No.61742

帝記・北郷:七之後~民を統べる者~


帝記・北郷:七話の後半。

オリキャラ注意。

2009-03-05 23:23:49 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8640   閲覧ユーザー数:7179

 

 

「で、何をするつもりなの?一刀は」

「私に聞かないでよ…」

翌日正午。

維新軍の主な将兵は東門の城壁の上にいた。

「昨日の夜も、一刀があの廖惇って娘に何か手紙を渡したら解散になっちゃったし、今日は今日でいきなり東門の上で待機とか…訳わかんないわまったく」

「私だって解らないわよ」

先程から愚痴の止まらない孫策に華琳はやれやれと溜息をつく。

いや、溜息をついたのは最近の自分に対してだろうか。

青州黄巾党との戦いが始まって以来、一刀が何を考えてこの戦いに臨んでいるのかが華琳には解らない。

昔から人の考え付かないような事を言っては周りを驚かす男ではあったが、それは天の知識によるものだった。

しかし最近の一刀は、天の知識だけでなくこの世界に関しても独自の考えを持ち始めたようだった。

「…遠く感じる日が来るなんてね、あいつを」

「うん?華琳何か言…」

「報告!正面に敵影!!」

物見台の上からの声に緊張が走る。

まるで潮が満ちるかのように大地の彼方からやって来る黄色い巾を頭に巻いた二十万の兵士。

その姿に城兵達が迎撃態勢をとるが、黄巾兵達は城からある程度離れたところで整然と並び、攻めかかる構えを見せない。

華琳達が首をかしげていると、やがて陣の中央から一人の将が進み出てきた。

そう、それは今や青州黄巾党の頂点に立つ男・張曼成であった。

 

「来たようですな」

兵達の同様に、東門の裏で白馬『雪風』に跨る龍志がそう呟く。

「みたいだね」

その隣で『雪花』に跨った一刀が答えた。

「しかしよろしかったのですか?この事を曹操殿達に話さずとも」

「うーん…絶対に反対されると思ったし。説得してる時間ももったいなかったからね」

「後で怒られますぞ」

「覚悟の上さ…それよりも御免よ、龍志さんまで付き合わせて」

「何をおっしゃる…後ろで冷や冷やしながら見ているよりもよほど気が楽です」

苦笑気味に龍志が言った。

「それに…何か私に伝えたいことでもあるのでは?」

「ああ、見破られてたか」

「当り前です。北郷一刀第一の臣の名は伊達ではないのですから」

「……気にしてるんじゃないかと思ってさ」

「はい?」

「昨日の話…つまりは天和達は青州黄巾党に旗印として利用されていたってことだろ?」

「…同じ事をあなたにしていると私が気に病んでいると?」

「うん。少しそう思って…だからさ、見てもらいたくてさ」

一歩雪花を前に進め一刀は言葉を繋ぐ。

「俺は今の俺に後悔していないって言うことと…何より今の俺自身の姿を」

そして彼は振り返り、ニッと歯を見せて笑い。

「俺の…第一の家臣にさ」

「一刀様……」

もう前を向いてしまった主の背を龍志は見つめる。

(一刀。君の頭の中には、もう君の天下が出来てきているんだろうな……もう俺が君に教えることはない…後はただひたすら君について行くだけだ)

僅かばかりの寂しさと強い決意を感じながら。

「さあ、行くぞ龍志!!」

「御意!!」

 

東門が開きそこから現れた人物に維新軍はその眼を疑った。

彼等の主とその第一の臣が、たった二人で二十万の軍勢の中へと進んで行っているのだ。

「な、何をしているんだあの人たちは!!」

「と、とにかく連れ戻さな…」

「お待ちなさい!!」

慌てて止めに向かおうとする将達を止めたのは、華琳だった。

「見てみようじゃない…私達の王がこの戦いにどのような答えを出したのかを。彼の描く天下の姿の一端を」

 

「お初にお目にかかる。青州黄巾党渠帥・張曼成でござる」

「丁寧な御挨拶痛み入ります。俺は維新軍総帥・北郷一刀。彼は俺の家臣の龍瑚翔」

「龍志でござる」

黄巾兵の目と鼻の先で、三人は挨拶を交わす。

「では、北郷殿。昨夜の手紙に会った通り、こうして青州黄巾党全軍を引き連れまいりましたが…貴殿のお話とは如何なることですかな?」

張曼成の問いに、一刀は静かに深呼吸をした後。キッと黄巾兵達を見据え。

「俺はあまり弁舌は得意じゃないから単刀直入に言わせてもらう…」

そして、ありったけの大声でこう言った。

「青州黄巾党!!君達を俺の民として迎える!!」

 

 

「なっ!?」

「なんと…?」

「な、なんだってーーー!!?」

一刀の宣言に、敵味方問わず多くの兵が驚きの声を上げた。

「民にとおっしゃるが…邪教・黄賊・黄魔と呼ばれる我々を!!受け入れるとおっしゃるのか!?」

「その通りだ!!」

「貴殿のその言葉は、二十万の兵を得んが為の詭弁ではないのか!?」

「違う!!そもそも貴方達が天和達…張角達の歌に見たのは何だ!?腐敗した世の果てにある太平じゃなかったのか!!」

「いかにも!!」

「だけど…どれだけ志が純粋でも、目的が崇高なものであっても、周りがそれを許さないことがある。高い税を摂られ、飢饉や疫病が猛威をふるっていたかつての世では、黄巾党は暴徒にならざるを得なかった!!」

張曼成はその言葉に口を紡ぐ。

数年前、それは彼自身が直面した問題であり、今再び直面している問題であった。

「だけど今は違う!!乱世とその後の治世の中で育まれた大地がある!!まだ手がついていない広大で肥沃な大地がある!!」

(大地…私の提案した屯田の計画を覚えておられたのか)

乱世の中で行われた屯田は、あくまで国の中心地を主に行われていた。

その結果、国境付近や首都から離れた地方などはまだ手つかずの大地が多い。

それらを開拓するのが龍志の発案した屯田であった。

「それらがあれば。黄巾党は賊じゃなく、その本来の思いを果たすことができる!違うかい?」

「さ、されど…あなたがそう言おうとも我々と他の人々との間にある溝は……」

「溝…その溝ってのはなんだい!?維新軍の皆!!」

一刀は馬上で城の方を振り返り、事の成り行きを固唾をのんで見守る維新軍の兵士達に声を飛ばす。

「そして青洲黄巾党の皆!!」

今度はまた正面を向き、じっと彼の話を聞く青州黄巾党へ。

「大切な人達との一時を求め!自分が安心して暮らせる日々を求め!天下の太平を求める!!…その思いに、どう違いがあるんだい!!」

そうして、これで止めだと言わんばかりに裂帛の気合いを込め。

「もう一度言う!!俺の…北郷一刀の民に成れ!!そして中黄太乙の夢…黄天の夢…太平の夢を追い続けるんだ!!」

「…北郷殿、いえ、北郷様!!」

張曼成が叫んだ。

「我らの情熱…太平への思いは時として狂気と化す!その事を受け入れられるか!?」

「受け入れる!!」

「もしも、貴方の行く道が太平への道を外れた時は…」

「俺の命をとれ!!」

「……あい解った!!」

そうして、張曼成は馬を下り跪いた。

それを見て、青州黄巾党の兵士達も次々と膝を付いて行く。

「これより、青州黄巾党は貴方様にお任せ致す…されど、この乱のけじめは必要。この首を刎ねられよ!!」

「ええ!?」

途端に情け無い声を上げた一刀に、龍志は雪風からずっこけそうになった。

「そんな…いいじゃないか別に」

「いや、そうもいきませぬ!さあ、貴方様の手にかかるならば本望!!」

「お待ちを!!」

そう言って駆けてきたのは、昨夜一刀達の元に張三姉妹を届けた女将・廖惇だった。

「首というならば、私の首を!!曼成はまだ青州黄巾党に必要な男!!」

「何を言う廖惇!?お前は若い、まだまだこれから…」

「あーもう……」

目の前の事態に頭を抱える一刀に、龍志はやれやれと溜息をつき。

「一刀様。ここは私にお任せを」

「ん?ああ……」

龍志は雪風から降りると、腰の長剣を抜きながら二人に近付いていき。

「張曼成!!」

「はっ!?」

ザンッ!!

張曼成の髪を切った。

「これで張曼成という男は死んだ。これからは周倉と名を変えて、我が主を支えるがよい」

そうして今度は廖惇の方を向き。

「廖惇。そなたも張曼成に義を立てるならば名を改めるが良い…今後は廖化と名乗り、周倉と共に主を支えよ」

「は、はい!!」

「畏まりました!!」

地に額を擦りつける二人に、龍志は長剣を鞘に納めて一刀に向きなおり。

「こんなものでどうでしょう?」

「ああ、助かったよ。ありがとう龍志さん」

屈託の無い笑顔で言う主人に、龍志は苦笑いを浮かべ。

(まったく。立派になったかと思えばすぐに情けなくなるんだから…まあ、これも一刀の魅力と言えば魅力なんだが……)

まだ、後ろについて行くだけになるのは早いかな。と肩をすくめる龍志であった。

 

                    ~続く~

 

 

後書き

 

もはや恋姫じゃない!!

どうも、タタリ大佐です。かっこいいけれど一刀らしい一刀を追及していたらとんでもないものを書いてしまいました。何というか、ぶっちゃけ蒼天航路のパクリと言われないか心配です(そんなことないんですよ。参考にはしましたが)

 

周倉についてですが、周倉は元々から三国志演義の創作人物ですので、張曼成(なぜかこの名前の響きが好きなんですよね)を周倉にすることは案外あっさりと決まりました。本当は、もう一人登場予定だった波才と一緒に自害させるつもりだったんですが、どうせなら周倉にしようと思いつきまして……。

それから廖惇ですが、廖化は実際に元々は廖惇という名前だったそうです。改名の理由は解らないそうですが、随分後になってから廖化と名乗ったそうです。余談ですが、廖化が元々黄巾党にいたと言うのは演義の創作らしいです。正史での初登場は荊州で関羽の主簿(幕僚長)を務めていた時です。

 

最近、オリジナル主人公を使った恋姫の小説がポツポツと出てきましたね。私としてはとても興味深いです。彼等が恋姫のヒロインたちとどういう物語を紡ぐのか…心が躍ります。

第二稿くらいでは、孫策が龍志のかつての恋人(華龍)にそっくりで思い悩む展開などもあったのですが…まあ、やはりそこは一刀だろうと言うことでボツになりました。一刀と龍志の間で揺れる孫策とかも書いてみたら面白かったかもしれませんね(読み手に受け入れられるかは別として)。

 

では、次の作品でお会いしましょう。

 

 

次回予告

 

乱世、そして三国の果て

それでもなお民の心に生きる一つの存在

北郷一刀の覇道を助けんが為に

今また、一人の少女が決意を固める

 

帝記・北郷:八~再興~

 


 
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