曹と竜」
「政宗様いかがなさいますか?」
「Ah~まぁもう少し様子を見るのも悪くねぇんじゃねぇか」
騎馬武者の大群に囲まれた状況で二人は冷静に状況を見る。この程度なら苦もなく突破出来るであろうがそれは最善ではないと判断した政宗は様子見に徹する。
すると騎馬の群れから三人の少女が現れる、なるほど、こいつらが指揮官かと納得する二人を尻目に黒髪の女が、声を上げる。
「華琳様!、こやつらは?」
「・・・どうやら違うようね。連中はもっと年かさの中年男だと聞いたわ」
「どうしましょう?連中の一味の可能性もありますし・・・引っ立てましょうか?」
どうやら誰かを探しているようだ。大方さっきの盗賊たちだろうと政宗は考える。しかし、あいつらの一味に思われるなんてな、悪い冗談だぜと胸の内で悪態をつく。小十郎もどうやら心外だったらしい眉間の皺がいつにもまして深く刻まれている。
「そうね・・・けれど逃げるそぶりもないということは・・・・連中とは無関係なのかしら?」
「きっと我々に怯えているのでしょう!、そうに決まっています!」
「怯えているというよりは・・・呆れているようにも見えるのだけど?」
三人の話し合いは続く、どうやら当分続きそうだ。こんな居心地の悪いところに長時間放置されては敵わないと政宗が口を開く。
「Hey!! あんたら、もしかしたら三人組の盗賊を探してんじゃねぇのか?そいつらだったらついさっきこの道を真っ直ぐに逃げて行った、追うなら急いだ方がいいぜ?」
政宗の言葉に少し面食らったような様子であった。しかしすぐに調子を取り戻してリーダーらしき金髪の少女が言葉を紡ぐ。
「ご忠告ありがとうと言いたいところだけど、あなたたちは連中の仲間ではないと証明できる?あなたのその言葉がただの逃げ口上ではないと私たちに信じろとでも?それにあなたたちのその恰好・・・この辺りではあまり見かけないものね?それだけでも十分あなたたちが怪しいと言える証拠になると思うのだけれど?」
金髪の少女の問いに政宗がため息をつく、まぁ当然の疑問である。盗賊を追跡していて見慣れない服装の人間を見かけたら、そりゃあ疑うだろう。どうしようかと考える政宗に小十郎が耳打ちをする。
「政宗様・・・ここは正直に我々の身の上を説明するが得策かと、下手な嘘はあの女には通用しないと、この小十郎の勘が告げておりますれば・・・」
「・・・all right お前の勘は良く当たるからな・・ここはお前に従うか」
二人は取るべき方策が決まると、少女たちに向き直る。
「密談は済んだかしら、だったら早速あなたたちが連中の仲間でないこと証明してもらおうじゃない?」
「Ah~ それなんだがな・・・俺たちは今日この地にやって来たもんだからな右も左も分かりゃしねぇんだ。そもそも初めてきた土地で盗賊行為なんてバカなマネするわけねぇだろ?あいつらとは無関係であることを証明することはできねぇがな。だが嘘は吐いちゃいねぇよ。」
「貴様らぁ~華琳様は連中の仲間でないことを証明しろと言っているのだ!そのような戯言で誤魔化そうとするとは・「春蘭、少し黙りなさい」」
政宗は真実を語ったつもりだったがどうやら黒髪の女は納得しなかったらしい。激高して怒声をあげるが金髪の少女に遮られ、居心地の悪そうな顔をしている。
「・・・面白い冗談ね?初めてこの地に来たと?ならばあなたたちがどこから来て、そして何者なのか私たちに説明して頂戴?」
華琳と呼ばれた少女がそう訊ねてくる。その顔はどこか悪戯めいている。
「つまり俺たちの名が知りたいと?おいおい、礼儀がなってねぇな?人に名を訊ねる時は、まず、自分からってのが常識だろ?なぁ小十郎?」
「その通りですな、しかし、ここではそのような常識はないのではありませんか?」
いい加減この埒のあかない状況に飽き飽きしていた政宗はついつい挑発的な態度になってしまう、そんな主に続くように小十郎も追い打ちを掛ける。
「きっ、貴様らぁぁぁぁ!!!華琳様が名を答えろと言っているのになんだぁ、その態度は!!これ以上の無礼を働くというならここで・「お黙りなさい!!春蘭!!」かっ、華琳様!?」
「これ以上、私の誇りに泥を塗ると言うのならここで処刑するわよ?・・・今回は私の浅慮が招いたこと、いくら怪しい者であったとしても礼を欠いた私の責任よ。あなたたちには謝罪するわ・・・」
華琳の対応を見て、双竜は考えを改める。ただの傲慢なお嬢様かと思っていたが・・・なるほどこいつはかなりの大物だと。彼女の器というものが予想していた物よりも大器であったと・・・。
「改めて名乗らせてもらうわ・・私は、姓は曹、名は操、字は孟徳。そしてこの子が夏候惇、こっちの子が夏侯淵よ」
「・・・・大器なわけだぜ・・なぁ・・小十郎?」
「申し訳ありませぬ、政宗様・・・この小十郎、少々頭痛が・・・」
目の前の少女がまさかあの曹孟徳だとは思わなかった。俺たちはこの世界で一体何回、呆然とするのか・・・そんなことを考える二人に曹操が声を掛ける。
「さぁ、こちらは名を名乗ったわ。次はあなたたちの名を聞かせて頂戴?」
「そうだな・・・、俺の名は伊達政宗、こっちが片倉小十郎だ。日ノ本は奥州の国の生まれだ」
この名乗りに曹操らは首を傾げる。
「ひのもと?おうしゅう?秋蘭、この地名に心当たりは?」
「申し訳ありません華琳様、私にも覚えがありません・・・」
「またっ!!適当なことを抜かし「姉者、落ち着け・・」うぅ~秋蘭・・」
やはりというか、当然のことだが、彼女らは日ノ本や奥州のことを知らなかった。双竜もこの反応は予想していたが、やはりやりきれない気持ちになる。ここは本当に日ノ本ではないのだと大昔の大陸なのだという現実を直視せざるを得ない。
「政宗・・と言ったわね?ひのもとやおうしゅうというのはどこにあるの?」
「Ah~ 説明してやりたいんだがな・・・まずは場所を変えねぇか?少しばかり長くなる話なんでな」
場所を変えようという提案に曹操は素直に応じた。夏候惇はなにやら不満気のようだが・・・とりあえず近くにあるという町に行くことになったのだった。
町にある集会場のようなところに案内され、政宗はこれまであったこと、自分たちが何者であるかを話し出す。日ノ本での謎の光のこと、気づいたらこの地にいたこと、盗賊に絡まれたこと、自分たちが未来から来ていること、そして己の出自といったことを全てを話した。まさか、自分の口からこんなCrazyでFunnyな事を言う日が来るとは思いもしなかったと苦笑する。
「うぅ・・つまりは・・なんだ?お前たちはこの世界の人間ではなくて・・・未来のこの国・・いや未来のひのもとの国おうしゅうの・・あぁっ!なんだかよく分からないがとりあえずとても信じがたい話ということですよね!華琳様?」
「そうね・・・でも私がこれから名づけようと思っていた魏の名を知っていた、あなたたちにもまだ言っていなかったのに・・・。それに政宗も小十郎も嘘を言っている様には見えないし・・・やはり真実なのかしら?」
「華琳様!もしやこやつら五胡の妖術使いでは!?」
夏候惇はどうやらよく分かってないようだが、曹操は大体のことを理解してようである。ホッと一息つく双竜であったが夏侯淵の一言でこの場にまた緊張が走る。
「華琳様!!御下がり下さい!魏の王となるべき御方が、妖術使いなどといった怪しげな輩に近づいてはなりませぬ!!」
夏侯淵や夏候惇は曹操を守るように立ち上がり手にした剣と弓を双竜に突きつける。対する双竜はこの世界に来てから何度目になるか分からないため息を吐き弁解する。
「おいおい、今までの話を聞いてたのかよ・・・どこをどう取ったら妖術使いなんてCrazyな発想が出てくるんだよ・・・」
「政宗様の言う通りだ・・・もう少し冷静になっちゃくれねぇか?やかましくて敵わねぇんだがな?」
「妖術使いが指図するんじゃない!!おとなしくこ「ハァ~・・・春蘭、秋蘭も武器を納めなさい」かっ、華琳様~なぜですか~。
「私の勘が告げているのよ。政宗たちは真実しか言っていないと・・・そして私の覇道に欠かせない者となると・・・ね」
曹操の言葉に渋々納得し、武器を納める二人を曹操は満足そうに見つめる。対照的に双竜はその二人を苦い顔で見つめるのであった。
「ふぅ・・・落ち着いたところで、政宗、小十郎、あなたたちこれからは自分たちの出自を聞かれたとき天の国から来たと説明しなさい」
「What's? なんのジョークだよ?」
「冗談だろう?そんなバカげた話を俺たちにしろと?」
曹操の提案に双竜は噛みつく、二人からしてみればそんな与太話を自分の口から言うなんて、とても耐えられるものではないのだ。しかし曹操は泰然としてその不満に答える。
「あら?だったら妖術使いや未来から来た未来人とでも言う?そんな突拍子もない話よりも分かりやすいと思うのだけれど?」
「・・小十郎・・・」
「政宗様・・・今は堪え時かと・・」
(まさか、竜の通り道の遣いになるとはなぁ・・・)
天など所詮、竜の通り道に過ぎないと言ってきた自分が、その通り道の住人になるとは考えてなかった。しかし、結果的に双竜はその提案を受け入れる。理由は、妖術使いや未来人と言われるよりはましと判断したからであった。
「なんと!!この凶悪な人相の男たちは天の使いだったのか?」
「あ~・・・うん、姉者にはその方が理解しやすかろう・・・・」
夏候惇のとぼけた様子に双竜は呆れ返るのであった。
「さて、大きな疑問が解決したところで、もっと現実的な話をして良いか?伊達に片倉」
「あぁ・・・あんたらが追ってた盗賊のことか・・・」
「正確には盗賊に盗まれた南華老仙の古書についてだ」
「♪~ あいつら見るからに小物って感じだったが、大したもんを盗んでやがったんだな」
「全くよ・・・そんなことより、あなたたちは連中の顔を見たのでしょ?」
どうやらあの連中、とんでもないものを盗んでいたようだ。果たしてその価値を理解していたのかについては疑問が残るが・・・
「まぁな・・・俺に絡んできたあの三人であるならな」
「確か・・・髭の男と背丈の低い男、そして太った男の三人だったな」
「少なくとも、情報の外見と一致してるわね・・・顔をみれば判断出来るかしら?」
「あんだけ特徴ある外見してんだ。むしろ忘れるほうがどうかしてるぜ」
政宗と小十郎はあの盗賊の情報を伝えていく。
「そう・・・なら私たちの捜査の協力をなさい」
「・・・そりゃつまり、あんたに降れってことか?」
「まぁ、有り体に言ってしまえばそういうことね。あなたたちの未来の知識、この曹孟徳の覇業の大きな助けになるはずよ?それに、あんな突拍子もない話を信じる者もそういないと思うけど?」
確かに曹操の言い分ももっともだ、何も知らない世界に放り出されているこの現状、何かに身を寄せるのは悪い案じゃない。だが、政宗は昔から誰かの下につくことを嫌った。かの関ケ原の合戦でも東軍総大将徳川家康に己の力で対等の関係を勝ち取ったのだ。ならば、今回もそうだ、独眼竜のプライドに懸けて一分の例外も許す気はない。例え世界が変わってもそれだけは己の不変の真理であり信念である。
「じゃあ答えさせてもらうが、Noだ・・あんたの下に付くつもりはねぇ」
「なんだと!!貴様ぁ、華琳様が直々にそう誘って下さっているのだぞ!!素直に軍門に下らんか!!」
「・・・・片倉・・あなたは?」
「魅力的なお誘いではあるが・・・この小十郎、今生、政宗様以外にお仕えするつもりはねぇ。政宗様が下らんというなら、ただそれに付き従うのみだ・・」
なるほどと曹操は少し思索に更ける、その横で怒髪天を衝く勢いで怒る夏候惇を夏侯淵が宥める。思索から覚めた曹操が切り出す。
「では、どうすればあなたたちが私に手を貸してくれるのか・・・条件を聞こうかしら?」
「HAッ!!そんなもん簡単さ・・・曹操、あんた俺と一騎打ちで勝負しな」
政宗の提案に息をのむ三人、夏候惇と夏侯淵は曹操にそのようなものは受けなくてよいと説得を始める。しかし、曹操は高らかに笑うとその提案を受け入れた。
「面白い、本当に面白いわね、あなた・・・いいでしょう・・・私の手で竜を曹魏で飼いならすわ!」
「竜を飼うか・・・いい度胸だ、曹孟徳さんよ!」
青白い顔で曹操を心配する夏候惇と夏侯淵、それとは対照に笑みを浮かべつつ、主の魂が日ノ本に訪れた泰平の間に腐っていなかったことを喜ぶ小十郎。
今、運命の歯車は動きだした。魏王と独眼竜の戦いが始まる・・・・
続く
少し長くなってしまったかな?と思いつつ第三話です。次の戦闘描写がうまく書けるか不安ですが・・・
とくかく筆頭の魏ルートでいくことにしましたのでよろしくお願いします。
それでは、ここまで読んでくださった方には最大級の感謝を!!
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第三話です。なにやら話が遅々として進んでいないような気がしないでもないですが・・・どうか見てやってください。