北郷一刀
天の御使いとして魏に降り立ち、三国を平定した曹操を、魏の将たちを大いに助け、天命を全うし、天に帰った人物である。
~魏~
「…できたな、姉者」
「そうだな、秋蘭」
話している二人の前にそびえているのは一見すると北郷一刀その人に見えるが、北郷一刀の木像である。
彼女らは以前、一刀から聞いていた偉人の銅像を真似て、こっそりと部屋に一刀像を作っていたのである。
もちろん、春蘭が作ったものであるから本人に瓜二つである。
「奴がいなくなって半年か…」
「……長いな、姉者」
「ああ、奴がいなくなってからというもの一日が早い」
「華琳さまも前と比べたら表面上は何時も通りだが、やはりお寂しそうだな…」
「寂しさにかまけてこんなものを作っては見たが、胸の奥が締め付けられるだけだ」
「この像が本物に変わりはしないものかな…」
「そうしたら、まずたたき斬ってくれる」
「そうだな…。今日はもう寝ようか姉者?」
「そうだな…」
そんなことを話しながらその日、二人は寝た。
しかし、その後この像の存在は明るみとなり、夜な夜な一刀のことを思い出して泣きにくるものが絶えなかったため、別室に移動されることとなった。
ちなみに部屋の名前は風の提案により「告悔部屋」となった。
この名前も一刀から風が聞いたものだ。
しかし、普通の文官のひとたちの間では夜な夜な泣き声が聞こえる恐怖スポットになっているのを彼女たちは知らないのだが…。
~___~
「あなたはそこにいますか?」
「あなたはそこにいますか?」
何なんだろうな、この声は…?
聞いたことはない、でも、やさしい声だ…
「あなたはそこにいますか?」
わからない、そもそも此処には何もないし、寒さや暑さも何も感じない。
今の状況はまるで金縛りだ…
あの世界での北郷一刀は役目を終えたのだ。だから次もまたどこかに飛ばされるのか、それとも、戻るのか…。
やはり、答えはわからない。
「わからないよ」
「あなたはそこにいますか?」
同じ質問か…。
こういうのを禅問答とかいうんだったっけかな。答えを導き、真理を追究し、解脱する。
だったら、この問題は相当難しいな。
ここには、何もないし、そもそも自分さえ感じられないのだから…
ここにいるかなんて全く分からない。
そして、あの世界はこれからどうなるのだろうか?
「華琳なら平気かな…」
あの世界がここだとするのならば俺は…
「居たんだと思うよ」
すくなくとも俺はあの景色を、あの子たちを、起こったことを絶対に忘れはしない。
そして、俺が愛したあのさびしがり屋の覇王を絶対に忘れはしない。
そう、確かに俺はあそこに居た。
「あなたはそこにいますか?」
答えたところで結局、同じ質問か…。
まぁ、ここは華琳たちの世界ではなさそうだしな…
やっぱり、出来うることならまた戻りたいな…
そして、みんなと今度は平和な世界で過ごしてみたいな…
そう、俺はあの世界に戻りたい。
だから、俺が出す答えは…
「少なくともこの何もない世界には居たくはないよ」
「あなたはそこにいますか?」
また、同じか…
これが禅問答なら基本的には少しずるい答えが正解なんだよな。
おなじことしか聞いてこないのなら少し趣旨を変えて答えてみようかな
「あなたと同じ所にいます」
こういうずるい答えかな?
一休さんが殿様からの意地悪な要求に対して「虎を屏風から出してください。そうしたら退治します」という有名な話をまねた答えだ。
声が聞こえる以上この人?も同じところにいるはずなのだから…
「本当にその答えでいいのですか?」
~魏~
「楽進隊長。見回り終了しました。」
警備兵の一人が隊舎の隊長室に入り報告をする。
それだけは普通の報告だったのだが…
「私は局長だといつも言っているだろう。隊長はあの方だけだ!」
北郷一刀が消えてから警備隊は三人で仕切っているのだが、隊長は北郷一刀のみだという三人の意見により、隊長は休職ということにしたのである。
ちなみに局長とは新撰組のことであり、一刀が凪に聞かせていた話から取ったものだ。
凪はこれを部隊に徹底させている。
「すいません、楽進局長」
警備兵は凪の気合いに押されすっかり委縮してしまった。
「以後は気をつけるように、下がって休んでくれ。」
今度はやさしい部下を思いやる声をかけ、下がらせた。
「隊長…」
「なんや、また思い出しとったんかいな」
真桜はそう言い、手に大きな袋を持って隊長室に入ってきた。
「真桜…」
「思い出すときは三人一緒やって言うたやろ?一人じゃあつらいねんやから…」
「そうだな、すまない」
「もうすぐ沙和も帰ってくるさかい、酒でも飲みながら思い出して……、泣こうや」
「そうだな、これで何度目になるんだろうな…」
「何度目もあらへんよ。隊長が帰ってくるまで、悲しくなるたびに泣くんや。それでええねんや」
「真桜は強いな、私は思い出して泣くたびに崩れてしまいそうになるよ」
「そんなんうちかて一緒や。ほらほら、これでも食って元気だし!」
そう言うと真桜は手に持っていた大きな袋から肉まんを取り出して凪に渡した。
「新発売の麻婆まんや」
「麻婆まん?」
「ほら、あの麻婆丼のおっちゃんがつくったんや」
「ああ、あの人か」
「一刀さんのためにつくりましたってさ…」
「隊長はやはり、民に愛される良い隊長だな…」
「これでも食べながら、沙和を待とうや」
「そうだな、そうしよう」
~____~
「本当にその答えでいいのですか?」
さっきよりも、少しだけさびしそうな声になったな…。
やっぱり、いいわけはないな。
ここには華琳たちはいないのだから…。
「ストップ、待った、取り消し、クーリングオフ、さっきのは取消させてもらう」
通じるのだろうか?
「トイレの妖怪みたいにどちらを答えても死ぬみたいな嫌な質問ではないことを祈るよ」
そのままここに居続けなさい!なんて言われても嫌だしね。
「あなたはそこにいますか?」
戻ったな…。
とりあえず、この状況を打開するにはこの質問にうまく答えればよいわけだ。
「あなたはそこにいますか?」
居ません、とか答えたらどうなるのだろうか?
ここからは出られそうだけど、状況が良くなる確率が保証されているわけでもないしな…。
軽はずみに行動するのはやめて、少し良くこの言葉を考えてみよう。
「あなた」は間違いなくこの俺、北郷一刀のことだろう。
「そこ」とは此処だろう。
「居るか?」とは存在しているかということだろう。
言い換えれば「北郷一刀はこの変な空間?に存在しているか?」ということになる。
答えはNOだ。俺はここにはいない、なぜなら、自分で自分を確認できないからだ。だとすれば答えは「此処にはいない」になるのだが、飛ばされるのもかなわない。だが、進展もしないのは確かだ。だとすれば、ここは飛ばされる覚悟をきめて言うしかない。
「此処にはいない」
さっきの願望ではなくはっきりとした断定。これでまた戻れる可能性だってあるのだから…。
「本当にその答えでいいのですか?」
~魏~
「次の曲作りはどうするの?姉さんたち…」
ここは魏国内にある張三姉妹の旧事務所である。
次のコンサートは魏国内の華琳たちの居城で行われる凱旋コンサートなのである。
彼女たちはそこで新曲を披露しようとしており、今はその曲作りをしに旧事務所に集まって会議をしているところである。
「地和に任せる~」
「ちょっと~、天和姉さん、まじめに考えてよね~。」
「曲は私が書くから、ちぃ姉さんと天和姉さんは歌詞を考えて…」
「わかった~」
「で、どうするの天和姉さん?いつもみたいな明るいのにするの?」
「う~ん、お姉ちゃん今回はらぶそんぐにしたいな~♪」
「な~に?らぶそんぐって?」
「一刀の世界の歌で、愛とか恋が主題の曲なんだって~♪」
「いいわね。それ。」
曲を書こうとしていた人和も少し興味があるのか二人の会話に入ってきた。
「人和ちゃんもそう思うでしょ~」
「う~ん、そうね。それでいきましょう。」
「で、内容は一刀のこと~♪」
「一刀への愛の告白ってこと?じゃあ、ちぃは下書きするから天和姉さんはどんどん構想を出してね。」
「でも、それじゃあファンの人たちが納得しないわ。」
彼女たちはこの半年で蜀と呉を回り文字通り大陸を制覇し、大陸のアイドルとなったのだ。
だから、一人の男を三人で愛していたなどと知られたら暴動が起きかねないのである。
「だから~、一刀とは分からない歌詞にするつもり♪」
「たとえば?」
「歌詞には一刀じゃなくてあくまでも不特定の人ということであなたにするとか」
「でも、他のことは一刀の思い出を書くってこと?」
「そういうこと~♪」
「わかったわ。じゃあその方向でお願い。でも、華琳さんが怒りそうね…」
「だって~、そうでもしないと華琳さまは意地でも一刀のことを忘れようとするんだもん」
そう、華琳は王としての職務を全うするために、あまりの悲しさのために、大きすぎた存在の喪失のために、一刀を忘れることに決めたのだ。
しかし、一刀の部屋はそのままにして、定期的な掃除以外の侵入を禁止するなど、忘れられないことを表す行動をしているのもまた確かだった…。
「絶対に一刀のことを忘れさせたりなんてしないんだから!いいわね、天和姉さん!人和!」
~___~
「本当にその答えでいいのですか?」
今度は少し安心したような声だな…
「ああ、俺はここにはいない」
此処にはいない。
だが、あそこにはいた。
そして…
「おれは、あそこに居続ける!」
「あなたはどこにいますか?」
って、質問が変わっただけかよ…
光に包まれて戻る…なんてことはないってことか…
どこ…ね。
あそこはどこだったのだろうか?
中国大陸?
三国志の世界?
洛陽?
魏?
わからないな…。
「わからないよ…」
そうだな…。全く分からない。
「あら~ん。この外史のダーリンはヘタレでも入ってるのかしらん?」
今度はオカマになったか…。
「見ず知らずのオカマにヘタレ呼ばわりされたくはないんだけどな…」
「貂蝉、入ってこないでもらえるかしら」
あれっ、まださっきの人?はいるのか…。
というか、貂蝉といえば絶世の美女だった気がするのだが…
深くは考えない方がよさそうだな…。
「あら~ん、女媧ちゃん。私のダーリンのことなんだから少しくらい口を出したっていいでしょう?」
女媧?どこかで聞いたことがあるような気がするな…。
「こんな、自分の愛した地を、人を、景色を、分からないなんていうヘタレにはもっと荒療治が必要なのよ!」
「わかったわ。でも今は下がって頂戴」
「わかったわよう」
「邪魔者のおかげでこんな質問をする意味もなくなってしまったわけだけど、この質問には答えてもらうわ」
「質問に答えたら帰れるのか?」
「あなた次第と言っておくわ…。でも次の質問で最後よ…」
「あなたはそこにいますか?」
「最初の質問ではあるけれども、この質問に答えて頂戴。一回だけだからゆっくりと考えなさい」
~魏~
今日は張三姉妹のライブの日、そのため普段は遠征している霞等も張三姉妹のために帰ってきている。
「まさか、あの山賊が華雄やったとはなー」
霞は山賊の討伐や異民族への警戒を任務とするようになっていた。
今回も少し大きな山賊集団が出現したというので霞が討伐しに行ったのである。
そして、今は帰ってくるなり「流琉の料理が食いたいんや。だから、作ってーな」といって流琉に料理を作ってもらっているところである。
「で、華雄さんはどうしたんですか?」
「殺せるわけもないし、でもそのままにしといたら華琳にどやされるし…」
「それで結局どうしたの?あ、あとボクの分も作ってね流琉。」
そういって、霞の隣に座ったのは季衣だった。
季衣も流琉も花琳の親衛隊の任務を続けており、流琉は非番で季衣は昼休みである。
「なんや、季衣かいなウチの分はやらんで~」
「いいもん。だから流琉にお願いしてるんだよー」
「さっきも食べたんでしょー。料理長さんから聞いてるんだからね…」
「そんなこといわないで食べさせてよー」
「もー、少しだけだよー」
「ありがと流琉。で、華雄さんはどうしたの?」
「ぐるぐる巻きにして南方に行く商人さんたちに頼んで運んでもらったわ」
三国が平定したことにより交易が活発化し、三国以外への交易をする業者も出てきており、モンゴルや東南アジアの方面まで行く行商も増えている。
「南方ですか。いいですねー」
「とはいっても、南蛮よりも南なんやけどな…」
「南方はおいしいものあるのかなー?」
「そりゃあ山ほどあるやろ」
「今度、長い休みがもらえたら行ってみる、季衣?」
「旅かぁ~いいかもねー♪」
「霞さまも一緒にどうですか?」
「…………………」
「どうかしましたか?霞さま」
「いやぁ、一刀との約束を思い出しっとてな」
「どんな約束だったんですかー?」
「ん、羅馬まで一緒に旅をする約束や!」
「愛の逃避行ですかっ?」
「違う、違う。ただ、ウチがこの平和な世の中で何をすればいいのかなーってな…。そしたら一刀がだったら羅馬まで一緒に行こうってな…」
「兄様はどこへ行ってしまったんですかね?」
「兄ちゃんはきっと帰ってくるよ!」
「うん、そやな。でも、帰ってきたら羅馬の前に春蘭あたりに冥土へ旅に出されそうやけどな…」
「そこは自業自得ですよ」
「そうだよー」
「こんなにも多くの人を待たせているんですから…」
~____~
「あなたはそこにいますか?」
結局、この質問か…。
今回は本当にしっかりと答えなきゃいけないみたいだな…
ここにきてあこそど言葉について真剣に悩むなんてな。
それにしても、「ヘタレか…」
これでも、ずいぶんと前よりはまともになったと思うんだけどなー。
問題は華琳たちのいたあの世界がどこかってことだ。
では、俺が前居た世界とはどこだったのだろうか?
そこから考えてみるか…
………………………………。
どこだったんだろう?
生まれた世界であり、過ごした世界、科学が進んでいて、少なくとも自分の周りでは戦争なんかは起きていない世界。
もはや、非現実的だなー。
あっちがもう現実になってしまっているからなー。
すくなくとも今、この場所が前いた生まれた世界でないのだけは確かだな。
ということは、「前はいた、今はいない。」ということかな?
でもまだ答えを出すのには早いな…。
この答えは前いた世界が前提なのだから…
今までいた世界を前提にするのならば「あそこにいた」ということになるのだろう。
だが、この答えはせいぜい30点なのだろう…
どこにいるのかが抜けているのだから。
あそこにいた+何かで正解になるのだろう。
その先の+@がまだ俺には分からない。
確かに、これじゃあヘタレかもなー。
~魏~
「では華琳さま、今日の張三姉妹の公演までは何もありませんのでそれまではしばしお休みください」
ここは玉座の間であり、今は三軍師と華琳が今日の予定を話しているところである。
「わかったわ、桂花。風に稟、他には何かあるかしら?」
「いえ、今日の予定はそれだけですし、さしあたって処理すべき案件もございません」
「そですねー、文官さんたちからの告悔部屋の調査依頼がきていることくらいですかねー」
「告悔部屋?なんなの、それは?」
「それはですね~…」
「ちょっと、風、それは華琳さまには言わない方が…」
なぜ稟が黙るように言っていたかというと、告悔部屋のことは華琳には内緒にするという武将たちでの約束があったからなのだ。
華琳が部屋に行ってしまったらどうなるか誰にも分からなかったためだ。
そのため、皆が気を使って教えないようにしていたのだった
「あら、稟は私に隠しごとをするような子になってしまったの?そんな子にはお仕置きが必要ね…」
「そんな、華琳さま。お仕置きなら私めにしてください。」
「では、今日は三人で楽しみましょうか…」
「華琳さま~、それ以上は規約がうるさいですよー」
「そうね、でも、告悔部屋のことは聞かせてもらうわよ!」
「う~ん、口では説明しづらいので、実際に行ってみてください」
「わかったわ。では、案内しなさい稟、桂花」
「いえいえ、御一人で行かなければダメなのです。」
「あら、そうなの…。そこで二人をかわいがってあげようと思ったのに…」
ちなみに、稟の鼻血体質は同盟成立後の料理対決での愛紗と春蘭の合作料理の審査員をしたときに治ってしまったらしい。
その効力は華陀がいうには「奇跡だ、ぜひ俺にも教えてくれ」と言わしめるほどだとか…。
「では、これくらいかしら?あと、桂花と稟は公演の後で私の部屋へ来るように…。では、解散」
「「「はい」」」
そして華琳は玉座の間を後にした。
「風、何で華琳さまに部屋のことを教えたの?」
「そうよ、華琳さまがあの摩羅男(マラオ)のことを思い出したらどうなるか分からないから教えないことにしたんでしょう?」
「でも、それは、華琳さまのためにならないと気付きました~」
「今のままでは中途半端ということね、風?」
「さすが稟ちゃんなのです。お兄さんを忘れるか。お兄さんのことを絶対に忘れないか。軍師としても、女としてもはっきりして欲しくなりました」
「でも、それじゃあ…」
「心配ならついていけばいいのです」
「う~、そんなことできるわけないじゃない。華琳さまが泣いているところなんて、私はみたくないわよ」
「やっぱり、桂花殿もわかっておられるのではないですか。華琳さまが部屋へ行き、あの像を見たらどうなるかを…」
「私たちにできることは、しっかりと見守ることだけなのですよー
「わかったわ、もう、私はいくわよ…」
「は~い、桂花ちゃんも公演には来るですよー」
「じゃあ、私たちもいきましょうか、風」
「そですねー」
~ライブ会場~
最後の曲が終わり、今は三姉妹がアンコールに応えようとしているところである。
「ふう、私はもう戻るわ、彼女たちにはいい公演だったと伝えておいて…季衣と流琉はあんこーるまで聞いてていいわよ」
「では、私が付いていきます花琳さま!」
「春蘭も最後まで聞いていていいわよ」
「しかし…」
「姉者、華琳さまがこうおっしゃってくれているのだからお言葉に甘えよう」
「ありがとう、秋蘭」
「春蘭さま野暮ですよ…」
「季衣まで~」
「ふふふ、では、私はこれで失礼するわ。桂花と稟は約束を忘れないこと、いいわね…」
そういうと華琳は自室へ戻る道を歩き始めた。
「じゃあ、最後に私たちの新曲をきいて~」
舞台では天和たちが新曲を発表し始めたところだった…
~___~
あそこにいた+@か…。
難しいな…
あそこがどこか?
これが一番の疑問だな…
~告悔部屋前~
「ここまで曲が聞こえてくるなんて…。真桜のまいくとはなかなかすごいわね。なんでも、観衆の声を武器にする時にひらめいたものらしいけど…」
「噂では城の部屋の一つで夜な夜な泣き声が聞こえるそうだけど、まさか、ここなのかしら?」
「まぁ、入ってみればわかるわよね…」
そう言うと華琳は絶を握りしめ、部屋へ入って行った。
~ライブ会場~
「なんだか、この歌、兄ちゃんのことみたいだね」
「季衣もそう思う?私も兄様のことを歌っているように感じるんだよね…」
「なんや、ふたりともかいな」
「霞さま……、たぶん、ここにいるみんながそう感じているのではないでしょうか?」
「そやなー、季衣に流琉、姐さんに凪までそうおもっとるならそうなんやろなー」
「沙和もそう思ってるのー!」
「どこが一刀のことなんだ?秋蘭」
「よく聞いているんだ姉者。歌詞の意味を考えればわかるよ…」
「稟ちゃん、ないちゃだめですよ~」
「なっ、泣くわけないでしょう風!」
「あんな、摩羅男(マラオ)のどこがいいんだか…」
~___~
前はいた。今はいない。また居続けたい。
こんなところかな。
で、もう一つが
華琳たちのところにいた。また居続けたい。ってところかな
どっちにするか…
それとも、第三の答えを探すか…
~告悔部屋~
「こんなものにはメンマほどの価値もないのにね…」
~蜀~
「へっぷし」
「どうした、星?」
「また、メンマの悪口をを言われた気がする…」
「相変わらずすごいな、メンマセンサー…」
~告悔部屋~
「みんなして、私に気を使って…。ばかみたいね」
そう言うと華琳は一刀像の前にある椅子に座って一刀像と話を始めた。
~___~
すこし、考えるのをやめるかな…
「―――――――――――♪」
なんだ?
歌かな?
さっきのオカマが歌っているのかな…
オカマならやりそうだしね
まぁ、でもめちゃくちゃいい女の子の声なんだけどね…。
声が三人分聞こえるな…。グループなのかな?
「――――――――――――♪」
それにしてもいい歌だなこれ…。はっきりとは聞こえないけど、胸にくるというか、心に響いてくるな。
「――――」
今度は女の子の泣き声かな…?
なんだかこの泣き声を聞いていると胸が苦しいな…。
こっちまで悲しくなるというか、何というか。
抱きしめたくなる?
「―――馬鹿」
馬鹿とは…。ひどい言われようだな。
泣きながら悪口を言うとは、いつかの稟みたいだな…
「みんな――――るのよ」
よく、聞こえないな。
「早く――てきて―――はたしなさいよね」
断片的だし、声もうまく聞き取れないな…
でも、さっきのオカマでないことは確かだな。
「――――――――――――♪」
また、さっきの歌だな。
この曲が歌詞も付いて聞けたらもっと良いのにな~。
しっかりしろ、俺の体内器官…。
「あなたは――――――――子を―――ても平気なの?」
すくなくとも、女の子を泣かせる奴は最低だな。
会ったら、俺がそいつをぶん殴ってやりたいくらいだ。
「だから、か――。早く帰ってきなさい!」
か?
カラスでも待ってるのか?
女の子なのにカラスを飼っているとは、鬼●郎か?
「わかったの?―ず―」
―ず?
ドリフ●ーズ?
この女の子はカラスを使う芸人さんなのかな?
新しいな…。
ぜひ、見てみたいな。
「――――――――♪」
また、この曲か…。
出来うるならば、歌い手さんたちの顔も見てみたいな。
天和たちとの六人グループでも作ったら最強だな。
この曲と、(断片的ではあるけれども)歌はあの三人に負けないくらいうまいもんな。
「それでね、――と、また――たら料理を失敗したのよ。失敗しても頑張る姿はかわいいのだけれどね…」
おお、だいぶ聞こえるようになってきたな。
――と?
ア●ト?
この子の話し相手は銀河を股にかけて歌舞伎でもするつもりなのだろうか?
う~ん、カラスを使って歌舞伎をする芸人さんか…。
新しいな…。
って、そんなわけないか…。
この歌といい、この泣いている女の子といい、どうしてこうも俺の胸を締め付けてくるのだろう?
というか、なんだかあったかいな…。
誰かに抱きしめられているようなあったかさだ…。
「でも、やっぱりさびしいのよ」
それに、なんだか、目を感じることができるようになってきたし…。
暗いけど、はっきりと自分の目を確認できるな…。
「「あなたを思うと苦しくなるの」♪」
おお、話と歌の歌詞がかぶったな。
初めてこの歌の歌詞を聞いたけど、ラブソングなのか…。
やっぱり、この子を悲しませている奴に会ったらぶん殴ろう。
こいつの存在価値はゴボウ以下だ。
メンマにも劣るな…。
~蜀~
省略
~___~
桂花じゃないけど、死んだ方がいいくらいの人物だな…。
「「だから、お願い帰ってきて。私を抱きしめて‼」♪」
両方、もう会えない人に話をしているみたいだな。
「俺もそうか…」
帰らなきゃね…
みんなのためにも…
そして何より
俺のためにも…
~魏~
「「「みんなー♪ありがとう、お礼にもう一回だけこの歌を歌いま~す」」」
「「「「「「「「「「「「「「「ほぁぁぁぁぁぁぁー!ほぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
~告悔部屋~
「ふふふ、何を人形相手に話しているのかしらね?この人形が一刀に変わるわけでもない、人形は人形。一刀ではないわ…」
~___~
「お~い、女媧ー」
「答えは決まりましたか?」
「ああ」
「それでは、さいごにもう一度聞きます」
「あなたはそこにいますか?」
「その前に一つ言っておくよ…。少し長いけどいい?」
「ふふふ、いいですよ」
「じゃあ、答えるよ」
答えは決まっている…
あそこに帰るという答えだけだ。
「俺は馬鹿だから、自分の居場所なんかわからない。でも、自分がいるべき場所は知ってる。」
「それは?」
「―――――――――♪」
また、この歌か…。
なんだか元気をくれる歌だな…。
ラブソングなのにな…。
「わかったら、サッサと帰ってらっしゃい!」
おれも、帰らなきゃな…。
「それは、魏であり、洛陽であり、中国大陸だよ。でも、それは今までの俺が知っていた黄巾の乱から始まり、司馬氏が晋を作って終わる三国時代ではなく、華琳という人物が三国を同盟させて終わるっていう。前の俺から言わせたらあり得ないただのおとぎ話だったよ。」
「それで?」
「でも、その世界はおとぎ話じゃなかった…。確かな現実だった。人が居て、笑って過ごして、でも、戦争があって、人々が傷つけあう、リアルなものだった。俺はそこで人々を守る仕事を凪や真桜、沙和や警備兵のみんなとしていた。」
「それだけ?」
「いや、守るだけじゃなかった。時には桂花や稟、風たちの軍議にも参加して、人を殺す作戦を立てたりもした。それに、霞や春蘭、秋蘭たちと軍を率いて戦争もしたし、季衣や流琉と一緒に相手の兵から花琳を守ったりもした。」
「言いたいことはすべて言いなさい」
「そのつもりだよ。そして天和や人和、地和と人を喜ばせる仕事もした。そして…………」
「わかったら返事くらいしなさいよ。北郷一刀!」
ああ、いくらだって返事をしてやるよ華琳。
そしたら、このふがいない俺を叱ってくれ。
「華琳と生きた」
「そう…」
「そして、これが俺の答えだ!」
「あなたはそこにいますか?」
「俺は此処にいる!」
そういったとたん、俺は自分の体を確認した。
指も動くし、耳も聞こえる、息もできるし、温度も感じられる。
そして、目を開いた。
そこには、泣きじゃくりながら俺の体を叩く女の子がいた。
痛くはない。
「バカバカバカバカぁ」
「「「だから、お願い帰ってきて。私を抱きしめて‼」」」
ああ、これは天和たちの曲だったのか。
なんか、納得したな…。
「こんな人形は、やはり壊してしまうべきね。」
そういうと華琳は地面に置いてあった絶を握りしめた
できれば、それだけはやめてほしいな。
こちとらまだ自由には動けないのだから…。
だから、今唯一動かすことのできる器官を使い、花琳を止めることにする。
「ごめんな、華琳」
その時、一刀の首元まで迫っていた花琳の絶が止まった。
「人形がしゃべるなんてね…。この曹孟徳、一生の不覚ね…」
「人形じゃないよ、嘘だと思うなら心臓の音でも聞いてみてよ…」
「ふふふ、人形に心臓があるわけないじゃない、この幻聴はあとで華陀でも呼んで治させましょう」
そう言うと華琳はまた絶を振り上げた。
「だから、人形じゃねーって言ってるだろ華琳!俺を信じろ、お前を信じる俺を信じてくれ!」
「本当に一刀なの?」
「だからー、さっきから言っているだろ」
「本当の一刀なら、今から言う質問に答えて…」
「なんなりと…」
「あなたは、北郷一刀本人なの?」
「そうだよ、我が愛する覇王」
「何で、此処にいるの」
「俺の居場所は此処だからだよ」
「馬鹿」
「ごめん」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」
「ごめん」
「愛してる」
「俺もだよ」
「もうどこにもいかない?」
「言ったろ、俺の居場所は此処だって…」
俺はそう言うと、やっと動き始めた体を使って花琳を抱きしめる。
「ただいま、華琳」
「お帰りなさい、一刀」
そう言うと華琳は俺のほっぺたを引っ張った。
「痛いよ、華琳…」
「人形じゃないことの確認よ…」
そう言ってから俺たちは口づけを交わした…。
「行くわよ、一刀!」
「って、どこにだよ…」
「天和たちの公演に決まってるじゃない」
ああ、この歌は今天和たちが公演で歌っているものなのか…。
「ああ、行こう」
「華琳、ひとつ質問してもいい?」
そう、聞かなきゃいけない。
あの人のことを…。
「何?」
「女媧って知ってる?」
「神話に出てくる神ね…。それがどうかした?」
神ね…。
あそこで、あなたと同じところにいると言っていたら…
新世界の神になれたのかな?
まぁ、俺の居場所は此処だ。
それでいい。
此処で生き、ここで死ぬ。
それだけだ。
「華琳」
「何?」
「これからもよろしく」
「何をいまさら…」
「いや、今だからこそ言いたいんだ」
「変なの」
それでもいいと思えた。
「華琳、あなたはそこにいますか?」
華琳はどう答えるのだろうか…。
「私がいるところが此処なのだから、私は此処にいるわ」
世界は華琳を中心に回るってことか…
「それでこそ、俺が愛する覇王だな」
そう言うと俺たちはライブ会場に向かって走り始めた。
終
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何十番煎じかわかりませんが魏√のIFです。
某名作アニメのセリフを使い、一刀視点がメインの作品です。
初めて書いたのでいろいろ変かも知れませんが、どうぞ最後まで読んで、感想などいただければ幸いです。