No.615626

真・恋姫無双 黒天編“創始”   第3章「自浄作用」

sulfaさん

どうもです。お久しぶりの方はお久しぶりです。
はじめましての方ははじめまして
仕事めっちゃ忙しい…
でも物語は完結させたい…
というわけでちょっとだけリハビリも兼ねて書いてみました。

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2013-09-03 18:48:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1199   閲覧ユーザー数:1080

真・恋姫無双 黒天編“創始”   外史を終結させるために少女は弓を引く

 

第3章 「自浄作用」

 

 

 

「えっ・・・だ、だれ?ほんごうかずとって・・・」

 

男子学生は困ったようにそう言う。

 

咲蘭は男子学生が言う言葉をうまく理解することができなかった。

 

頭の思考回路が数秒間ピタッと止まる。

 

「あ・・・あの・・・言ってる意味が良く分からないのですが?」

 

思考停止してる状態で咲蘭が無意識に発した言葉がこれだった。

 

「えっ、いや、それはオレも同じなんだけど・・・」

 

男子学生は咲蘭に困ったようなそぶりで、後頭部を二、三回ポリポリとかく。

 

「北郷・・・一刀・・・ですよ?ここに住んでた・・・」

 

「ここ・・・ずっと誰も住んでねぇし・・・」

 

そこで一気に咲蘭の思考回路が動き始め、あっという間にオーバーヒートし始める。

 

咲蘭の心と頭の中にあった戸惑いが混乱に代わり、その混乱がさらに暴走へと変化する。

 

「悪い冗談はやめてくださいっ!!だってあなたっ!!昨日このドアの前で私に北郷に用事なのかって聞きましたよねっ!」

 

咲蘭のいきなりのきつい言葉に声をかけた男は露骨にムッとした表情を浮かべる。

 

「それにっ!!自分は北郷の隣に住んでる者だって言ってたじゃないですかっ!!なのに、何で知らないとか・・・そんなこと言うんですかっ!!私の気持ちも知らないでっ!!」

 

畳みかけるような咲蘭の言動に男は売り言葉に買い言葉で強めの言い方をしてしまう。

 

「はっ?何言ってんの?そんなこと言ってねーし・・・あんときは誰も住んでいない部屋の前でつったってるアンタにおれは親切心で声をかけてやったんだろが・・・部屋間違ってませんかって」

 

「そんなこと言ってなかったじゃないっ!!あなた昨日自分で言ったことも覚えていないんですかっ!私は確かに聞きましたっ!!朝方にお兄ちゃんの部屋の札が不在になっていたこととかっ!!伝言があるんならポストに手紙入れとけとかっ!!全部あなたから聞いたんですよっ!!」

 

咲蘭は相手の胸ぐらをつかむ勢いで、男子学生に喰ってかかる。

 

その勢いに男子学生は怯んで、一歩後ろへと下がってしまう。

 

しかし、最後は心底めんどくさいというような表情を浮かべて

 

「ちっ・・・なんだよっ!朝っぱらからうっとおしい・・・」

 

“どけ”と言わんばかりに右手を振りながら右手に持たれたカバンを肩越しに持っていって、咲蘭を無視してエレベータホールへと進んでいった。

 

「待ちなさいっ!!まだ話はっ!!」

 

咲蘭は男子学生の背中目掛けて声を荒げて叫ぶも、男子学生はそのまま角を曲がっていった。

 

背中を追いかけて肩を掴んでやろうかとも考えたがその気持ちはグッと押さえる。

 

そして、その男子生徒が言うに誰も住んでいない部屋のドアをもう一度見つめる。

 

そこには間違いなくデカデカと空室の文字が書かれた紙が貼られている。

 

眺めていると、空室の文字の他に紙の右下部分に小さな文字で何か書かれていることに気がついた。

 

先ほどは気がついて気がつかなかったが、咲蘭はその小さな文字へと焦点を合わせていく。

 

そこには日付が書かれていた。

 

どうやらこの紙が貼られた日付のようだ。

 

20XO年 3月31日付

 

その日付を見てさらに咲蘭は驚愕する。

 

その日付は2年前の日付であった。

 

この紙が本当に正しいのならば、この部屋には2年間誰も過ごしていない。

 

今から2年前といえばちょうど一刀がこのフランチェスカへと入学した年

 

「どうなってんよ・・・」

 

もうわけが分からなくなっていた。

 

自分一人では処理が追いつかない。

 

確かに昨日は表札も不在表もあったのだ。

 

先ほどの男子学生だって北郷に用事かと言っていた

 

それが今日になって全てが消えた。

 

 

 

 

そこで、頭の中にふっと母の顔がよぎった。

 

(そうだ・・・お母さんだ・・・)

 

今母に連絡をしたとしても、昨日は確かにあったお兄ちゃんの部屋の表札がなくなっていて・・・おにいちゃんのことを隣の人が知らないっていうの・・・みたいな話をしてもキョトンとされるだけだろう。

 

しかし、咲蘭は誰かにこのことを伝えたくて仕方がなかった。

 

自分だけで抱えるには余りにも大きすぎるし、訳が分からない。

 

高校生になったばかりの娘一人では到底解決できなかった。

 

咲蘭は居てもたってもいられず母の番号へコールする。

 

すると、母はすぐに電話に出てくれた。

 

『もしもし?おはよう。どうしたの?何か忘れ物でもあったの?』

 

「あのねっ!お兄ちゃんが居ないのっ!部屋に行っても昨日まであったお兄ちゃんの部屋が今日行ったらお兄ちゃんの部屋じゃなくなってて・・・空室になってて・・・」

 

咲蘭は頭に浮かんだ言葉をそのままストレートに母に伝える。

 

それだけ心に余裕がなかったのだ。

 

母なら解決策をきっと考えてくれると信じて、一心不乱に母に言葉をぶつける。

 

『咲蘭ちゃん・・・落ち着きなさい・・・』

 

「落ち着いてなんかいられないよっ!!だって・・・お兄ちゃんが・・・」

 

 

 

 

『咲蘭にお兄ちゃんなんかいないでしょ』

 

 

 

 

「・・・・・・えっ・・・」

 

それはもはや声というのはあまりに細かった。

 

ただ空気が口から洩れただけの音だった。

 

もちろんただでさえ携帯越しからの声なのだから母には聞こえていない

 

『どうしちゃったの?咲蘭ちゃん?もしかしてホームシック?』

 

そんな咲蘭の様子も知らないで母は言葉を続ける。

 

しかし、声色は先ほどと若干変わっていた。

 

その声からは心配しているような感じが聞き取れる。

 

しかし、その心配の内容は咲蘭の体調のことであり、一刀の行方のことではない。

 

「何言ってるの・・・お母さん。お兄ちゃんだよ?一刀お兄ちゃん・・・」

 

『えっ?咲蘭がお兄ちゃんって呼ぶ人って・・・誰のことかしら?ごめんなさい。私はその人とあったことないと思うんだけどな・・・』

 

「一刀お兄ちゃんだよっ!!私のお兄ちゃんっ!!」

 

『か・・・ず・・・と・・・さん?』

 

母はここで数秒間沈黙した後

 

 

 

 

『どなたなの?』

 

 

 

 

その短い母のその言葉がさらに咲蘭の心を絞めつけた。

 

「もういいよ・・・父さんにかわって・・・」

 

『咲蘭ちゃん?ほんとにどう――』

 

「いいからかわってよっ!!!」

 

咲蘭が突然叫んだものだから携帯越しに母の『ひっ!』という小さな悲鳴のようなものが聞こえた。

 

そして、少し声が遠くなって母の声で『お父さ~ん』という声が聞こえた。

 

『もしもし?どうしたんだ?母さんの様子が少し変だが、何かあったのか?』

 

「お兄ちゃんがねっ!!いないんだよっ!!昨日から全然会えなくてね・・・それでね・・・」

 

咲蘭は声を荒げながら、父に訴えかける。

 

その声は裏返り、そして涙声となって父に届く。

 

『咲蘭・・・まずは落ち着きなさい』

 

「落ち着いてるもんっ!!でもね・・・いないんだよ・・・お兄ちゃんが・・・なのにお母さん・・・ひっく・・・えっぐ・・・」

 

ついに咲蘭は堪え切れなくなって目からポタポタと涙がこぼれおちる。

 

『・・・咲蘭、大きく深呼吸しような・・・ほら・・・吸って』

 

「・・・うん」

 

目を擦りながら咲蘭は父の言葉にうなずいて、大きく息を吸い込んだ。

 

しかし、うまく吸い込むことができない。

 

もう胸が心配や不安やらでいっぱいなのだ。

 

それでも無理やり息を吸い込む。

 

そしてゆっくりとしたペースで息を吐き出す。

 

それを3回ほど続けた。

 

『少しはマシになったか?』

 

「うん・・・でも、お兄ちゃんは・・・」

 

 

 

 

『落ち着いて聞きなさい。咲蘭、お前はひとりっ子じゃないか』

 

 

 

 

実は少しだけ咲蘭は予想していた。

 

こう返事が返ってくるんじゃないかって

 

でも、そう改めて言われてしまうことが怖かった。

 

だから、途中でこらえ切れなくなって泣いてしまった。

 

しかし、結局父も母と同じことを言った。

 

お兄ちゃんは・・・北郷一刀は・・・いないんだって

 

『おい・・・咲蘭?大丈夫か?』

 

『やっぱり一人暮らしはまだ早かったのかしら?』

 

『咲蘭なら大丈夫と思ったのだが・・・母さん・・・悪いが・・・』

 

『うん・・・私が咲蘭の様子見てくるわ』

 

携帯の受話器越しから両親が自分のことを話している声が聞こえてくる。

 

しかし、耳には入ってきたが頭には入ってこなかった。

 

『咲蘭・・・今から母さんに行ってもらうから、もう少しさびしいのは我慢し――』

 

そこで、咲蘭は通話終了ボタンを無意識に押した。

 


 
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