普通だった。
最初は何処にでも居るような、何も知らないガキ。
それが僕でした。
親父は戦で死に、母親一人が僕を育て、友人にも恵まれ、村で生き、村で死ぬつもりだった。
だが、俺の友人はそんな器じゃなかった。
友人はただただ国を良くするために考え、勉学に励み、挫折させられた。
無実の罪により捕らえられた友人。
流れでとはいえ、共に勉学を学ぼうとしたこの身は、友人のために動くことを拒まなかった。
母親に苦労を掛けても、必死に無実を証明するために走り回り、思考を巡り、証言を言った。
だが、平等など皆無の時代。
そんなに簡単に助けられるはずもなく、ただただ友人は牢獄に閉じ込められるだけだった。
その時の僕は正義に酔っていたのでしょうねぇ。
僕は友人を脱獄させようと考えた。
無実の罪を晴らし、友人を救い出す正義。
ただそれを胸に、脱獄を企てた。
その結果が上手く行くはずがなかった。
所詮ガキの悪知恵。
僕も捕まりそうになるが、母親に助けられた。
僕は初めて母親に叱られた。
今まで母親の言うことに従い『時に人のために行動せよ』と言われてきた僕には、母親が怒る理由が全く分からなかった。
母親が言うには『急ぐ場合は回り道をしなければいけない時もある』だそうだ。
疑問だった。
ただただ疑問。
何故?
何故、待たねばならない?
何故、待たねば救えない?
暫くの間、僕は外に出ることを禁止された。
僕は部屋の中で、読めもしない書物を眺めながら、友人の事と母親の言った事が絡み合い、『何故』は消えることが無かった。
そこから僕は『何故』を周りにぶつけ始めた。
読めもしない書物を他の絵のついた数少ない書物と共に眺め、文字の解読をし始めた。
解読と言っても自分の中で解釈するだけで、あっているのか、間違っているのかも確認できなかったが、その時間は僕にとっては革命だった。
半年も経たず、僕は文字を大体だが覚えていた。
それと共に世界が、国が分かり始めてきた。
今までの歴史とこれからの歴史。
巨龍と呼ぶにふさわしい国だった。
だったのだ。
必ず後に大きな乱が起こる。
それはただの勘だったのか、推理だったのか。
僕は武術を習い始める事を決めた。
戦と言えば『武』としか考えていなかった。
「母様、僕は今村に来ている旅人の方から撃剣を習います。どうか、外出を許可してください。」
「……今なら私の言ったことが分かるのねぇ。分かりました、許しましょう。でも貴方には撃剣など似合わないとおもいますけどねぇ。」
僕はある程度、撃剣が使えるようになった。
撃剣を習っている間、友人を再び助けようと言葉で挑んだ。
友人を捕まえた権力者は、その権力を使い、今度は僕を捕まえた。
だが僕は後悔はなかった。
撃剣は少々勿体ないとも思ったが、一番最初の願いの友人を救うことが出来たのだ。
僕の命が権力者の気分により、消し飛ぶ事となっても後悔などなかった。
捕まっている間、毎日母親の顔が思い浮かんだ。
心配しているのだろう。
今まで支えてきてくれた母親ならそう考えれくれているだろう、悪いことをした。
親不孝者だった。
僕を許してくれとは言いません。
貴女は幸せに生きてください。
毎日言った。
思っていただけなのかもしれない。
それさえも分からないほど、僕の体は衰弱していった。
もう駄目だ。
そう考えると涙が溢れた。
今まで懺悔している時は一度も涙が出なかったのに、こんな衰弱しきった身体でも諦めたときに涙が出た。
後悔はしていない。
だが悲しかった。
まだまだ子供の身。
死は恐ろしかった。
そして死が近づいて来るのが分かるのも、恐かった。
目の前まで迫っていた死は、たった一瞬で消え去った。
「ありがとう。」
助けに来た友人は、僕に対し一番最初にそう言った。
権力者はその地位を落とされた。
無実の罪を付けられていたのは、僕達だけじゃなかったようだった。
そのため僕は解放されたらしい。
久しぶりに戻ってきた家。
久しぶりに見る母親の顔。
随分とやつれてはいるが、優しい母親の顔だった。
そしてまた涙が溢れた。
僕らは水鏡塾へと入門することとなった。
部屋に乱雑に置いてある読み終えた本と、友人と共に勉強する姿を見た母親が進めてくれた。
僕の撃剣は完全に弱っていったが、悲しんではいなかった。
僕のやりたい事は戦では無く、人を救うことだと分かったからだった。
そして人を救うには武力もあるかもしれないが、言葉でも救えると知ったからだった。
今の世は黄巾の乱が起こっていた。
撃剣を捨てた今、言葉で救い、言葉で戦うために水鏡塾へ入門することを僕も決めた。
水鏡塾では様々な人間と出会った。
お調子者の孟建、生真面目な石韜、そして天才の片鱗を見せる諸葛亮。
この三人と僕はあっという間に仲良くなっていった。
最初はまだ子供。
しかし、年月はだんだんと僕らを大人にしていった。
あまりにも楽しく、高め合っていけた数年間。
旅立ちの時には、それぞれ自分の信念を持っていた。
一番最初に旅立った孟建は、遊ぶために故郷へ帰ると言いだし、諸葛亮や僕は必死でそれを止めた。
諸葛亮が言うには「三人は仕官すれば、州刺史か郡太守くらいにはなれる」だそうだ。
だが孟建はそのまま旅立ち、二番目に旅立った石韜と共に荊州で、兵を集めていた曹操に仕官した。
僕にも旅立ちの時が来た。
諸葛亮とは「また会おう」とそれだけ交わし、なんとなく荊州の新野へと歩を進めた。
Tweet |
|
|
6
|
0
|
追加するフォルダを選択
以前の過去を細かく書いたものです。
あともうすぐお気に入り登録が100人に到達しそうです。
YATTA!!
100人になったらなんかしようかね?