『洛陽』―――――
そこは、三国の時代において最も美しく繁栄があり、皆が笑顔で暮らせるの都…のはずだった。
「ここが…洛陽?」
「えぇ。その通りよ…。」
そんな馬鹿な…
洛陽といえば、三国の時代における大都市じゃないか。
なのに、目の前にはそんな事微塵も感じさせないような光景が広がっていた。
家は焼け爛れ、人々は互いを罵り合い、とてもここが洛陽だとは思えなかった。
「一刀、あんたの言いたい事はうちらにも痛いほどわかる。」
「霞…」
「人々は住家を無くし、重税による困窮に堪え、戦乱の毎日に怯えている。それがおかしい事くらい誰にだってわかってる。」
詠は悔しそうに嘆いた。
「だったら――「でも!!」――ッ!!」詠は俺の言葉を遮る様に叫んだ。
「でも…どうしようもないのよ…」
唇を強く噛み締め、肩を震わせた詠を見て、俺はしばらく声をかける事が出来なかった。
だけど、そんな感情と共にある事を決意した。
「…なぁ、詠?」
「…なによ?」
「詠は、この街の人達を…ひいては、この國の人達を助けたいって思う?」
「そんなの助けたいに決まってるでしょ!」
「霞はどう?」
「阿呆!そんなんうちかて助けたいわ!!」
「そっか。」
「なによ、馬鹿にしたければすればいいじゃない...」
「そんなことしないよ。ただ、本当に助けたいって思うなら、まずは目に見えるところからでいいんじゃないかな?」
そういって俺は、近くで怪我をしていた人に肩を貸した。
「へぇ、えぇとこあるやん。」
「………」
「ん?どうかしたん賈駆っち?」
「ふぇ?!い、いやなんでもないわよ!?」
「??そうなん?ならえぇけど…」
「ほ、ほら!ボク達も手伝うよ!」
「お、おぅ!?」
賈駆の異変に気づきながらも、賈駆の指示に従う張遼だった。
その時―――ッ!!
「ひぃぃ!!」
「た、助けてくれぇ!?」
「――――ッ!?」
「まさか…」
「詠!霞!」
「一刀!無事なんか!?」
「あぁ。だけどこの騒ぎは一体…」
「黄巾党よ」
………へ?黄巾党?
「あぁ一刀?今、黄巾党くらい簡単に倒せると思ったやろ?」
「え?だって…?」こっちには『神速の張遼』に、董卓軍にその人ありと謳われた賈文和がいるんだし、負けることなんてまずないだろう。
俺がそのことを二人に伝えると、
「いや、まぁ…ボク達のことを買ってくれるのは嬉しいんだけど…」
頬を少し朱色に染めて詠がどもる。
そんな可愛らしい反応をした詠に少しドキッとしたのは内緒だ。
「やっぱ数の差がありすぎやからな…」
数の差って…
「相手はだいたいどのくらいなんだ?」
まぁ黄巾党は、元は農民だし多くても五万くらいかな?
だが…
「三十万よ。」
………………は?
「ごめん、もう一回言ってもらえる?」
「だから、三十万よ、三十万!」
「さ、三十万〜〜ッ!?」
予想してた数の六倍かよ…
「そうよ。でもこっちは頑張って集めたとしても十五万が限界。それも、怪我人を含めてね。」
っていうと…
「無事な人だけならどのくらい?」
「十二万ちょい位やな。」
うっ…半分にも満たないじゃないか。
「徴兵とかした方がいいんじゃないのか?」
「ボクだってそうした方が良いのは解ってる。でも…あの娘がそれを許さないのよ。」
「あの娘?あの娘って―――――」
誰のこと?そう聞こうとした時、
「助けてぇ!」
「オラァ!ガキを助けたきゃ有り金と食い物全部おいてきな!」
「そ、そんなことしたら明日から儂らはどうやって暮らして行けば…」
「ほぅ…じゃあガキとはおさらばだな!」
そういって黄巾党は短剣を振りかざした。
「ひぃ」
そうして刃が子供に当たりそうになったその時!
「待てよ!」
「あぁ?」
気づいたら体が勝手に動いてた。
まったく、これであとに退けなくなったな。
「なんだ、てめぇは?」
「俺は、通りすがりの者だよ。」
「あぁ?その通りすがりの者が俺達になんか用か?」
「とりあえずその娘を放してほしい。」
「ハァ?馬鹿かてめぇは?大事な人質放すわけが無ぇだろうが!」
「まぁ普通そうだよな。だから、一つ提案。」
「…言ってみろ。」
「その娘の代わりに俺が人質になる。」
一か八かだがあの娘を助ける為だ。
やるしかない。
「…ヒャハハハ!こりゃ傑作だぜ。こんな見ず知らずのガキの為に命を捨てようってんだからなぁ!」
そう言って黄巾党は女の子を開放した。
それと入れ代わりに俺が捕まる。途中、女の子がこっちを心配そうに見てきたので、大丈夫という意味で頷いて見せた。
俺が人質になってから四半刻(約30分)程経った。
「オイ!金はまだなのかよ!」
「いや、そろそろだと思うんだけど…」
捕まる時に俺はもうひとつ黄巾党に提案した。
それは、『村人に城へ金を取りに行かせる』というものだった。
初めは相手も納得してくれなかったが、俺がここの太主と知り合いだと伝えるとすぐに承諾してくれた。ちなみに、その時俺は近くにいた詠を指名したのだが、これには訳がある。
一つは、直接黄巾党と争ったことがないと思われたから。
そしてもうひとつは詠の軍師としての力を知っていたから。
…尤も、それは小説とかからの知識だが
「クソッ!もう待てねぇ!この野郎ぶっ殺してやる!」
げっ!?マジかよ!?
「オイ!俺を殺したらせっかくの大金が…」
「ウッセェ!んなもん後で根こそぎ持ってってやる!」
そう言って黄巾党は持っていた短剣を振りかざす。
このままじゃ殺られる!でも、一体どうすれば…
俺のそんな葛藤をしてると、
「あばよ、小僧」
ダメだ、殺られる!
俺が死を覚悟した…その時!
「ギャアァァァ!」
「た、助げぼぁ!」
「ッ!?オ、オイ!どうした!何があった!?」
…あれ?俺、生きてる?それに、さっきから黄巾党の様子がおかしいし…
「一体何がどうなってんだ?」
俺が考えてる時だった。
「はぁーーーッ!!」ザシュッ!
「ぐはぁ!」
ドシュッ!
「ギャアァァ!」
ズシャア!
「ぐぇぼあ!」
そんな阿鼻叫喚と共に、俺の周りにいた黄巾党の群れは、物凄い速さで倒されていった。そして、その原因とも言える人物が俺達の前に現れた。
「…貴様がこいつらを指揮している奴か?」
その女性は、静かな殺気を放ちながら、黄巾党の一人に聞いた。ついでにそいつは、さっきまで俺を捕まえてた奴だ。
「だ、だったらなんだってんだ!」
「そうか。ならば話は早い。」
そう言うと、その女性は、自分の得物を握り直し、そして…
「はぁーーーッ!!」グサッ!
「グギャア!」
一瞬だった。ほんの一瞬で倒した。
この人は何者なんだ?
俺がそんなことを考えていると…
「華雄!華雄やんか!」
そう叫んで走って来たのは霞だった。
「ん?張遼か。」
「おぅ、久しぶりやなぁ。元気しとったか?」
「当たり前だ。貴様も先程の私の戦い振りを見たであろう?」
「あぁ…。スマン、あんま見てへんかった。」
「なっ!?…まぁ良い。ところで張遼」
「なんや?」
「そこの小僧は何者なんだ?」
「ん?あぁ一刀の事か?」
「かずと?お前はこいつのことを知っているのか?」
「まぁな。」
そして、霞はここまでのいきさつを説明した。
俺が流星と共に現れたこと…
俺が管輅の言っていた『天の御遣い』かもしれない事…
そして、俺が詠達の仲間になったこと…
「……。」
華雄と呼ばれた女性はしばらく考えていた。
「なぁ、華雄はなんか不満があるん?」
「張遼。こいつに二、三質問をしたいんだが。」
「え?質問?」
そう言って霞は俺の方を見てきた。
「大丈夫だよ。」
霞の代わりに俺が応えると、「そうか」と一言だけいってきた。
「北郷…だったか?」
「うん。そうだよ、華雄さん。」
「うむ。では北郷。お前、武の心得はあるか?」
「ん、一応。剣道っていうのをやっていたから、それなりには。」
「そうか。では貴様は何のために己が武を振るう?」
「…大切な仲間や、この國の人達を助けるため。それは、只の自己満足でしかないんだろうけど、それでも俺はこの國の人々を助けたいって本当に思う。」
「…成るほど。では北郷。目を見せてみろ。」
言われた通り、俺は華雄に目を合わせた。
「…フッ。確かに良い目をしている。貴様が言っている事は本心なのだろう。」
そう言うと、華雄は手を差し出した。
「我が名は華雄だ。これからよろしく頼むぞ、北郷。」
「あぁ!こちらこそよろしく!」
そう言って俺達は握手を交わした。
「あっそうだ!」
「ん?どうしたんや一刀?」
「いや、華雄さえ良かったら真名を教えて欲しいんだけど」
「…スマンがそれはできない。」
「あっ、やっぱり得体の知れない奴には教えられない?」
「いや、そうではない。私には、真名が無いんだ。」
…………………え?
「真名が…無い?」
「あぁ。だが私以外にもそういう者は存在する。」
そういう華雄の顔はどこか哀しそうだった。…そうだ!
「…真名ってさぁ、俺がつけたりしたらダメなのかなぁ。」
「ん?いや、私はこれといって問題無いが…」
「ホントに!良かったぁ。じゃあ…刹那っていうのはどうかな?」
「刹那…か。ふむ、悪くない。」
「よっし!ほんなら華雄の真名は刹那に決まりや!」
「よし。それじゃあ華雄の真名も決まった事だし皆で城に向かおう!」
俺がそう言った瞬間だった。
…ダダダ
「ん?」
「この、馬鹿男ーーーーーッ!!」
「ぐはぁ!」
い、いきなり飛び蹴りって…
「ちょっと!アンタが危ないから走って来たのにもう殆ど黄巾党いないじゃない!」
「まぁまぁ、そう怒んなや賈駆っち。」
「…ハァ」
願わくば、いつか皆が笑って暮らせる日々が来ん事を……
次回に続く……はず
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表現が稚拙ですが、お気になさらず〜♪
キャラ崩壊もお気になさらず〜♪