どうにか体調が戻ってきて政務をまともにやれるようになってきた。
戦後処理は俺が倒れている間に軍師勢がやってくれたのでもう殆ど残っておらず、
俺の判断が必要な場合は口頭で聞くだけで終わらせていたため問題なく進んでいた。
で、時間に余裕ができたので曹操の所に足を運んでみたのだ。
桂花が何故かついてくるというのでつれてきた。
曹操達は離れのような所で過ごしてもらっている。
その部屋の前にポツンと。長い黒髪と赤い服が特徴的な女性が体育座りで空を見上げていた。
たしか、夏侯惇だったか。
反董卓連合の時に見たような鋭い眼光はそこになく、呆けたようにぼーっと空を見上げていた。
どうしたんだろう? そう考えながら横を通りすぎようとしても、俺に声をかけてくる事はなかった。
ドアを叩き、部屋に入ってみればそこには夏侯惇とよくにたような青い服に薄い青髪の女性、夏侯淵と曹操が居た。
「あら、久しぶりね、北郷」
「戦後処理で忙しくてな」
どっこいせと椅子に座りつつ。
「相変わらず体調が悪そうね」
「わかるのか?」
「ええ、わかるわよ。反董卓連合で出会った時のあなたは気配がほとんどなかったけど今は部屋の外に居ても分かった。
今はそんなことに体力を使いたくないってところかしら、それに部屋に来るなり椅子に座るぐらいだもの」
「ご明察。体があっちこっちなまってるしなぁ……」
傍らの桂花を見れば、曹操にむけて睨むような視線を向けているが、曹操はといえば涼しい顔。
一時は曹操の所にずっと行きたがっていたものだが変われば変わるものだ。
「久しぶり、というべきか、夏侯淵だ」
「夏侯淵と会うのは確かに随分久しぶりだな。……というか、表の夏侯惇はあれは一体どうしたんだ?」
「ああ、姉者か」
夏侯惇がため息をつく。
「自分で名をかけてまで約束したことをなかったことにしたいといったのと、
華琳様に無断で、自身を賭けての勝負をして挙句負けたということで、華琳様からお仕置き中だ。
この部屋への出入り禁止と、華琳様の真名を呼ぶことを禁止されている。
知っているとはおもうが、信賞必罰が華琳様の方針だからな」
「確かにそれは知ってるけど」
「あれでも私の臣だからそれぐらいの罰は与えるわよ。
名に誓って約束した限りはそれを履行する義務があるわ」
「確かに夏侯惇がうちに下ったって話はまだきかないしな」
「大方挑発されてそれに乗ったのでしょうけど、筋は通さないといけないわ。
不特定多数の兵がそれを聞いてるんだから尚更よ」
曹操の言うことにも一理あるし、名をかけての約束というのはこっちではそうとう重い事らしいし。
懲罰を科しても仕方ない……か?
「懲罰もあんまりやり過ぎない程度にな」
「あら、これでも随分優しい方よ?」
首をはねたりとかってことにくらべれば確かにそうかもしれないが……。
「春蘭のことは横においておいて。北郷、この前言い忘れてたのだけど……。あなたには私の真名を許そうとおもうのよ」
「えっ!?」
俺と桂花の声がハモる。
「あなたの部下の扱い方についてはまだ私は理解できない。
でも、あなたは実力で魏を打ち負かしたのだからそれは十分に認めるに値すると私は考えているわ。
私の真名は華琳よ」
「いいのか?」
「ええ、かまわなくてよ。秋蘭、あなたはどうかしら?」
「華琳様が認めると仰るのですから私に否はありません。私の真名は秋蘭。これからよろしく頼もう」
「うーん、本来なら俺も真名を教えたい所だけど、俺には真名がないからなぁ……」
多分俺は困った顔になっていたんじゃなかろうか、華琳が笑っている。
「名前の方で呼んでくれてもいいよ」
ふっと思いついてそう言ってみる。俺を名前の方で呼ぶのは今のところ、桂花と紫青だけだし、
仲間内での俺の認識だと十分特別な気がする。
「気が向いたらそうしてあげるわ。それで、私達への罰則は決まったのかしら?」
「それがまだなんだよなぁ……」
「荀彧はどう言ってるのかしら?」
ちょっとむっとした様子だ、名前を呼び捨てられたのが気に入らないのだろうか。
「厳罰を与えて然るべきだとおもうわ。本来なら首を刎ねるべきよ」
「桂花、あんまりそういうことを言わないように。華琳を怒らせても良いこと無いんだから。
俺はそういうの好きじゃないの知ってるだろ」
桂花の頭に手を乗せて軽く撫でるとむくれながらも嬉しそうな顔。
「随分上手く飼い慣らしたのね。以前見た時と随分な違いだわ」
その言葉に桂花は華琳を睨む。罵倒しないでいてくれるのはありがたいが……、目は口ほどにモノを言うとはこのことか。
「許褚の罰則はすぐ決まったんだけどなぁ……」
「あら、どんな罰則かしら?」
「三日間飯抜き予定」
「軽いにもほどがあるわね……」
「だが、季衣には良く効くだろうな」
秋蘭が笑い、華琳が苦笑する。
「そういえば、華琳って男嫌いだっけ?」
「ええ、基本的に嫌いよ」
「じゃあ、1週間ぐらい男と過ごしてもらおうかな」
「なんですってぇ!?」
そういって心底嫌そうな顔をする。一緒に居る役目は、桂花の天敵である貂蝉に頼もうと思っている。
もっとも、貂蝉がいいというかどうかが問題だが……。
あいつはゲイだから華琳を襲う心配なんて無いだろうし
「それでもう一つあるんだ。これは前々から決めてた事だけど
町に兵士達の墓があるから、そこに取り敢えず1週間、毎日行って墓参りをして欲しいんだ」
「墓参り?」
「そう、墓参り。あと秋蘭と夏侯惇の処遇だけど……。こっちもまだ未定なんだよね。
あんまり先延ばしするのも考えものだしなぁ……。
取り敢えず秋蘭も華琳と一緒に墓参りしてくれる?」
「わかった。北郷殿に従おう」
「夏侯惇は……、どうしよう? 既に華琳からお仕置き中だから要らない気もするんだけど……」
「あなたの自由になさいな。私達はあなたの捕虜なのだから。用事はそれで終わりかしら?」
「ん、あと差し入れ持ってきたんだけど」
桂花が持っている籠がそれだ。持ってきたのはいつもの菓子屋の菓子。
「何考えてるのよ、捕虜に差し入れって……」
華琳が、呆れたというようにため息をつく。秋蘭も面食らった顔。
「色々話したい事もあるし、甘い物でも食べてお茶でも飲みながらの方が話しもしやすいかとおもってさ。お湯取ってくるよ」
そういいつつ立ち上がろうとすると、秋蘭が、私がいこう、と俺を制したのでお言葉に甘える事にする。
後は籠に入ってる小皿を机に並べて菓子を盛りつけて終わりと……。ケーキは既にカットしてあるし。
準備している間に、夏侯淵が茶器を持って帰ってきた。
「変わった菓子だけど、問題は味よね。まぁ期待はしていないけれど」
秋蘭に茶を入れて貰えば早速、曹操がそれを口に運ぶ。秋蘭もそれにならう
「……美味しいわね、コレ。誰が作ったのかしら?」
「俺が贔屓にしてる町の菓子屋だけど」
「でも、その菓子屋に作り方を教えたのは一刀よ」
桂花の言葉に信じられない、といった視線をコッチに向けてくる。
自分も口に運んでみる。しばらく町にいない間にまた腕を上げたなぁ、菓子屋の姉さん……。
「それ、本当なの? 少し見なおしたわ」
「そりゃどうも」
それからしばらく茶を飲みながら他愛のない話しをし、少し華琳達と少し距離が縮まった気がした。
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「桂花、なんで華琳達に首をはねるべきなんて言ったんだ? なんかすごい睨んでたし」
取り敢えず自室へ戻り、それから桂花に問いかけた。時刻は夕刻、もうすぐ日も落ちるだろう。
「一刀を殺されかけたのは曹操達の所為なんだから、私が嫌うのは当然でしょ?
それに、10人いれば10人ともが首をはねろっていうわよ」
なるほど、桂花は敵と認識してしまったわけか。
「じゃあ、なんでついてきたいって言ったんだ?」
「昔は仕官しようと思ってた相手だから、少し話しをしてみたかったのよ。
でもやっぱり、そう簡単に許してあげれそうにないわ」
「確かに本当に危ない所まではいったしなぁ。まぁそのおかげで、桂花が素直になったからある意味感謝しないとかな?」
軽口を叩けばいつもの調子で怒るかとおもったが、桂花の態度はそうじゃなかった。
「一刀が死にかけた時に思ったのよ。本当に死んだらって思うと怖くて仕方なくて……」
泣き出してしまいそうな表情。何だかそれが可愛くて、俺は桂花を引き寄せようとする。
それに抵抗することも、悪態をつくこともなく。素直に俺の腕の中に収まる。
「私にはあなたしか居ないって思う。
最初は恩を返すため、だとか理由をつけてないと傍に居る気になれなかったけど、
今は本心から、あなたの傍に居たいと思う。最初は本当に傍に寄られるのも、触られるのもイヤだったけど
でも、今は……、頭を撫でられるのも、こうして抱きしめられるのも、すごく心地いい。
今まで損してたって思う。それにね」
少し言葉を切る。俺は髪を優しく撫でながら続きを促す。
「一刀がもし死んでも、その時後悔しないように、素直になろうって思ったから。
私は一刀が好き、これが私の気持ち」
ゆでダコのように真っ赤になりながら、俺にそう言った桂花を強く抱きしめて。
俺を顔を上目遣いに見る桂花の顔は、幸せそうだった。
あとがき
どうも黒天です。
今回は曹魏一行の話しといいつつ、華琳と秋蘭しか出てきませんでした。
しかし、桂花が陥落するのがちょっと早すぎた気がしないでもないですが。
きっと2人はこの後一夜を共にしたハズです。
そういえば、季衣も無印の段階では結構不遇ですよねぇ……。彼女についても何か考えてあげましょう。
今回の拠点では、全体的に魏の面々が関わってくる予定です。まぁ予定は予定でどうなるか未定ですけども。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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少し更新に時間があいてしまいました。
今回は華琳、秋蘭のお話。あと桂花が陥落しますw