No.612083 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第四話2013-08-24 21:33:53 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:8942 閲覧ユーザー数:6587 |
あれから二日経ってようやく女の子が眼を覚ました時、そ
こは見知らぬ場所だった。
「あれ…此処は何処?璃々は…確かお母さんとりょうしゅう
って所に行く途中で買い物に行ったお母さんをお店の前で
待ってたらいきなり知らない人達に連れて行かれて………
おかーさーん!何処にいるのーーー!」
女の子はそう叫ぶとそのまま泣きじゃくり始める。
その声を聞いた一刀達が部屋に入るが…。
「来るな!!あっちへ行けーーー!!近寄るなーー!!この
ひとさらい!!!」
女の子はそう泣き叫びながら手当たり次第にその辺の物を
投げつけるので、近付く事が出来なかった。
「おい、北郷!何とかせい!!あの子の世話はお主の役目じ
ゃろうが!」
「そうは言われても…あ痛っ!」
李儒に言われ、一刀が反論しようとした瞬間、枕が一刀の
顔に直撃する。
「ほれ、早よせんか!」
李儒はそう言うと一刀を部屋の中へ強引に蹴りこむ。
「痛てて…ったく、李儒さんは本当にやる事が強引なんだか
らな…」
一刀はそう呟きながら女の子の方へ顔を向ける。
既に女の子の周りには投げる物も無く、ただ布団に包まり
ながら震えているだけであった。
「えーっと…ごめんな。こう言っても信じられないだろうけ
ど、別に俺たちは人攫いってわけじゃなくてね。君を攫っ
て人質にした連中から助け出したんだけど…君が何処から
来たとかお父さんやお母さんが誰なのかが全く分からなか
ったし、あのまま置き去りににも出来なかったから此処ま
で連れて来ただけなんだ」
一刀は言葉を選びながら何とか女の子を落ち着かせようと
試みる。
女の子は眼に涙を溜めたまま、じっと一刀を見つめながら
呟く。
「おとうさんはもういないの…おかあさんと一緒に旅をして
たの…」
「!…そうだったのか。分かった、君のお母さんは必ず俺が
捜し出す。だからそれまで一緒にいてもいいだろうか?」
一刀がそう言って手を差し伸べると、女の子はおずおずと
手を伸ばして一刀の手を握る。
「私の名前は璃々…」
「俺の名前は一刀だ。よろしくな、璃々」
そして次の日。
「ふむ…すっかり璃々は北郷になついたようじゃの」
李儒は一刀に肩車されている璃々の姿を見て感心しきりに
頷いていた。
「これで安心して北郷殿に世話を任せられます」
李粛も安堵した顔でそう言っていた。
「ですが、俺は璃々にお母さんを捜してあげると約束しまし
た。ですから…」
「分かってる…璃々のお母さん、必ず捜す」
俺の言葉に呂布さんがそう答える。
「しかし呂布殿、如何に董卓様とて何処にいるか分からない
者を捜すのはさすがに…」
「ちんきゅー、璃々のお母さんはまだ生きてる。生きてるな
ら必ずまた会える。その手伝いをみんなでする」
陳宮さんが懸念を示そうとするが、呂布さんにそう言われ
ると、何も言い返せなくなっていた。
「まずは…璃々のお母さんの名前は黄忠っていうそうだから
そこからだな」
俺がそう言うと、璃々は嬉しそうに頷いていた。
所変わって、益州・巴郡。
益州牧の劉焉の配下にして巴郡の太守を務める厳顔は渋い
顔をしていた。
「そうか…娘がいなくなったのか」
「私が…私が悪いの。最初から此処にまっすぐ来てれば、こ
んな事には…馬騰様の所に行くのだって、璃々を桔梗に預
けてから一人で行けば良かったのに…」
厳顔の前でそう言って泣いているのは、彼女の親友である
黄忠である。言うまでもなく、璃々の母親でもある。
元々彼女は結婚して荊州・長沙に行き、夫の死後数年は娘
と二人で慎ましやかに生活していたが、旧知の仲である厳
顔に招かれて巴郡に移り住む事になり、その前に以前世話
になった馬騰の所に挨拶に行こうとして、涼州に向かって
いた途中でこのような事態になっていたのであった。
「紫苑…それを言うなら儂にも責任がある。自分で招いてお
きながら迎えの者すら出さなかったのだからな…そもそも
儂が招かねば、長沙でそのまま二人暮らしておったのだ。
それなのに…すまん、紫苑」
厳顔はそう言って頭を下げる。
「いえ、桔梗の責任では無いわ。桔梗は二人で寂しく暮らし
ている私達の事を思って招いてくれたのだから」
「すまぬ…璃々の事は儂が責任を持って捜し出すから安心し
て此処にいてくれ」
厳顔は黄忠にそう言葉をかけるが、
「ですが桔梗様、一体どうやって…?人攫いにあっている子
供は大陸中にごまんといるではないですか。失礼ですが一
度攫われた子供が見つかるとは到底…」
厳顔の側に控えていた少女がそう話しかけてくる。その瞬
間に厳顔はその少女に拳骨を振り下ろす。その直撃を喰ら
って痛みにうずくまる少女に厳顔は怒りの声をぶつける。
「この…大馬鹿者が!!母親の前でそのような事を言う奴が
あるか、この大たわけ!!!」
「いいのよ、桔梗。魏延ちゃんの言う通りなのも事実なんだ
から…」
黄忠がそう言って魏延と呼ばれた少女を庇うが、
「紫苑、お主がそのような事を言うな。誰が何と言おうとお
前の娘は儂が見つけ出す。…焔耶、何時まで其処で呆けと
らんで探索の者達にさっさと指示を出せ!!」
厳顔はそう怒鳴り散らして魏延を走らせる。
こうして厳顔の手の者達によって璃々の探索が進められる
も、結果ははかばかしい物では無かったのであった。
場所はまた変わり洛陽である。
張譲は一向に劉弁達が連れてこられない事を訝しみ、他の
探索の者を放って調べさせたのだが、見つかったのがその
者達の屍だけという結果に戸惑いと苛立ちを覚えていた。
「くそっ、まさか全てやられるとは…少々あの小娘共を見く
びっておったか。ええいっ、誰かある!」
張譲は再び配下の者に命じて劉弁達の探索に当たらせたの
だが…。
「見つからないだと?そんなはずはなかろう!言うた通りに
捜したのであろうな!?」
「はい、張譲様に言われた通りに…しかしそのような旅人は
まったく…」
その言葉に張譲は忌々しげに唇を震わす。
「ええい、一体どのような手で…まさか妖術でも使ったので
はあるまいに」
張譲はそう疑問に思っていたのだが、実を言えばこれには
原因があったのである。最初に探索に行った男(呂布の手
で殺された男である)は、劉弁・劉協・王允の顔を知って
いた上で探索に出ていたのであるが、さすがに皇族の顔を
知っている者はそうそういないので、張譲は『よく似た顔
の女二人と初老の男の三人連れを当たれ』と言っていたの
であったが、ご承知の通り現在は一刀と璃々・呂布と陳宮
を含めて七人連れな為、完全にスルーしている状態になっ
ていたのであった。そもそも張譲の権限ではそんなに多く
の兵を動かす事も出来ないので、こういう齟齬が生じてい
たのである。その結果、一刀達はそれ以上追撃を受ける事
も無く無事に目的地に到着するのであった。
そしてまた場所は変わり涼州・天水郡にて。
「月、到着されたわよ!」
「本当!?…良かった。今どちらに?」
「先程、城門の前に来たって連絡が来たわ」
「それじゃ、出迎えに行かなきゃ」
「待って。それは此処まで来てからよ。何処に奴らの眼があ
るか分からないんだから、街中で月が出迎えなんかしたら
貴賓が来たって公言しちゃってるような物でしょ」
「そ、そうだね…」
・・・・・・・
「遠路はるばる良くおいでくださいました」
俺達は天水の城に入り、その太守の執務室に通されてそこ
にいた女の子が董卓だと聞かされ、俺は呆然とそれを見て
いた。
そんな…この娘があの董卓?何処からどう見ても豚や暴君
の欠片もありゃしない。こんな子のお腹に松明さして火を
付けるなんてただの変態プレイにしかならんだろう。
「…どうしたの、お兄ちゃん?」
そんな俺を璃々は不思議そうに眺めていた。
「い、いや、何でもない」
俺は何とかその場を取り繕う。
「本当は皆様を歓待申し上げる所なのですが、それはまた後
日という事で…とりあえずは部屋を用意してありますので
ご休憩を」
董卓さんにそう言われたので、俺達はお言葉に甘えて休憩
を取る事にした。ちなみに李儒さん・李粛さんで一部屋、
王凌さんで一部屋、俺と璃々で一部屋となっていた。
結局、璃々の世話は俺という図式は変わらないようだ。
それはともかく、俺は久々に柔らかい布団に寝れる事に喜
び、何時もと同じように璃々と一緒に眠りについたのであ
った…ちなみに言っておくけど、ただ寝てるだけだぞ。
・・・・・・・
その頃、董卓の部屋では。
「劉弁様、劉協様、王允様、よくご無事で」
李儒・李粛・王凌の三人の前に董卓が平伏していた。
「すまぬな、月。本当は妾達を匿う事はお主にも迷惑がかか
るのは重々承知ではあったのじゃが…」
「いえ、いいのです。私が今あるのも空様のおかげでもあり
ます。その空様のお心を少しでも安んじ奉る事が出来るの
であれば、多少の事など…ところで、空様の消息について
は何かご存知ですか?」
「いや、洛陽を出てからずっと必要以上の人との接触を断っ
てきた妾達には何も…」
「そうですか…こちらの聞いた話では陛下はずっとご病気で
臥せておられて、代わりの政を十常侍筆頭の張譲様が執っ
ておられるとしか」
董卓のその言葉に真っ先に李儒が激昂する。
「張譲の奴めが…何が病気じゃ!あの母様がそう簡単に寝込
むはずが無かろうが!!」
「落ち着いてください、姉様。それだけ母様が何処でどうさ
れてるかは張譲しか知らないという事でしょう」
李粛がなだめるようにそう付け加える。
「しかし本当に口惜しいですな…あの時、陛下の手許に木剣
の一つもあれば、あのような物共に易々と遅れを取る方で
はありませんでしたものを」
王凌の言葉にその場の皆が頷く。
「まずは陛下を取り戻す手段を考える必要があります。でも
口惜しい事ながら今のままでは例え我が軍が全軍挙げても
数は一万にも届きません。それでは何も…」
董卓の悔しげな言葉は皆の気持ちを代弁する物でもあった。
「まずは力を蓄える必要があるかと。それと…出来ればもっ
と味方を増やしたい所ですね」
李粛の言葉に反応したのは董卓の側にいた眼鏡の少女であ
った。
「なら、まずは馬騰様の所ね。あそこを味方につければ背後
の安全は守られたも同然だし」
彼女は董卓の軍師であり、親友でもある賈駆である。
彼女の意見は皆も一致する所であり、如何に味方に引き込
むかが話の中心となっていったのであった。
・・・・・・・
「ところで…一緒に来られていたあの人達は何者なのです?
必要以上に人との接触を避けて来た皆様がわざわざ連れて
来られるなんて」
ある程度、話が一段落した所で董卓がそう問いかける。
「男の方は此処に来る途中で拾ったのじゃ」
「拾った?」
「途中の森の中で寝ていたのです。聞けば、知らない内に見
た事も無い所に来ていたとかで…行く所も無いようですし
姉様が危険は無いと仰られましたので」
「子供の方は儂らのせいで巻き込んでしまってな…親とはぐ
れてしまったようなので、親を見つけるとの約束で一緒に
連れて来たのだ」
「親御さんの名前は分かるのですか?」
「黄忠というそうじゃが…心当たりはあるかの?」
李儒から聞いたその名前に二人は心当たりが無いか考える
が…。
「「ごめんなさい、初めて聞く名前です」」
「そうですか…やはりこっちも時間がかかりそうですね」
李粛はそう言ってため息をついていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は一刀達が無事に月の所まで来れたところまで
をお送りしました。
まだまだ色々と道は長そうですが…何とか一歩ずつ
という流れになっていきます。
一応、次回は董卓軍の他の方々との出会い等をお送
りする予定です。
それでは次回、第五話でお会いいたしましょう。
追伸 近いうちに西涼勢の方々も出る予定です。
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お待たせしました!
正式に李儒達と同行する事になった一刀。
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