No.632423

太守一刀と猫耳軍師 2周目 第2話

黒天さん

さて、桂花は一体何故『一刀様』と呼んだのか……。

2013-10-30 00:11:01 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9817   閲覧ユーザー数:7363

「うーん……」

 

結局桂花そっくりのその人物は夜になっても目をさましていなかった。

 

うん、正直桂花が俺のことを覚えてるってのは完璧に予想外。

 

『一刀』を真名にしちゃったからか、天泣が過剰反応してかなり驚いた。

 

取り敢えず天泣はこの人物は真名で呼んでもいいから、と説明すると普通に納得してくれた。

 

天泣達は俺のことを全く知らなかったし、状況からいって、完全にリセットされたと思い込んでたし……。

 

とは言っても、俺の事を一刀と呼んでたのはほかは紫青だけだし問題無い……か?

 

いやまて、華琳がヤバい。

 

最後のほう一刀呼びだったし、真名呼んだからって喧嘩売ったら絶対大変な事になる気がする。

 

天泣にはしっかり言っとかないと、今回は頭打っただけだから良かったけど、そのうち死人が出かねない。

 

「!?」

 

考えながら、天泣の大剣にぶつけた額に乗せていたタオルを取り替えると、その人物は薄く目を開く。

 

「一刀様……?」

 

「おはよう、大丈夫?」

 

俺を見るなりがばっと飛び起きてまじまじと顔を眺めてくる。

 

「はい、大丈夫です。えっと……、一刀様ですよね?」

 

しかも敬語? なにゆえ……。

 

「ん。俺は、姓は島、名は津、字は北郷。真名が一刀。いきなり俺の真名を呼んだけど、俺の事知ってるの?」

「そ、その、真名とは知らず、失礼いたしました!!」

 

土下座。明らかに様子がおかしい。これ本当に桂花か……?

 

声も、顔も、背格好も、服装も桂花そのものなんだけど。

 

「いや、いいよ。君の名前は?」

 

「はい、姓は荀、名は彧、字は文若といいます!」

 

「じゃあ荀彧、なんで知ってたか、教えてくれる?」

 

この桂花が語るその内容を簡単に整理すると……。

 

どうも子供の頃から俺の夢を見ていたらしい。

 

夢の内容を軽く聞いてみると、俺が前の世界で桂花と過ごしてきた様子とそっくりそのまま同じだ。

 

例えば、最初の夢は、暴漢から救出して、脚の怪我を治療してもらった夢だったとか、

 

ある時の夢では身を挺して矢から庇ってくれたとか。

 

つまり、前の世界のことを夢という形で見ていたらしいのだ。

 

ただ、その夢のなかの自分が持った感情等は分からないまま、ただ一人称視点の映画でも見るようにそれを見ていたそうだ。

 

映像を見るなかで、その夢の中の俺に憧れというか恋心というか、まぁそんな感情を持ったというのだ。

 

夢見がちな子供の頃にそんな夢を何度も見ればまぁそうもなるか。

 

それで、その夢の中の自分がしたように、いつか俺が現れたら片腕として動けるように、

 

勉学に励みながら、ずっと俺が本当に居ると信じて探していたという。

 

その夢で見たもの、というのはほとんどが日常風景で、戦の様子等はほぼ見ていないらしい。

 

ただ、扱っていた書簡等から考えて、おそらく軍師をしていたのだろう、とあたりをつけたそうだ。

「私も、一度だけそういう夢を見たことがありますよー」

 

途中、口を挟んできたのは天泣。

 

なんでも、相手は誰だかわからないが、失敗を上司に叱責されている時に、俺が助け船を出した。というのだ。

 

その上司の特徴を聞いてみると間違いなく愛紗だ。そして俺にも身に覚えがある。

 

確かあの時は……。そうそう、正史だか演義だったか忘れたけど、それと同じように失火があったらしい。

 

っていってもボヤレベルだけど。

 

その場所の管理を任されてた天泣に、愛紗はある程度仲良くなってくれてたとはいうものの、

 

かなり厳しく叱責していたので、見かねた俺が待ったをかけたのだ。

 

演義とかと違ってその時は丁度俺が居たし。

 

しかし何で愛紗は天泣が気に食わなかったのか……。

 

生理的に合わないのか? どうにも愛紗はそういうきらいがあったからなぁ。

 

どこかこう、この人物とは合わない、と、決めつけてかかる部分があった気がする。

 

天泣が俺についてきたのは、その夢が気になったからでもあるらしい。

 

……ということは俺と関わりのあった人物はある程度そういう夢を見てるってことになるのか?

 

たかが夢だと切って捨てるか、信じるかの差はあるだろうけど。

 

「お願いします、私を一緒に連れて行ってください!」

 

「んー、それはいいけど、夢の中の俺と違って、俺は領主とかじゃなくて宿なしで放浪中の身だからなぁ」

 

「かまいません!」

 

桂花が俺を覚えていた事に、嬉しさ半分、落胆半分。

 

うまく言葉にはできないけど、前の桂花とは別人、という感じがするために、手放しで喜べなかった。

 

一つ救いなのは、桂花の髪には、俺がプレゼントした髪飾りがちゃんとつけられているという事。

 

「ですから私の事は、よければ真名で呼んでください。私の真名は桂花といいます」

 

一番の違和感はこの口調。コレのせいで別人と感じてしまうのかもしれない。

 

聞いてみたところ、素では無いらしいけど、あこがれの人を相手に普段通りでなんて……。

 

というような事を言われた。俺としては壁を作られてるみたいでヤなんだけど。

 

この日は頭を打ったこともあるし、ということでここで話しを切り、安静にさせることにした。

───────────────────────

 

「浮かない顔をしてますよ?」

 

そう言うのは糜竺。現在、桂花達とは別室で糜竺と遅い夕食を取り、食後にお茶を飲んでる所。

 

桂花は俺が言った通り、安静にして寝ているし、天泣は空腹が我慢できず、先に夕食をとっていたので既に寝てしまっている。

 

「んー、荀彧の見た夢なんだけどさ、俺も身に覚えがあるんだよ。天泣の夢もだけど」

 

「夢を見たんです?」

 

「いや、うん、まぁそうかな」

 

前の世界の事を話すと話しがややこしくなりそうだったので夢、ということにする。

 

「でも、あっちの荀彧はさ性格が全然違って、言葉遣いももっとこう、普通だったから違和感がすごくてね」

 

「まだほとんど話してませんし性格は分からないとおもいますけど、

 

言葉遣いは北郷様に敬意をもって接しているだけではありませんか?

 

私も、天泣と話す時と北郷様と話す時とでは使い分けていますよ」

 

「分かってるつもりなんだけどね。……糜竺はそういう夢って見たことある?」

 

「いえ、無いですねぇ……。それより、あの子に真名を許してもらったのに、呼んであげないんですか?」

 

「荀彧が認めたのは、夢で見た俺であって、現実の俺じゃないから。何だか呼ぶのが申し訳ない気がしてさ」

 

これは半分本当で半分嘘。俺自身があまりにも様子が違う彼女が桂花だと認識できていないから、同じように呼ぶのに抵抗がある、というのもある。

 

多分まだ、納得するには時間がかかると思う。

「あの子自身が望んでいるならそれでいいのでは? 普通は、真名で呼んで欲しいから真名を許すわけですし。

 

さっき寂しそうな顔をしていましたよ? 多分、一度も真名で呼んでもらえなかったからだと思います」

 

俺としても、そういう部分はある。ご主人様とか主とかよく呼ばれてたけど、

 

『真名』として一刀という名を持っていれば、名で呼んでくれる人も多かったのではないかと思う。

 

できれば名で呼んで欲しいと思う事も結構あったし、それもあって真名という形を取ったわけだし。

 

「んー、俺が糜竺に真名を許したら、糜竺は真名で呼んでくれる?」

 

「? ええ、もちろんそうしますけれど……」

 

糜竺は、普通そうじゃないですか? とでも言いたげな様子で首をかしげる。

 

「んー、実はちょっと良くわかってなくてさ。ほら、ここじゃない所から来たから……」

 

俺がそういえば、これは私の持論ですけど、と前置きをした上で話しはじめる。

 

「真名を許すっていうのは特別な事なんです。天泣や荀彧ちゃんはあっさりとそうしましたけど。

 

人によっては、配偶者にしか許さない、という人もいます。

 

でも、だいたいの人は、その相手を認めれば真名を許す、という形を取ってますよね。

 

この基準は無いも同然に曖昧で十人十色といってもいい物ですが、

 

結局の所は、その人物に真名で呼んで欲しいか否かだと思うんですよね」

 

「もっともな話しだね。でもそもそも真名ってどういうものなんだろ?」

 

「出処については諸説ありますけれど、結構古い風習だと聞いてます。

 

んー、どういうものかと言われれば、すごく簡単に言ってしまえば『寝所』といった所ですね」

 

「寝所?」

 

寝所、寝室、個人的な空間だっていう意味なのか? 考えてみてもピンと来ない。

「寝所に入れる程の仲といえば、親、兄弟、恋人、とても仲のいい友達。とかですよね。

 

主君から臣下に対しての信頼の証として、寝床を共にする、というのもありますし。

 

真名を許すっていうのはそういうことだと思ってます。

 

だから、荀彧ちゃんは、真名で呼んでもらえなかったのが残念だったんだと思いますよ。

 

ある意味失恋のような状態でしょうか? 寝所に呼んだのに無視された、となれば相当残念だって分かりますよね?」

 

そう言われればその通り、なんだかすごく罪悪感が……。

 

明日はちゃんと真名で呼ぼう……。

 

「逆に、真名を許してもらった場合。ですけど。

 

真名を許してもらうということは、自分が好ましいと思われている事の証明ですよね。

 

相手が尊敬する人物であれば、それはとても誇らしい事です。

 

だからこそ、自分の知らない相手がその人物の真名を呼ぶのに嫌悪感、と申しますか……。

 

そういうのを持ってる人が少なからず居るんですよね。

 

今日の天泣のように、です。

 

私はちゃんと確認するようには言ってるんですけど、中々聞いてくれないんですよ。

 

前からなんですよね、母の真名を呼んだ顔を知らない親戚に斬りかかった事もありますし……。

 

さっきのたとえ話ですけど、主君の寝所に入り込む輩がいれば、それを切って捨ててもあり得る事です。

 

それが知り合いかどうかがわからなければ『不審者』ですからね。

 

同様に、主君が認めていようとも、自分からみて不審者であれば、主君の寝室に入れたいわけがないんです」

 

「まぁ確かに……」

 

こうして考えると、今日の天泣や、華琳の真名を呼んだ時の夏侯惇の反応もうなずけるか。

「侮辱を込めて真名を呼ぶ人なんてまず滅多に居ませんし、

 

天泣には、ちゃんと真名を許しているかどうか確証が得られるまで動いちゃだめ、っていってるんですけど……。」

 

糜竺が大きくため息をつく。どうやら結構苦労してきたらしい。

 

「じゃあ、糜竺が俺に真名を許さないのは、俺を好ましいと思わないから?」

 

「まず一つ、北郷様が天の御遣いである、という確証が無い、というのがあります。

 

それに天泣と違って私の基準は武ではないですし」

 

「天の御遣いかどうか、っていうのは俺にも分からないかなぁ。

 

占い師の言う見た目に合致はしてたんだろうけど、俺自身はそうだとは思わないし。

 

そういうのは大衆が後から判断するものだと思うし。英雄と同じく、称号みたいなものだと思ってるから」

 

ずっと以前に言ったような台詞を言う。今でも実際そうだと思っているし。

 

一度はそうなれたとは思ってるけど、今はまた違うし。

 

「そうですね。もっともな意見だとおもいます」

 

「そうなれればいいんだけどね」

 

ため息をついてお茶を啜る。ただ、今の俺には頑張っていく気力がない。

 

たとえ戦乱を収めたとしても、また振り出しに戻ってしまったら……そう思うと気が沈んでしまう。

 

俺がどうにか立って動こうとしていられるのは、以前仲良くなったみんなが死なないように、という気持ちがあるから。

 

相手がたとえ自分を覚えていなくても、ことをなしたら、また振り出しに戻ってしまうとしても……。

「北郷様の悩みは随分深そうですね。

 

私でよければ、お話を聞くぐらいはできますし、話してもらえれば解決策が提示できるかもしれませんよ?」

 

話してみてもどうにもならないだろうし、解決策もでてこないだろう事は分かってる。

 

それに、一度この世界で過ごし、三国を統一した、なんていう突拍子もない事を信じてはもらえないだろうし

 

それでも……。そう言ってもらえると少し気が晴れたきがした。

 

「ありがとう。相談できるような悩みじゃないけど、糜竺が味方で居てくれると思うと気が楽になったよ」

 

そういうと少し照れくさそうな顔。何だか紫青を思い出してしまう。

 

「さて、それで、ですけど……」

 

「うん?」

 

「北郷様は私の長い話を真面目に聞いてくださいましたし、それは好ましいと思います。

 

天の御遣いについての言で、人となりも信頼できそうに思いました。

 

だから私も北郷様に真名で呼んで欲しいと思います。私の真名は天梁-テンリョウ-です」

 

天の梁、虹の事かな? 天気雨の姉妹が虹か。

 

そう考えている間も、俺が自分の真名を呼ぶのを待っているのか、じーっとこちらを覗きこむように見てくる。

 

「じゃあ、俺も、疑問に真剣にこたえてくれた天梁には、真名で呼んでもらいたいかな?」

 

「はい。ではそうさせてもらいます。一刀様」

 

「んー、天泣と天梁の真名の意味は……、天気雨と虹かな?」

 

「そうですよ。母から聞いたんですけど、最初は私のこともテンキュウにしようか、っていう話しがあったそうです」

 

「え?」

 

首をかしげる。どういうことだろう……。

 

「こんな字で書くつもりだったそうです。でも、ややこしいからやめようっていう話しになったらしいです」

 

指で空中に書いた文字は、天に弓。なるほど……、天弓か。

 

「あれ? でも天梁の方がお姉さんだったよね?」

 

「双子なんです。こうすると……」

 

天梁が三つ編みにしていた髪を解くと、確かに天泣と見分けがつかない。

 

「何故だか性格はかなり違う感じになっちゃいましたけどね。

 

さて、すっかり遅くなってしまいましたし、明日に備えてそろそろ休みませんか?」

 

そうしよう、と、頷き、俺達は休む事にした。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

またしても投稿に時間がかかってしまいました……。

 

h995さんの案で糜竺の真名は「天梁」となりました。ネタ提供ありがとうございました。

 

今回は第一話のコメントにもあった『真名』についての考え方を天梁の口を借りて書いてみました。

 

黒天的にはこんな感じで解釈しています。

 

さて、問題の桂花ですが、デレ100%……というか、

 

原作の華琳に対する態度を一刀にも取ってみて欲しい、なんて思ってこんな感じにしてみました。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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