「リカ、係長から連絡が来た。グリーンライト。とりあえず今は滑走路付近の奴らを全員片付けろ。飛ばせる飛行機は全部飛ばせる様にするぞ。」
『OK、分かったわ。狙撃班、警備車両の上から「アレ」を狙撃するわよ。ほら、グズグズしない!観測手も持つ物持ったらさっさと動く!』
インカムに慌ただしく動く人間の声が幾つか聞こえる。流石南隊長、肝が据わってらっしゃる。俺は警備車両から空港内に戻ると、再びインカムに話しかけた。
「俺が着くまで待っていろ。制圧二班、空港内の一般人の気を落ち着けろ。ここでパニックになって空港の外に飛び出されては面倒事が更に増えてしまう。一班は非常口以外の出入り口を全てバリケードで封鎖しろ。それが終わったら一般人の捜索、発見したらゲートへと誘導だ。」
『副隊長、でももし感染者がそこにいた場合は・・・・?』
俺は少し間を置いてそれに答えた。
「撃ち殺せ。俺が見た所ソイツらは話し合いが通じる様な輩じゃない。後何匹感染者がいるか分からないから、確実に全員一撃で始末しろ。ジャック事件や立て篭り、テロ事件と何も変わらない。」
『し、しかし!』
「 気が進まないのは分かる。だが、俺も制圧班のリーダーとして、部下や同僚は健常者のままでいて欲しい。敵意を剥き出して殺されると直感したら、引き金を引け。これは命令だ。二度は言わんぞ。」
一班と合流すると、チェックインカウンターへ続くメインエントランスへと降りた。椅子や巨大な鉢植えを自動ドア前に移動させ、ドアを開かない様にモップなどの掃除用具を支え棒にする。少し探したが逃げ遅れてその場に取り残された人間はいない。
『二班、交替だ。地上から通れる様なデカい出入り口は全て塞げ。方法は問わない。こちらが到着次第直ぐに行動しろ。』
既に外から銃声が聞こえ始めている。その所為でガラスがビリビリと震えた。それを怖がって叫んだり泣き始めたりする女子供が出る。それを全員で宥めて気を落ち着けるのは大変だ。俺はヘルメットとマスクを外して蒸れた頭を外気に晒した。
『こちら狙撃班の田島。滑走路付近の感染者を撃破。鳥は飛び立ったよ。』
確かに航空機が丁度離陸して空の彼方へと吸い込まれる様に姿を消して行く様が見えた。あれで最後だな。まあ、どの空港が安全かなんて分からないだろうし。中に感染者が一人もいない事を祈ろう。もしいたら、全員どっちみち終わりだ。
「お疲れー。あーそうそう、今こっちにどれぐらい武器持って来てるんだっけ?」
『一小隊全員に行き渡る分がある。何で?』
「必要になるかもしれないから。仮に、仮にだ。これが世界規模で起こっている出来事だとして、海上自衛隊がここに到着するまで何日掛かるか分からない。だから、その間ここに篭城するのに必要な物、特に火器・弾薬・その他の支援物資が。後、念の為に手錠とかもな。」
『何故?』
「お前人間がこんなB級映画のシナリオが現実だと簡単に受け入れると本当に思ってるのか?んな訳無いだろうが。もし一般人が暴動を起こしたらどうなる?俺達が止めなきゃいけない。たとえ最後の手段でソイツらを撃ち殺す事になっても。」
『いや、流石にそこまでの事には』
「ならないと言い切れるか?」
田島の言葉をぶった切った。
「良いか、警視庁や警察庁は市民に媚びるべき存在では無い。幾ら公僕とは言え、前代未聞で前例が無い状況にぶちあたった時、こっちとしちゃ応急の対応しか出来ない。それも全力で取り組んでいるのにも拘らず無能だなんだと非難されるのは極めて心外だ。自分達は役に立つ事なんか何一つ出来ないししようともしない。」
『・・・・圭吾の言う通りね、今回ばかりは。田島、いざという時は腹、括りなさい。』
『了解・・・・・』
「心配すんな。俺達なら生き残れる。」
『こちら二班。非常口以外の出入り口を全て封鎖完了。捜索しましたが、逃げ遅れた市民はいません。直ちに帰還します。』
「おう。お疲れ。」
『圭吾。』
「ん?」
『あたし、ここでの仕事が終わったら街に出るわ。』
「静香を探しにか?言うだろうと思ったぜ。俺も行く。お前一人じゃ頭に血が上った男共に捕まったら最後、何されるか分かったもんじゃ無いからな。文句は言わせねえぞ?」
『分かってる。』
無線を通じて伝わっている。彼女の、リカの苛立ちが。隠そうとはしているが、分かる。今直ぐにでもここを飛び出して彼女を助け出しに行きたいと言うのが本心だろう。かく言う俺も正にそう思っている。だが、部下を残して行けない。第一小隊のリーダーとその片腕がいなくなったらそれこそ収拾がつかなくなる。苛立ち紛れに柱の一つを蹴った。ブーツの爪先が命中し、小さくへこんだ。
「クソッタレが・・・・・何がどうなっちまったんだよ?」
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そのまんまです。IF物です。多少現実では普通無いだろうと思う所が少しあるかもしれませんが、そこら辺はスルーして頂ければ助かります。