「♪ジングルベール ジングルベール すずがなる~」
ジンが無邪気に笑いながらツリーの周りをどかどかと大きな音を立てながらまわってる。
「こ~ら! あんまりうるさくするとサンタさんきてくれないよ!!」
私はクリスマスのごちそうを作りながら、ジンを注意する。
「サンタさん、いつくるの?」
「ジンが眠ってるころかな」
「え~サンタさんに会いたい!」
「サンタさんは忙しいの!」
サンタ役のお父さんは今日も仕事が忙しい。
夜中にならないと帰れないって連絡があったから、きっとジンは待っていられない。
それは仕方のないこと。ジンと私のために、一生懸命働いてくれるのだから。
「おねいちゃん、おなかへった~」
「はいはい、もう少しでできるから待ってね」
そろそろクッキーも焼きあがる時間かな。
時計を見ると7時ちょうど。
そっか。クラスのみんながパーティーを始める頃だ。
…と、思った自分を戒めるために、頬をたたく。
いけない、「羨ましい」なんて。
ジンと二人のパーティーだって、楽しみだったんだから。
お母さんが死んでから、私はジンの母親代わり。
学校が終わったらすぐにジンを保育園に迎えに行って、家事をする。
毎回友達の誘いを断るうちに、いつの間にか誘われることもなくなった。
クリスマス会だって、私一人がいないことに気づいてくれる人はきっといない。
そう思ってたんだけど、たった一人だけ、声をかけてくれる人がいたことに、逆に驚いてしまった。
「クリスマス会、出ないのか?」
クラスの中心にいる男の子。たぶん、幹事をやってるから気にしてくれたんだろうけど。
「もしや、彼氏と二人?」
「ううんまさか! 弟と、二人」
そっか、とつぶやくと、彼は机に開いていた私のお手製お菓子のレシピ帳に目を向けた。
「これは?」
「弟がお菓子好きだから、いろいろ考えて作ってるの。これはクリスマスに作ろうと思ってるジンジャークッキー。毎年作ってる自慢のクッキーなんだ」
「なんだ、授業中真剣にノートとってると思ったらこんなの書いてたのか」
「だって、眠くなっちゃうんだもん」
「俺は堂々と寝るけどな」
あはは、と笑ったら、笑顔を返してくれた彼。
人気があるのも、頷ける。
「クリスマス会もさ、時間あったら、ちょっとでも顔出せよ」
その言葉に応えられないのは悲しい。
でも、仕方のないことだから。
クッキーが焼きあがった。
冷ますためにテーブルに置く。
「ジン、そろそろご飯にしようか」
「うん!!」
ジンはどんな手抜きの料理だって、おいしいといって食べてくれる。
だから、今日は思い切り手間をかけて作ったんだ。
食べてくれる人がいるって、すごく幸せだ。
ピンポーン
チャイムにジンが反応した。
「おねいちゃん、きっとサンタさんだよ!!」
「違うよ、きっと新聞の勧誘とか…」
それでもジンは、ウキウキとした顔で玄関に走り出した。
「ほら、おねいちゃん、サンタさんがきてくれたよ!!」
玄関には、真っ赤な服を着た人が確かに立っていた。
「君がジン君かな。はいこれ、いい子にしてたからサンタさんからプレゼントだ」
「ありがとー!! おねいちゃん、これみて」
ジンが差し出してきた大きな箱とサンタを見比べる。
なぜ、彼が?
「どうしたの? パーティーは?」
「いや…あのさ、自慢って言ってただろ? ジンジャークッキー、食べたいと思って…さ。だめかな?」
「いいんだけど…そのカッコでここまできたの?」
「あぁ! 似合うだろ、これ!! …はっくしゅん!!」
もう、外は寒いのに…
「ちょうどうちもパーティーにしようと思ってたの。調子に乗ってたくさん作っちゃったから、上がって食べていって。できたばっかりだからあったかいよ」
「やった! おしかけてみるもんだな」
はははと声をあげる彼の笑顔が、やっぱり、好きだ。
「急にごめん。これはお前にプレゼント」
「え? そんな、悪いよ」
「お前用なんだから、もらってくれないと困るんだよ」
プレゼントなんて、いらないのに。
だって、来てくれた彼が私にとっての一番のプレゼント――
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クリスマスのほのぼの恋愛ショートです。