだ、仕方無いだろう?」
再び反論しようとした俺を遮り、田島は更に続けた。
「それに、両親を失った今、曲がりなりにも小室達は彼女の家族だ。一度家族と永遠に引き離されてしまったんだぞ?また同じ様に家族と引き離されたら、彼女は精神的に壊れてしまう。俺はそんな事をしたくない。」
完全に論破された俺は二の句が出ない。開きかけた口も引き結んで黙り込んだ。
「・・・・好きにすれば良い。ま、お前は元々子供好きだからな。面倒を見たきゃ勝手にしろ。俺は関知しない。一応聞くが、あいつが噛まれたら、お前責任取れるんだろうな?」
「・・・・・その時が来ればな。」
俺の言わんとする事を理解した田島は暫く黙っていたが、ぼそりとそう返事を返した。どうだかな。俺は少年兵を何人も殺して生き延びて来た経験があるが、田島は違う。俺は頭に手をやってガシガシと乱暴に頭を掻く。
「大丈夫かお前?どこかに頭ぶつけたか?それともあのバーボン飲み過ぎてまだ酔ってるのか?」
お返しとばかりに皮肉を言う田島。だが、どっちも違う。俺は二日酔いはしても、あの程度の量じゃ絶対酔わない。それに、頭をぶつけた程度でおかしくなる様な頭は持ってない。俺は精神的な年齢は五十二だが、肉体的にはその半分だ。今までの経験から俺は色んな受傷行為に『馴れた』。シェルショックからも立ち直りは早い。
俺は、『飢えて』いるのだ。体が疼く程に。昨晩はリカや静香と結構激しく絡み合ったからソッチは全く問題無い。俺が飢えているのは、闘争、戦い。明確な敵意を持って俺を殺そうとする『敵』に飢えているのだ。敵が、欲しい。スリルが、欲しい。戦場が、欲しい。それも、股座が熱り立つ様な熾烈を極める様な!!そして、その状況で、もぎ取れる勝利が欲しい!!!
リボルバーと同じレンコン型の薬室を持つダネルMGLのシリンダーに四十ミリグレネード弾を六発装填した。
「グレネードの方が銃弾より手に入り難い。自衛隊にでも行かない限り手に入らないだろうからな。先にコイツで固まってる<奴ら>を全員纏めて吹き飛ばす。フフフフフ・・・・・・フハハハハハハハ!」
田島は俺の豹変振りに引き笑いを浮かべて、本当に二、三歩後ずさった。さてと・・・・・おっ始めるとするか。
「田島。小室達を集めろ。<奴ら>が人海戦術で来ようが所詮は数百体。徹底的な面での攻撃を食らえば吹き飛ぶ。個体での能力は低いからな。」
「それは別に構わないが、お前が先頭に行くのは難しいぞ。MGLは片手で撃てる様な代物じゃないだろうが。特にチャリだったら」
「俺が何時チャリに乗ると言った?俺が使うのは、コイツだよ。」
小室達がチャリを見つけたスポーツショップは一輪車やスケボーが陳列していた。その中から俺が選んだのは、普通のどこにでもあるスケートボードとスケートボードの亜種であるキャスターボードだ。普通のボードとは違い車輪は二つしかなく、板が前後二枚に分かれてトーションバーで連結させた不思議な形をしている。板が二枚あるから前輪と後輪を左右の足で独立した操舵が可能になる。乗り始めは難しいが、馴れて走らせれば中々楽しい。それにスケボーとは違って小回りが利くから更に動き易くなるから、うってつけだ。久し振りだから勘が鈍っているかもしれんが、まあ何とかなるだろう。
「よっ、とっ、ほっ!」
キャスターボードに足を乗せ、押し出した。初めの撃ちは何度か壁やショーウィンドーに激突しそうになったが、数分してから勘が戻って来てテーブルや椅子の間を自在にすり抜けて行った。
「よしと。」
やはり銃と弾薬の重量がある所為か、少しコントロールに難がある。
「お、来たな。」
自転車を押して来る小室達を見て、俺は満足げに頷いた。全員それぞれ武装してる。覚悟を決めた様だ。
「準備は出来たみたいだな。じゃあ、派手にやろうぜ。」
MGLのセーフティーを外し、トリガーガードにかけていた指を引き金にかけた。
「お前らは先に出ろ、俺はこいつで屋根から<奴ら>を迎撃する。」
「滝沢さん・・・・?」
俺の言っている事が理解出来ないのか、眉根を寄せる小室。俺は鼻から大きく息を吸うと、一気にこう捲し立てた。
「小室、全員連れてここから離れろ。全速力でだ。グレネードの爆発で<奴ら>を出来るだけ殲滅して、音で<奴ら>をお前らから引き離す。」
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オリ主クレイジータイム一歩手前に突入します。ショッピングモール脱出はもうすぐそこです。
ではどうぞ。