No.612102

真・恋姫†無双 異伝 ~最後の選択者~ 第七話

Jack Tlamさん

『真・恋姫†無双』を基に構想した二次創作です。
無印の要素とか、コンシューマで追加されたEDとか、
その辺りも入ってくるので、ちょっと冗長かな?

無茶苦茶な設定とか、一刀君が異常に強かったりとか、

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2013-08-24 22:36:24 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:5311   閲覧ユーザー数:4263

第七話『餞別』

 

 

あの日、じいちゃん達家族を前にして告げた一言。

 

 

『俺達は、再びあの外史に旅立つ』

 

 

それを受けた北郷家の対応は「神速」の一言に尽きた。神速の張遼と名高い霞も真っ青な速さだ。

 

 

 

まず、じいちゃんが全国に散らばる親族に手を回し、必要な物を全て取り揃えられるように取り計らってくれた。

 

次いでばあちゃんが俺達のために戦装束を作ってくれ、お袋はそれを手伝ってくれていた。

 

親父は俺と朱里の家の保守管理に関しての手配を担当し、いつ戻ってきても問題ないようにしてくれた。また、話をした翌日に

 

一度東京へと単身戻り、聖フランチェスカに俺と朱里の分の休学届を提出し、手続きをしてくれた。

 

何故休学手続きが必要なのか?

 

それは、貂蝉の手紙に書かれていた内容のうち、最後の一言に起因する。

 

 

 

『ご主人様はこれまでは外史に飛ばされてから僅かに間を置いた時間軸に戻ってきていたけれど、今回はどうなるかわからないの。

 

 年単位での時間経過があるかもしれないから、それに伴う準備はしっかりやっておいてね♪』

 

 

 

漢語の手紙のくせしてなぜか最後に♪が付いていた。

 

しかし、貂蝉が言いたいことはわかる。今回はこれまでの外史転移とは異なるものになるから、戻ってきた際の時間軸にどれほどの

 

ずれが生じることになるかわからないということなのだろう。だから親父は俺達の家の保守管理について手を回したのだし、加えて

 

休学手続きも取ったのだ。

 

ありがたい。これで心残りなく外史に行くことができる。俺が親父に礼を言うと、

 

『無事に帰ってきて酒を酌み交わす時まで礼は受け取らんぞ』

 

と言われた。いい親父だと思う。その約束はきっと果たそう。

 

 

 

そして、淋漓さんや珠里さんも無関係ではいられなかったようで、俺達にいろいろと教えてくれることになった。

 

 

 

 

 

…だが、歴史に名を残す項羽、そして張良という大人物が先生なだけあり、その内容は凄まじいものだった。

 

 

「―『氣』を制御することは二人ともできているし、『氣』の放出を応用した技も身に付けているみたいだから、

 

 私が教える内容は『氣』の自在な制御技術よ。二人とも、何らかの媒介を使っているから今は出来ているけれど、

 

 何も媒介を使わず、直接的に『氣』を操れるようになれば、徒手空拳でも大勢と渡り合えるわ。私が昔使っていた

 

 戦闘方法は体術だったの。これも教えるけど、大前提はさっきも言ったこと、『氣』の自在な制御技術の修得。

 

 完全に修得すれば、色々なことに役立つはず」

 

まず、淋漓さんが教えてくれたのは体術だった。それだけではなく、『氣』を物理的な力に変換して利用する技術も

 

教えてくれるという。確かに、剣術だけでは戦場を渡っていけない。どんな場合でも戦える手段を持つ事は重要だ。

 

恋も体術を使っていたし、それだけでも強かったから、これは間違いない。

 

俺と朱里は、淋漓さんが北郷邸に逗留する半月余りの間に体術と『氣』の自在制御の基礎を突貫で叩き込まれた。

 

俺達は休学手続きを済ませたので、時が来るまではじいちゃんの家に住むことになったため、隣の宮崎県に住む淋漓さんは

 

ちょくちょく来て特訓を続けてくれた。そのこともあり、十月にさしかかる頃には淋漓さんが満足げに頷くほどに完成度を

 

高めることができた。

 

ちなみに、淋漓さんは初日に雷雲がうるさいからと、『氣』から目に見えるほど濃密な指向性の衝撃波を作りだし、雷雲を

 

破壊してしまった。たちまち晴れてしまったので、鹿児島のローカル局のみならず、全国ネットで何やら色々あったようだ。

 

…うん、人間が生身でビームじみたもの撃つとか、もうどこぞの死にかけて復活するたびに強くなる連中みたいだな。

 

っと、あいつらは人間じゃないか。サ○…ゲフンゲフン。

 

 

 

これで武の方はより高められた。

 

俺は淋漓さんが使う技をほとんど完全に修得し、あの指向性衝撃波も作りだせるようになっていた。

 

朱里の方はさすがにそこまでいかなかったが、サブウェポン的な攻撃手段として氣弾を使いこなせるようになっていた。

 

何だか二人揃って人間離れしていっている気がするが、まあそれはしょうがない。

 

先生たちが化物以外の何物でもないしね!恋がティラノサウルスだとすれば、じいちゃんや淋漓さんはゴ○ラ。

 

規格外にもほどがある。ちょうどビームも撃つし。

 

淋漓さん曰く、もう『氣』を自在に制御する技術は完全に修得したようだから、後は俺達の発想次第でいかようにも

 

使えるとのことだった。

 

ただし、普段から十分に体内の氣を高めておくこと―と、ニヤニヤしながら釘を刺された。

 

…どうやら、俺達がやることやっていることはお見通しのようだ。

 

 

 

十月に入り、淋漓さんとの特訓は最終段階に入った。

 

ここで淋漓さんはついに「とっておきの技」を教えてくれると言って、中庭に出ると、予備動作無しで空に舞い上がった。

 

「嘘だろ、飛んだ!?」

 

「はわわ!に、人間が、空を飛ぶなんて!」

 

その後数分程空中を自在に駆け巡り、淋漓さんは地上に降りてきた。

 

「これは『空歩術』と言って、私が編み出した秘技中の秘技。もうあなたたちならできるわ。慣れは必要だけど。

 

 あと、これは飛んでるんじゃなくて、あくまで空中を跳ね回ってるだけなの。だから鳥みたいに自在に

 

 飛び回ることはできないし、動きも限定されてしまうけれど、奇襲には有効よ」

 

凄いな…これを使えれば、どんな奴とでも戦える…恋も使っていたような気がするが、気のせいか?

 

「ちなみに、悠刀は私が使うのを見た次の瞬間、見よう見まねで完璧に再現してみせてくれたわ。

 

 まったく。私の専売特許だと思ってたのに」

 

「…」

 

じいちゃん…あんた一体何モンだ。

 

淋漓さん曰く、最終的にこれを使えるように特訓メニューを組んでいたらしく、俺達は十月半ば頃までにはこの

 

空歩術を修得することができた。つくづく凄い人だ。人間じゃないのかとさえも思える。

 

…ってか、俺達も大概もう人間じゃないな。どちらかと言えば文官タイプだけど戦っていた俺はともかく、

 

本職の軍師で直接戦闘の機会は少ないであろう朱里までこんなに強くなってしまっては、武官の立場が無いような。

 

…まあ、強いに越したことないけどさ。

 

 

次に珠里さんだが、珠里さんは外せない用事があるとかで一度帰り、淋漓さんの特訓が終わったちょうどその日に北郷邸に

 

再び訪れていた。これから夏休みの残りの十日間を使って俺と朱里に兵法を教えてくれるという。珠里さんは静岡県なので

 

そう頻繁には来れないため、せめて残りの十日間はと、取り計らってくれたのだ。

 

これは役に立つ、そう思った。俺も呉では軍師をやっていたので、兵法は勿論学んでいたが、あの張子房といえば

 

黄石公から『六韜』を授けられたという逸話がある(珠里さんによると、それは実際に起きた事らしい)。

 

あの外史はどちらかと言えば『三国志演義』に近いと朱里も言っていたし、こちらの史実よりもそういう物語的なことが

 

あの外史では史実として起きているんだなと、改めて外史の特異性を認識した俺であった。

 

…まあ、男のロマンを求めて龍退治までしたし、今さら何を言っているのかとも思うけどね。

 

 

 

「―朱里ちゃんはもう言うまでもないけど、一刀君も呉の大都督と呼ばれるほどの軍師になった経験がある。

 

 だから、わたしの持つすべてを、二人に託します。これを以て、乱世を平定してください」

 

珠里さんの授業は座学だったのだが、呉で必死に兵法や軍略を勉強した俺や、水鏡塾で長く学んでいた朱里には

 

大した問題ではなかった。それに、忘れられがちだが、俺の本業は学生だ。これ重要。

 

 

 

昼夜問わず個人授業は続き、俺と朱里は課程を終えることができた。普通の人ならこんな短期間で成果をあげられる

 

はずもないのだが、朱里は言わずもがな、俺もかの高名な周瑜や陸遜に教わり、呂蒙と共に学んだ身だ。その日々が

 

あってこそ、今の成果があるのだ。

 

珠里さんは俺達の呑み込みの良さを褒めてくれた。そして、とんでもないものを持って来てくれていた。

 

「…これはわたしが黄石公から授かった『六韜』です。これを朱里ちゃんに預けます」

 

なんと、彼女が使っていたであろう『六韜』だった。長く使われた本だろうに、全く損傷が見られない。

 

これも、黄石公から授かった特別な書だからなのだろうか。

 

「は、はわわ、こ、こんな大事なものを…いいんですか?」

 

朱里が訊ねると、珠里さんは『六韜』を指して答えてくれた。

 

「この書はね、前の持ち主が認めた者でなければ読めないようになってるの。そもそも、その認められた者以外が

 

 その書を手に取ることもできないし存在を認識する事さえできない。だからね、私が認めた者、つまり朱里ちゃんしか

 

 読めないの。…うわわ、一刀君もって言うのを忘れてた。一刀君も読めるからね」

 

「そんな…こんなすごい書を、私が…」

 

感動したかのように呟く朱里。これは朱里独自の大きな武器になりそうだ。俺も軍師の端くれとして読んでみたい気持ちは

 

当然あるが、本職の軍師が傍らにいてくれることだし、こだわらなくてもいいか。

 

しかし、あの張子房の直弟子となった伏龍孔明。もはや何でもアリだな、俺達の周りって。

 

「…これで、わたしと淋漓さんが持てるすべてをあなたたちに教えました。わたし達にできるのはここまでです。

 

 わたしと淋漓さんは一度ここを去るけど、再び外史に旅立つ時が来たら知らせてね。見送りには行くから」

 

「はい。必ずお知らせします」

 

「大体今から二か月後くらいになると思う」

 

「わかった。わたしは明日帰るけど、後の準備、がんばってね」

 

そう言って、珠里さんは優しい微笑みを浮かべた。

 

しかし、俺は一つ気になったことがあったので、それを追求させてもらうことにした。

 

「…それはそうと、珠里さん」

 

「なに?」

 

「さっきの『うわわ』って、口癖?」

 

「うわわ!?そ、ソンナコトナイデスヨ?」

 

「…珠里さん、『うわわ軍師』だったんですね」

 

朱里に似た口癖みたいな部分を指摘すると、顔を真っ赤にして否定する珠里さん。しかし口癖が出てしまっている上に

 

棒読みなので丸わかりだ。朱里がしきりに頷いて共感の意を示しているのが、なんというかおかしかった。

 

 

珠里さんが帰って行った翌日、予想外の客が北郷邸を訪れた。

 

 

 

「―久しいのう、ご主人様よ。見ぬうちにまた一段と立派になったものだ」

 

 

 

やっぱり日に焼けて浅黒い肌をほとんど覆っていない、白い褌姿の漢女、卑弥呼だった。

 

「卑弥呼!?どうしてお前が!?」

 

「なに、ご主人様達が再び外史に来てくれるよう願い出たのは我らであるにも関わらず、餞別の一つも渡さんのは

 

 あまりに非礼だと思ってな。私達管理者からの贈り物を持ってきたのだ」

 

「贈り物…?」

 

玄関先で話していると、お袋が姿を見せた。

 

「一刀、お客様…って、卑弥呼?卑弥呼じゃない!」

 

「む、これは常盤殿。久しいのう」

 

「あなたどうしてここに?『管理者』であるあなたが来るというのは、余程の事なのでしょう?」

 

「なに、私がここに来たのは、一刀殿と孔明に餞別を渡そうと思ったからだ。様子を見に来たというのも

 

 事実だがの」

 

やはり旧知の仲らしいお袋と卑弥呼。随分と親しげだ。

 

しかし、俺は卑弥呼が持ってきたという『餞別』が気になっていた。

 

「卑弥呼、上がってくれよ。話もしたいし」

 

「む、かたじけない。ではお邪魔するとしよう。悠刀殿を呼んでおいて頂けるか?」

 

「ああ、わかった」

 

俺は卑弥呼を上がらせ、その後をお袋に託し、裏庭にいるじいちゃんを呼びに行った。

 

 

 

「―久しいのお、卑弥呼。秦との決戦以来じゃったか」

 

「―悠刀殿も変わりないようで安心したぞ」

 

じいちゃんと卑弥呼が互いに挨拶を交わす。そうか、卑弥呼は秦との決戦に関わっていたのか。

 

「さて、本題に入るとするか。ご主人様よ、色々と準備を進めておるようだが、武器の用意はしておるか?」

 

「武器?いや、まだそこまでは…」

 

「ご主人様や孔明は今やあの呂布をも凌ぐ猛者。生半な武器ではお主らの『氣』を受けて砕け散ってしまうだろう。

 

 そこまで成長したのは驚嘆すべきことであるが、使うべき武器が無ければ締まらないであろう?

 

 淋漓殿から教わった武技があれば十分戦えるだろうが、やはりご主人様に似合うのは刀であろうと思っておる。

 

 孔明にしても同じだ。今の孔明なら剣を帯びるのが相応しい」

 

外見はともかく、卑弥呼は武技の達人だ。あの龍を貂蝉や華陀と三人がかりで打ち倒し、蓮華の体調不良を治すために

 

奮闘したと聞いている。

 

それほどの猛者にこうして評価されるのは、素直に嬉しかった。

 

「そこでだ。あの外史に新たに生じた不思議な鉱石を持ってきた。これを使って武器を作ろうぞ」

 

そう言って、卑弥呼は持って来ていたデカい包みを解いた。すると、中から半透明で美しい光を発する鉱石が出て来た。

 

それも、かなりの大きさの塊がいくつも。

 

「綺麗…」

 

朱里が感嘆の溜息をもらす。本当に綺麗な鉱石だ。綺麗な形に加工すれば、宝石として高い価値が付くだろう。

 

「これは何だ、卑弥呼?」

 

「これはあの外史で新たに私達管理者が発見したもので、『思抱石』という。調べてみたところ、実に興味深い特性を

 

 持った極めて特殊な石であることがわかった。『氣』を増幅する特性を持つ上に、強度が極めて高い。ご主人様達の

 

 武器に用いるのに、これ以上の素材は無いであろう」

 

「この世界には存在しない物質なのかもしれないな。こんなもの、聞いたことが無い」

 

「これは、外史に生じた『綻び』の影響によって、あの外史に渦巻く想念の力の一部が結晶化し、大地に眠ったものだ。

 

 故に当初の想定よりも外史に渦巻く想念の力は小さくなり、御しやすくなった」

 

想念が結晶化した物質…もうファンタジーの領域だな。凄いよ、あの外史。

 

しかし、これは正直ありがたい。最近、『氣』が高まっているので、模造刀を使って鍛錬をしていたら模造刀が

 

溶けだしてしまうというとんでもないことになった。あれは酷かったな。だが、この『思抱石』ならば俺達の『氣』にも

 

耐える武器を作れるだろう。卑弥呼の言う通りならば、だけど。

 

「この石から武器を作るのに、特別な工程はいらぬ。ただ念じればよい。ただし、それはご主人様や孔明、つまり

 

 『外史を渡るもの』にのみ許された特権である。しかと心得よ」

 

つまり、他の人間がこれで武器を作る場合は通常の武器製造と同じ工程が必要だということか。

 

「私も手伝おう。武器の製造については多少なりとも心得がある。しかし、まずは二人が作り出す武器を見てからだ。

 

 念じれば、念じた者に適した武器が出来上がるだろう…

 

 尤も、ご主人様は日本刀以外有り得ぬだろうがの、がははははは!」

 

卑弥呼の高笑いが、夕暮れも近付いたこの地に響き渡った…

 

 

翌日、俺達はじいちゃんと卑弥呼の立会いのもと、武器を作ることにした。

 

 

卑弥呼の予想通り、俺が念じると日本刀ができた。もう一つ石を使ってよいと言ってくれたので、そちらに念じてみると

 

脇差ができた。しかし、それぞれが普通のものより長めだ。卑弥呼曰く、

 

「ご主人様は比較的長身ゆえ、普通のものより多少長めの刀が良いということだろう」

 

とのことだった。いや、大男のお前に言われたくないよ。

 

「誰がこれまでにない巨大さを誇る巨大人型怪獣だとぉ!?」

 

いや、そこまで言ってない。というか、貂蝉と言いこいつと言い、漢女には言いがかりのスキルが必須なのか。

 

 

一方の朱里は…これが問題だった。見た目は剣だ。朱里が使う中短程度の剣。

 

石を二つ使ったのでそれが一対。それぞれ色合いが違い、一つは赤みがかっており、もう一つは青みがかっている。

 

刀身に葛のような模様が描かれているのは、彼女の元の名前に掛けられているのだろうか。しかし、そこではない。

 

朱里が『氣』を流し込み、振ってみると、刀身がいくつものパーツに分解され、内蔵されている綱のようなもので

 

鞭のようになったのだ。いわゆる、蛇腹剣というやつだろう。ゲームとかでたまにでてくるアレだ。

 

見た目には短めの両刃剣にしか見えないが、こうして鞭状にして使えるのならば間合いは自由自在だ。しかもかなり

 

長く伸び、大体十尺程度(約3m相当)にもなった。その上、朱里の意のままに刃を揃え、巻き付けた

 

対象を難なく切断してみせた。蛇腹剣の扱いの難しさは刃の向きを揃えることが難しく、切れ味を発揮しにくいという

 

点だが、まるでそれは朱里の腕の延長のように自在に動き、持ち主の意図を達成した。

 

…恐ろしい武器だ。しかし、幾ら高速戦闘ができるとはいっても間合いが狭い朱里にとっては良い武器だろう。

 

思春はともかく明命は小柄で、その間合いを補うために明命自身の身長くらいに長い刀を使っていたのだし。

 

当の朱里は、

 

「大変気に入りました♪…でも、こんな構造だと強度的な問題があるんじゃないんですか?」

 

と問い、その問いに卑弥呼は、

 

「思抱石の強度ならば問題ではない。それに『氣』を流し込めば戦車砲の直撃を喰らっても傷一つつかぬ」

 

…いや、例えが極端すぎないか。

 

 

 

その後、卑弥呼は氣を流しても破損しない専用の鞘を作ってくれ、また武器としての体裁も整えてくれた。

 

曰く、

 

「漢女は格好に気を遣うものだ。私や貂蝉は徒手空拳だから良いが、ご主人様達が使う武器なのだ。

 

 しっかりと体裁を整えることで風格も出るというものよ」

 

…格好に気を遣っていない気がするのは気のせいだろうか?

 

取り敢えず、俺達も手伝ったが、俺の刀は刀身だけでなく柄や鍔、ハバキや柄頭など必要な部分は揃っていたので、

 

柄紐を巻くだけで済んだ。飾り緒はいるか?と卑弥呼が問うてきたので、俺は要らない、と答えた。

 

外見はシンプルな方がいい。

 

朱里の方も、これまで木刀を握ってきたことが反映されてか、柄が日本刀のそれと形状が似ていたので、同じく

 

柄紐を巻くだけで終わった。こちらは飾り緒を付け、いかにもあの外史で使われていたような宝剣の雰囲気を

 

醸し出していた。古錠刀もそうだけど、桃香の靖王伝家や蓮華の南海覇王などには飾り尾が付いてたし。

 

 

全ての作業が終わり、それぞれが武器として整うと、銘を与えることになった。

 

俺は大太刀を『五行流星(ごぎょうりゅうせい)』、長脇差を『五常流星(ごじょうりゅうせい)』と名付けた。

 

中国っぽい要素と、天の御遣いの象徴である『流星』を冠し、俺が使う刀であることを示している。

 

朱里は赤い剣を『陽虎(ようこ)』、青い剣を『月狼(げつろう)』と名付けた。月と狼がセットなのはわかるが、

 

太陽と虎とはどういう組み合わせかと朱里に聞くと、「対になっているものを組み合わせただけです」と言われた。

 

なるほど、太陽と月、虎と狼。どちらも対として例えられるものだ。納得した。

 

 

それからしばらく。

 

十月も終わりが近づき、いよいよ俺達が再び外史に旅立つ日が近づいた。

 

俺はまず、及川に会いに行った。もちろん、朱里と一緒に。

 

 

 

「―かずピー、休学手続きとったってホンマなんか?」

 

「ああ」

 

「何があったんや?…!?ま、まさか…!」

 

「お前の想像しているような事態は一切ない。安心しろ」

 

相変わらずの愛すべき馬鹿であった。

 

「…まあええわ。いつかちゃんと戻ってきてくれるゆうなら、ワイは追及せえへんよ」

 

…しかし、俺にとっては最高の友人の一人だった。

 

突然休学手続きを取った俺に事情も聞かず、ただ送り出してくれる。及川の何気ない気遣いが嬉しかった。

 

一方の朱里は、及川と一緒に来ていた及川の彼女―西川さんと何やら話し込んでいた。

 

…猛烈に嫌な予感がする。そして、俺のそんな予感をよそに、及川が二人に声をかける。

 

「おうい、彩萌ちゃ~ん?何話しとんの~?」

 

「おい馬鹿やめろ」

 

二人の近くに行こうとする及川を止めようとしたが―

 

「―じゃあ、次の巻は―」

 

「―はわわ、た、楽しみにしてます~―」

 

「…………………………」

 

―遅かった。二人の会話を耳にして固まる及川。

 

この時朱里と西川さんが話していた内容を十人にクイズで出題したら、十二人が『腐った話』と答えるだろう。

 

及川は犠牲になったのだ…

 

 

 

剣道部にも挨拶に行き、最後に実家(鹿児島の方じゃなくて両親が住んでる方)に赴いた。

 

実家には親父とお袋がいたが、鞘名の姿が見えない。とりあえず、両親に話をすませておくことにした。

 

「いよいよあと一週間もたたないうちに出立になるよ」

 

「…そうか、いよいよか。準備はもうできたのか?」

 

「ああ、ばあちゃんが作ってくれてた戦装束も出来たし、卑弥呼と作った武器も揃ってる。準備は万端だよ」

 

「わかった。お前たちの家の事は任せておけ」

 

それだけで、親父との会話は終わってしまった。しかし、その「任せておけ」に万感の思いが込められているのは

 

痛いほどわかったので、俺はそれで十分だった。

 

一方のお袋はというと、

 

「命を落とすようなことが無いようにね。あなたたちなら大軍相手でも単身で戦えるけれど、無理は禁物よ」

 

やはりというかなんというか、無理はしないようにとのことだったので、俺が「死なない程度には無理をする」と

 

答えると、「貴刀さんそっくり」と言って笑っていた。何でも、親父はいつも死ぬギリギリまでは無理をしてでも

 

戦っていて、傷が絶えなかったらしいのだ。あの体中の傷はそういうことだったのか。幼少の頃からの疑問が

 

突然解決してしまった。

 

 

夜になっても鞘名は戻ってこなかったので、お袋に頼まれて俺と朱里で探しに出た。

 

が、鞘名はほどなく見つかった。近くの公園で一人、ブランコに腰かけている。

 

俺達は鞘名に近づき、声をかけた。

 

「―鞘名」

 

「―お兄ちゃん、朱里ちゃん…もう夕飯?」

 

「ああ。お前を呼びに来た」

 

「…そっか。じゃあ、行こっか♪」

 

明るく振る舞う鞘名。しかし、無理をしているのは明らかだった。

 

「…鞘名、お前、無理してるだろ」

 

既に俺達に背を向けて歩き出していた鞘名が、俺の言葉に立ち止まる。

 

「…無理なんてしてないよ」

 

「いや、してるさ………俺達が旅立つ日が近いから、だろ?」

 

「…無理もしたくなるよッ!」

 

俺が核心を突くと、鞘名が振り返って叫んだ。

 

「お兄ちゃんや朱里ちゃんがそんな危ない世界に行くっていうのに、こうならないわけないでしょ!

 

 わかってる!あたしが止めた所でどうにもならないって!でも、あたしはお兄ちゃんたちが心配なの!

 

 戦いに行くってことは、いつ命を落としてもおかしくないんだから!」

 

鞘名の訴えに、俺は思わず立ちすくむ。その迫力は、あの仕合の時以上だった。

 

「…でも、あたしはお兄ちゃんたちを信じてる。昔からずっと一緒だったお兄ちゃんと、新しくできた…

 

 お姉ちゃんを」

 

「鞘名ちゃん…」

 

朱里も、悲しげに目を伏せる。

 

鞘名は一度言葉を切ると、俺に歩み寄ってきた。

 

「…だからね?ちゃんと無事に帰ってきてね?お願いだよ、お兄ちゃん…」

 

公園の灯が鞘名の顔を照らす。笑みを浮かべながらも、目からはとめどなく涙が溢れている。

 

俺は鞘名をどうしても慰めてやりたくて、自ら歩み寄り、抱き締めた。

 

「あ…お兄、ちゃん…」

 

「…ごめん、ごめんな、鞘名…俺は、またお前をおいていかなければならない」

 

「…う、ん…でも、帰って、きてね…朱里、ちゃんと…一緒に」

 

「ああ…勿論だ…!」

 

俺の目からも涙が流れる。

 

俺達はしばらく、その場で互いを抱擁しながら泣いていた。朱里も、その傍らですすり泣いていた。

 

 

 

 

旅立ちの日が迫る。

 

 

あとがき(という名の言い訳)

 

皆さんこんにちは、Jack Tlamです。

 

今回は外史に旅立つための準備の様子をお送りしました。

 

 

とうとう完全に恋姫世界にはないものを登場させてしまいました。

 

これは後々重要な意味を持ってくるものなので、いつか解説できればと思います。

 

 

朱里の専用武器はまさかの蛇腹剣!

 

どっかのイザベラさんが使うやつをイメージしていただければと思います。

 

名称ははっきり言って中ニ的センスです。すみませんでした。

 

 

ここで「一緒に外史に行く~」って主張して一刀達を困らせるほど鞘名は子供ではないので、

 

物分かりの良い妹にしています。

 

朱里がさん付けからちゃん付けに変わったのは、数日の間にさらに仲良くなったためです。

 

 

さて、遂に次回は外史に降り立つことになります!

 

降り立つ場所はどこか?最初に出会う恋姫武将は誰だ!?

 

 

では、また次回!

 

 

 

追伸

 

どこぞの三国志シミュレーションゲーで言うと、二人とも呂布が可愛く見えるくらいのステです。素で。

 

あと、ここまでの展開もなんだそりゃ的な感じですが、外史に行ったらもっとそんな展開です。

 

 

朱里が戦う力を付けた理由。それは近いうちにお話ししたいと思います。

 

では。


 
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