「荒城の月」
あの衝撃の汜水関攻めから、すぐに連合全体の軍議が行われた。
袁紹は劉備に詰め寄って、あの出来事を問い詰めていたが、当の劉備は朗らかに自分の仲間の事を誇っていた。
他の諸侯も興味の無いふりをしながらも、これまで、名も知らなかった劉備を警戒している様がありありと見える。
そして、劉備への尋問を終わらせた袁紹は、次の虎牢関は誰が攻めるかという議題を出すが、ここで華琳が手を上げる。
訝しそうに、それを見る袁紹であったが、華琳の口車にまんまと乗って、虎牢関攻めの指揮権を華琳に任せる。
制圧した砦への一番乗りを約束された袁紹はご機嫌で高笑いすると軍議は解散となったのであった。
「予定通り、虎牢関攻略の指揮権は引き受けて来たけど、これで良いのね、桂花?」
「はい、ここで、呂布と張遼を破れば、華琳様の名声は一気に高まるでしょう」
そう華琳が軍議でわざわざ指揮権を譲り受けるために、袁紹を口車に掛けたのはこのためであった。
董卓軍で最強と言われるこの二人を華琳の軍が打ち取ったとなれば、その名声は鰻登り間違いなしである。
「でも、呂布に張遼ね・・・欲しいわね。その二人・・・」
「また、華琳様の悪い癖が・・・」
華琳の言葉に頭を抱える春蘭、何を隠そう華琳は重度の人材コレクターなのである。
自分の眼鏡に叶う、有能な人物は如何なる手を使っても手に入れようとする。
春蘭の心配は、また別の事なのだが、今回ばかりはあまりにも無謀な願いであった。
「華琳様、今回ばかりはお控えください。張遼はまだしも、呂布の武は人知を超えています」
「なんだ? そんなに強いのか?」
「確かにあの謁見の時に見た呂布は只ならぬものを感じたが・・・」
「人知って・・・まさか鬼島津くらい強いのか?」
戦国の三将が呂布の強さに興味を引かれたようである。
口々に呂布の強さはどの程度のものなのかを問い詰める。
「用兵はともかく、個人の武では桁が外れていると聞く。流石に砦を一撃で沈める程では無いが・・・。それでも、中央に現れた黄巾党の半分である、約三万が呂布一人によって倒されたと言う話だ」
「ほお、中々のモンだな・・・」
「なるほど、三国最強の名も頷ける」
「全くだ、血が騒いできやがった!」
呂布の強さを確認した三人は不敵な笑みを浮かべる。
血の気の多い者たちだと呆れつつも秋蘭は華琳への諌言を続ける。
「もし、どうしても呂布をご所望ならば、少なくとも、私に姉者、それから季衣と流琉辺りはいなくなるものとお考えください」
「随分と弱気ね?」
「秋蘭共々、それほどの相手と自認しております。呂布相手にまともに打ち合える者など、この世界の者にはいないでしょうね」
「ならば、政宗たちならば可能でしょう?」
夏候姉妹から、政宗たちに視線を移す華琳。
「Ah? そりゃ出来るだろうが、このレベルの相手だと俺らも死にはしないまでも何かしらの怪我は確実にするぞ?」
「政宗様の言う通りだな、少なくとも呂布は俺らの世界でも十分にやっていける程度の力は持ってるようだし、流石に無傷じゃ済まないだろう・・・」
「まぁ、俺らに怪我させてまでも欲しい奴ってなら、なんとかしてやるがな・・・」
三人は冷静に戦力を分析した結果を華琳に伝える。
「・・・分かったわ。・・・呂布は諦めましょう。でも張遼だけならどうかしら?」
「張遼の強みは、個人の武よりも用兵にあります。兵を奪い取った上で捕えろと言うのなら、兵は、桂花か片倉が。張遼本人は姉者か長曾我部辺りがなんとかしてくれましょう」
「お任せください!」
「ここは、軍師様に任せるぜ・・・」
「わ、私か!? また無茶な・・・」
「なんだ、春蘭? って事は、張遼は俺が相手して良いんだな?」
名前を上げられた四人であったが、小十郎と春蘭が降りて、結局、桂花と元親が張遼を捕獲する事になった。
「それでは、張遼は桂花と元親に任せるわ。見事、捕えて見せなさい」
「お任せを!」
「大漁旗の準備をして置きなよ!」
やっぱり自分がやれば良かったと春蘭がぐずるが、決まったものは仕方がないと諌められる。
最後に桂花より、作戦が伝えられ、曹操軍が虎牢関攻略に向け、動き出すのであった。
「おー来た来た! 来た来た。・・・・来た・・・っつーか、どんだけ来るねん!来過ぎやろ!」
「なんと・・・・」
「華雄・・・言うてた数と全然ちゃうやんか!」
「す、すまない・・・。あの時はあまりの事で気が動転していて・・・」
「これでは作戦も立て直しなのです! 軍師のねねの事も考えて欲しいのです!」
虎牢関の砦の上では、なんとか汜水関から脱出した華雄と張遼、それに呂布と軍師の陳宮が何やら口論になっていた。
どうやら華雄の報告した敵数が誤っていたようだ。
軍師の陳宮は作戦が台無しになって、お冠のようで、華雄を攻めたてていた。
「ぐぬぬ、兵の確認をしてくる!」
「悪い奴や無いねんけどなぁ。ねねもちょっと言い過ぎやで」
口論に負けた華雄は兵を確認すると去っていった。
残った三人はこの状況をどうするかを話し合う。
「で、恋。なんとかなりそうか?」
「・・・・なんとかする」
「せやねぇ・・・。何とかせんと、月も賈駆っちも守れんか・・・。それにあんたの王国もな」
張遼の言葉に言葉こそ発しないものの、地から強い頷きで返す呂布。
それを満足気に見た後、敵の布陣を確認して、籠城戦に持ち込もうとしていた張遼に晴天の霹靂とも言える報告が飛び込んできた。
「申し上げます! あ、あの・・・華雄殿が出撃なさる様です・・・」
「・・・・はぁっ!? 何やそれ!!」
「そ、そんなの聞いてないのです!?」
「・・・・・出る」
華雄の独断専行に焦る二人だったが、呂布の言葉で我に返る。
「そうやな・・・せめて華雄を引きずり戻さんと、月に合わせる顔が無いわ! 陳宮は関の防衛、しっかり頼むで!」
「分かったのです!」
こうして彼女らは、この望まぬ野戦に挑む事になったのであった。
虎牢関の足元に布陣を敷いた華琳たち曹操軍を待っていたのは、籠城では無く、野戦を挑んでくる董卓軍であった。
「Hey 小十郎、あそこにバカがいるぜ?」
「この状況で野戦を挑むとは・・・何かの罠か?」
「いえ、旗印は華・・・先日の汜水関での失態を取り戻そうと、独走しているのでしょうね」
桂花の状況分析に皆、眉を顰める。
「春蘭でもしないわよ、そんな事は・・・」
「真田でもしねぇぞ、んな事・・・」
呆れ返る曹操軍の面々に新たな報告が入る。
砦から後続の部隊が飛び出して来たと、旗は、呂と張だそうだ。
「華雄の独走に引きずり出されたといった所ね。作戦は変更、敵が砦から出てきた場合の対応を行う!」
すぐさま、それは全部隊に通達され布陣が敷き直される。
それを見届けた華琳が号令を発する。
「聞け! 曹の旗に集いし、勇者たちよ! この一戦こそ、今まで築いた我ら全ての風評が真実であることを証明する戦い! 黄巾を討った、その実力が本物であると天下に知らしめてやりなさい! 総員突撃! 敵軍全てを飲み干してしまえ!」
この号令に兵士たちは大声援で答え、敵に突撃して行く。
数の有利はあれども敵も中々に鍛え上げられた部隊のようで必死の抵抗を見せていた。
「やれやれ、久しぶりのpartyだと思ったんだがな・・・眠くなってきたぜ・・」
「政宗様、戦場でかような冗談はおやめ下され・・・。しかし、確かにここには真剣勝負は無いようですな」
一刀のみで敵を切り捨てて行く政宗だが、敵は数に押されて次々と倒れていた。
ならば、せめて、強い奴をとも思ったが、生憎、華雄はおろか呂布にも張遼にも出会わなかった。
「おい、凪! ここは俺らで十分だ! お前は兵士を連れて右翼に回れ!」
「了解です!」
政宗が退屈している頃、元親は部隊を指揮しつつも戦っていた。
だが、こちらも数に優る曹操軍は圧倒的で元親があえて出張るまでも無いようだった。
「こりゃ、奴さんも時間の問題だな・・・」
元親は戦の流れで終わりが近い事を感じたのであった。
「ぬぐぐぐ・・・!」
「あーっ! やっとおった! この、どあほう! とっとと帰るで!」
董卓軍の戦況が見るからに不利になり、もはや、野戦すら出来ない状況に陥ろうとしている時。
張遼はやっと探し人である華雄を発見したのだった。
まだ、戦えるとごねる華雄を引きずりながら、張遼は全軍に虎牢関に撤退するように告げる。
「霞、ねねから連絡・・・」
「なんや、手短にな!」
華雄を引きずり、さらに軍の指揮をする張遼に追い打ちを掛けるように呂布が報告を持ってくる。
「先程、賈駆様から連絡があり、非常事態あり、至急、虎牢関を放棄して戻られたしとの事!」
「なんやてぇ・・・! クソッ! 十常侍のヒヒジジイ共め・・・都に誰も残しとかんかったのは失敗やったか・・・。詠のアホ、全然、大丈夫や無いやないか!」
「霞・・・関に人・・・」
都の官たちに怒りを爆発させていた所に、さらに関に劉備の軍が迫っていた。
虎牢関を制圧されれば、都に戻る所の話では無い。
この危機に呂布が先んじて動き、劉備軍の足止めに向かう。
手始めに、砦に向かっていた袁紹軍の文醜と顔良を一ひねりすると、その後に来た、関羽と張飛をも容易く打ち伏せる。
「・・・遅い」
「く、ここまでとは・・・」
「つ、強すぎなのだ・・・!」
苦戦する、関羽と張飛であったが、ここで、思わぬ援軍がやってきた。
「あら? お困りのようね・・・?」
「あなたは・・・孫策殿か、すまないが助力を頼めるか? 」
「ふふ、高いわよ?」
「この場の一番乗りなら譲ってやる」
「気前が良いのね? 気に入ったわ!」
関羽の提案を受け入れた孫策は、三人がかりで呂布に立ち向かった。
しかし、なお圧倒的な呂布の武は例え三人になっても変わらず、結局、董卓軍の虎牢関への撤退を許してしまったのであった。
あの野戦の翌日、斥候から驚くべき報告が届けられた。
虎牢関がもぬけの殻になっていると言う。
呂布はおろか猫の子一匹すらいないのだと。
攻略が始まったばかりの虎牢関を捨てる理由が分からずに、様々は憶測は飛ぶ中で、どの諸侯も罠である可能性を捨てきれず動けずにいた。
そんな中で、袁紹と言う勇者、もといバカが関を抜けた事で罠の危険は無くなり、皆無事に虎牢関を抜けたのであった。
この時、大半の諸侯はこう思っただろう。
たまには、バカに感謝するのも悪くは無いと・・・ww
都では、現在、放棄した虎牢関が敵の手に落ちた事が報告されていた。
「虎牢関の件は間が悪かったのです。それよりも月殿が無事で何よりですよ!」
「・・・ありがとうございます」
「気にせんでええよ。皆、月の事が好きだからやっとんねん。それに月は偉いんやからもっとどーんとしとったらええんよ!」
「・・・はい」
先程から月と呼ばれている、虫すら殺せそうにない、この可憐な少女こそ、董卓その人なのである。
呂布や張遼をはじめとした諸将は彼女を守るためだけにこれだけの戦いに挑んでいるのだった。
「せや、詠。ちょっと見て欲しい件が有るんやけど・・・来てもろてええか?」
「分かった。恋、月の事ちゃんと見ててね」
「・・・分かった」
張遼と賈駆は董卓を呂布に任せてその場から離れる。
「で、何?」
「ああ、あんたの言いつけ通り、月に手を出そうとしとった十常侍・・・」
「ええ、報告は聞いたわ。ありがとうね・・・」
そう張遼は董卓を保身のために殺そうとした十常侍を始末したと言うものであった。
華駆は彼女に手を掛けさせた事を謝るが、そんな事は気にして無いと張遼は言う。
しかし、もう後戻りは出来ない。
董卓のような弱小貴族がこの世界で食いものにされないためには勝ち上がって、のし上がるしかなかった。
「ボクは必ず月をこの大陸の王にして見せる! 董卓・・・月にはずっと笑っていて欲しいから」
「あんたの気持ちはよう分かる。せやから出来るとこまで手伝うたる」
董卓のために決意を固める二人の所に兵士が飛び込んでくる。
連合がもう間近に迫っていると。
張遼は舌打ちをしながらも兵士に戦闘準備を通達する。
一人出撃しようとしていたバカがいたが張遼が全力で止めた。
「詠、隙があったら月を連れてとっとと逃げぇよ。ウチも華雄も恋も戦場で死ぬ覚悟は出来とる。せやけど、月はああ言う所で死なせたらアカン子や・・」
「霞、あなた・・・!」
「アホ! 死ぬくらいならさっさと逃げるわ! そんなことより自分、月のためなら何でもするんやろ? だったら、戦場から逃亡したゆう汚名も被って見せぇや?」
「・・・あんたたちが頼り無かったらね?」
「くはは、それでええよ。いつもの調子が戻ってきたんちゃう? ほんならウチはいくでぇ!」
こうして、連合との最終決戦が始まったのであった。
反董卓連合も気づけば、もう終わりそうですね・・・早すぎたか?
ちょいとはしょり過ぎかも?
まぁそんな事は良いんです!
それでは、ここまで読んで下さった方には最大級の感謝を! では・・・ところで最後のあとがき的な部分って皆さん読んでいるのかしら?
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すごい時間に投稿してもその五分後とかにもう何人か閲覧してたりすると正直、ビックリするKGです。
反董卓連合も早くも終盤! 早すぎないかね、これ?