No.62897

真・恋姫†無双 魏END 外伝 ~愛、千里 ~前編

南風さん

作品、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。そして次章完結といっておきながら、前編となってしまいました。その点もふまえて感想をお願いします。
この作品は真・恋姫†無双 魏END 外伝 第1~5章のさらに続きです。そちらを読んだ方が話がよくわかります。5章がランキングに入りました。これも皆様のおかげです。ありがとうございます。

2009-03-12 11:37:07 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:21735   閲覧ユーザー数:14070

真・恋姫†無双 魏END 外伝

~愛、千里~ 前編

 

二つの喜びを祝う歌が響く。

 

一つは五胡を撃破したこと。

これにより平和の基盤は盤石なものとなる。

 

もう一つは北郷一刀が帰ってきたこと。

誰もが待ちわびていた・・・・・涙を堪え・・・・・・・・・・

悲しみを堪えながら・・・・・。

皆が待ちに待った日が来たことが嬉しくて。

 

そう今魏は宴の真っ最中!!

 

 

「それにしもいいのか?今は大陸一の歌手なんだろ?俺なんかと一緒にいたら・・・・・。」

一刀の右腕には地和が左腕は人和が抱きついている。

天和は、一刀の前で一刀に寄り添うように歩いている。

 

「そうね。これがファンに見つかったら大変。」

「えぇ~でも、一刀と離れて歩くのは嫌だよ、お姉ちゃん。」

「いいじゃん、見つかって瓦版に書かれても。」

先程から三人は笑顔が絶えない。

三人はこの瞬間を待ちに待っていた。

だから嬉しくてしょうがない・・・・・。

「おいおい・・・・・。」

一刀も気持ちが同じなため強く言えないでいた。

今、この一瞬一瞬を大切にしたいから。

 

「あ、兄ちゃんだ~。」

「兄様!」

四人で歩いていると両手に沢山の荷物を抱えた二人が前から歩いてくる。

「季衣・琉々!・・・・・どうしたんだ、その荷物?」

「ん?肉饅でしょ――「もういい、わかった。」――ほぇ?」

「その荷物、全部食い物なんだろ?・・・・・琉々はお手伝い?」

「えぇ・・・・・そうです・・・・・・・・・・。」

なぜか視線を合せてくれない琉々に一刀は違和感を覚える。

「どうした、体調が悪いのか?」

三姉妹を離し、琉々の頭を撫でる。

「ぶ~、一刀~私も~」

「姉さん、さすがにそれは・・・・・。」

「ふん!」

後ろからの不平不満は聞こえない聞こえない。

「荷物なら俺が運ぶけど?」

「そんなこと許さないわよ一刀!」

「おいおい、無茶言うなよ。それにもうすぐ舞台だろ?楽しみにしてるよ。」

「ぜ、絶対だからね!見に来なさいよ!」

「もぅ仕方ないな~。じゃあ一刀待ってるよ~。」

「ごめんね、一刀さん。それに琉々も・・・・・じゃあ舞台見に来てね。」

そう言って駆けていく三人の背中を見送る。

「じゃあ俺たちも・・・・・あれ?」

そこに二人の姿はなかった。

「俺、何かしたかな?」

 

 

「いいの琉々?兄ちゃん驚いてるよ?」

「そういう季衣だって一緒に走ってきたじゃない。」

「それは・・・・・琉々が走ったから・・・・・。」

「もぅ、人のせいにしないでよ!」

「で、でも、その通りなんだから仕方が無いじゃんか!」

「なによ!」

「なんだよ!」

二人は武器を取り出そうとするが持ってない。

代わりに持ってるのは大きな袋に入った食べ物の山。

「兄ちゃんと食べようと思ったのに・・・・・。」

「けど兄様、他の人と一緒にいたよ。」

「それは仕方がないよ・・・・・けど・・・・・・・・・・・」

「兄様、何か変ったね・・・・・頭撫でてくれたけど、何か違う気がするの・・・・・」

「琉々もそう思う?」

「うん。でもそれが何か悔しいの。変わったことが悔しくて羨ましく思う。」

「なんでだろうね?・・・・・ボク達が変なのかな・・・・・?」

「知らない・・・・・」

幼い少女達は初めての気持ちに戸惑っていた。

愛しい兄が帰ってきたのにそれを素直に喜べない。

この一瞬で少女は女へと変化したというのは本人自身知らない。

この二人の女性の闇は宴の喧騒にのまれていった。

 

一方その頃、北郷一刀自身も途惑っていた。

二人と別れて悩んでいた一刀の前に現れたのは風と稟。

二人に声をかけ、稟と目を合わせた瞬間、

「ブ、ブブブ・・・・・ブーーーーーーーーーーーーーー!!」

鼻血が特大のアーチをかいた。

「フ、フガ・・・・・フガ・・・・・・・・・・」

そして倒れた稟を中心に広がる血の池。

 

まるで地獄に来たみたい。

文字通り出血大サービス。なんちゃって!

 

「そういうこと考えてる場合じゃないぞ俺!」

そう、冷静になるんだ!

「風、助けてくれ!いくらなんでも酷過ぎる。さすがに死ぬぞ!」

そういって風に目をやると、

「む~~~~。」

頬を膨らませ明らかに不平不満をしめしている。

「なんでお怒り!?というか本当に稟を助けてくれ!」

風はため息を吐いて、稟に近づき足を持つ。

「仕方が無いのです。お兄さん、前にも言いましが・・・・・風は放置されて喜ぶ変態さんじゃないのですよ。それに、そんなお兄さん見たくないのです・・・・・・・・・・。」

「っへ?」

「では、稟ちゃんをお医者さんに診せてきますので。」

そう言って稟を引きづりながら、風は闇に消えていった。

「ここでもか・・・・・俺、何かしたかやっぱり・・・・・・・・・・・。」

 

 

一刀は考えていた。

皆を怒らす理由はある。一年以上ほっておいたということ。

それで怒られている?

でも、皆は俺に会って喜んでくれたし、俺も嬉しかった。

「何が何だか・・・・・。」

嫌われたか、知らないうちに裏切ったか・・・・・。

「じゃあ、何で俺はまだここにいる?」

わからない。

「はぁ~」

 

「そんな、でかい溜め息ついとったら早死にすんで?一刀。」

「霞か・・・・・」

「何や、せっかく会いに来たってゆうのに。」

ぶーと言わんばかりの表情をする霞に、

「いやな・・・・・」

ごめんと言いながら、俺は今まで何があったのか話した。

「それ、本当に何でそうなったかわからんの?」

「わからないから聞いてる。」

「はぁ~、まぁ~一刀やもんな~。仕方がないとゆったら仕方がないか・・・・・。」

「何だよ霞まで。」

「そんなん一刀が考え。ちなみに、うちも同じ気持ちやで。」

霞は一刀の首に腕をまわし顔を近づける。

「皆、一刀が帰ってきて嬉しい。嬉しくて仕方がない。」

「うん・・・・・」

「なんたって一年以上もほっておかれたんや、好いた男に。」

「あぁ・・・・・」

「せやから皆、考えることは一緒や。」

「だから、それが・・・・・」

「わからへんじゃ許されへんよ。一刀は皆を女にした責任があるから。」

「なぁ・・・・・一刀?一刀の性格じゃ無理なのはわかってる。うちもふくめて、そんな一刀に皆が惹かれたんや。でも、でも、うちらかて女なんや。我が儘なのは重々承知してる。それでも・・・・・・・・・・。」

「霞・・・・・?」

何かを言いかけて口を閉じ俯いてしまう。

「何でもないよ・・・・・向こうに凪達がおったから顔をみせたり。」

そう言って霞もどこかへ行ってしまう。

最後、顔は見えなかった。

けど、

「泣いてた・・・・・?」

何が何だか本当にわからない。

俺は元々、鈍感な方だ。皆のお墨付きまで貰ってる。

「さらに拍車がかかったみたいだな、俺。」

考えてもあれか・・・・・凪達は向こうだな。

 

一刀の背中を見つめるものが一人。

「一刀は、その眼で誰を見てんの・・・・・?うちじゃないの・・・・・?」

 

凪達に会って話をした色々な話を。

今、隊長は凪が副隊長として真桜が、沙和は張三姉妹の連絡役をしていること。

俺がいなかった一年間で何が起きたのかを。

楽しい時間が流れる。

次は春蘭達にあいさつしようと思い三人に別れをいう。

その去り際に、

「私たちにとって隊長はいつまでたっても隊長です。」

「うん、ありがとう。」

「いつまでも部下として一人の女としてお慕い申しております。例え隊長が・・・・・誰をお選びになっても・・・・・・・・・・。」

「えっ?」

「では、失礼します!」

「隊長、うちらかて女の子なんやで!」

「そうなの、少し悔しいけど沙和はそれでもいいの!」

そういって駆けていく三人の背中を見送る。

これで何回目だろうな見送るのは・・・・・。

 

 

俺が思ったとおり春蘭と秋蘭は二人で飲み合っていた。

「一刀ではないか、どうした?」

「二人に会いに来たんだよ。それにしてもいつのまにか、北郷から一刀って普通に呼んでくれるようになったな。」

「それは思っても口にしなものだ、一刀。」

「あぁ、ごめん。・・・・・なぁ秋蘭?」

「どうした?悩みなら相談にのるぞ。」

「こんな事を聞くのは間違いだってわかってる。でも聞きたいことがある。」

杯を口に運ぶのを秋蘭がやめる。

「その質問に答えるのは私ではいけないのか?」

「あぁ、秋蘭なら俺が駄目なとこは駄目とはっきり言ってくれるから。」

杯を置くと秋蘭は俺に向かいなおる。

「ならば聞こう。」

「ありがとう・・・・・今、俺が何を考えてるのかわかるか?」

「・・・・・あぁ、嫌なほどにな。」

「なんでわかったのかな?」

「女の勘・・・・・とでも言おうか。一刀の前にいるのは私だ。だが、お前は私を見ているようで見ていない。お前は瞳の奥で違う人を見て考えている。そんな感じがする。」

「そう・・・・・か。」

「うむ。そのせいで、今まで可愛かった猫が虎になってしまった。」

秋蘭の口が不気味に笑う。

俺は恐る恐る後ろに視線を運ぶ・・・・・そこにいたのは、

「ふーーーーーー!!」

今にも襲ってきそうなほどに怒りをためた春蘭。

「W、Who・・・・・・?」

「一刀のばきゃーーーーー!!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁ~~~~~!!」

飛びかかってきた春蘭に爪で引っ掻かれて引っ掻かれて・・・・・

最後は、

「猫拳!!」

と言って殴られた。

酔ってたとしても猫化してたとしても、そこは魏武の象徴・・・・・。

俺の意識は即座に闇の中に落ちて行った。

薄れゆく意識の中で覚えているのは春蘭の雄叫びと秋蘭の笑い声だった。

 

目が覚ますと見覚えがある天井が目の前に広がる。

「ここは、俺の部屋か・・・・・?」

俺が居た時と何一つ変わっていない。

「そうか、残しておいてくれたんだな。」

「ありがとうな、華琳。」

そう、目が覚めて天井の次に目に入ったのは椅子に座った可愛い寝顔の華琳だった。

「約束破ってごめん。」

軽く頭を撫でる。

「んっ・・・・・すぅ~~~。」

そんな可愛らしい反応に笑みがこぼれる。

「天和達にも謝らなくちゃな。」

外から聞こえてくるのは、三人の歌声。

「でも、これはこれで特等席かな。」

誰にも邪魔されず三人の歌声が聞こえる。心を静かにして。

 

「なぁ華琳・・・・・。」

「俺さ、戻ったら告白しようと思ってたんだ。」

「華琳だけじゃなくて皆にね。それが、けじめだと思ってた。」

「だけど、まずは華琳にしようって・・・・・それは俺が華琳のことを愛してるから。」

「でも俺は他の皆も愛してる。・・・・・節操が本当に無いって自分自身やっと実感できたよ。」

「しかも、華琳を一番って考えてたら皆を逆に不安にさせたみたいだ。」

「だから、俺決めたんだ。」

 

 

私が覚えてるのはそこまで。

好きな男が私の頭を優しく撫でてくれた。

そして何かを決心した。

そこから私はまた眠りについたの。

 

 

 

 

宴から五日が過ぎた。

呉と蜀の軍勢を見送って、事後処理に追われた日々だった。

俺も宴の次の日から警備隊と張三姉妹のマネージャーとしての仕事についた。

そして、今日はいつも通りの朝の会議。

その最後に華琳にこう言われた。

「一刀、明日からの十日間で魏の主要の都市を視察してきなさい。」

「それはかまわないけど、何で俺?」

「単純に天の御使いたるあなたが帰ってきたと都市を中心に知らせる。書簡とかよりも目で見た方が皆納得するわ。それにより、魏はさらなる平和への基盤を手に入れる。視察と言ってもただの旅行みたいなものよ。」

「なるほどね、わかった。」

「じゃあ、よろしく頼むわね。旅の護衛は親衛隊から選りすぐりを選抜しておくわ。」

「ありがとう。」

「では、今日の会議はこれまでとする。解散!」

 

 

そして朝早く俺は護衛を数十名連れて旅に出た。

誰も見送りに来てくれなかったのは寂しいと思う。

「でもまぁ、仕方がないか。」

ここ五日間は皆俺を軽く避けているようだった。

「けど、十日後か・・・・・楽しみだ。」

俺はそれよりも帰ってくる日が楽しみでしょうがなかった。

それはなぜかって?

秘密だぜ?

 

 

 

一刀が旅立った朝の会議、その日魏に嵐が巻き起こった。

「今日から九日後、そう一刀が帰ってくる前日に一刀をかけて皆で戦いましょう。」

「「「!?」」」

華琳の一言に誰もが驚く。

「参加は自由。時刻は日が昇ってから次の朝日が昇るまで。戦い方は自由よ。けれども、何かしらの勝負をして一度でも負けた場合その者はそこで失格よ。最後のまで立っていた者の勝ち・・・・・簡単でしょ?」

「褒美は稟が考えていた一刀を一日ではなく、一月自由にしていいわ。」

「場所は許昌の都の内部だったらどこでも良いわ。けど民たちには迷惑をかけないようにね。」

「お言葉ですが華琳さま、それはいくらなんでも一刀の意思を考えなさすぎでは?」

「それに、政務に支障をきたすのでは?」

「それもそうね。だから参加を自由にしたのよ。仕事を残すようならその者には元々参加権なんてないの。一刀に関しては言わなくてもわかるわよね?・・・・・あなたたちなら。」

「それは・・・・・確かにあやつは優しく皆を等しく扱ってくれます。」

「だからよ。・・・・・そんな一刀に皆は惹かれた。けど女として一番でいたいって考えるのも当然でしょ?」

「「「・・・・・・・・・・。」」」

それは誰しもが考えて、押し殺してきた感情。

「これは、あのうじうじ悩んでいる一刀のためでもあるのよ・・・・・他に意見は?」

「「「・・・・・・・・・・。」」」

「何か変更があったら、その度連絡しておくわ。参加するものは始まる前日までにこの書簡に名前を書いてね。沙和は、張三姉妹にこの度の事を連絡してくれるかしら?」

「了解なの」

そういうと華琳は書簡を玉座の上に置く。

「この玉座まで登り名前を書く、それ以上の覚悟がこの戦いには必要になるわ。それを忘れないように・・・・・では、解散!」

 

 

そして九日がたった。

 

参加者に変更の連絡が来たのは一度だけ。

 

戦いを開始するにあたって、自身の好きな場所からはじめなさい。

 

それだけだった。

 

そして、朝日が昇る前に参加者の名前が発表される。

 

「曹操、夏候淵、程昱、郭嘉、楽進、典韋、張遼、許緒、李典、于禁、夏候惇、張梁、

張宝、張角、荀彧。」

 

なおこの順番は書簡に明記されていた順番でもある。

 

そして、張三姉妹は名前が広がると問題が起こる可能性があるといことから、参加者以外には匿名として明記されている。

 

そして、朝日が昇り銅鑼の音が許昌の街に響き渡る。

 

今ここに女同士の維持と誇りをかけた戦いがはじまる!!

 

ちなみに、どこからか話が漏れて許昌の民の中では一種のお祭りとされて、

なおかつ賭けの対象となっているのは別の話。

 

 

 

――玉座の間――

「あら、まさかこんなに早く見つかるなんてね。」

 

「華琳さまなら、ここにおられると思っておりましたから。」

 

「そう、さすがね・・・・・。しかもこの戦いに立候補してるんだから、よほど一刀の事が気に入った?」

 

「あ、いえ、えっと、その・・・・・。」

 

「素直じゃないのね、まったく。今回は私のためとかにはならないわよ。」

 

「・・・・・それは、承知しています。」

 

玉座の間の窓から朝日が指す。

 

朝日に輝くのは金色の髪と青い瞳。

 

そしてもう1つ、漆黒の長い髪に赤い瞳。

 

「で、武器を持っていることから単純に戦うと思っていいのね?・・・・・春蘭。」

 

「はい!もとより私にはこれしかありませんので!」

 

「ふふっ、でも負ける気はないわよ。」

 

「私とて譲る気はありません!!」

 

二つの影が武器を掲げ朝日をあび交差する。

 

ガキン!!

 

玉座の間で王と忠臣の戦いがはじまった・・・・・・。

 

 

 

――北郷警備隊、隊舎――

「ふぅ・・・・・。」

武器をつけ鎧をまとって気を体に充実させる。

「私は武官だ・・・・・これしか方法はない・・・・・・・・・・。」

だが、魏には自分より強い人が沢山いる・・・・・。

「それでも・・・・・。」

自然に拳に力が入る。

最初はなぜあの男が自分たちの上司かと思った。

華琳さまに気に入られている、本当にそう思った。

だけど、違った。

あの人の凄いとこは、そんなとこではなかった。

だからこそ惹かれた、好きになった、こんな傷だらけの私を可愛いと好きと言って抱いてくれた。

最初は、三人で皆で好きあっていればいい、そう思った。

けどいつからか自分が一番でいたいと思った。

そして、今回の華琳さまの一言・・・・・

私は・・・・・私は・・・・・・・・・・

悩んだ、だが時間はかからなかった・・・・・

そう、私は友よりも仲間よりも・・・・・

女であることを選んだ・・・・・

けど、自分が勝ったら皆で一刀をいつも通りに接しよう・・・・・

あきらかな矛盾・・・・・

だけど、自分が一刀のそういうとこに惹かれたのも事実・・・・・

だから私は・・・・・

「全てはあの方のために・・・・・。」

隊長、いや一刀さまのために戦う!

 

――城壁上――

ここは、都を守る城壁のさらに内部、城を守るための城壁。

そしてその城壁の門のちょうど真上にある櫓。

そこで、静かに銅鑼を聞き朝日を見つめている者が一人。

「・・・・・・・・・・。」

一刀という男は興味深い。

ただの軟弱者かと思えば違い、

ただの魏の種馬かと思ったが違う・・・・・。

「っふ、私としたことが何を考えているのだか・・・・・。」

以前質問した時、

一刀は、二人を除けば一番と言った。

それも、また魅力の一つかもしれん、だが・・・・・。

「お前はすでに、私の中で一番だよ・・・・・。」

 

朝もやのかかる街を見下ろして大通りをこちらに歩く人影が一つ。

それは見慣れた人影。

「・・・・・凪、か・・・・・。」

城壁の人物は静かに弓を構える・・・・・。

「私とて譲れぬ思いがあるからな。悪く思わないでくれ。」

そうして、矢を力いっぱい引く。

「夏候妙才、いざ参る!!」

 

 

ヒュ!!

何が起こったかすぐに判明した。

わずかに殺気を感じ避けた。

そしてさっき、自分の頭があった場所に矢が通り過ぎる。

「この弓の腕・・・・・秋蘭さま!」

そうして、矢が飛んできた方向を見るとはるか彼方の城壁の上にいる秋蘭が見えた。

「一刀さまのため、負けるわけにはいかない!・・・・・でぇい!」

 

「っな!」

秋蘭は驚愕した。

凪が自分が放った矢を避けた。それはいい。

だが次の瞬間、凪は足を振り上げここまで気弾を飛ばしてきたのだ。

ドォン!!

「っふ・・・・・ここまで飛ばして、しかもこの威力か・・・・・。」

凪の気弾を避けた秋蘭だが櫓の壁と屋根が一部吹き飛んでいた。

「これが凪の底力か・・・・・ふふっ。」

 

秋蘭はゆっくりと立ち上がり凪を見る。

「凪よ、先程の不意打ち失礼した!・・・・・ではこれより正々堂々と一騎打ちをはじめようではないか!」

 

凪は堂々とかまえる秋蘭に、

「望むところです!」

そう返す。

 

互いの意思を受け取った二人は、武器をかまえる。

「では、あらためて・・・・・夏候妙才、いざ参る!」

「楽文謙・・・・・おして参る!」

 

二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

――城内、厨房――

「やっぱ琉々のご飯は最高だよー!!」

「もぅ季衣ったらそればっかり。」

「いいじゃん、おいしいんだから~。」

「もぅ・・・・・。」

いつも通りの風景。二人揃って仲良く朝ご飯。

ただ、一点だけ違う事がある。

二人とも鎧を身にまとい武器を携帯しているということ。

二人で朝ご飯を食べよう、そういったのは季衣だった。

「ねえ、琉々?」

「何?」

「ボクたちいつまでも友達だよ?」

「うん・・・・・。」

 

二人でご飯を食べ、食器を片づけて向かった先は鍛錬場。

「ここなら、何も壊さなくてすむもんね。」

「ねぇ、季衣?」

「ん?どうしたの?」

「私、季衣には絶対負けない!!」

「ボクだって琉々には絶対負けない!!」

決意をあらたに互いに武器をかまえる。

「いくよ!琉々!」

「きなさい!季衣!」

ドゴォォォン!!

鍛錬上にいつも以上に、そしてどこよりも凄い轟音がこだまする。

 

 

 

 

――城内、中庭――

ドゴォォォン!!

「おやおや、凄い音ですねー。」

「そうなの、今度はきっと季衣ちゃんと琉々ちゃんなの。」

「随分と詳しいのですね。」

「違うの、季衣ちゃんたちはさっき厨房にいるとこ見かけただけなの。」

「そうですかー、だから一人でいる風を狙ったのですか?」

「・・・・・そういうことなの。」

沙和は武官といっても一番弱い部類に入る。

だが、今沙和の前にいるのは文官で軍師である風。

「その考えは間違ってないのですよ。」

「・・・・・。」

「でも、風も簡単に負けません。」

風はそういって服の袖から丸い物をだす。

「では、追いかけっこ開始なのですー。」

ボン!!

丸い物が地面に叩きつけられた瞬間、白い煙が辺りを覆う。

「こ、これは真桜ちゃんの煙玉!!」

「そうなのです、こっそり拝借してきました。」

「ど、どこなの・・・・・!?」

「風に触れられたら風は潔く負けを認めるのですよー。」

煙が晴れるとそこに風の姿はなく、書簡が一つ。

(森の中にいます。風)

「これは、明らかに挑発・・・・・でも、沙和も負けないの!」

武器を握り沙和は中庭の奥へと消えていった。

 

そして、この判断が間違いだったことに直ぐに気付くことになる。

 

 

 

――城内、真桜の工房前――

「なんや、ホンマにでたらめな人やな。」

「褒めても何もでぇへんよ。」

真桜の額に汗がにじむ。

その汗は絶対的なものに出くわした時の恐怖。

真桜の第六感とでもいうのか、体が頭が警告している。

(今すぐここから逃げろ)

 

そして、そんな真桜を追いつめているもの・・・・・。

まるで眼は獲物を見つめる虎。

その正体は、

「早よう、降参し。せやったらケガしないですむ。」

「そんなん言われても無理な相談やで、姐さん・・・・・。」

そう、神速の張遼その人である。

 

「うちかて、ケガはさせとうない・・・・・。」

「でも、本音はちがいますやろ?」

「・・・・・当たり前や、仮にも武人同士が戦場で出会ったら・・・・・。」

「なら遠慮はいらへんよ。」

「そうか・・・・・なら!」

ブゥン!!

真桜めがげて堰月刀が振るわれる。

その全てが真桜を一撃で仕留められるほど鋭い。

だが、真桜はそれを避けていた。

 

「なんや!さっきから避けてばかりやん!」

「まともにぶつかって・・・・・姐さんに・・・・・・勝てるなんて思うてないもんで・・・・・ね!」

それでも避けるのに精一杯。

確かにこれではいつか倒されてしまう。

「しょうがないなぁ。」

「ん?」

「せいっ!」

ボォン!!

「な、これは煙玉?」

「うちの特性やで。」

「せやけど、こんなん効くかい!」

ブォォン!!

堰月刀を振るいきおいで煙を散らす。

「なっ!?嘘やろ!?」

「でぇぇい!!」

そしてそのままのいきおいで真桜に襲いかかる。

「っく!」

ガキン!

必死に武器で受け止めるが意味がなかった。

「嘘・・・・・。」

「でりゃゃゃぁぁぁあああ!!」

ドォォォォォン!!!!

真桜は壁に叩きつけられる。

そう、霞は真桜を一撃で、しかも防がれたのにそのまま吹き飛ばしたのである。

「うちに勝とうなんて、甘い考えは捨てたれ!!」

 

 

 

~愛、千里~ 前編 完

 

 

~おまけ~

「結局、今回私たちの出番がなかったじゃないのよ!!」

「お姉ちゃん、悲しい~」

「作者にも都合があるのよ・・・・・くだらない都合がね。」

「ふん!じゃあ、最近恒例の予告よ!」

「作者さんの作品って、予告でもっているものよね~」

「姉さん・・・・・それは言わない約束。」

 

 

~次章、予告~

一刀を自分の手に・・・・・

 

魏の女の戦いが火蓋を切った。

 

果たして勝つのは誰だ!

 

一刀が魏に残した思惑とは!?

 

しかし、魏は今や戦乱の中!

 

牙が折れる!

 

夢が消える!

 

友を倒し、前へ進む!

 

「ごめん、ごめんね・・・・・。」

 

「その思い私が引き継ごう・・・・・。」

 

「戦いとは、こんなに悲しいものなのですね・・・・・。」

 

~愛、千里~ 中編

乞うご期待!?

 

「何よ!まだ終わらないじゃないの!」

「さすがに読者が怒るわよ・・・・・。」

「知らないよ~だ。」

 

 


 
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