No.62302

さいえなじっく☆ガールACT:32

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その32。

2009-03-09 01:10:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:754   閲覧ユーザー数:726

「おお夕美!!大丈夫か?」

「何言うてんのん! 大丈夫ちゃうのんはこの───ええと」

「亜郎。三宅亜郎ですってば」「それそれ」

(それそれって…)亜郎は泣きたい気分になった。

「夕美ちゃん、まだ起きちゃ駄目だよ」

「玄関先でこんだけヤイヤイ騒いどいて、どないして寝てられるんや!玄関先で…」

 ふと見回す夕美。

「あれっ?……玄関…あらへんやん」

「玄関は有るがな。あらへんのはその周りやがな」

 夕美は改めて周りを見まわした。「ほんまや、逆さやな。玄関だけがある残って、あとは丸見え…まるで新喜劇の舞台の家みたいやんか。」

「呑気な事を」

「ヨオ言うわ。何年お父ちゃんの娘やってる思てんねん。こんなんでイチイチ驚いとったらやっとれんわ」「ハア、ごもっともで」

「そんな事より…えーと、亜郎くん。あんたメッチャ鼻血出てんのに下向いとったらあかんがな。上向き、上」

 夕美はその場に座ると、血と赤面で真っ赤に染まる亜郎の頭を両手でグイと掴んで自分の膝の上へ仰向けに倒した。

 

「わっっ、ゆ、夕美さん!! 何を」たちまちにして無防備なひざ枕状態に。しかも鼻血まみれでグチャグチャだ。日頃それなりにモテる男を自負してるつもりの亜郎としては、あまりにもカッコ悪いシチュエーションである。

 

 

「なんや? 怪我人はじっとしとき」

 亜郎はみっともないやら恥ずかしいやらで逃げ出したかったが、凛とした夕美の口調には逆らえなかった。

「は、………はい」

「あああっ!? お、俺でさえそんな事してもろた事ないぞ〜!! 夕美、夕美、見てくれ、俺なんか、俺なんか車椅子やねんぞ」

「うるさいな。お父ちゃんの場合はどーせたいしたことあらへんのに大袈裟やねん。知らん人が見たら何事かいなて思うわ。そんなもん使わなあかん位ほんまに壊れとったらこんなとこにおらんやろ? ところで、あいつらは?」

「へっ!?」

「何が “へ” や。あの四人組はどうなったん」

「なななな」耕介はうろたえて車椅子のまま後じさった。

「!! や、や!やっぱりー!! 」

 反射的に亜郎が起き上がって叫んだ。

「わおっ!急に大声出しな、びっくりするやんか。あっ、ほら。興奮したらまた鼻血が噴き出したで。じっとしとかんとほんまに出血多量で死んでまうで」

「うっ───ら、らって、あでは夢だんかじゃらかったんら!!」

「アタリマエや、この家の有り様を見てみいな。ホンマ、夢やったら醒めてほしいわ」

「夕美のあほー、せっかく上手い事ごまかせそうやったのにぃ〜」

「ぷっ!」とうとう我慢しきれずにほづみが吹き出した。

「あははは、無理ですよ先生。これじゃあ隠しようがない。…でも亜郎君」

「え?」

「見なかった事にできるのは今のうちだよ」

 そう言うほづみの口調は諭すように柔らかだった。かといってそれが含みのある言葉でない、ほづみの本心から出たのだろうということは、本当に気の毒そうな眼で亜郎を見て言ったことで解る。

 だから、かえって亜郎は背筋にゾッとするものを感じて身を固くした。

 今なら、亜郎がここにもぐり込んだことは忘れてやるから、お前も見なかったことにして忘れろ。そうすればこの先も安全でいられる───ほづみの言う意味はそういうことだろう。

 

 確かに、この家でやってることの秘密を第三者に握られれば困るのは彼ら工藤家の筈だ。だが昨夜、実際に危害を加えられたのは彼らのほうだ。

 亜郎は単なる傍観者にすぎない。

 今のところこの家で何の研究が行われているのか、またこれまでどんな実験が行われてきたのかは判らない。が、産業スパイだとか、特許に関わる発明だとか、そんな一筋縄で片付けられるような普通レベルの秘密ではない事だけは確かだ。

 昨夜の連中は拳銃を持った外国人だった。それこそ拉致が目的だったようだし、おそらくは殺人も厭わないような連中。どこかの国の軍人かも知れない。だとしたら殺人と戦闘のプロだ。日本のヤクザどころのレベルではない。

 

 そう、だがその四人組はどうなったのか。あのあと家が崩れてきて、夕美がかばってくれたまでで亜郎の記憶はとぎれている。悪臭と肌寒さで目が覚めたら、研究室の床に毛布一枚で転がされていたのだ。

 しかし周りを見ただけでも、昨日起こったことが理解と常識を越えた現象だったことには間違いない。たとえ、悪い夢だったと言われても信じられなかったように。その時ふと、亜郎の脳裏を悪い可能性がよぎった。真新しい家が吹き飛ぶほどの衝撃。しかも一部分、柱と床がくり抜かれたように消えている場所があった。まるでレーザーで切り取ったように滑らかな断面で。

「まさか、お父ちゃん。あたし…まさか…」

 亜郎の考えを読み取ったかのように、亜郎の頭上わずか数十センチの所にある夕美のあごがかすかに震えはじめた。

「あの薬…この前のと違て濃かったから口に含まずに舐めるだけにして…せやのに…あんなパワーが…」

「ああ、大丈夫だよ夕美ちゃん。君はちゃんとコントロールできてたんだ。だからあいつらも死んじゃいないし、たいした怪我でもない。だけど、もうここへ来ることはないよ」

「それ、ほんま?」

「ああ。どっちもほんとだよ」

「………そお………よかった…」

 

 

〈ACT:33へ続く〉

 

 

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 すんげーはげみになりますよってに…

 (作者:羽場秋都 拝)

 

 


 
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