マズい・・・・あいつがパニクり始めて彼女の言葉が全員に聞こえてしまった。もし全員が暴挙を起こしてしまえばそれこそ取り返しがつかなくなる。この中の誰かは間違い無くPTSDになる。
「お前ら、あさみを抑えろ。必要なら気絶させても構わない。今のあいつは精神的に危険な状態にある。これ以上不必要に喚かれては大変だ。」
コータが止めようとしたが、彼の手を振り払ってあさみは屋上に続く階段を駆け上がった。先程の叫び声を聞きつけて先にここに辿り着いた奴らも騒がしくなり始めている。警察が当てにならない事と、誰も助けに来る事が無いと分かった今、勝手な行動を起こす筈だ。
「孝、荷物を全部集めて皆と逃げる準備をしろ。着替えとかもな。」
「分かりました。」
「コータ。俺と来い。 お前の女だろ?連れ戻しに行くぞ。」
「え?でも・・・・」
「あいつが死んだら、お前がPTSDになって、俺達の内の誰かがくたばる、なんてふざけたシナリオを作りたくないんでね。嫌でも引っ張ってくぞ。」
「行けよ、平野。後悔したくないんだろ?だったら後腐れの無い様にして来いよ。皆も、別に良いだろ?」
孝もコータの肩をポンポン叩いて後押しする。息を切らしながらもしっかりと俺の後ろに張り付いているのは、男のプライドによる執念なのだろう。
隠す前に確認したが、7.62mm弾は百五十発弱、ショットガンの弾は俺と孝の手持ちの合計で百発弱。グレネードランチャーも二十発を切った。ハンドガンの弾はコータのP2000と俺のシグ、そしてFMG-9。勿体無いがあれは捨てるか。あれも九ミリ弾を使う。となると、合計は百三十発前後。バイクに積んである武器はまだ手付かずだが、あれは最後まで取っておいた方が良い様な気がする。
「馬鹿共が。」
相変わらずいがみ合う奴らを他所に、俺は階段を上りながら脱出方法を考えた。ここはやはり近距離で<奴ら>を突破して行くしか無い。孝はバット、冴子は刀、俺にはあの剣、麗はスーパーマッチの銃剣。コータと沙耶、静香は俺達がカバーするしかないな。コータは俺達と違って弾が無いと戦えない。屋上のドアを蹴り開けると、欄干の前に腰を下ろして体育座りをしているあさみがいた。老夫婦が彼女を慰めている。
「おい。何時まで自己嫌悪に陥ってるつもりだ。」
「でも・・・・自分は何も」
「お前はコータを支えると言う大事な役目があるだろ。お前に死なれたら、俺がいるチームの中の誰かが、もしくは全員が死んでしまう。もしお前が死んだら、お前に責任を取らせる事が出来なくなるからな。そう簡単には死なせねえぞ?堂々としろとは言わない。お前がやってもちっとも怖かないし。」
「あさみさん。僕達と一緒に来てください!」
警察官と言う立ち場はもう意味は無いが、仮に麗の両親と合流する事が出来れば何かしらの益は出る筈だ。あさみはぽろぽろと涙をこぼしていたが、袖で拭い去るとコータに抱きついた。決まったな。
「僕を嘗めるな!」
あの声は・・・・避難していたガキの一人か。
「何かあったみたいです。行きましょう。」
コータがあさみと一緒に下りて行った。老夫婦は笑顔を貼り付けたまま俺の方を見やる。
「ありがとうございます。皆さんのお陰で、もう少しだけ長く生きる事が出来ました。」
老婆の方が深々と頭を下げる。
「いや、俺も惚れた女に頼まれたら流石に断り辛くてな。あんたら、これから死ぬつもりだろ?」
二人は顔を見合わせると、ゆっくりと小さく頷いた。
「もう充分長生きしましたし、こんな世界じゃ私達みたいな年寄りは生きては行けないよ。あの娘みたいな孫が欲しいな。」
老人は長年寄り添って生きて来た老婆に語りかけた。
「そうか。俺は神の存在は信じないが、来世があると言う事は信じている。願わくば、そこでもっと安全な人生を送ってくれ。」
軽く頭を下げると、俺も階段を下りてコータとあさみの後を追った。だが、この時俺は気付かなかった。俺の、俺達の、初めての『ハズレ』が目前に迫っている事を・・・・・
俺が下りて来た頃には、既に<奴ら>が一階に侵入していた。恐らく頭に血が上った一人が遂にキレて、パニクった末に塞がれていない非常口を開けたんだろう。
「糞・・・・・どこのどいつだ、非常口を開けたのは?あの中に放り込んでやる。」
冷静に対応出来ているヒロとその他の何人かは家具を階段の前に積み始めたが、到底時間も人手も足りない。今回ばかりは後手に回ってしまった。計画は都合良く行くとは限らないのが世の常だが、鬱陶しい事この上無い。静香達は既に出る準備が出来ているらしい。
「準備は出来た様だな。ん・・・・?沙耶、お前ソイツをどこで手に入れた?」
彼女が持っていたのはスネイルマガジンとストックが付いたルガーP08だった。
「ああ、これ?ウチを出る前にママがこっそり渡してくれたのよ。」
今の今まで隠してたのは扱えない事がバレて恥をかきたくないからか。ま、コータに教えさせれば良いな。
「脱出する方法はあるのか?」
「二階から一階に続く非常口があるわ。」
「先生、高い所苦手なんだけど・・・・」
沙耶の言葉に静香の顔が青くなる。
「そんな事を気にしてる場合じゃないですよ!」
あさみが静香を嗜めた。確かにな。
「うし、孝。麗と一緒に先に切り込め。後衛は俺がやる。コータ、孝が許可を出すか、本当に撃つ必要があるまでは絶対に撃つな。沙耶も。冴子とあさみは静香をカバー。車に辿り着くまでの辛抱だ。」
「ま、待てよ!」
男の一人が走り寄って来た。
「俺達はどうなる?俺達はどうすれば」
「それは自分で考える事です。もうここは終わりです。これから先、どうするべきかは、自分で決めて下さい。あさみは決めました。警察官は、もうやめます。」
ほう、まさか屋上で泣いていた意気地無しがここまで成長するとはな。コータ、大事にしてやれよ?
「やっぱり、行くんだな。」
「ああ。お前はどうする?包んだったら別に構わないが、自分の面倒は自分で見ろよ?」
「・・・・・いや、良い。俺はここに残って頑張ってみるよ。あんな怖い真似、一度で十分だ。」
暫くは黙っていたヒロが頭を横に振って同行を拒否した。
「そうか。コータ。」
「はい?」
「それ、渡してやれ。」
顎をしゃくってH&K P2000を指し示した。コータは逡巡していたが、渡すに忍びないハンドガンを彼に渡した。まあ良いや、後で機嫌を直す為にFMG-9を渡してやろう。予備のマガジンは持ってるだろうし、俺もFMGの弾があるから、まあまだ困りはしない筈だ。
「良いのか?」
ヒロが投げ渡された銃と俺を見比べた。まあ、いきなり銃を渡されたら困惑もするな。
「良いさ。ただし使い所には気をつけろよ?奴らは音で寄って来る。」
「急いだ方が良い。時間が、」
冴子は抜刀し、積み上げた家具に辿り着いた<奴ら>の一人の頭を貫き、骸を階段の下に蹴り落とした。
「無いぞ!」
「だな。」
「皆、行くぞ!」
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とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!
チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。