黒外史 第一話
警告
皆様いかがお過ごしですか。
わたくしの名前は管輅と申します。
恋姫無双という外史をご存知の貴方には、改めて自己紹介は無用でしょう。
占い師として天の御遣いの降臨を予言してきたわたくしですが、
今はこの外史の扉を開こうとしている貴方に警告致します。
この外史は、貴方にとって精神と肉体と社会性に障害を与える原因の一つとなる可能性が御座います。
この外史の観測者は社会不適合者となる危険性が非観測者に比べて2倍から4倍高くなると思われます。
引き返すならばこれが最後のチャンスです。
それでもこの扉の向こうを見てみたいと云う方のみお進み下さい。
新たなる外史の幕が今、上がります。
彼の意識は深い暗闇の中に在った。
しかし次第に闇は薄れ感覚を取り戻していく。
浮遊感。
そして落下感。
肉体の感覚ではない。
それは魂が新たな世界に迎えられる感覚。
(俺はまた新しい外史にやって来たのか。)
その魂、北郷一刀の思念を言語化するとこうなる。
数多の外史を渡り歩く北郷一刀。
彼は新たなる外史に何を想うのか?
唐突に肉体の感覚が戻ると、北郷一刀は薄く目を開けた。
身体は眠りから目覚めたと主張するが、北郷一刀はそうではない事を既に自覚していた。
頭の中では早くも記憶の確認作業が行われている。
「新しい外史か・・・・・今回も記憶が有るんだな・・・」
目を開けた北郷一刀の視界に蒼天が眩しくて輝いてる。
「ああ・・・・・仰向けで倒れてるのか・・・俺・・・」
目覚めた時に外史の記憶を持っている時と持っていない時がある。
どの様な仕組みでそうなるか北郷一刀は解らない。
外史の記憶を持たずに現れたと判るのは、こうして外史の記憶が有る時に『あの外史では記憶が無かったな』と思い出す時だ。
「外史の記憶が有るのは有難い・・・・・生存確率が上がるからなぎゃああああああああああああっ!!」
首を巡らした一刀の視界に最悪なモノが飛び込んで来た。
「うふううぅ~~~ん♪ご主人さまぁ~ん♥」
「ぬふふううぅ~~~ん♪御主人様よ~♥」
「貂蝉!卑弥呼!俺を挟んで気持ちの悪い川の字作ってんじゃねえっ!!危うく死にかけたわっ!!」
荒野の中の岩陰で一刀と漢女二人は眠っていたのだった。
目覚めた直後に貂蝉と卑弥呼の寝顔をドアップで見せられるとは、一刀が今まで経験した中で最悪の外史の始まりだったに違いない。
一刀の叫び声に二人の漢女が目を開いた。
「あらん、ご主人さまおメメが覚めたのねん♪」
「素敵な寝顔を堪能しておったら私まで眠ってしまったわ。がっはっは♪」
この二人に挟まれて眠っていたと解った一刀は咄嗟にお尻を確認した。
どうやら無事の様だ。
「貂蝉、卑弥呼・・・・・・ここは“何処”だ!?」
それはここがどの様な外史かと云う意味だ。
外史の管理者である貂蝉と卑弥呼ならばその情報を持っている可能性が有る。
一刀はそう思い質問したのだ。
二人から距離を取りながら。
「ほほう、流石は御主人様よ。目覚めて直ぐに気付いたか。」
「ここは“新しい外史”よ~ん♪」
「・・・いや、それは判ってる。今の俺には他の外史の記憶が有るからな。これはチート攻略ルートなんじゃないのか?」
他の外史の記憶を保有するだけでかなりのアドバンテージを得る事になる。
しかも一刀は自分の体が軽く感じていた。
まだ試した訳では無いが、武器の扱い等もこれまでの外史での経験を引き継げていそうだと一刀は思っている。
「それは何とも言えないわねぇ。わたしたちもご主人さまと一緒に、ここへ来たばっかりだし~。」
「うむ、今が“何時頃”でここが“何処”かも、まだ把握しておらんからな。」
「やっぱり・・・・・まずはそこからかよ。」
当ては外れたが一刀はそれ程落胆していなかった。
要はこれから自分で情報を集めれば良いのだ。
「出来る事なら黄巾の乱の前ならありがたいな・・・・・場所は・・・・・」
一刀は言い淀んで考え込む。
下手に
「兎に角、街を探そう。情報を手に入れないとどうしようも無い。」
一刀が貂蝉と卑弥呼を立たせ、歩く様に促す。
しかしその時、突然空気が揺らぎ、男の声が聞こえてきた。
「はっ!暢気なもんだな、北郷一刀!」
その声は三人の知る者だ。
声のした方を振り返ると、大きな岩の上に二人の人影が立っている。
それは一刀が決して忘れてはならない敵。
「てめえは左慈!それに于吉っ!!」
「なぁんであんた達が居るのよ!」
「ぐぬぬ!早くも嗅ぎつけて来よったか、
一刀、貂蝉、卑弥呼が敵意を剥き出しに威嚇しても、左慈と于吉は余裕の態度で見下ろしていた。
于吉は眼鏡を直し、眼下の三人に薄笑いで応える。
「ふふ、ごきげんよう。ここは一応『久しぶり』と言っておきましょうか。」
その態度に一刀がキレた。
「こんなに初っ端からご対面とは余裕かましてくれるじゃねえか!ちっとも嬉しかねえけどな。また彼女達を苦しめるつもりなら、今度こそ容赦しねえぞ!」
それは決して虚勢ではない。
外史の記憶の有る一刀は心の底から左慈と于吉をぶちのめしたいと思っている。
そんな一刀に対して左慈がとぼけた口調で相手をする。
「彼女達?ああ、安心しろ。この外史ではあの女達には手出しはしない。」
左慈から出た意外な言葉に一刀の氣が一瞬緩むが、直ぐに気を引き締めた。
(なんだ!?・・・・・いや、こいつらの薄笑いは消えてねえ!騙されるな!)
一刀は心の中で自分を戒めた。
左慈と于吉に初めて出会った外史から今まで、何度も苦い思いをさせられた事を改めて思い出す。
だが、次に左慈が放った言葉は一刀を大きく揺さぶった。
「何しろこの外史は正史に近いからな。あんな女共は初めから居ないのさ。」
左慈、そして于吉はこれまで見せた事の無い嗤いで一刀を見下した。
「な・・・・・・なんだと・・・・・・・・桃香も・・・華琳も・・・蓮華も・・・・・。
みんなが居ないだって?・・・・・・・・・・・」
それまでの怒りに満ちていた氣が急速に冷えて行く。
そこへ于吉が追い打ちとばかりに続けた。
「そうです。あなたに力を貸すあの女達さえ居なければ、あなたの力など我々の前では無力も同然。あなたはこの外史から出ることが出来ずに朽ち果てて行くのですよ。」
その声は心底愉しそうであった。
(外史から出られない!?
いや、待て。俺の記憶では自分から外史の外に出ようとした事は一度も無かった。
試した事も無い事を否定されたって動揺する事は無いんだ!
こいつらが嘘を言って俺を混乱させる為に早々と出て来たと考える方が妥当じゃないか?)
一刀は心の中でそう自分に言い聞かせた。
再び全身に氣が漲って来る。
それに気付いた于吉は不快に思い、更に言葉を続けた。
「自殺を謀っても無駄ですよ。例え死んでもあなたは又ここからやり直すだけです。あなたは何度もこの外史を繰り返し、魂をすり減らして消えて行くのです。」
「うるせえ!てめえらの言ってる事が本当だと限らねえじゃねえかっ!」
「ならば何故貂蝉と卑弥呼がさっきから何も言い返さない?」
「え?・・・・・・・そんな・・・まさか・・・・・」
一刀は恐る恐る貂蝉と卑弥呼を振り返った。
「貂蝉・・・・・卑弥呼・・・・・・」
呟く様に呼び掛けた一刀に貂蝉と卑弥呼は苦い顔で応える。
「慌てないで、ご主人さま。確かにご主人さまが命を絶ってもこの外史からは出られないけど。」
「この外史を抜け出す方法が一つだけ有る。それは御主人様がこの大陸を統一する事よ。」
二人が提示したのは脱出方法のみ。
それは恋姫達がこの外史に居ないと肯定したと云う事でもあった。
「本当に・・・・・みんなが居ないのか?・・・正史に近い・・・・・つまりそれは本当の劉備、曹操、孫権が・・・男の英雄達が覇権を争う世界って事なのか?」
一刀の問いに貂蝉と卑弥呼は無言で頷いた。
「そんな世界で俺が・・・・・大陸を統一出来るのか?」
それは一刀の自問だった。
一刀自身、自分の何が外史での武器だったか自覚している。
しかしそれがこの外史では封印されたのだ。
だが!
一刀の瞳に炎が燃えた!
「いや!やるんだっ!!俺の愛する彼女達に再び逢う為にっ!!」
この逆境に対し一刀はこれまでに無い闘志を見せた!
「ウホッ!いい男♪」
その声は貂蝉でも卑弥呼でもなかった。
于吉でも左慈でもない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一刀は固まっている。
それはこのタイミングで聞こえて来たセリフとしては最悪だった事も有る。
だが、それ以上に一刀には信じられない事が有った。
(まさかこの声は・・・・・・でも俺の知るこの声の主はこんな台詞を吐く事は絶対に無い!)
必死に否定する一刀に、声は更に続いた。
「何やら争う声が聞こえるから来てみれば。」
声の主は岩陰から馬に跨り現れた。
髭を生やした若い男・・・・・・・しかしその声は
春蘭だった。
「こんないい男達が五人で言い争っているとは・・・・・・何を言い争っていたかは察しがつくが・・・・・・」
本当に察しが付いているのか甚だ疑問では有るが、その男の姿にも一刀は驚愕していた。
いや、一刀だけでは無い。
貂蝉と卑弥呼、そして左慈と于吉もであった。
その男の姿を表現するなら
春蘭のコスプレをした髭のアニキ。
「おお、スマン。私の名は夏侯元譲。陳留を守護する武将だ。」
その態度には敵意を感じられず、微笑みまで浮かべて一刀を見ていた。
見られている一刀は目と口を大きく開けて完全に硬直している。
そして岩陰から更に数騎の騎馬が現れた。
「春蘭、さっきの争う声の主は居たの?」
一刀は喜びの表情で目を向けた!
その声。
そして話し方。
一刀が決して忘れる事の無い華琳の物だ!
しかしそこに居たのはやはり髭の武将だった。
服装は立派な鎧を纏い、夏侯惇とは違ったが
髪が金髪でドリルツインテール。華琳のトレードマークである。
一刀は真っ白になった。
「うほ!いい男♪」
「またそれかああああああああああああああっ!!」
言葉の内容はともかく、一刀への気付け薬にはなった様である。
「ふふ。私の名は曹孟徳。陳留の刺史よ。」
見た目とその言動に問題は有るものの、その男ははっきりと言った。
一刀が絶対に信じたくないその名を。
そして例え相手がどんな変人であろうとも、向こうが先に名乗ったのだ。
一刀は応えねばならない所だ。
だが、どうしても言葉が出てこなかった。
一刀の状態に気付いた貂蝉が前に出て代わりに応える。
「この方はわたしのご主人さまで~、天の御遣い、北郷一刀さまよ~ん♪そしてわたしは踊り子の貂蝉ちゃ~ん♪」
普通ならばここでいつものパターンとなる所だが、曹操と夏侯惇の反応は違った。
「へえ、天の御遣い・・・成程、その顔。その姿。菅輅の予言は本当だったようね。」
「それに華琳様。踊り子と言った貂蝉殿・・・なんと美しい♪」
「ぶふうううううう!」
「あら、いやだわん♪そんなに見つめられたら穴が空いちゃうわ~ん♪」
クネクネ動く貂蝉の横で一刀は吐血して血の涙を流していた。
(俺はお前ら全員の頭に風穴を空けてやりたいっ!)
一刀はまだ声に出さない位の判断は出来る様だった。
夏侯惇は卑弥呼にも注目している。
「そちらのご立派な御仁は?」
「うむ、私は東方より参った卑弥呼。当然御主人様の愛の下僕である。」
胸を張って答えた卑弥呼に、曹操と夏侯惇、それ以外の騎馬達も驚愕の声を上げた。
「あ、貴方が卑弥呼!?大昔、徐福と共に東方へと渡ったとされる漢女道の継承者・・・・・その肉体、その凰羅・・・・・文献の文章ではその素晴らしさの一割も表現出来ていなかったのね・・・」
曹操の言葉は夏侯惇や他の騎馬達の心を代弁していた。
「ふふ、そう褒めるでない。照れるではないか♪」
卑弥呼は言葉の通りにモジモジと片足立ちで照れている。
「伝説の漢女、卑弥呼までもが主と認める・・・天の御遣い、北郷一刀か・・・」
曹操は馬から降りて一刀の下へ無防備に歩いて行く。
それを迎える一刀の拳が震えている。
それは緊張でも恐れでも無く、怒りを堪える震えだった。
曹操が一刀の目の前で立ち止まる。
「やらないか♪」
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
一刀の怒りが我慢の限界を超えた。
見事なアッパーで曹操を空中高く舞上げると、叫びながら走り出し、岩の上で呆然としている左慈と于吉を捕まえ、そのまま走ってこの場から逃げ出した。
「いやぁん、まって~、ご主人さま~~ん♪」
「ふふふ♪地獄の底まで付いて行くぞ、御主人様よ~♪」
貂蝉と卑弥呼はお嬢様走りで一刀の後を追いかけた。
瞬く間に走り去る姿を、夏侯惇と騎馬達は見送る事しか出来なかった。
ドシャアァァァアアッ!!
車田正美調の書き文字と共に地面に落ちてきた曹操。
「ふ、この曹孟徳ともあろう者が油断したわ。」
地面に落ちて派手に血をぶち撒けた筈の曹操が、即座に立ち上がり笑っていた。
「「華琳様!ご無事ですか!?」」
駆け寄って来るのは夏侯惇ともう一人。
「ええ、問題無いわ。春蘭、秋蘭。」
それは秋蘭・・・のコスプレをした髭アニキだった。
「あの北郷一刀と言う男・・・確かにいい男でしたが華琳様を行成殴り飛ばすなど」
「秋蘭、『漢』とは拳で語る者よ。」
曹操に諭され、夏侯淵は畏まって頭を垂れた。
「華琳様。して、あの天の御遣いは何と語っていましたか?」
夏侯惇の問いに曹操は笑って答える。
「『俺が欲しければ力を見せろ』そう言っていたわ。」
「おお、なんと漢らしい・・・」
勿論、一刀はそんな事を微塵も考えてはいない。
「ふふふ、この曹孟徳。欲しいと思った者は必ず手に入れるわ。」
一刀達が走り去った方角を見て曹操は呟いた。
「貴方のオシリはこの私が必ず手に入れてみせる!!」
とても腐った宣言が荒野に吸い込まれていった。
一方、走って逃げた一刀と他四名。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・」
一刀は地面にへたり込んでいた。
「こ・・・ここまで・・・・・来れば・・・もう大丈夫・・・だろ・・・」
「それは間違いないと思うわよ、ご主人さま。」
「何せ、陳留から官渡。黄河を渡り、山を越え。上党をも越えたのだからな。」
「え?・・・・・・・上党って并州の?」
「たぶんアソコに見えてるのが晋陽ね~♪」
一刀が曹操から逃げ出して三時間が経過していた。
そして今居るのが并州の州治(その州の中心となる街)晋陽である。
陳留から直線距離で400km以上離れた場所だ。
一刀は自分の身体能力に驚いた。
しかし、今はそれよりも確認すべき事が有る。
あの場から捕まえて来た左慈と于吉に、一刀は詰め寄った。
「おい!お前らこの外史が正史に近いとか言ったよな・・・」
「あ、ああ・・・」
「言いましたねぇ・・・」
左慈と于吉はショックから立ち直っていないらしく、その返事が弱々しい。
一刀はそんな事にお構い無く、拳を握り締めて気炎を吐く。
「あんな『うほっ』とか言う曹操や夏侯惇の!しかも変態コスプレアニキが正史だとでも吐かす気かっ!?」
華琳や春蘭を思い起こさせるパーツが有る分、余計にムカついていた。
「いや・・・・俺たちはあの女共が居ない外史を探し出し、お前を狙う様に修正しただけだ・・・・・まさかあんな奴らが居る外史だったとは・・・」
左慈は口を押さえて、吐き気を堪える様に言った。
「罠を張るんならもっとよく調べろっ!!」
于吉も青い顔をして下を向いている。
「私が調べた時は、あんな
先程見たモノが今でも信じられないといった様子だった。
しかし、一刀は于吉の言葉に疑問を感じた。
「ちょっと待て。あの『ホモ設定』は?」
于吉は顔を上げ、真顔で一刀を正面から見る。
「私の趣味に合っていたのでそのまま流用しましたが、何か?」
「「貴様が原因かあああああああああああああっ!!」」
一刀と左慈の蹴りが于吉に襲い掛かる。
「ま、待って下さい!それよりも引っかかりませんか?あの『漢女』二人に対する曹操の態度を!」
于吉は蹴られ踏みつけられながら指摘した。
曹操も夏侯惇も単なるホモでは無く、まるで漢女道の信者の様な態度だった。
「そう言えば・・・」
「貂蝉・・・卑弥呼・・・」
左慈と一刀が考えて導き出した答えは同じ。
「「この外史を作ったのはお前らかっ!!」」
「あら~ん、バレちゃったかしらぁん。」
「うむ、確かにこの外史の基礎となる部分は私と貂蝉で作った物だ。」
素直に認める二人だった。
「お、お前ら~~~~~!」
一刀の怒りは漢女二人に向けられた。
「しかあああし!ワシらも困惑しておるのだ、御主人様よ。」
「わたしたちの都合のいい様に作った外史だから、キャラメイクの時に声はちゃんと男の子の設定にした筈なのよん。」
貂蝉も卑弥呼も困った顔をしているが、決して慌てたりはしていない。
「声は?」
一刀の目が『華琳や春蘭のキャラパーツを何故使ったのか』と、吠えている。
「ちゃんと服装も正史を基準にしてたわよ。でもあの姿も良かったわ~ん♪」
「うむ、中々似合っていて妬けてしまったぞ。」
「てめえらの美的感覚はどうでもいいんだよ!結局どうしてあんな曹操と夏侯惇になってるか解んねえのか!?」
叫ぶ一刀に、卑弥呼はどこまでも冷静に対応する。
「今の所推測でしか無いが、恐らくは『バグ』であろう。」
「バグ?」
ここで貂蝉が左慈と于吉を睨み、左手を腰に当て、右手の人差し指を突きつけた。
「ちょっと、左慈、于吉。あんたらご主人さまの設定にも干渉したでしょ。」
「こいつの記憶の事か?」
「それは当然。あの女共が居ない事で精神的に追い詰めるのが目的ですからね。忘れて貰っていては困ります。」
それを聞いて貂蝉は「やっぱり」と溜息を吐いた。
「わたしと卑弥呼以外の記憶は封印する設定だったのに、無理矢理こじ開けたもんだから、ご主人さまの強力な思念がキャラデータに影響を及ぼしてるって所かしらねぇ~?」
貂蝉の推理に一刀は苦い顔になった。
「突っ込みたい部分が有ったけど、今はスルーしてやる。要するに何か?俺の記憶があんな曹操を作り出したってのか?」
「そうね~、他にも影響は有ると思うけど、それは調べてみないと分かんないわねぇ~」
「曹操と夏侯惇がああ成っていたからな。他の武将や軍師も同じ事が起こっている可能性が大きいであろう。」
一刀は想像しかけたが、頭を振って像を結びそうになったイメージを追い出した。
愛する女性達が居ないどころか、、彼女達を侮辱する様なモノが存在する外史。
一刀は少し考えてから左慈と于吉を睨んだ。
「おい、お前らはこんな外史を容認するのか?」
一刀の発言に左慈は怒りを顕に声を荒げる。
「するものか!俺は巫山戯た外史を潰す為に存在するのだ!この外史が正史に近いと思ったから罠として利用する心算だったが、こんな物はさっさと潰してやる!」
「当然私もですね。あんな美しくない物を手駒として使いたくありません。」
于吉も苦虫を噛み潰した様な顔で同意した。
その言葉を聞いた一刀は意を決する。
「なら俺が協力してやる。こんな外史ぶっ壊してやるから手を貸せ!」
「しょんな~。せっかく苦労して作ったのに~!」
貂蝉がイヤイヤとポーズを取って抗議するが、気持ち悪いだけなので一刀の決意を一層固くするだけだった。
「貂蝉よ、仕方あるまい。私達が目指した外史ともズレてしまい、修復も不可能だ。ならばここは御主人様の意思に従うべきであろう。」
一刀は貂蝉と卑弥呼を半ば無視して、左慈と于吉を相手に話を進める。
「具体的にはどうすればこの外史を潰せるんだ?」
「例の鏡をこの外史にも用意してある。あれを使いこの外史を消滅させる。」
その鏡とは一刀が最初の外史での最終決戦で破壊を目指した物だ。
「しかし、鏡を発動させるにはエネルギーが必要です。黙っていてもエネルギーは溜まって行きますが発動出来るだけ溜めるのに何十年掛かるか解りません。元々貴方が何度もこの外史を繰り返す事を想定して設定しましたからね。」
「エネルギーを急速に溜める方法も有るんだろう。お前らがそう云う保険を掛けない筈ないからな。」
「当然だ。貴様が勢力を伸ばして行けばその分、吸収するエネルギー量が増加する。」
「北郷一刀、貴方がこの外史で覇権を握れば鏡を発動する事が出来ます。」
それは貂蝉と卑弥呼が言った、この外史からの脱出方法と結局は同じな訳である。
「やっぱりやる事は同じなのか・・・・・覇権を手に入れるには旗揚げしなくちゃいけないワケだが・・・その為にも情報が必要だな。」
一刀は遠くに見える晋陽の城壁を睨んだ。
貂蝉と卑弥呼も同じ方角を眺める。
「そうね~、私達の作った外史がどこまで歪んじゃったか解らないものね~。」
「曹操と夏侯惇の様子から、御主人様に悪印象を持つ者は居無さそうではあるな♪」
「あんなのに言い寄られる位なら嫌われる方がマシだってのっ!!」
一刀の言う事は最もである。
不機嫌な顔をしたまま一刀は左慈と于吉に振り向いた。
「所で、時期的に今は何時頃なんだ?それ位は判ってるんだろ?」
一刀の問いに対し、左慈は憮然と答える。
「黄巾の乱の前だ。」
于吉は少し余裕が出て来たのか、薄笑いを浮かべた。
「貴方が最初から絶望してしまっては面白く有りませんでしたからね。」
「くそ、ホントいい性格してやがる。」
一刀は苦笑しながら晋陽に向かって歩き出した。
「この孺子共が一緒なのは不本意だが仕方あるまい。」
「それじゃあ、新たなる冒険に♪」
「「レッツラ・ゴー!!」」
一刀、左慈、于吉の三人は貂蝉と卑弥呼を無視して歩いて行く。
こうして北郷一刀、貂蝉、卑弥呼、左慈、于吉と云う五人の外史が始まった。
しかし、既に曹操から目を付けられてしまった北郷一刀。
彼はオシリを守り抜く事が出来るのか!?
あとがき
こんな気持ちの悪い設定のお話で申し訳ありませんorz
このお話は拙作『三人の天の御遣い』シリーズと僅かに関わっていますが
これだけ読んでも何ら問題の無い内容にして行きます。
但し、息抜きに書いて溜まったら投稿するつもりですので
次はいつになるかまるで分かりません。
左慈と于吉が『正史に近い外史』と言っていますが
正史はネタとして使う程度で、とんでもなくかけ離れた外史にする予定です。
まあ、あんな曹操が出て来た段階でまともな話になる筈有りませんがw
曹操、夏侯惇、夏侯淵の顔は読者様の馴染みのある三国志でご想像下さい。
作者はSLGの三国志Ⅸで想像して書いてますが
真・三國無双や蒼天航路、横山三国志などでも破壊力が有ると思いますwww
この小説の挿絵イラストを募集中です。
こんなアホな小説ですが絵師様のご協力をお待ちしておりますm(_ _)m
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突如始まりました!その名も『黒外史』!!
もうひとつの投稿小説『三爸爸†無双』の間に、たま~に挟む形で投稿したいと思っています。