「また明日ね~」
学園通りの入り口付近で友人と別れた咲蘭は家路へとつく。
カラオケの帰りにみんなと一緒に寄り道した店で買ったストラップの入った袋を片手に陽が落ちている方角へと歩いていく。
「出だしは悪かったかな~なんて思ってたけど、結果的にいい方向へ進んだわね♪友達もできたし~出だし好調♪」
鼻歌交じりにスキップしつつ、かわいらしい袋をグルングルンと振り回す。
しかし、家に帰れば荷崩しと荷降ろしが待っている。
そのことがフッと頭をよぎったとたんに今まで高まっていたテンションが徐々に下がっていく。
「はぁ~~」
すこしオーバーリアクション気味にため息をつく。
今まで軽かった足取りも次第に重くなっていった。
「そういえば・・・なんだったんだろう・・・」
咲蘭はカラオケ店での自分のやらかした失敗を思い出す。
今まで普通に会話をしてきたはずなのに、その部分の記憶があいまいになっている。
はっきり覚えているのは店員さんが新しいドリンクを持ってきてくれたあたりぐらい
「なにを聞かれたんだっけ?それさえももうあやふや・・・」
まだ若いにもかかわらずボケが入ってしまったのかと少々不安になりながらも、咲蘭は思い出そうと少し頭をかしげる。
「ツッ・・・」
頭の中心がピリッとした。
今までに感じたことのない違和感・・・
再び思考を開始する。
「ツッ…アッ――」
先ほどとは比べ物にならないほどの激痛が咲蘭の頭を襲う。
しかし、それは一瞬の出来事でその痛みはすぐにひいていった。
「思い出せない・・・」
つい数時間前の出来事の一部分が一切思い出すことができない。
サラは少々の不安に襲われはしたが、思い出せないという事は大したことを聞かれていない証拠だと自分の中で結論付けた。
自然と思い出すだろう…
「あっ!家に帰る前に今日の晩御飯を買わないと・・・今日は出来合いモノでいっか・・・」
思い出せないこと以上に重要な問題を思い出したサラはそのまま180度ターンをし、前に学校の見学に来た時に下見をしておいたスーパーマーケットへと向かう。
財布の中を確認し、今日は奮発しちゃおうかなと考えつつ、まったく関係のないことが咲蘭の頭の中によぎる。
なんでこの学校に来ようと思ったんだろう・・・
オープンキャンパスのとき・・・誰かいたような・・・
考えるとまたピリッと激痛が襲う。
頭に浮かんだことをすぐに頭の中で削除し、咲蘭は再び軽やかな足取りでスーパーマーケットへと向かった。
1
「どれが安いのかどうかわからなかったな・・・もう少しリサーチを続けなきゃ」
咲蘭の左手にはかわいらしい袋と一緒に今日の晩御飯となる予定のお総菜とお茶が入っていた。
ついでに明日からの晩御飯の材料も買おうかと悩んだが、どれが安売りなのかどうか、本当に他店よりも安いのかなどと考えると買う気になれなかった。
お総菜はタイムセールとなって割引がなされていたため、自分の食べたいものを買物カゴへと放り込む。
「さってと・・・それじゃあ、晩御飯を食べた後に荷物整理といきますか」
その時、咲蘭の携帯電話が震えだした。
誰かからの着信なのかを確認すると、それは母親からだった。
「もしもし?」
『あっ!サラちゃん?大丈夫?さみしくない?』
母親の声色はいかにもなだめるような優しい様子で、サラを心配しているのがわかる。
「ん?なんのこと?」
『ほら・・・朝は・・・お兄ちゃんとか何とか・・・』
ビリッ!!
「えっ・・・ぐっ!!」
母の声を聞いたとたん、先ほど襲った痛み以上の頭痛が咲蘭を襲う。
正直、母の言葉の意味は理解できなかった。
「あぁぁぁ・・・ッッ!!!
『サラちゃん!?どうしたの!?大丈夫!?』
頭の中が急に真っ白になった。
何も考えられないと思ったがなぜか自然と口が動き、言葉を紡ぎ始めた。
「え・・・あ・・・大丈夫だよ。朝はごめんね。変なこと言って」
『えっ・・・うん。明日の朝には着くからね』
「うん・・・心配掛けてごめんね」
『ついでにサラちゃんの好きなもの持って行くから』
「ありがとう・・・じゃあね」
最後に母が何かを言っていたような気がしたが、咲蘭は通話を一方的に終了させた。
激しい頭痛はまだ続いている。
あまりの痛さに咲蘭は頭を抱え、その場にしゃがみこんでしまう。
すると、金属がこすれあうような甲高い音が耳を襲う。
そしてどこからともなく優しい・・・けど好きにはなれない声が頭の中で響き始める。
『さぁ・・・続けて言いなさい』
その言葉が何度も何度も反響する。
「イヤ…言いたくない…」
何を言わされるのか咲蘭は分かっていない。
ただ、心の奥底のほうからかすかに別の声も聞こえてくる。
(言っちゃダメ・・・お願い・・・言わないで・・・)
その声はとても小さく、薄く、今にも崩れ落ちそうな声をしている。
この二つの声が咲蘭の頭の中でぐるぐると回る。
そして視界が徐々に黒色で覆われていく
「イヤ・・・イヤ・・・」
頭を左右に振ってその二つの声を払おうとする。
しかし、そうすると小さな声のほうがさらに聞こえにくくなり、逆に優しい声が大きくなっていった。
『さぁ・・・続けて言いなさい』
「い・・・や・・・」
少しの抵抗のあと、そこでサラは“また”思考をやめた。
サラはゆっくりと立ち上がり、口を小さく動かして頭の中で響く声を繰り返そうとした。
自然と頭痛は治まっていき、頭が空っぽになっていく。
『あの電話はね・・・さみしくってかけてしまったのよね』
「あの―――でんわは・・・」
咲蘭がそう口にした時、突然サラの両肩に衝撃が走った。
2
視界を支配しようとしていた漆黒が急速に引いていく。
聞こえていた二つの声も聞こえなくなった。
頭痛もゆっくりではあるが楽になっていく。
咲蘭はゆっくりと自分の両肩に乗っている何かを確かめてみると、それは誰かの手だった。
「大丈夫か?」
すると、自分の背後から男の声が聞こえてきた。
声色からして大人というよりも青年といった感じで、言葉のイントネーションも少しだけおかしい。
咲蘭はゆっくりと背後に立つ人物の方へと振り向くと、白い制服に身を包み、眼鏡をかけた男の子の姿があった。
「ホンマに大丈夫なんか?救急車はいらんか?って・・・」
男は心配そうに咲蘭の顔を覗き込んだとたん、少し驚いた表情を浮かべる。
その表情は本当に一瞬でその後はパッと明るい笑顔を浮かべた。
「咲蘭ちゃんやんかっ!うわ~~夏休みの時以来か~久しぶりやな」
自分の名前を知る男の人はこちら側には居ないはず・・・
咲蘭はあまり凝視できなかった男の顔をゆっくりと眺める。
「あっ・・・えっと・・・」
その男の顔は確かに見覚えがあった。
たしかオープンキャンパスの時、学園を案内してくれた人
名前を確か・・・
「及川・・・さん・・・?」
「おっ!名前覚えてくれてたんや~~感激やな~~」
男は露骨に照れた表情を浮かべ、デュヘヘヘ・・・とゆるみきった笑顔を見せる。
「いつからこっちに来てたん?」
「昨日からです」
「えっ?ちょっと遅ない?今日が始業式やで?もうちょっと前にこっち来たらよかったのに~前に行かれへんかったところにいろいろ案内したで?」
咲蘭は及川と雑談を交わしているうちに、とある疑問が脳裏に浮かんだ。
何でこの人と知り合ったんだろうか?
だれか・・・紹介してくれた人がいたような・・・
今日はいろいろなことが頭によぎる。
「そっか~~。あっ!咲蘭ちゃんちょうどよかったわっ!!ききたいことあってん」
「何ですか?」
「かずっちって今何してんの?昨日から全然連絡取られへんねんけど?」
END
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どうもです。
今はとにかく突っ走る。
いけるとこまで行く
というわけで中編です。
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