No.615959

無表情と無邪気と無我夢中10-2

遅れてすいません。後編です。

はやてとあらしはおうかとなのはの最大の理解者であり最大の親友である。
そして、はやてはゲーマー。あれ~?

2013-09-04 20:44:20 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1171   閲覧ユーザー数:1136

 

【無表情と無邪気と無我夢中10-2】

 

 

 

 

 

 

八神家。

 

目の前にははやてちゃんとあらしちゃん、そしてくぅちゃん。

 

 

「私急いでるの。手っ取り早く済ませてほしいの」

 

「……じゃあ単刀直入に聞くわ。アンタ何隠してるの?」

 

「ちょっ、あらし……」

 

「言えるわけないの。もしかしてあらしちゃん、バカなの?」

 

「な、なのは……」

 

「ふぅん……」

 

 

イライラしてるといわれたらしてるかもしれない。

 

こうしている間にも時間は過ぎて、おうかちゃんを救える確率は下がっていく。

 

いい加減にしてほしいの。

 

 

 

 

 

 

あらしよ。

 

ちょっと今のは少し頭にキたわ。

 

でもここで爆発したら意味がない。

 

アタシはこらえて、次の言葉を選ぶ。

 

直球ド真ん中勝負がピッチャー強襲なら少しずつ細かく追い詰めていくしかない。

 

 

「じゃあ、おうかが寝込む前日、何があったの?」

 

 

さて、何て返してくる。

 

 

「べ……別に、何も、ないの」

 

 

明らかに動揺したわね。

 

さらに嘘を吐いた。

 

推測だったものが今のやり取りで確信に変わったわ。

 

さて次は。

 

 

「……そう。その日アンタ、フェレット拾ったんだってね」

 

「…………」

 

「んで夜に心配だから迎えに行ったんだってね」

 

「…………」

 

「家出る前―――」

 

「!?」

 

 

私はまだ何も言ってない。

 

でも今の反応の違いは見逃せない。

 

この反応は……怖れてる?

 

 

「―――は、いっか。勝手に出たことは士郎さんや恭也さんにはバレてたみたいだし」

 

「…………」

 

 

あえて逸らしてみた。

 

まだ……まだよ。

 

ここはミス出来ない。

 

それになのはの精神状態もある。

 

天使のように慎重に、そして悪魔のように大胆によ。

 

……正直言うと今日アタシはなのはを泣かそうとしている。

 

 

「……もういい?」

 

「ああ~っと待って待ってあと一つ!」

 

 

ヤバッ!?

 

逸らしたのは間違いだったか。

 

元々計画性を持ってこの場に臨んでいたんだけど、アタシやはやての予想よりはるかに早くしびれを切らしている。

 

あえて尋問はアタシだけやることにして、はやてと久遠には傍観してもらっている。

 

 

 

あと一つ。

 

 

 

何を、何を聞けば起死回生の一手になりうる?

 

 

 

―――あの夜に、おうかとなのはの間に何があったのか?

 

 

 

―――そこの根底にあるのは、なのはの“隠し事”。

 

 

 

―――なのはは“隠し事”については一切口を割らない。

 

 

 

―――かつ、その“隠し事”にフェレットは確実に関係している。

 

 

 

―――その“隠し事”を言えないがためになのははおうかに嘘を吐いた。

 

 

 

―――今のなのはの精神状態は、おうかの件もあるのだろうけどその“隠し事”に追い詰められてる可能性がある。

 

 

 

―――その“隠し事”にあの女性は関係……してる、か。

 

 

 

それにはあんまり踏み込みたくなかったんだけど、踏み込むしかないのかぁ。

 

常識とか人知を越えたアレに。

 

そうなると聞くべきことは。

 

ちょっと遠回りだけど、

 

 

「アタシとはやてがおうかが倒れた日、あの家にいたことは知ってるわよね」

 

 

 

思い出せ。

 

 

 

ズキン

 

 

 

「……お父さんから聞いた」

 

 

 

確信を得ろ。

 

 

 

ズキズキ

 

 

 

「おうかの容態が急変する直前にね、アタシとはやてね、見ちゃったの」

 

 

 

“アレ”は“誰”だ。

 

 

 

ズキン

 

 

 

「…………」

 

 

 

記憶を探れ。

 

 

 

ミシ。

 

 

「茶色い長髪を、ツインテールにして……」

 

 

 

ミシミシ。

 

 

 

その記憶は思い出すな。

 

 

 

「…………?」

 

 

 

ミシ。

 

 

 

壊れるぞ。

 

 

 

「白の、ドレスを、纏って……」

 

 

 

なのはの目が見開いていくのが見えた。

 

 

でも今は頭痛に耐えて言葉を並べるのが大事だ。

 

 

「槍みたいな、杖、持った……」

 

「もうアカンあらし!!」

 

 

はやてが無理矢理アタシの腕を引っ張って倒れるのを抱き止めた。

 

 

アタシは、行ってはいけないところに行こうとして繋ぎ止められたのか。

 

 

「ごめんななのはちゃん……急いでるんやろ。行っていいで」

 

「…………」

 

 

なのはは肩を震わして唇を血が出んとばかりに噛んでいた。

 

 

どうやら逆転の一撃だったみたい。

 

 

でもアタシ自身が限界みたいで畳みかけることは出来なかった。

 

 

「どこで……」

 

 

でも、爆発する。

 

 

「どこで、見たの……?」

 

「…………」

 

「教えるの!早く!!」

 

 

なのはは興奮してアタシの肩を揺らす。

 

アタシの隠しきれてない笑みには気付いていないようだ。

 

 

「ちょ、やめぇやなのはちゃん!」

 

「アンタ、その人、知ってるの……?」

 

 

あ、いけない。

 

目が回ってきた。

 

 

「知ってるもなにも、そいつが、そいつがおうかちゃんを意識不明にした原因なの!!」

 

「……どうゆうことや?」

 

 

 

言質、取った。

 

 

ごめんはやて。

 

 

あとは任せ、た。

 

 

 

 

 

 

はやてや。

 

後は託された。

 

あらしが倒れてまで取った言質、無駄にはせぇへん。

 

 

「なのはちゃんこそ、何を知っとるん?」

 

「答えて!どこで見たの!!」

 

「……なのはちゃん家や」

 

「わた、しんち……?」

 

「なのはちゃんの質問に答えたんや。次はなのはちゃんが答える番やで」

 

 

自分でも少し冷たいと思う。

 

でも今は心を鬼にせんといかん。

 

隠し事するならするでええ。

 

でもその隠し事を隠すために人を傷付けたんなら。

 

 

「なのはちゃんが隠し事してるのは何でや?」

 

「それは……」

 

「それを隠すためなら大好きな人を傷付けてええんか?」

 

「う……」

 

「そんなんじゃ、おうかちゃんと一生仲直り出来へんまま、やで」

 

「そ、れは……」

 

 

その時のなのはちゃんの表情は、私達が初めておうかちゃんと出会った時におうかちゃんがしていた表情にそっくりだった。

 

 

「……や、だ」

 

 

その表情も見たことある。

 

やっぱり双子だからか。

 

なのはちゃんも、隠し事と罪悪感に挟まれて辛かったんじゃないかと思う。

 

あらしも似たような状態になったことがあるからわかる。

 

なのはちゃんの場合、受け止めてくれる存在があんなことになってもうてるから余計にな。

 

 

「ひぐっ、やだ、うぇっ……やだやだやだ!」

 

 

もう涙声や。

 

追い詰めすぎたかな。

 

いや、これくらいがきっとちょうどええのかもしれん。

 

今追い詰めておかんと、なのはちゃんは人間的に壊れてまう気がしたから。

 

 

「やぁだあああ~~~!ふぇええぇえぇぇ~~~~ん!!」

 

 

ワタシはなのはちゃんの涙が枯れるまでずっと泣かせてあげることにした。

 

吐き出させなきゃいけないものはとことん吐き出させる。

 

止めさせたり抑えつけたりしたらあかん。

 

ワタシの勘はそう告げていた。

 

 

 

 

 

 

「魔法、ねえ……」

 

 

 

あの後なのはちゃんはタガが外れたかのように全部話してくれた。

 

魔法っていう不思議な力に触れてしまったこと。

 

おうかちゃんが倒れる前の日の夜、上手く説明出来ないが故で偶発的におうかちゃんをひっぱたいてしまったこと。

 

そして謎の女性について知っていること全部。

 

にしても。

 

 

「その、ジュエルシードってもんが原因でおうかちゃんは目を覚まさんと?」

 

「うん……」

 

「で、目を覚ますためにはその元となったジュエルシードを持っている女性と戦って勝たなきゃあかんの?」

 

「記録を見る限り、強いの……」

 

 

焦っていた理由はそれか。

 

それで早く強くならないといけないと。

 

でも、ワタシはなのはちゃんが前線で役に立つとは思えなかった。

 

ゲーマーなワタシから言わせてもらえばRPGでいう、仲間がレベル10を越えているのに加入したばかりの一人だけレベル3な感じ。

 

油断するとすぐやられてまう、そんなポジション。

 

しかもレベル10を越えているリーダーが手も足もでないのに、真っ向勝負かけるなんて愚の骨頂や。

 

そうゆう大ボス相手なら。

 

 

「不意打ちとか、一発逆転の作戦とか……」

 

 

RPGよりは戦略シミュレーションの方が参考になる。

 

 

「よし」

 

 

ソファーから降りて床を這いつくばりゲーム機を用意する。

 

 

「何してるのはやてちゃん?」

 

「いや、参考になるかと思ってな」

 

 

ワタシはとあるソフトをセットしてゲーム機の電源を入れた。

 

 

 

 

 

 

何気に数時間後。

 

なのはちゃんと久遠に挟まれて床に座っていたワタシは戦略ゲームを普通にクリアしていた。

 

 

「……何してんねんワタシ」

 

「えっ!?」

 

 

そら驚くわな。

 

何かを示そう思うてやり始めたのに、いつもの癖で無心にやり遂げてもうた。

 

ズレた眼鏡を掛け直して結局何が言いたかったか今更考える。

 

どうしよ、何言お?

 

 

「まあまずアンタは防御を固めろってことよ」

 

 

色々考えてたら後ろからあらしの声がした。

 

振り向こうとしたら、する前に首に腕を回されて抱きつかれていた。

 

 

「自分の身を自分で完璧に守れるように出来れば、攻撃側は気兼ねなく攻撃に専念出来る」

 

「せやなぁ。作戦立てても実行する前にやられたら意味ないもんな」

 

「防御……シールドとかバリアとか、かな」

 

 

むっちゃ真剣に考えとる。

 

でもさっきまでの何かにとり憑かれたかのような表情はなくなっとる。

 

よかった。

 

ある意味いつものなのはちゃんや。

 

あとは、事を一つずつ片していくだけ。

 

こればかりはワタシとあらしは手が出せへんなぁ。

 

 

 

 

 

 

あらしよ。

 

数時間寝込んで調子を取り戻したアタシは、はやて分補充のためにはやてをギュッとしている。

 

なのはの表情を見るに、はやては上手くやってくれたみたい。

 

さすが自慢のお姉ちゃんだなあ。

 

と、話が逸れた。

 

今なのはが生き残るための道は示したけど、おうかを目覚めさせるためには敵を確実に倒さなくてはならない。

 

となると、今の段階じゃ攻撃が一枚二枚足りないか。

 

 

「「「「う~ん……」」」」

 

 

アタシ含めて四人、頭を悩ませる。

 

 

ん?

 

 

四人?

 

 

アタシ、はやて、なのは。

 

 

で。

 

「…………いた」

 

「くぅ?」

 

 

アタシのちょっとした空気の変化を感じたのか、振り向いた久遠と目が合う。

 

 

「く~お~ん~」

 

 

アタシの言いたいこと、わかるわよね。

 

おそらく嫌な予感はしていたのだろう。

 

 

「う……わかった」

 

「ん?……ああ、そうか」

 

 

はやても気付いたみたい。

 

そう。

 

目には目を歯には歯を。

 

非常識には非常識をぶつければいいじゃない。

 

人知を越えた存在がここにいるんだからさ。

 

 

「てな訳で、安心しなさいなのは。久遠がついていってくれるから」

 

「え、くぅちゃん?」

 

 

あれ、なのは知らなかったんだっけ?

 

まあいいや。

 

向こうで久遠から直接説明してもらえば万事OKってことで。

 

アタシ達も漠然としかわかってないから大丈夫よ大丈夫。

 

そこまで言っといてアタシははっと気が付いた。

 

 

「なのは。アンタどっか行くんだったんじゃ……」

 

 

あ、なのはも今気付いたって顔をしている。

 

 

「そ、そうだったの!忘れてた!!」

 

「今からでも間に合うか?なんだったらタクシー呼ぼうか?」

 

「いや、そこまでは大丈夫なの。急がなきゃ……!」

 

「久遠、ついでだからアンタもゴー!」

 

「くぅ!」

 

 

トテトテトテとそう速くない足を動かしてなのはが外に向かい久遠も追い掛ける。

 

あ、追い抜かれた―――って追い抜いてどうするのよ久遠。

 

二人とも行っちゃった。

 

 

「あらし」

 

 

二人が去ってから数分して、ちょいちょいとはやてがアタシに手招きをした。

 

 

「……いいの?」

 

 

ニコッとはやてが笑う。

 

何も言わなくてもわかる。

 

だってアタシははやての妹だもん。

 

アタシはそれに甘える形で嬉々としてソファーを回り込んでダイブした。

 

 

「えへへ」

 

 

そのまま頭をはやての膝にポンッと乗っけてスリスリしながら寝っ転がる。

 

 

「膝枕~はやての膝枕~」

 

「よしよし―――もうくすぐったい~」

 

「へへへへへ、お姉ちゃ~ん!」

 

 

一回体調を崩してからのコレはまるで麻薬のような効果がアタシの脳内を駆け巡る。

 

 

普段は妹らしくないっておうかに言われたりしてたけど今ばかりは妹エネルギー全開ではやてにゴロゴロ猫のようにすがりつく。

 

 

決して他人には見せない―――いや見せたくないアタシの一面。

 

 

色々あって、色々あって、いや本当に色々あって今に至るわけだけど。

 

 

はやてに膝枕してもらって頭を撫でてもらっているこの時だけは幸せを100%感じることが出来る。

 

 

来年もこの幸せを感じることが出来るのだろうか。

 

 

この先どうなるか誰にもわからない。

 

 

でも最大限の努力はしたい。

 

 

最大限の抵抗だけは諦めない。

 

 

前とは違って今は頼れる人もいる。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

あ、いつの間にかはやて寝ちゃってる。

 

 

アタシはおもむろにはやてのメガネを外す。

 

 

素顔でのはやてのうたた寝顔可愛いわあ~。

 

 

「……何あの猫?」

 

 

ふと視線を感じてそっちを見ると一匹の猫が庭から窓越しにこっちを見ていた。

 

何か、あれ気分悪いわ。

 

でもこの変な気持ちをあの猫に当てても意味ないか。

 

アタシは、はやてと同じ夢を見られますようにと願いながら目を閉じた。

 

 

 
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