No.62682

『真・恋姫†無双』 第2章「賈駆の手腕(前編)」

山河さん

PCゲーム『真・恋姫†無双』の二次創作となります。

設定としましては、もし一刀が董卓と共に行動することになったらというものを主題にしております。

よろしければ、お付き合いくださいませ。

続きを表示

2009-03-11 02:31:15 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10839   閲覧ユーザー数:8489

「まさか謁見もかなわないなんて……」

詠は苛立ちと落胆を混ぜた呟きを漏らす。

それもそのはず。十常侍筆頭・張譲に乞われての上洛にもかかわらず、皇帝はおろか、その張譲にすら面会がかなわないまま三日の時を待った。

まさに、詠の不安が的中、いや、さらにそれ以上の事態と言っていい。

張譲は完全に、月の持つ軍事力と名声だけを目的として都に呼び寄せたのであり、最初から月自身はどうでもよかったのだ。

「なぁ、詠。このまま何もしなくていいのか?」

俺は心配になって尋ねる。

俺たちの歴史では、上洛した董卓は都で専横を極め、それを見かねた諸侯が反董卓連合を結成するという流れになっている。

もちろん、その董卓である月の専横はおろか、涼州兵は隅々まで軍紀が行き届き、乱暴狼藉も一切行われてはいない。しかしそれでも……。

そんな俺の心配をよそに、

「……何もしてないですって? まさかあんた、このボクが何もしてないとでも思っているの?」

詠は俺を睨みながら、悪役っぽい笑みを浮かべる。

……その二日後。都の一角に与えられていた董卓の屋敷に勅使がやってきた。

「涼州牧・董仲穎。新たに大将軍に補任いたす。謹んで拝命いたすように」

勅使は上座から月を睥睨するように見下ろし、詔勅を読み上げる。

……と、文字だけで見ると、何とも畏まった雰囲気に思えるが、その勅使というのが小さな女の子で、しかも偉そうに威張っている様は何とも微笑ましい。

俺は小声で、隣に居並ぶ詠に、

「なあ、あれ誰?」

と尋ねてみた。

すると詠は、わずかな膨らみの……ごほんごほん……胸を少しそらせ、自慢と共に教えてくれる。

「あれは陳宮よ。ああ見えて智謀の士として名高いの。もちろんボクよりは劣るけどね」

「そこっ! うるさいですよ!」

上座から陳宮の叱責が飛んだ。

しかも、月も困った顔でこちらを見ている。

さらに、そんな月の表情を見た詠からは睨まれてしまった。

まさに四面楚歌だ。いや、三面楚歌か?

「ねねはこれから恋殿と肉まんを食べる約束があって忙しいのです。無駄な時間をとらせないで欲しいものですなっ」

陳宮がさらに睨む。

というか、それは忙しいのか……? 無駄な時間をとらせたというのは事実だが、どう考えても暇としか思えない陳宮の発言だ。

それは詠も同じだったらしく、

「ふんっ。どうせ閑職に追いやられてるくせに」

と、今度はさらに小声で悪態をつく。

……ん? 待てよ、どうして智謀の士として名高いのに閑職になんかに追いやられているんだ?

「なぁ詠……」

俺はさっきの疑問を口にしようとしたが、ものすごい勢いで詠と陳宮に睨まれてしまったので、言葉を引っ込める。

「……そこのおまえ。おまえが天の御遣いとやらですか?」

陳宮はもう一つ持っていた詔勅を開きながらそう呼びかけた。

「まぁ、一応そういうことになってるかな」

「なら早く前に来るのです」

なんだ? まさか不審者として殺されるとか……。

俺は不安になって、隣の詠を見ると、いいから行けと促された。

前に出ると、

「……北郷一刀殿。貴殿を相国に補任いたす。今後も帝室への忠節を期待する」

と、陳宮が急に畏まって詔勅を読み上げる。

どうやら俺も何か官職に任命されたらしい。それも陳宮の態度から察するに、かなりの高官。しかし相国って何する役職だろう。平凡な学生の俺に難しい仕事を要求されても困るぞ……。

すると、

「な、何ですって!?」

後ろにいた詠が怒声にも近い大声を上げた。

「……うるさい眼鏡ですね」

そう言うと陳宮は、自分の役目は終えたとばかりに足早に退出していった。

「月が大将軍なのは当然として、何でこいつがよりにもよって相国なのよっ」

陳宮が出て行ってから、詠はずっとこの調子で嘆いている。

そして、それを月がなだめるかたちだ。

「なぁ、詠。相国ってどんな位なんだ?」

俺がそう尋ねると、詠は呆れたとばかりに、

「あんたそんなことも知らないの!? 参拝不明・剣履上殿・入朝不趨。まさに人臣最高位よ! ……それなのに、月じゃなくてなんでこいつなのよ……」

と、怒りを心頭に発する。

詠の話によると、参拝不明とは、昇殿の際に名前を呼び捨てにされないこと、剣履上殿とは帯刀したまま昇殿できること、入朝不趨とは宮中の廊下をゆっくり歩いてもいいことだそうだ。

もっとも、一介の学生に過ぎない俺がいきなり総理大臣になったようなものだから、誰もが驚く、か。それに、俺自身が驚きすぎて未だに実感がわかないのも事実だ。

何の実績もない人間が総理大臣になるなんて、それこそドラマかマンガの世界。まぁ、それを言ったら、目が覚めたらそこは三国志の世界だった……なんてのはもっとひどい話なのだが……。

「で、これから俺はどうすればいいんだ?」

「はぁぁ……」

詠はため息で返事をしてくれた。

「まぁ、何も知らないあんたを相国に任命したのが張譲の狙いなんでしょうけど……。クククッ、ただ一つの致命的誤算は、この賈文和の力を甘く見たことね!」

あいかわらず悪者っぽい不敵な笑みを漏らす詠。

だが今はこの笑みが頼もしくもある。

何だかんだ言っても、詠は歴史にその名を残す策士なのだ。

洛陽に着いてすぐ、董卓が天の御遣いを保護したという噂を流し、天子が天の御遣いを保護すれば衰えた帝室の権威も復興すると、張譲に揺さぶりをかけていたのも詠だ。

まぁ、当初の目論見では月が相国に就くはずだったのだが、そのあたりの予測の甘さはご愛嬌。それに、ちょっと抜けてるとこがあった方が可愛いじゃないか。

「詠ちゃん。これからどうするの?」

月がおずおずと詠に尋ねる。

「そうね、月はともかく、こいつは完全にお飾りなんだし、とりあえず名前だけ利用して辟召をしましょう」

詠がさらりとひどいことを言ったが、事実そうなので特に反論はない。

「あっ、一応言っとくと、あんたが無能なのは事実だけど、相国って位自体が名誉職なんだからね」

おっ! 何か詠がフォローを入れてくれたぞ。

「ところで、辟召ってなんだ?」

「はぁぁ……」

そんなことも知らないの? とでも言いたげな詠の眼差しである。

さて、詠の話を整理すると、相国(俺)には役人の任命権があり、それを利用して相国府を開き人材を集めましょう、ということらしい。

しかしこれは諸刃の剣とも言える劇薬だ。

本来なら官吏登用試験を経て宮中にあがり、そこで実績を積み重ねてようやく高位に就く。

しかし、その過程を吹っ飛ばして、いっきに高位に就ける。

極端に言ってしまえば、自分の近親者だからとか、賄賂をもらったから等、恣意的な人事も可能なのだ。

現に、霊帝の時代に皇帝自らが率先して売官が公然と行われていた。

「どうせあんたはお飾りなんだから、後はボクにまかせて」

詠はそう言うと、さっさと退出していってしまった。

「大丈夫です。詠ちゃんはちゃんとやってくれますから」

微笑みながら月は、親友の後姿を頼もしく見送る。

まさに管鮑の交わりなのだろう。月の姿からは強い信頼がうかがえた。【続】


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
72
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択