「こんなの、いらねーよ!!」
彼が投げた箱の中には、私が作ったモンブランが入っていた。
中味は、見るまでもない。
きっと、ぐちゃぐちゃにつぶれている。
私は、初めて見た彼の悲しそうな顔と、強い言葉に驚いたものの、どうしたらいいのか決められずにいた。
優しい彼に、こんな行動をとらせてしまったのは、昨日の私の行動が悪い。
明らかに。
彼に付き合ってくれないかと言われたのは、1か月前のこと。
表情をうまく出せない私は、友達と呼べる人はいないし、近づいてくる人もいなかった。
ずっと、そうだったし、これからもそれでいいと思ってた。
それなのに、入学してからしつこくつきまとってきた彼。
応えられない私にいつも笑顔をくれる。
始めは困っていた私も、いつの間にか一緒にいることを心地よいと思うようになった。
これからもずっとそばにいてほしいと思うようになった。
だから私は、彼の申し込みに対して、迷うことなく、うん、と応えた。
ケーキのモンブランのように甘い気持ちをくれて。
アルプス最高峰のモンブランのように、彼は私の中で大きな存在になっていて。
でも。
昨日、彼にキスされた。
生まれて初めてのことに、頭の中が真っ白になった。
瞬間。
顔にものすごい熱を感じて。
思わず彼を自分から遠ざけ、顔も見ないで逃げ出してしまったんだ。
だから。
私が、悪い。
「ごめん」
と渡したお手製のモンブランも、投げ捨てられて当然かもしれない。
だけど。
昨日のあの行動で、嫌いにならないでほしい。
もう、遅いだろうか。
あのモンブランみたいに、想いもつぶれてしまうんだろうか。
「お願いだから」
私が言おうとしていた言葉を、彼が先に言った。
「別れたいなんて、言うなよ」
え?
それこそ、私の言葉。
別れたいなんて、私からは絶対に言えない。
「悪かったよ。あんなことして。無理につき合せてるのに…」
彼の言葉にハッと顔を上げる。
無理に付き合ってると思わせていた?
私、ちゃんと気持ち、伝えられてなかった?
「離れられるのは嫌なんだ。例え、俺に対しての気持ちを持ってくれてなかったとしても、一緒にいてほしいんだ。…なんて、情けないかな、俺…」
「…ごめん…」
「やっぱり、それでも一緒にはいられな…」
私は、言葉をさえぎって彼の顔を抱きしめた。
背の高い彼は、自然と猫背になる。
「そうじゃなくて。ちゃんと、気持ち伝えきれてなくて、ごめん」
どうして、私なんかを好きになってくれたんだろう。
今でもわからない。
でも、そんな私に対して体中で“好き”を表現してくれる彼だから、私も返さなければいけなかったのに。
不安にさせちゃ、いけなかったのに。
「私、別れたいだなんて、思ったことないよ」
体から離した彼は涙目で、人から見たら、きっと情けない顔。
なのに、こんなにいとしいのはなぜだろう。
「じゃぁ、なんで逃げた上に会った第一声が“ごめん”なんだよ…」
「だってそれはっ…あんなの、初めてでどうしていいかわからなくて…ごめん…」
「初めて? …そっか。そっか! だったらいい、謝るなよ。俺が悪いんだ」
今度は私が、おとなしく彼の腕に包まれる。
「ごめん、俺、お前のこと離してやれそうにない」
「いいよ」
「あのさ、できればさ…」
わかってる。
彼が望むのは、モンブランの100倍は甘い
“好き”の言葉。
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