No.62896

もっこりモンブラン

みぃさん

恋愛ショートです。

2009-03-12 10:46:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:937   閲覧ユーザー数:914

「こんなの、いらねーよ!!」

 

 

 

彼が投げた箱の中には、私が作ったモンブランが入っていた。

中味は、見るまでもない。

きっと、ぐちゃぐちゃにつぶれている。

 

 

 

私は、初めて見た彼の悲しそうな顔と、強い言葉に驚いたものの、どうしたらいいのか決められずにいた。

優しい彼に、こんな行動をとらせてしまったのは、昨日の私の行動が悪い。

明らかに。

 

 

 

 

 

 

彼に付き合ってくれないかと言われたのは、1か月前のこと。

 

 

 

表情をうまく出せない私は、友達と呼べる人はいないし、近づいてくる人もいなかった。

ずっと、そうだったし、これからもそれでいいと思ってた。

それなのに、入学してからしつこくつきまとってきた彼。

応えられない私にいつも笑顔をくれる。

始めは困っていた私も、いつの間にか一緒にいることを心地よいと思うようになった。

これからもずっとそばにいてほしいと思うようになった。

 

 

 

だから私は、彼の申し込みに対して、迷うことなく、うん、と応えた。

 

 

 

ケーキのモンブランのように甘い気持ちをくれて。

アルプス最高峰のモンブランのように、彼は私の中で大きな存在になっていて。

 

 

 

でも。

 

 

 

 

 

 

昨日、彼にキスされた。

生まれて初めてのことに、頭の中が真っ白になった。

瞬間。

顔にものすごい熱を感じて。

思わず彼を自分から遠ざけ、顔も見ないで逃げ出してしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

私が、悪い。

「ごめん」

と渡したお手製のモンブランも、投げ捨てられて当然かもしれない。

 

 

 

だけど。

 

 

 

昨日のあの行動で、嫌いにならないでほしい。

もう、遅いだろうか。

あのモンブランみたいに、想いもつぶれてしまうんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「お願いだから」

 

 

 

 

 

 

私が言おうとしていた言葉を、彼が先に言った。

 

 

 

「別れたいなんて、言うなよ」

 

 

 

え?

それこそ、私の言葉。

別れたいなんて、私からは絶対に言えない。

 

 

 

「悪かったよ。あんなことして。無理につき合せてるのに…」

 

 

 

彼の言葉にハッと顔を上げる。

無理に付き合ってると思わせていた?

私、ちゃんと気持ち、伝えられてなかった?

 

 

 

 

 

 

「離れられるのは嫌なんだ。例え、俺に対しての気持ちを持ってくれてなかったとしても、一緒にいてほしいんだ。…なんて、情けないかな、俺…」

 

 

 

「…ごめん…」

 

 

 

「やっぱり、それでも一緒にはいられな…」

 

 

 

私は、言葉をさえぎって彼の顔を抱きしめた。

背の高い彼は、自然と猫背になる。

 

 

 

「そうじゃなくて。ちゃんと、気持ち伝えきれてなくて、ごめん」

 

 

 

どうして、私なんかを好きになってくれたんだろう。

今でもわからない。

でも、そんな私に対して体中で“好き”を表現してくれる彼だから、私も返さなければいけなかったのに。

不安にさせちゃ、いけなかったのに。

 

 

 

「私、別れたいだなんて、思ったことないよ」

 

 

 

体から離した彼は涙目で、人から見たら、きっと情けない顔。

なのに、こんなにいとしいのはなぜだろう。

 

 

 

「じゃぁ、なんで逃げた上に会った第一声が“ごめん”なんだよ…」

 

「だってそれはっ…あんなの、初めてでどうしていいかわからなくて…ごめん…」

 

「初めて? …そっか。そっか! だったらいい、謝るなよ。俺が悪いんだ」

 

 

 

今度は私が、おとなしく彼の腕に包まれる。

 

 

 

「ごめん、俺、お前のこと離してやれそうにない」

「いいよ」

 

 

 

「あのさ、できればさ…」

 

 

 

わかってる。

彼が望むのは、モンブランの100倍は甘い

“好き”の言葉。


 
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