劉備達は立ち去る孫堅を見つめていた。彼女は来た時と同じく一人で帰っていった。もちろん劉備も一人で帰そうなどと考えていなかったのだが、その提案を孫堅は断った。あらぬ誤解を生むことになると。
「朱里ちゃん。……これでよかったのかな?」
俯きながら劉備は問いかける。自分の答えは間違っていなかったのかと。
「それは、分かりません。孫堅さんがどのような答えを期待していたのか、何を図ろうとしていたのか、それは私達には分かりません。けど! 私はあれでよかったんだと思います……」
「俺もそう思うよ」
そう言って、一刀は劉備の頭に手を乗せ何度か撫でた。
「なんていうか、凄く桃香らしいっていうか……うん、桃香らしかったよ」
自らの語彙の無さに苦笑しながらも撫でる手を止めはしない。
「御主人様。……ありがとっ!」
劉備は顔を上げ、いつもの彼女らしい笑顔を見せた。
孫堅軍は孫堅がいなくなったことに微かに動揺が広がっていたが、周瑜の手腕により即座に静まり普段通りの動きをしていた。
そこへ単騎で帰還した孫堅は、明らかに怒っている周瑜の説教を受けるのだがそれはしかたのないことだろう。
いくら連合とはいえ、味方に何も告げずに単騎で謁見してきたのだから。危機管理がなっていないと言われてしまえばぐうの音もでなかった。
「それで、蓮根殿は何をなさってきたのですか?」
わずかにこめかみを引き攣らせながら孫堅へと問いかける周瑜。
「あの……ね? そろそろその呼び方を元に戻して欲しいな~って……」
普段は蓮根様と呼ばれている。その違和感は周瑜が先の行動に対してどれだけ怒っているのか、如実に表していた。
「自業自得です。それと質問しているのは私です。話を逸らそうとしないでください」
「そうよそうよー。母様だけで面白そうな事するなんてずるいじゃない。なんで私も連れて行ってくれなかったの!」
「雪蓮……あなたは少し黙っていて」
いつの間にか手のかかる子供が二人になってしまっている。
周瑜は頭を抑えつつも本題へと移した。……まぁ、周瑜は最初から本題に入っていたのだが。
「それで、劉備の元に単騎で向かい何をしてきたのですか?」
これ以上誤魔化すのは無理だろう。孫策も静かになり、話を聞く体勢に入ってしまっている。
「劉備ちゃんにね、ちょっと聞きたいことがあったのよ」
嘘ではない。これが全てだとは限らないが。
「聞きたいこと……ですか。それだけではありませんね? 例えば……」
「あーあー。分かったわよ……全部話すわ」
これだから察しが良いのは……まぁ雪蓮はなんとなく何をしてきたのか分かってるみたいだから隠せるわけもないか。
それから孫堅は周瑜と孫策に全てを話した。
劉備に聞かれたこと、答えたこと、逆に質問したこと、それに対しての劉備の回答全てを。
全てを聞き終え、孫策は「まぁ母様らしいわね」と納得していた。良くも悪くもこういうところは親子なんだろう。周瑜はしばらく目を瞑り何かを考えていたが、まとまったのか目を開いた。
「……八年前のあの日。蓮根様と黒繞は何か密約を交わした。そして今、それを果たそうとしているということですか」
孫堅は答えない。たとえこの無言が肯定の意味になっているのだとしても、交わした密約を己の口から言うことはしなかった。
「冥琳、ちょっとだけいいかしら?」
と、それまで沈黙を保っていた孫策が前に出る。周瑜は何か言おうとしたが孫策の目を見て何かを思ったのか、一歩後ろに下がる。
「母様。……母様はどうしようとしてるの? 黒繞とこの戦で会って何を話したの? 軍とは一人で動かすものじゃないのでしょ? なら全てを話して」
孫策は己の母親に目で、言葉で訴える。
家族を頼って欲しいと。一人で背負い込まないで欲しいと。
「……ほんと、誰に似たのかしらね」
孫堅は溜息を付き、けれど笑った。
「家族ね。……冥琳! 思春と明命を呼んで来なさい。これから策の全てを話すわ」
「御意」
そこへ急いできたのか、息を切らしながら伝令が入ってきた。
「報告します!!」
それは一つの吉報。孫呉の後顧の憂いを絶つ報告だった。
「天はまだ俺達を見放していなかった……か」
孫堅が劉備の元を訪れていたとき、連合軍に動きがあった。
軍議の場において曹操と激しい口論を繰り広げた袁紹は、あとは勝手にしろとでも言うように陣を後方へと動かした。だが後方には袁術の陣営がいる。前方の兵力が下がれば砦の突破は難しくなる。よって必然的に後方にいた袁術は前にでなければならない。
汜水関の被害を受け後方でのんびりとしていた袁術は、袁紹の……いや、連合の総大将の一言でまた前線へと配置されることになった。
このチャンスに行動を起こしたのは黒繞である。
彼は袁紹と袁術の陣営が交差する瞬間を狙って袁術軍に進入。
汜水関のときの傷が癒えていない袁術軍は袁紹軍よりも警戒が雑だったこともあり、難なく陸遜を救出することに成功する。
先に確保しておいた馬に陸遜を乗せ、それを孫堅軍へと放った。
強烈な恐怖によって支配されていた袁術軍は人質の脱走に気付くことが遅れ、しかも一般の兵にも人質を取っていたことがバレ、士気は修復不可能のところまで落ちていた。
袁術の手を逃れた陸遜はそのまま孫堅軍に帰還。
陸遜帰還の報は即座に孫堅軍内の武将達に伝わり、安堵と共に喜びをわかちあった。
そして黒繞もまた、孫堅軍の内部に侵入を果たしていた……。
【あとがき】
こんにちは……ですかね
まったり更新の九条でございます
前書きにも目を通してる方には同じ事を言ってしまいますが
今回はリハビリを兼ねて短めになってました
いつも→約6000字 今回→約2000字 ね? 短いでしょ?(汗
完全に怠慢だったので言い訳のしようがないので……ごめんなさい
えーっと
この間投稿した一刀くん√が好評のようで嬉しくもあり悔しくもあったり
支援数的な意味ですけどね
やっぱりシリアス(っぽい?)話になってしまうんですよね。理由はよくわかりませんが
本編のこと
そろそろ虎牢関は終わらせねば……全然話が進んでないですし
前回言ったかもですが、反董卓連合が終わったら拠点パートを入れて本作品は終幕させようと思っています
↓拠点パートって誰だっけ?という方の為に↓
確定 → 華雄、明命
書くかも → 音々音
書きたい → 影華、恋
その後、本編のプロットを大きく書き換えた修正版を投稿できるように準備をしていきます
その間に密かに人気がでている(?)偽√の投稿をちょこちょこやっていく予定です
ときどき偽√じゃないかもしれません。それは未来の自分に問いかけることにします
どんな終わり方になるかは、まだ悩んでいるので作者にも分かりませんが!
もうしばらく完結までお待ち下さいね
こんな作品ですが、次回も楽しんでいただければ幸いです~
P.S
そういえば、一刀君を久しぶりに出したかも
あと主人公も・・・
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一ヶ月空いてしまいました・・・
ちょこっとリハビリを兼ねていますのでいつもよりも短めで
違和感があったら言ってください
なるべく対応致します