第一四章「修行!白玉桜での生活!(中編)」
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幽々子「出ました~、良いお湯だったわ~」
光助「はーい」
幽々子様がお風呂から出てきた時には、俺達の夕飯の支度は整っていた。
今日のメイン献立は、白米飯、大根と人参の味噌汁、それと鮭の西京焼きである。
後の小皿料理は妖夢さんが作ったそうだ。
うーん、一日目からして料理を作って食べるとは・・・死んだ身としては微妙な心境だが。
幽々子「まぁ~!美味しそう」
喜んでくれる人(幽霊か)が居るからそんなに心外ではないのだが。
来た時は見ていなかったのだが、台所の隣にテーブルと木製の椅子が置かれた小さな居間があった。
そこで毎回の食事もするのだと妖夢さんから聞いた。
食卓のそれぞれの席に着いた俺達は、夕食を頂く事にする。
幽々子「頂きま~す」
嬉しそうに手を合わせて食事を始める幽々子様に合わせて俺も手を合わせた。
隣の妖夢さんも同じく。
光助「・・・い、頂きます」
妖夢「頂きます」
机の配置は左側の幽々子様と、右側の俺と妖夢さんでテーブルを挟んでいる状態だ。
俺の目の前には幽々子様が嬉々として西京焼きを頬張っている。
そんな俺も自分で作った味噌汁を口元に運び啜った。
味噌もだしも用意されたものをそのまま使ったのだが、濃さはどうだろう・・・
・・・・んん、よし、我ながら中々良い出来じゃわい。
幽々子「モグモグ・・・それで~、ここに来る前はどんな風だったの?」
光助「え?あぁ、それがですね・・・」
妖夢「幽々子様、食事中に喋るのは品がありませんよ」
幽々子「いいじゃないの~、久々に人間と会話するんだから~」
制止する妖夢さんだったが、幽々子が続ける。
まぁ・・・食事の席なら当然来るであろう幽々子様の問いに、
俺は先ほどの軽い説明に加えて答え始めた。
間欠泉から抜け出した後、空さんに忘れ去られて地上に激突して死んでしまった事。
死神の小町さんに背中からダイビングキックされて"あの世"へ来た事。
裁判長の四季さんにとんでもない判決を受けた事。
と・・・ついさっきの時点で起きた色々な事を話し続けた。
幽々子「あはははは~、それは災難だったわね~」
光助「えぇもうね、それでですね~・・・」
俺の話に笑いだす幽々子様。
こうやって笑う事もあるんだな、この人(幽霊)は。
少しだけ遠かった親近感が近くなった気がした。
が、ここまで話した所で俺は"食卓"のある変化に気付いた・・・・
あれ?
副菜で作った筈の妖夢さん手製肉じゃががもう無くなっている。
話すスピードが遅かったからか?いやいやいや・・・
さっきの裁判長の話辺りまでだったら5分もしていない。
それに、食事が開始した時から妖夢さんが何やらせかせかと目線の隙間で動いている・・・・
ふと目の前の幽々子様を観察する。
もう一つの副菜である野菜炒めに箸が伸びたと思ったら・・・・既に消えていた。
これはもしかして・・・
光助「(食べるスピードが尋常じゃない!?)」
成程。
さっきから妖夢さんがしている行動は、幽々子様のお茶碗にごはんを盛るだけではなく・・・
"小皿の料理"も補充しているという事だった。
大食い選手権かと、心の中で突っ込みを入れながら俺も対抗するかのように西京焼きを頬張る。
数分後・・・
幽々子「あ~ごちそうさまでした~」
光助「ご、ごちそうさまです・・・」
妖夢「はい・・・お粗末さまです」
そんなこんなで大食い選手権もとい夕食は終わった。
ずっと隣で見ていたのだが、自分の分を食べながら副菜の補充をする妖夢さんに敬意を払う。
流石です・・・
妖夢「じゃあ食器を洗ってきますので、幽々子様は休んでいて下さいね」
幽々子「は~い」
妖夢「よし貴様、手伝え」
光助「はい」
そう言って幽々子様は隣の和室へと消えた。
俺も食べ終わった食器を重ねて台所へと運ぶ。
食器を洗いながら、俺は妖夢さんに話し掛けた。
光助「あの、もしかして毎日こんな感じなんですか・・・」
妖夢「そうだ」
何事も無かったかのようにさらりと答える妖夢さん。
洗い終わった食器のカシャカシャと重ねられる音がやけに耳に響く。
少し間を開けてから妖夢さんが喋り出した。
妖夢「だから言っただろう・・・少しは"楽しく"なるってな」
光助「あぁ・・・成程」
その"楽しい"は"一人分の苦労が減って精神的に楽"って事なのか。
確かにあれを一人でこなして行っているのは凄いと思う。
でも、妖夢さんは毎日大喰らいの主の為に補充と食事(あと指導)をバランス良く行っているのだろう。
そんな風に呟く彼女の背中は、何だか寂しそう(?)に見えた。
・・・・きっと俺なら小皿出してる辺りに徹してご飯食べれなくなりますよ。
妖夢さん。
苦労・・・・お察しします。
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妖夢「それで就寝と起床についてだが・・・」
食後の風呂が終わった俺は予備用の和物の寝着に着替え、就寝と起床の軽いレクチャーを受けていた。
起床は"白玉桜の上に月が昇ると同時"と言われたが、見たところ時計もない。
どうやって起きろというのか・・・そもそもちゃんと寝られるのかどうかも疑問である。
妖夢「・・・という事だ、分かったか」
光助「あの、この場所には時計ってないんですか?」
妖夢「言っておくが、ここには時間という概念はない」
光助「そ、そうなんですか・・・」
どうやらそういう事らしい。
でも夕飯とかって時間の概念があって成り立っているものじゃないのか。
しかし、あの食事風景を見る限りだと、"食"にはなんらかの拘りがあるように見える。
表現するなら別腹・・・いや、うまくはないか。
それじゃあどうやって起きろというのだろう。
感覚で起きろって事かな・・・・
幽々子「そ~れっ!」
ボスン!
微妙に納得のいかない考えに唸っていると、後ろでなにやら聞こえてきた。
どうやら幽々子様が妖夢さんによって敷き終った布団の上にダイブしたようだ。
妖夢「幽々子様、はしたない・・・・」
幽々子「いいじゃないの~・・・それで」
妖夢「はい?」
と、同時に大きな声でとんでもない事を言い放った。
幽々子「はいっ!光助が来たので今日は川の字で寝ましょう~!」
光助「!?」
妖夢「・・・って!幽々子!?」
川の字で寝る?!
妖夢「何を言っているんですかっ!?」
幽々子「えぇ~いいじゃないの、せっかくの新しい仲間なんだし~」
妖夢「いや駄目です!こういう事はしっかりと分け隔てをしておかないと・・・!」
幽々子「何か問題があるの?」
妖夢「当たり前ですよ!」
首を傾げる幽々子様に叱咤し、妖夢さんはちらりと此方を睨んだ。
・・・"察しろ愚か者"と言っているように見えたのは気のせいではなさそうだ。
見た所、幽々子様は余り男女仲(謎)については疎そうだし、ここは俺が気を利かせなくては・・・
光助「じゃ、じゃあ俺は隣・・・の隣の部屋を借りますね」
妖夢「あ、あぁ・・・布団は押入れに仕舞ってあるからそれを使うように、以上!就寝!」
俺の意見に勢いよく相槌を打つ妖夢さん。
そう言って現在の部屋から隣の隣の部屋へ移動したのだが・・・
妖夢「・・・って!なんで幽々子様までそっちについて行くんですかっ!?」
光助「えっ?あれっ!?」
幽々子「ふふふ~」
妖夢さんの大声が聞こえてきたので後ろを振り返ると、
布団を両手で抱きしめた幽々子様が俺の後ろについていた。
妖夢「私の言ってる事、分かりませんか!?」
幽々子「わからな~い」
と、なんとも楽しそうにこたえる幽々子様。
もう・・・・何だかお泊まり会のような現場である。
暫く唸り声が聞こえてきたかと思うと、妖夢さんが叫んだ。
妖夢「う~っ・・・・もうっ!じゃあ私もそっちへ行きますから!」
光助「エェエ?!」
幽々子「寂しいんでしょ~」
妖夢「ち、違います!幽々子様が心配なだけです!」
何と妖夢さんもこの部屋で寝るらしい。
・・・・羽毛布団なだけに、うーもう。
妖夢「あ?なんだ?」
光助「なんでもないです」
幽々子「最初からそうすればよかったのよ~」
何とも勝ち誇ったように笑う幽々子様。
妖夢「うぅう・・・・・・・・おい貴様!」
光助「えっ?はい・・」
いきなり物騒な声で呼ばれて返事をする。
そしてつかつかとこちら歩み寄り、俺の耳元で鋭く囁いた。
妖夢「妙な事をしてみろ・・・・分かっているな」
光助「は、はぁ」
まぁ女の人なら男を警戒するのは正しいと思う。。
・・・・いや、俺の中にも人間のモラルと常識があるからちゃんと気にするけど。
しかし、見かけで判断してはならないというのも幻想郷で学んだ事だが。
キスメもそんな概念無いっていってたもんな。
地霊殿で入った彼ら妖怪の風呂場は男女の仕切りが無かった。
それはつまり、彼らには性別が無いに等しいという事なのだろう(推測であるが)。
・・・でも幽霊ならどうだろう?
妖夢「・・・・・・・信用ならん」
そう言うと、俺の隣に布団を敷こうとした幽々子様を遮り・・・
なんと俺の布団と幽々子様の布団の間に陣取ったのだ。
妖夢「私が間に入る、文句は無いな」
光助「は、はぁ・・・」
幽々子「あら妖夢、そんなに光助がお気に入りなの?」
妖夢「違いますっ!」
いちいち慌てる妖夢さんに苦笑する。
あれだけ鬼軍曹だった彼女もこう狼狽することもあるんだな。
妖夢「就寝っ!おやすみなさいっ!」
幽々子「おやすみ~」
光助「お、おやすみです・・・」
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しかし予想通り、眠れない。
先程妖夢さんが就寝の合図と共に電気を消したから部屋は真っ暗なのだが、
どうも落ち着かない・・・幽霊とはいえ、隣に女子二人状態で眠るというのは。
先程の妖怪論だが、本来持ち合わせている常識には勝てそうにない。
緊張しちゃうよ、普通。
・・・そういやここ(幻想郷)に来てからというもの、男性一人にも会わないな。
いや、別にそんな会いたいという訳ではないが、やはり同性ならではの安心感はあるだろうし。
そんな事より、明日も早いし眠らなくては・・・・
幽々子「・・・ねぇねぇ」
光助「?」
横から誰かが呼ぶ声がした。
どうやら幽々子様らしい。
光助「・・・何でしょうか」
ゴソゴソと音を立てながら上半身を起こし、小声で返す。
幽々子「貴方がここに来る前の話をもう少し聞かせて貰えないかしら」
光助「え?・・・・でも妖夢さんが起きたら・・・・色々大変ですよ」
幽々子「大丈夫、妖夢は一回寝着くと中々起きないから」
そうなんですか・・・・
試しに横で眠る銀髪頭の少女を見る。
彼女は何とも気難しいしかめ面で眠っていた。
時々歯ぎしりも聞こえる。
成程、確かに眠っている。
・・・・快眠ではなさそうだが。
光助「じゃ、じゃあ・・・俺が幻想郷に来る前の話でもしましょうk」
幽々子「ここじゃ聞き取りにくいから~・・・」
光助「?」
これから俺のどうでもいい生い立ちをストーリー調で話そうとした矢先、話を切られてしまう。
そして、幽々子様が此方に見える様に布団から手を突き出して"おいでおいで"をした。
・・・・え?
それは一体どうゆう。
幽々子「こっちに来て~」
光助「!?」
なんですって?
光助「・・・・・何でですか」
幽々子「聞きにくいからよ~・・・ふふふ大丈夫、変な事はしないわ~」
と、にやにやと笑いを浮かべる幽々子様。
変な事って何でしょう。
いやいや、それは流石にまずいのではないだろうか。
幽々子「主命令よ~」
と最後は最終命令を出してくる。
・・・・・・・あぁもう。
と、しょうが無しに俺は布団から這い出て妖夢さんの敷かれた布団の傍を静かに歩き、幽々子様の布団の隣に伏せた。
光助「じゃあ、ここで話しますよ・・・え~」
幽々子「そこじゃあ寒いでしょ~?中に~♪」
光助「はっ!?・・・い、いやぁそれは流石に」
幽々子「嫌~?」
光助「い、いや別に嫌って訳じゃ」
幽々子「じゃあいいでしょ~?・・・・えいっ」
ガシリ。
光助「えっ?うわっ!ちょっ・・・///」
なんと俺は寝着の帯を掴まれて幽々子様の布団の中へと引き摺り込まれてしまった。
中に入った途端に広がる、自分とは明らかに違った他人独特の匂いと温度。
仄かに漂う香水のような花の香り(種類はわからないけど・・・)がした。
そんな未踏の感覚に、俺は緊張で息と心臓が止まりそうになる。
幽々子「いらっしゃ~い」
光助「あ、あの///」
幽々子「じゃあ・・・話してちょうだいな~」
真っ暗ではあるが、静かな息遣いが頬にあたるのを感じた。
ということは・・・・幽々子様の顔が目の前にあるって事か。
光助「あっと、えっと」
幽々子「緊張しちゃう?」
光助「あ、当たり前ですよ・・・・///」
彼女とのその差ミリ単位。
ひょっとして心臓の鼓動も聞かれてしまうのではないかと、少し海老反りになる。
が、話してしまえば元の布団に戻れるのだから、ここは我慢か。
光助「じゃ、じゃあ話したらちゃんと寝てくださいね」
幽々子「わ~い」
光助「あ、それと話が終わったら俺は元の布団に帰りますからね」
幽々子「えぇえ~?」
光助「"えぇ~"ではございません///」
まさか一晩このままだと思っていたのか。
そんな事をしたら妖夢さんに真剣で斬られてしまうかもしれない。
そんなこんなな切羽詰まった状況で、俺は幽々子様を寝付けさせる為に話を開始した。
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光助「・・・・~って訳です」
あれからどれ位経っただろうか。
俺は話を出来るだけ短くしようとしたのだが、どうも幼稚園時代から学生時代までの思い出話をしてしまったようだった。
面白そうに"それでそれで?"とか"へぇ~"とか相槌を打ってくれる彼女に乗せられるがまま話してしまった結果だが・・・
少しだけ慣れた幽々子様の布団の中での会話は終わる。
舌も饒舌になってきたし、そろそろ戻っても良い頃だろう。
光助「これで全て話ましたよ・・・・あの、そろそろ宜しいでしょうか、夜も遅いし・・・」
幽々子「・・・・・」
光助「?」
しかし返事がない。
光助「あの・・・」
と、ここで気付いた。
話の途中で幽々子様は・・・・
幽々子「くー・・・」
既に眠っていたのだ。
先ほどから相槌を打つタイミングがずれて来たのが境だったか。
暗闇で慣れた俺の視界には、寝る前の童謡を聞かされた後の子供の様に安心しきって眠る幽々子様の寝顔があった。
その静かな寝顔にどことなくルーミアの面影を重ねてしまう。
・・・・・そういや、あいつらは今頃なにやってるんだろうな。
ふと幻想郷に置いてきてしまった彼女等が気になる。
ルーミアの"非常食予約"はちょっとどうかと思ったが、やはり長く旅を共にした仲だし心配だ。
小悪魔はパチュリーさんに怒られるだろうし、チルノは・・・論外か。
うーん・・・色々考えていたら俺も眠くなってきたな。
なにはともあれミッションコンプリート。
さて、俺も寝床へ帰るか。
が
体が動かない。
嫌な予感がして少し体を捻ると・・・
幽々子「ん~・・・zzz」
光助「!?」
俺の体は、もう・・・ものの見事に幽々子様の抱き枕になっていた。
試しに腕を外そうと試みるものの・・・固い。
そこまできつく抱きついてはいないものの、腕と腕が絡まっていて、どうやったって解けそうになさそうである。
まずいな・・・
地霊殿の旅館では眠っていた勇儀さんの足首ロックを外せなかった場合でも言い訳は出来た。
今回ばかりは状況が違う、本格的にまずい。
光助「(妖夢さんが怒り狂う・・・・!)」
きっと竹刀の喝どころか、真剣が出てくるだろう。
それこそ二度死んでしまうかもしれない。
考えただけでも背筋が凍るが、幽々子様の体温がそれを和らげる。
幽々子「んっ・・・」
光助「え?・・・・うぅう?!」
あれこれ思案している内に、幽々子様が小さく呟いたと思うと"ぎゅむ"と抱き締められてしまった。
身長差は頭半分程だが、自分の胸元を女の子に埋められるのは・・・・恥ずかしい通り越しちゃって困る困る。
心臓がこれ以上ない程にドキドキと鼓動し、息も荒くなる。
・・・くそぅ、不謹慎だよ!一応ここで保護して貰ってるのに・・・
と、一瞬"妙"な考えを浮かべた自分にを入れた。
光助「(・・・出なくちゃ)」
やはり出なくては。
この結論に限る。
そう自分に言い聞かせると、心の中で色々な体制でこの人体の知恵の輪を外す考えを巡らせる。
体を思いっきり捻ってスクリューのように抜け出すか。
いやいや・・・ミミズの様にのたうって下に出るか。
もうちょっとマシな・・・そうだ、いっその事起きてしまうというのは・・・
いや、幽々子様を起こしたくない・・・もっと穏便に。
しかし、こんな状況でも暫くしていると睡魔が襲ってくる。
光助「(くそ、まずいな・・・なんとか外さないと・・・)」
そうして俺の瞼はどんどん重くなっていく。
光助「(妖・・・夢さ、んにころ・・・さ・・・)」
まどろみが深くなってきて、限界が近付いた。
光助「(幽々、子、さま・・・もう、しりませ・・・んですからね・・・)zzz・・・・」
遂に俺は眠ってしまった。
-・・・続く-
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14章の中編です。
色々恥ずかしかった・・・・色々と