No.615229

踊るマリオネット

言切切マフィアパロ。
言峰(4.5次)キリツグ(ジジ)切嗣(4次)が出てきます。
うっかり滾って作文した代物。急造ですので校正は一回、マフィアについての細かい指摘は無しで。

2013-09-02 08:32:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:624   閲覧ユーザー数:624

*密談*

 

「キリツグ、今すぐ言峰を追い出せ。いや、殺せ」

同じ顔の―――同じ名の弟にそう言われ、キリツグは小首を傾げた。

仕草にどんなにかわいげがあろうと、所詮三十路手前。

かわいいはずがない。のだが、切嗣はうっかり見惚れ、見惚れたことに舌打ちをした。

今はそんな場合ではない。

切嗣は樫でできた大きな書斎机に両手をついた。

 

「エミヤ」はいわゆるマフィアと呼ばれる犯罪組織の一つである。

あるイタリアンマフィアの傘下のファミリーの一つにすぎないがそこそこに大きなファミリーで、構成員になりたいと門扉を叩くものは後を絶たない。

言峰綺礼もそんな若者の一人だった。

たぐいまれな身体能力を持ち合わせていたという事もあり、初めはソルジャーとして配置された言峰だったが見る間に頭角を現した。

そしては、キリツグの眼に止まり、キリツグが傍へと求めたのだった。

つまり、ボディーガード、兼、愛人。

傍へ侍らすための準備として切嗣が言峰の身元を調べたのは言うまでもない。

結果は見事に白かった。

彼の前身が神父だったという謎はあるが彼はファミリーの一員になるまではごくまっとうな人生を送っていた男だった。

だが、その報告を良しとしなかったのは切嗣だ。

切嗣には直感があった。

言峰は「そうではない」という直観だ。

決してそれまで切嗣以外の人間をそばに置こうとしなかった兄が初めて他人を隣に置いたという事に嫉妬したせいではない。切嗣は誰にともなくそう言った。

言峰の瞳に落ちる影が切嗣の防衛本能を刺激してやまなかったのだ。

切嗣は兄に無断で言峰の身辺の洗い出しをもう一度行った。

金に糸目はつけない。

果たして出て来た真実は―――。

看過できるものではなかった。

何時牙をむいてもおかしくない身元―――。

そんな危険人物を放置しておくわけにはいかないじゃないか。

 

「あいつが何者か、兄さんは知っているのかい?」

切嗣はじっと兄の眼を見つめた。

兄は黙ってそんな弟を見返していた。その瞳に感情はない。喜怒哀楽の豊かな兄の眼から感情が消し去られているという事実が切嗣に再び舌打ちをさせた。

尤も双子だ。彼が何を考えているかなど手に取るようにわかる。己が意思を変える気はないという意味だ。

それではだめだ。

切嗣は瞳に強い意志を込めて見返した。

今回ばかりはキリツグに考えを改めてもらわなければならない、と。

 

どれほどそうしていただろうか。

 

ふと…キリツグがため息をついた。

次いで机の上の煙草のケースに手が伸びる。

切嗣は急いで彼の傍へと行くと咥えられた煙草に火をつけてやった。

…っ――

キリツグの薄い胸が上下し紫煙を吸い込む。

白い筒を摘まみ取ると煙が薄い唇から吐き出され目の前に広がり―――消えた。

 

カチコチカチ

 

柱時計の音が書斎に響く。

相変わらずキリツグは無言だ。切嗣からその手に移った煙草の長さだけが短くなっていった。

キリツグは求めていた。

切嗣がため息をついて部屋を出て行くことを。

けれど切嗣はそうせず、ならば、物分かりの悪い弟にはしっかり言い聞かせないといけないと思ったのだろう。

 

「僕は彼を手放す気は無い」

 

短くなったタバコを灰皿に押し付けるとキリツグは再び切嗣の眼を見、そう言った。

「『エミヤ』は君の物だ。今こそ僕がボスとしてこの椅子に座っているけどね。先代は君にこそ、と願っていた。君が拒むから…今は僕がここに座っているけど、いずれは返すことになるだろう」

切嗣が眉を寄せた。

キリツグがこの話を持ち出すという事は―――

案の定キリツグは続けていくつか言葉を重ねた。

「言峰が遠坂の息のかかった男だという事は知ってるさ。遠坂がどういう意図で彼を衛宮に送り込んだのかもね。でもね、切嗣。僕はすべてを知っててそれでも尚彼が欲しいと思ったんだ。僕のために―――。君のためにだ」

 

 

*共感*

 

濃厚なセックスを終え、言峰綺礼はベッドを滑り降りた。

サイドテーブルに置かれたミネラルウォーターを手に取る。キャップを捻って中身を煽った。

ゴクリゴク…

喉仏が大きく上下する。

半分ほど飲み干したところで言峰は近寄ってきた人物にボトルを手渡した。

「飲むか?」

「悪いね」

言峰よりずっと尖った喉仏が上下し、同じものを飲み込んだ。

その姿が色っぽいと思いながら、言峰はベッドの端に追いやられたシルクのガウンを引き寄せると、雇い主であり恋人の肩書を持つ男の肩に掛けてやった。

「夜は外出だったな。時間まで私はトレーニングルームにいる」

そう言い残し言峰はベッドを離れた。

 

 

 

ドアを開け、寝室から出た言峰はふと右の方へと目をやった。

一人の男が長椅子に深々と身を横たえ、言峰を鋭い眼光でにらんでいた。

衛宮切嗣。

言峰が先刻まで抱いていた男の双子の弟だった。

瓜二つと称されるその男は、兄の影武者だ。

影武者―――とは正確ではないかもしれない。

真実は兄が弟の身代わりなのだ。証拠に兄には切嗣と同じ音の名しか与えられていない。それは公然の秘密なのだが、問題とされることは無かった。

言峰は切嗣のそばに歩み寄った。

立場は切嗣の方が上なのだが、兄の愛人である自分にはその兄からある程度の不敬は許されていた。

言峰は長椅子の背に手を掛けた。

切嗣の眼光はますます強くなる。

ニヤリ、と言峰は哂った。

切嗣は気に入らないのだ。自分が兄の愛人であることが。

理由は単純。

自分が来るまで兄は自分の物だったからだ。

ブラコン―――などというかわいらしいものではないことも言峰は知っていた。

切嗣はキリツグを恋人以上として愛していたのだ。もちろんそれはキリツグにも言えたこと。常軌を逸した近親愛。

さぞかし凄まじい嫉妬の炎がその身を焼いている事だろう。

状態をこれでもかと屈め、言峰はさらに切嗣にその身を近づけた。

そう―――彼の憤りは嫉妬だけではない。

たっぷりとしみついたキリツグの香りが相手が嗅ぎ取れるほどに近くに身を寄せた言峰はその耳元に囁いた。

 

「それでは辛かろう。抱いてやろうか?」

 

ガッ

 

蹴りを防いだのは言峰の左手だ。

そのままその手に体重を乗せる。反動を生かし言峰は体をローテーブルの向こうへと己が体を放った。

ボスッ

着地を狙ってサプレッサーが響いた。

言峰を狙って。もちろん当たるような言峰ではない。

だが、体制を整えた言峰を寝転がったままの切嗣の手にある銃が狙いを定めていた。

「…ふっ…からかうのも命がけだな」

双子の不思議シンパシー。

幼い頃から体を重ね合っていたという二人には特に強い。

キリツグが教えてくれたのだ。

『僕が感じるとね、切嗣も悶えるんだ。素敵だろう?』と。

趣味が悪いとその時は思ったのだが、ああ、なかなか悪くないと思ったのは先日だ。

以来、セックスは濃厚。

日を追うごとに切嗣の険は険しくなった。

 

言峰は絨毯からスクリと立ち上がると乱れたタイを整えた。

念のため視線は外さない。

威嚇だと解っているが、万が一という事もある。

切嗣の銃の腕は正確だ。この距離、自分のスピードでは防ぎきれない。

想定外で命を落とすのは本望ではない。

 

と、

「切嗣」

柔らかな声音が切嗣を諌めた。

揃って声の主に目をやると、素肌にガウンといった艶めかしい姿の兄が切嗣をにらんでいる。

「やれやれ」

言峰が肩を竦めた。

「くそっ」

そう言って銃を椅子の下に仕舞い込んだのは切嗣だ。

「全く…いつ…と思っていたけど程なくとはね」

キリツグの言葉に言峰がほんの少し目を見張った。

自分の事だ。見透かされていたと言われるのは面白い事ではない。

その言峰の腰を二本の腕が抱きしめた。

「彼をからかうときは気をつけなきゃ」

物知り顔はもっと面白くない。

だが

「ほら、切嗣おいで」

そう言ったキリツグの言葉に言峰は口元を吊り上げた。

反対に、切嗣は苦虫をかみつぶした顔だ。

どちらも正確にキリツグの思惑を理解したのだ。

「悪くない趣向だ」

言峰がキリツグの細腰を抱き返した。

「趣味悪い」

諦め顔の切嗣はキリツグの肩を、抱いた。

 


 
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