~聖side~
事件から一年後の寿春城の一室。
バタバタバタっ……!!!!
ガチャッ!!
「聖様っ!! 瓦版をご覧になりましたか!?」
「あぁ。遅かれ早かれこうなるとは思っていたが…………もう少し待って欲しいものだったな…。」
「本当、ようやくこの町の基本方針が決まってきたって言うのに……何もこんな時に起きなくても良いじゃない……。」
「そうだな…。」
「………………え~っと………まずは初めに、何で聖様は、偉空ちゃんに膝枕された状態で耳掻きされながら話を聞いてるのですか~!!!!!!!」
部屋に入ってきた芽衣はその光景を見て流石に突っ込みを入れざる負えなかったと共に強い嫉妬感に襲われた…。
寝台に座る偉空の膝に頭を乗せて耳掃除をしてもらっているのが、自分たちの主であり、自分の愛する人だと思うと癇に障らないわけがない。
それに、偉空はまだ聖の嫁候補になったわけではないのだから、余計に腹ただしい…。
「ん……?? 何でって…………偉空に頼んだらしてくれるって言うから、お言葉に甘えて……。」
「ご主人様に頼まれたら……私たちはお仕えする身だし、断るわけにはいかないじゃないですか……。なので、仕方なくこうして………。( ///)」
偉空にしては珍しくツンケンとした態度をとっていない。
二人きりと言う空間と、聖の耳掃除をすると言う行為が新婚夫婦みたいで、偉空にとっては居心地がよく、ついいつも見せない程デレデレになっていたのだ。
そんな様子を見ただけで、偉空の聖に対する好意は分かると言うのに………我が主はそんなことにも気付かない…。
全くもって鈍感なのは罪なのであるが………そんな彼を慕うものは多いのが事実……。
むしろ、今のままの方が良いのかとも考えることもあるが、せめて仲間うちだけでもこの問題は解決しておいて欲しいものである。
芽衣は一つ短いため息を吐くと、気付いていない鈍感さへの罰と、最近構ってくれてなかった怒りも込めて仕返しをすることにする。
「そうだったんですか~……。昨日の夜の内に一言言ってくだされば、私がしましたのに…そんなこと一言も仰っていなかったから~…。」
「…………ピタッ…。」
「ん……?? 偉空……??」
「………へぇ~……ご主人様は昨日の夜は芽衣様と一緒だったんですか……。どうりで報告書を提出に行った時に部屋に居られなかったわけだ……。」
「………あの~……偉空さん…?? 何だか、怖いのだけれど……。」
「こっちが夜までかかって纏め上げたと言うのに、ご主人様は芽衣様の所であんなことやこんなことをしていたと言うのですか!!?」
「痛いっ!!!! ちょ……奥まで入れすぎだって!!!!!」
「……………自業自得です…。」
そう言うと、偉空は立ち上がって部屋から出ていく。
その後ろ姿を目で追った後、芽衣に対して非難の視線を向ける。
「まったく…………事実とは言えあんな言い方したら誤解するだろうが……。」
「はて………嘘はついてないのですけど~。」
「昨日は夜遅くまでこの町の税収や政策方針を話し合っていただけで……終わったらそのまま帰っただろうが…。」
「そうですね~……。」
「ちゃんと後で誤解を解いとかないと、信頼関係に問題が生じるな……。」
はぁ~と小さなため息を一つ吐いたところで、急に芽衣に正面から抱きつかれる。
「おっと…………。どうした? 何かあったか?」
背中に回された腕により一層の力を入れてギュッと抱きついてくる芽衣。
「……………聖様は……大丈夫ですか?」
「…………蓮音様の事か?」
「………はい。」
「……………今でも悲しいさ……。この一年、忘れようと努力しても忘れれるものではなかった……。でも、だからこそ決心した………。忘れて良いものではないのだと改めて再確認した。だからもう迷わない……。俺は俺のやり方を徹する…。」
言葉とともに芽衣の背中に腕をまわしてしっかりと抱きしめる。
俺は大丈夫だと言う意志も込めて……。
「……………ごめんなさい…。」
「ん……??」
「私……ちょっと嫉妬してました~…。聖様があの後私たちとしばらく距離をとるようにしてましたから……。」
「………流石に不謹慎かと思ってね……。でも、この事で皆に不安や悲しみを与えていたなら、それは夫失格だね……。これからはいつも通りにもどそうか……。」
「………では……今日は私でも構わないですよね……。」
翌日の早朝、玉座の間に徳種軍の全武将が集められた。
議題は芽衣の言っていた瓦版に関してだ。
「さて、何れ起こることだったから前々から準備してきたが………いざ起こってみると気分が悪いったらないな…。」
「そうですね~……。権力争いと言うのは見るも無残なものばかりなのです~…。」
「けっ!! いかすかないね……。暗殺なんかせずに正々堂々正面から勝負すりゃ良いじゃないか…。」
「時は一刻一秒を争うのですよ…。正々堂々なんて言うのは、権力争いにおいては無用な考えなのです。」
「まぁ、後ろだてになってる奴らが奴らだもんな…。宦官共の操り人形になってる帝がかわいそうだよ…。」
「そうですね…………お兄ちゃんの言う通りに事は進んできましたね………。」
「さて、そこでだ……。今一番得をしそうな人は誰か………これが分かる人はいるか?」
俺の質問にう~んと頭を悩ます面々。
しばらくすると、『分かった♪』と言いながら紫憙が手を挙げた。
「じゃあ、紫憙は誰だと思う?」
「宦官同士で争い合ったんだから、そりゃ当然勝った方の宦官達だよね♪」
「うん……。そう考えるのが普通だが……それは答えではない…。」
「えぇ~うそ~………。」
「宦官どもは確かに利を得るように見えるが、こういう争いの時は勝った瞬間が一番危ない。帝の為と言って色々なところから兵を伴って名のある諸侯が押し寄せてきて直ぐに宦官どもはおさらばさ…。」
「では、押し寄せてくる諸侯が一番得を得るのではないですか?」
紫憙に代わって、今度は朱憙が質問する。
「いやっ、実はさっきは色々なところからと言ったが、どの諸侯も平等に動けるわけじゃない……。各々の領地との兼ね合いもあるからな、力を持った諸侯しか行くことは無理だろう…。そうすると?」
「力のある諸侯と言えば………河北の袁紹、陳留の曹操、荊州の袁術と言ったところでしょうか……。」
「まぁ、そんなところだろうね……。」
「じゃあ、曹操なんじゃないの。ご主人様が認めるほどの人材なんでしょ?」
「確かに偉空の言う通りだが………一番簡単に利を得られそうな人間がいるのを忘れていないか?」
水鏡女学院出身の子たちは再度頭を捻る。
だが、今まで俺と旅をしていただけあって芽衣たちは俺の言いたいことが分かっているようだ。
それなら、先輩達から教えてやってもらうとするか……。
「じゃあ………雅、教えてあげてくれ。」
「は~い♪ 洛陽にはちゃんと太守がいるよね? その人はどうしたのかな?」
「…………董卓…!!」
「そう。月たちなら帝が幼いからと言ってその身の保護を訴えれば、直ぐにでも帝の恩恵で利を得ることが出来るよな。」
「だけどお兄ちゃん……。月さんたちがそんなことするんですか?」
「いやっ……十中八九そんなことはしないだろうな……。だが、月の事をよく知らない人からしたらどう思う?」
「……と、言いますと?」
「帝を独占し、洛陽の町を牛耳ることで政治の実権を握ろうとしてると思っても不思議じゃないって話さ。」
「それは…………そう、思わざる負えませんね…。」
「だろうな…。だからこれから先、月たちの討伐包囲網が組まれることになるだろう…。その発起人が誰になるかはまだ分からないが………そう遠くないうちに起こる…。」
「そんな!! 月ちゃんたちは必死に洛陽を良い町にしていて、民の為、漢王朝の為に尽くしてきたのに、なんでそんな事になるんだよ!!!」
「……………漢王朝がもう既に力を持たないのはお前だって分かるだろ?」
「………まぁ。」
「だとしたら、誰かが帝を助ける必要がある。そしてそれはつまり権力を持つことと同義だ…。さもすれば、皆目の色を変えて他者を陥れようとする。権力争いなんてそんなもんだよ……。」
「う~ん………話が難しか~……。頭痛くなっちきよった……。」
「はははっ。じゃあ、また後で音流には話してあげるからな。」
「じゃあ、聖はどうするんだ?」
「俺か…?? 俺は―――――――。皆もそれで良いか?」
「先生がそう言うならそうするのです…。」
「私も同意します~!!」
「それが……良いと思います。」
「意義はございません。」
「意義なし♪」
「…………御意。」
「あんたらしいと言えばあんたらしいわよね。」
俺の提案に軍師たち全員から許可が下りる。
じゃあ、そうしますかね……。
「色々と準備も必要だし…………急いで取りかかるか!!」
「「「「「「「「「おぉ~!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」
こうして聖たちは、目前に迫る大きな戦いの準備を始めるのだった。
そしてその一ヶ月後。
聖の予見通りに、各地の諸侯あてに袁紹から発起を呼びかける書面が届く。
寿春では……。
「さて、届いたか……。」
「……予想はしていたが……ここまで嘘を並び立てるなんて……。」
「我慢しろ。あくまで前口上だ。」
「では、私たちも動き出しましょうか…。」
「そうだな。いざ、戦乱の世の中へ……。」
徳種軍が七万の兵を引き連れて、寿春の町を出立していく。
平原では……。
「袁紹さんから届いた手紙だけど、民をこんな風に扱うなんて酷過ぎるよ……。こんな酷いことをする人を放ってなんかいられない……。私たちもこの同盟に参加しよう!!」
「そうですね……。私たちの名を売るためにもなりますから参加するべきです。」
「それじゃあ、朱里ちゃん。袁紹さんに参加の意向を伝える手紙をお願い。」
「御意です!!」
劉備軍は五万の兵士を連れて平原を出発する。
陳留では……。
「いよいよね…。」
「はっ…。準備はすでに出来ています。」
「よしっ。我ら曹魏は、此度の同盟に参加し、世間に我らの名前を売る。その為にも、皆の者、存分に働け~!!!!!!!!」
「「「「「「おぉぉ~!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
曹操軍は八万の兵士を連れて陳留を出発する。
荊州南陽では…。
「まったく…………あのおちびちゃんに命令されると本当にいらっとするわね……。」
「まぁ良いではないか。そのおかげで我らにも名を上げる機会が訪れた。これを逃すと後はないわよ…。」
「分かってるって……。孫家復興のためにも、この戦がどれだけ大事かは私にも分かってるつもりよ…。それに、この戦には彼も来るでしょうから……会ったらもの一番に問い詰めてあげるわ…。」
「同感だ……。」
「それに、今回からは蓮華たちも戦に連れていくわ。」
「………良いのか?」
「……母様の事もあるし、精神的にも幼い所はあるけれど、秘めた力は私なんか比べものにならないほど…。いつ私に何があるか分からないから、今の内から戦いに慣れさせないとね……。」
「………蓮華様は素直に従ってくれるだろうか…。」
「分からないわ…。でも、従ってもらう。そうでないと、この戦で名を上げるなんて不可能なんだから。」
「………分かった。お前がそこまで考えての事なら私は素直に従う。」
「……ありがとう。」
「………さぁ、王としての仕事をしてきなさい。私は蓮華様の所へ行ってくるわ。」
「お願いね…………。 すぅ~………良く聞け、孫呉の勇兵たちよ!! お前たちは心から孫呉に尽くしてくれた忠臣だ。力が弱くなった孫呉を立て直すためにも、此度の戦存分に手柄を立ててくれ!!! 我と一緒に、孫呉の世を今一度作ろうではないか!!!」
「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
荊州からは三十万(孫策たちは四万)の兵が出立し、合流地点へとその足を向けた。
そして、河北からは………。
「お~ほっほっほ……。これで董卓さんもお終いですわ。」
「そりゃ姫。これだけの人が同盟に参加してくれるって言ってるんですから、うちらが勝つに決まってますよ。」
「当たり前ですわ!!! ただし、我が袁家は圧倒的な勝利でなければ美しくありませんわ。そこのところ、分かってるんでしょうね?」
「勿論ですよ、姫!! あたいと斗詩がいれば圧倒的な強さで勝ちますから!!」
「そうですわよね。あなたたちは我が袁家に仕える将なんですもの。そのくらい当然ですわ!! お~ほっほっほ…。
「……………う~ん…。董卓さんの所には呂布さんとか張遼さんとかいるから、圧倒的な勝利なんて難しいと思うんだけどな…………。」
袁紹軍がその数四十万もの兵を引き連れて、河北から集合場所まで移動を始める。
ここに反董卓連合軍が組まれ、連合軍対董卓軍の戦いが切って落とされようとしていた。
弓史に一生 第九章 第三話 反董卓連合軍 END
後書きです。
第九章第三話をお送りしました。
こうして歴史は動いていきます。
それぞれの諸侯のそれぞれの思惑を胸に…………。
果たしてこれからの運命は………。
月たちはどうなるのか……。
聖たちの決断とは………。
次話をお待ちください!!
さて、そんな次話はまた日曜日に……。
それではまた来週~!!!!!
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どうも、作者のkikkomanです。
前話の伸びは凄かったですね……。
一日で四百人の人が見てくれたのには驚きました。
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