俺達は袁紹を撃破し、冀州の地を手に入れた。
あの計略には、愛紗はいまいち納得出来なかったらしく、しばらく機嫌が悪かったのでご機嫌をとるのに随分苦労した。
頭では納得してても、感情がついてこない、って感じかな、正々堂々とかにかなりこだわる方だし。
俺としては、正々堂々で犠牲を増やすより、卑怯な手を使ってでも犠牲を減らしたいと思っている。
兵士の数はゲームのパラメータじゃない、その一つ一つが重い、犠牲は少ないほうがいい──。
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領地が増えれば仕事が増え、俺の休日は減った。
とはいえ、白蓮と紫苑が政治関係にも強いので、随分と楽はさせてもらってるハズだが。
塩田がある程度軌道に乗り、資金に余裕が出てきたのはありがたい所だ。
命令通り動くのではなく、常に試行錯誤しろとはいってあるから、これからもっと儲けが出るだろうし。
みんなの給料も増やしてあげられるし、俺の小遣いも増えた。お金に余裕ができると心の余裕もできる。
そんな中ようやく、午後から時間をあけることに成功したので、俺は城内をぶらぶらと桂花を探して歩きまわる
本人は覚えてないだろうけど、町に一緒にいく約束もしてるし。
ただ、素面の時に誘ってついてくるかなぁ……。そうかといって酔っぱらいを連れてくわけにもいかないし。
お、居た居た……。
「おーい、桂花」
声をかけると何だかビクっとして、それからこっちをゆっくり振り向いた。
「なによ」
おや、ごきげんななめか?
「いや、町に行くから付き合ってくれないかと思って」
「町に? 別に町くらい一人で行けばいいじゃない、私はあなたと違って忙しいの」
「え、おい……」
それだけ言うと俺に背を向けて立ち去っていく。
何となく予想はしてたけどこうまでハッキリ断られると若干ショックだったり。
俺はとぼとぼと自室に戻る事にした。
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びっくりした……。
急に後ろから声をかけないでほしい。
まだ心臓が早鐘を打つよう。
町に行くとかいってたわね。思わず断っちゃったけど、付き合ってやれば良かったかしら
本当は暇だったんだし……。
「おや、桂花、仕事にいくのならこちらではないのでは?」
この声は、星……。ヤなときにヤな奴に……。
「な、何よ、あなたには関係ないじゃない」
「ふむ、確かにそうだな。私には関係ない、ならば、私はここで失礼してよう。
そうだな、主は暇を持て余しておるようだし、町に行く誘いでもかけるとしよう
先ほど桂花に断られて傷心の様子だし、主のことだ、断りもすまい」
「だめ!」
そこまで言って思わず自分の口をパッと塞ぐ。なんでダメなんて……。
そんな私を無視するように星は振り返りながら言葉を続ける。
「主も気の毒に、折角桂花と町に行きたいからと日々遅くまで仕事をこなして休みを作っていたというに、
こうもアッサリと断られたのでは主も浮かばれぬだろう。ここは私が慰めて差し上げねば」
「ちょ、ちょっと! それ本当なの!?」
「ん? 本当だとも。町に連れて出たら酒の一杯でもおごらねばな」
「その前よ!」
「その前、といえば主が毎日遅くまで仕事をして時間をあけていた事か?」
「そう、それよ」
「事実だ、夜も遅くまで主の部屋の灯りがついているのを知らぬわけでもあるまい。
一度主に、急ぎの仕事でも無いのに何故遅くまで仕事をするのか、と問うた事があってな、
すると、桂花と町に行く約束をしたから時間を作らないといけない
酒の席での約束だから、桂花は忘れているやもしれぬが、約束は約束。と、まぁ主の予想通り、桂花はすっかり忘れていたのだろうが」
胸が罪悪感でいっぱいになる。どうして素直にうんと言えなかったのだろう……。
「そう……」
「ここまで聞いても、主のもとへ行かんのか?」
「今更行けるはずないじゃない」
「主は、桂花が誘えば喜んでついてきてくれるだろう。主はそういう御仁だ。
私よりずっと付き合いの長い桂花がそれを知らぬわけでもあるまい
ふふ、のんびりしていると、朱里や紫青に取られてしまうぞ? 主の休日を狙っているのは私だけでは無いのだからな」
私は北郷の部屋に向けて足早に歩き始める。星にいいようにされてる気はするけどせめて謝らないと罪悪感で耐えられそうもなかった。
「ふむ、あの様子では自分の想いにも気づいていないか。もう少し素直になれば良い物を」
後ろでそうつぶやく星の声は、私には聞こえていなかった。
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桂花に誘いを断られたのでさてこの後どうするか、と椅子に座って考える。
他にコレと言って用事があるわけでもなく、この気分では仕事に手がつきそうもない。
とんとんと、ドアが控えめにノックされる。開いていると答えれば、ドアを開けて現れたのは桂花だった。
部屋に入ってきたはいいものの、無言。
何か言いたいが言葉が見つからないか言い出せない、って感じか。
何だか叱られに来た子供のようだ、なんて感想が湧いてきたり。
「桂花、時間あいたの?」
「え、ええ」
「じゃあ、もう一回聞くけど、一緒に町に行かない?」
「そ、そうね、あなたがどうしてもっていうなら、その、付き合ってあげなくもないわよ」
この素直じゃないところが桂花らしい。俺はゆっくりと椅子から立ち上がり、桂花と一緒に町に向かうことにした。
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桂花と並んで町を歩く、適当に屋台をひやかしたりとかそんな所で、特別変わったことをするわけでもない。
ただのんびり午後からの余暇を満喫している、といった所か。
「市にも随分お店が増えたわね」
「それもこれも、桂花達のおかげだな」
「褒めてもなんにも出ないわよ? それに、あなたが民を第一に政をやってるからこの街の姿があるのよ、私達はその手助けをしているだけ。
魏の方は軍拡軍拡で民の生活は苦しいって噂だし」
「でも俺だけじゃできることは知れてたしなぁ、最初なんてほんとに大変だったし」
ここに来てすぐの頃を思い返す。俺が県令をはじめてしばらくのころ。
愛紗は手伝ってくれてたけど政務はほとんど俺の仕事だったから大変だったなぁ。
市はもっと人気が少なく、それでも人々の顔には笑顔があったっけ。
思えば桂花にはずっと助けられっぱなしだなぁ……。
「なによ、私の顔に何かついてる?」
「こっちに来てからずっと、なんだかんだいいながら桂花はいつも俺の隣にいてくれてるなって思うと感慨深くて」
「もう結構長い付き合いになるわね。でもまだ道半ばなんだから、感慨に浸るなら最後にしてほしいものだけど」
「お、こんなお店ここにあったんだな」
ふと目に止まるのは、現代で言うところのアクセサリショップ。人の話を聞きなさい、なんていいながら桂花がついてくる。
「なんかいいのがないかなっと……」
陳列棚に視線を巡らせて、商品を物色。
普段からフリルいっぱいついたような可愛い服きてるし、桂花もやっぱり好きなんだなぁ。
夢中とまでは行かないまでも結構楽しそうに陳列棚を眺めている。
こっそりその様子を観察していると、どうやら興味をひいたものがあるようで、何度も視線が向かう物がある。
髪飾りかな? 値札を確認してみるが、高いものじゃないけど、良い物だ。
それをひょいと横から手にとると、驚いたような表情、うん、中々可愛いリアクションだ。
「おやじさんこれ頂戴」
お金を払ってそれを受け取ってと……。あれ、何だか不服そう?
「誰にあげるのよ、ソレ」
あぁ、そういうことか。思わず笑みが溢れる。
「桂花にあげるつもりで買ったんだけど」
そういって、その髪飾りを桂花の髪にそれをつける。触らないでとか妊娠したらどうする、とか言って来るけど気にしない。
多分これぐらい強引にいかないと受け取ってくれないだろうし。
「うん、似合ってる」
「町中でこういう事しないで欲しいわ、恋人同士とか思われたらどうするのよ」
「あらぁん、ご主人様じゃなぁい?」
本当に唐突に、野太い声が背後から襲いかかってきた。
振り返ればスキンヘッドにもみあげだけを伸ばして三つ編みにし、ピンクのリボンを結んだイカツイ顔。
その他はピンクの紐パン一丁の筋骨隆々の巨大な男がそこにいた。
何故このタイミングで現れたこの野郎……。折角いい雰囲気だったと思ったのに
こいつの名前は信じられない事に貂蝉、反董卓連合軍で洛陽に行った際、誰かが捕虜にして連れてきてしまったのだ。
おそらく、みんな口にこそ出さないが「誰だよこいつを捕虜にしてつれてきちゃった奴は」と思ったハズだ。
ホントに誰だよ。つれてきちゃったの。釈放したのに何故かちらほら城に出没したりするし。
なお、男嫌いの桂花の天敵でもある。桂花はといえば、俺の腕にしがみつくようにして涙目になりながら俺の背後に隠れてしまっている。
「相変わらず酷いわねぇ、桂花ちゃん」
「そ、そそそ、その野太い声で、私の真名を呼ばないでよ! か、かか、一刀、は、早く、早くアイツの首刎ねちゃってよ!」
これ以上無いほどの慌てぶり、漫画なら目が渦巻きにでもなってるんじゃなかろうか。
俺の呼び方が名前呼びになってるし。
「ひどいひどいひどいわぁ……こんな美女を捕まえてなぁんて事を……よよよ」
泣き崩れるように体をくねくねとさせる貂蝉、なんか頭が痛くなってきた……。
「声をかけてきたってことはなんか用事があったんじゃないのか?」
「あ、そうそう、向こうで喧嘩が始まってるの。街に来たばっかりの隊商達が、なんか場所取りで揉めてるみたいなのよ~。
近くに警邏の人も居ないみたいで、探してたら丁度ご主人様を見つけたってワケ」
ああ、そういうことか。やれやれ、なんてタイミングで出てくるやら。恨むぞ、喧嘩した隊商ども。むしろお前が鎮圧しろ筋肉ダルマ。
ポケットから呼子を取り出してそれを吹き鳴らすと、付近を警邏していたらしい兵が駆けつけてくる。
袁紹との戦いの時にも使ったが、ピーーーっと高い音が鳴るよく時代劇でみるアレだ。
楽器屋に頼んで作ってもらい、街の警邏をやってる人にももたせている。
貂蝉に警邏の兵の案内を頼み、ようやく追い払って桂花の方に視線を向ける。
これは腰抜けてるな。
「大丈夫か?」
「あ、あれとまともに会話できるのが信じられないわ……」
桂花の言葉に苦笑、しばらく立てそうもないので仕方がないから背負って帰る事に。
「うぅ、まさかあれに遭遇するなんて……」
名前を呼ぶだけでも禁忌らしい。背負った桂花は何だかしょんぼりした様子。
こうして背負ってると、何だか最初に桂花に会った時のことを思い出す。あの時はお姫様だっこで連れてきたんだけど。
次の日腕や脚が筋肉痛になったのは墓の中で持っていくつもりの秘密だ。
「何にやにやしてるのよ」
「最初に桂花に合った時のこと思い出してね」
「そういえば、あなたが城まで運んだんだったわね」
こう、背負って見ると、背中に薄いながらも柔らかいものが当たるなーなんて思いながら。
太ももとかも柔らかいし、なんだかふわっといい香りがしたりも……。
このあたりだけは貂蝉に感謝せねばなるまい。
顔にでると桂花に怒られるだろうからなるべく顔に出さないように。
しかしこれ、愛紗とかに見られたら面倒くさい事になりそうだなぁ
「あっちよ。こんな所、愛紗なんかに見られたらたまらないわ……」
城に近づいた所で桂花が行き先を指示する。考える事は同じか。
桂花に指示されるままに歩いて、桂花の部屋にたどり着けば桂花を床に降ろす。流石にもう立てるようにはなったか。
椅子に座ってやっと一息、と言った様子だ。
「それじゃあ、また明日な」
「待って」
立ち去ろうとすると、呼び止められた。振り返ると、
「これ……、ありがと」
髪飾りに軽く触れながら、照れくさそうな表情をしてポツリと。
「どういたしまして」
それだけいうのが精一杯、桂花さん可愛すぎです。
このままここにいると襲いそうなきがしたので足早に部屋を出る。
今日は桂花を誘って本当に良かった……。
あとがき
どうも、黒天です。
今回から拠点フェイズ……ってことで、
初っ端桂花さんオンリー!! です。
甘い感じに仕上がったでしょうか?
原作だとここで3回拠点フェイズがあるので、曹操戦までにもう1回ぐらい桂花さんの回がある予定
あくまで予定。2回に増えるかもしれないし無いかもしれない。
前回書いた原作で目立たない人。は、黒天の主観で決めるので誰が目立ってくるやら。
次回は誰を書こうかなー。紫青さんか白蓮さん? あたりが取り敢えず有力かな。
華雄さんが紫苑さんに可愛い服を着せられるネタもやらないとなー……。
まぁ、基本気が向いたとこから書いていきます、ムチャぶりでない範囲でネタ提供もお待ちしてますw
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は桂花さんメインな感じです。あとここに来てやっとヤツが出てきます。