No.611242

真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第二部 第07話

ogany666さん

日本は暑い、暑すぎる。
対応は無理だ。

by オレグ・ロマンツェフ

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2013-08-22 14:34:03 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8373   閲覧ユーザー数:5900

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこうなってしまったかぁ・・・・・」

涼州の北東に位置する改修されたばかりの真新しい城郭、その城の一角にある政務室で、一刀は一枚の竹簡を眺めながら頭を抱えていた。

その竹簡は明け方に諜報部隊の部隊長から直接渡されたものだ。

そして、その内容とは・・・。

「分かっていた事だけど、今月の収益は大幅減だな・・・・・」

諜報部隊が本来の任務である情報収集とは別で行っている貿易事業。

その収支報告であった。

一刀が頭を抱える原因となっているのは収益の減少。

この前の黄巾党の一件や、今現在も涼州東部に敷いている情報網などにより、諜報部隊は設立当初の目的でもあった組織的な諜報活動に専念しているわけだが、副業である貿易業が縮小、そのしわ寄せが今月の収支報告書の数字として目の前に突きつけられたのだ。

本来は副業なのだからと割り切るべきなのだが、一刀が北郷の名を捨ててから現在に至るまでの十三年の歳月を使って営んで来たのもあり、その収益は今や新平の民が納める税収よりも多い。

そして、そこで得た利益を前世の知識を使った技術開発などに回しているのだから、流石に捨て置く事は出来なくなったのである。

「黄巾党の一件が片付けば元に戻るだろうけど・・・・・今後のことを考えるとなぁ・・・・」

黄巾の乱が治まればしばらくは大陸に散らばる諸侯や中央の十常侍の動きを探るだけなので、今までどおり貿易業との兼任が可能だろうが、また今回のように部隊員全員を投入しての作戦を展開しないとも限らない。

不安定な収益では技術開発にも支障が出てしまいかねないのだ。

「何か他の収入源を開拓しないといけないな・・・・」

作戦行動に支障をきたさない様にしなければならない以上、手持ちの兵は使えない。

その上今までやってきた貿易と同等の収益を上げなければならないとなると、容易な事ではなかった。

「何か良い方法は無いかなぁ・・・・・」

一刀がそんな事を呟きながら新しい金策方法を模索して頭を捻っていると、扉を軽く叩く音が耳に入ったので思考を止めてそちらへと意識を向ける。

「どうぞ」

「失礼致します」

一刀の返事を聞き、ゆっくりと扉を開けて澄んだ声の主が姿を現す。

そこにはこの城の侍従長にして一刀専属の侍女でもある鄒の姿があった。

「一刀様、南方より来た行商人より雲貴高原(※現在の中国雲南省にある全ての茶の発祥の地)の茶葉が手に入りましたのでお茶をご用意致しました」

そう言うと鄒は持っている一組の茶器が載ったお盆を部屋の窓際にある休憩用の卓に置き、お茶の用意を始める。

死人を出しかねないほどの料理下手な鄒であるが、ことお茶に関しては以前一刀が淹れた物を飲んだ折、"これが俺のお茶の好みだから覚えておいてくれるかい?"と教えた事がある為、それ以降昇天級の殺人茶は出てこなくなっている。

お茶を淹れる淀みない動きを見るに、陰で相当な練習をしたのが伺える。

「雲貴高原とはまたかなり良い物が手に入ったね」

「はい、ここまで流れてくる事は先ず無い物ですので鄒も驚きましたが、品物に間違いは無く値段も手ごろでしたので購入いたしました。さあ一刀様、どうぞこちらへ」

鄒の言葉に一刀は手に持っていた書簡を机に置き、お茶のある卓へ移動して休憩に入ることにする。

卓の横にある椅子に腰を掛けて、鄒が用意した茶器の中から聞香杯を手にし、先に香りを聞いて楽しむ。

いつも飲んでいる物とは一味違う芳醇な香りが鼻をくすぐり、これから飲むお茶への期待をより膨らませる。

香りを十分に楽しんだ後、聞香杯を置いて飲用の茶杯を手に取り、注がれた茶を一口含むと少しのえぐ味も無くまろやかな旨味が口に広がり、茶の産地である南方の風景が脳裏に広がるようだった。

「美味い・・・・」

これだけ美味しいお茶の味を表現するのに辺に飾った言葉は必要ない。

まだお茶の残っている杯を卓へ戻し、一刀はただ一言そう述べた。

「俺が今まで飲んだ中で一番美味しいお茶だったよ。ありがとう」

「お褒めに預かり光栄です」

「まだ茶葉は残っているのかい?」

「はい、一刀様がお飲みになる分でしたらまだ十分に御座います」

「それなら今度、正や稟たちと一緒にお茶会なんかをする時に出してくれ。これだけのお茶を一人で楽しむのは勿体無い。もちろん、君も一緒だよ」

「はい・・・・喜んで出席させて頂きます」

鄒は思わず見惚れてしまうような美しい微笑を浮かべながら、深々と礼をして俺に応える。

そんな彼女を見ていて、ふとある事を思い出す。

「鄒、そう言えば今着ているその服って・・・・」

「はい、一刀様が幼少の頃にお書きになられた書物の中に御座いました侍女が着る戦闘服"冥途服"で御座いますが、それがどうかされましたか?」

鄒はいつも着用していて見慣れている筈のメイド服に、一刀が意識を向けた事を不思議に思ったのか、問いに受け答えながらどうしたのかと質問を返してくる。

「それって確か鄒のお手製の物だったよね?」

「はい、一刀様のお書きになられた文献をもとに鄒が作製させて頂いた物です」

鄒が着ているメイド服は全て彼女自身が作った専用の物で、他の侍女はこの時代の人が着る一般的な女中の衣服を着用している。

その出来は本来の物と見比べても全く遜色が無く、まるで現物を見ながら作ったのではないかと思うほどだ。

ちょっとした図解だけで詳しい構造が載った物ではない書物から一人で作り上げたのだ、良く考えてみれば大したものである。

そんな事を考えながら一刀は少し気になったことを鄒に訊ねる。

「鄒は俺の書いた書物は全部読んでるんだよね?」

「はい、一刀様のお書きになられた文献は全て目を通して一文字一句残さず記憶しております」

「じゃあ、そのメイド服の様に俺の書物の中にあった他の衣装も作れちゃったりする?」

「はい、お時間を頂ければ文献に載っております絵をもとに同じような物を作る事も可能ですが・・・・」

これだ!

「鄒!!」

「は、はい!?」

一刀は腰を掛けていた椅子から勢い良く立ち上がり、鄒の両肩をがっしりと掴みながら彼女の名前を大声で呼び上げる。

その突然の行動に鄒も面食らってしまい、いつも落ち着いた彼女には珍しい驚いた表情を見せる。

「君に是非ともやってほしい仕事があるんだ!」

「は、はい、どの様な事で御座いましょうか?」

「実は貿易業に代わる新しい事業を立ち上げようと思っているんだけど、中々良い案が思いつかずに困ってたんだよ!だけど鄒のメイド服を見ていて妙案が思いついたんだ!」

「妙案・・・で御座いますか?」

「うん!俺が書いた書物をもとに君に衣装を作って貰い、出来上がった衣装を雇い入れた職人を使って量産するんだ!それを俺が立ち上げる店で独占販売すれば貿易業にも引けを取らない収入源になるよ!」

「そんな、いくら一刀様がお考えになられた物でも、鄒が手掛けた衣服などとても売れる物では・・・・」

「頼む!鄒だけが頼りなんだ!」

自分の作った物がちゃんと売れるか自信が無くしり込みをする鄒に一刀は誠心誠意、心を込めてお願いする。

そんな一刀の願いに鄒も心が折れたのか、いつもの落ち着いた面持ちで彼に返答する。

「畏まりました。正直に申しまして自信が御座いませんがお引き受けいたします」

「鄒・・・・・ありがとう!」

「か、一刀様!?」

一刀は鄒の言葉を聞いて嬉しさのあまり思わず彼女を力いっぱい抱きしめてしまう。

落ち着きを取り戻した鄒も一刀に抱きしめられた事で顔を真っ赤にして困惑してしまっている様だ。

「か・・・・一刀様・・・・・あの・・・・少し離れていただけませんでしょうか・・・・」

「え?あ!ごめん!」

鄒の言葉にようやく自分が何をしているのか気付いた一刀は、慌てて彼女から離れて謝罪する。

開放された鄒は数歩後ろへ下がると、即座に一刀から背を向けて両手を顔に当てた。

「すまない、いきなり女性を抱きしめるなんて男として礼儀に反するよね。本当にごめん」

「い、いえ・・・突然の事で動転しそうになっただけですのでお気に為さらないで下さい」

落ち着きを取り戻した鄒は手に持っている鮮やかな朱色の手拭きをしまい込むと、一刀の方へ向き直ろうとする。

そのとき、一刀はあることに気が付いた。

(ん?動転しそうになった?驚いたではなく?)

鄒の言い回しに少し可笑しい部分があるのが気になる一刀だったが、それほど彼女が動揺していたのだろうと深く考えるのを止めた。

「先ほどの件で御座いますが、雇い入れる職人は鄒の方で募集させて頂いても宜しいのでしょうか?」

「頼むよ。宣伝の方は俺が何とかするから任せて」

「畏まりました、それでは失礼致します」

鄒は深々と礼をすると、そそくさと部屋から出て行ってしまう。

お盆をそのままにして行ったところを見ると、平静装ってはいるがあれでも彼女なりに慌てていたようだ。

「それにしても、さっきの鄒が振り返った時の俺へ向ける視線。どっかで感じた事があるんだよなぁ・・・・」

何処で感じたのか思い出そうとする一刀だったが、何故か背筋に悪寒が走りどうにも思い出す事が出来ない。

まるで思い出す事を本能的に拒否しているかのようである。

「一刀様、黄巾の本隊と張角の居場所が判明致しましたので急ぎご報告にあがりました」

思い出せない事にモヤモヤしていると、鄒と入れ替わるようにして諜報部隊の隊員が朗報を持って訪れる。

その報せに一刀はフラストレーションが溜まった頭を切り替え、報告の詳細を諜報員に尋ねる。

「ようやく網に掛かったか。いったい何処に居たんだい?」

「はっ、長安より南に五十里(※現在の25km)ほどの山間に隠れ潜んでおりました。恐らく長安を襲撃しようとしたものの、警備の厳重さに足踏みして機をうかがっているものと思われます」

今現在、黄巾党の本隊をおびき寄せるために司隷との州境は手薄にしてあるが、人が集中している街や村々にはその余剰人員を使って必要以上に防備を固めてある。

黄巾党が狙った長安は、一刀が統治する以前に一度彼らによって強奪を受けた大都市。前回成功した事もあり、たかを括ったのだろうが余りの厳重な警戒にどうやら面食らったようだ。

「華琳達にはもうこの事を伝えているんだよね」

「はい、最優先で伝えるようにとのご命令でしたので、今頃はもう兵を動かしておられるのではないかと」

「彼女の事だ、報せを受けたら即座に動けるよう、兵を準備させていただろう。今頃は洛陽の辺りを通ってるかもな」

「そんなに早くですか?」

「あまり彼女を舐めない方が良い。今俺達が真っ向から戦っても勝率が四割在るかどうかだ。直ちに兵の準備をするよう風たちに伝えてくれ。諜報部隊は手筈通り動くように頼む」

「御意」

諜報員は一刀の命を受けると即座に部屋を後にし、各部署へと指示を伝えに向かった。

「さて、俺もさっさと机の上の物を片付けて戦支度をするか」

そう言うと一刀は卓の上にある残ったお茶を飲み干す。

その味はすっかり冷め切って風味も飛んでおり、いつも飲んでいる物と大して変わらなかった。

 

 

 

 

「また随分と山奥に陣を構えたものですな。本当に長安を襲うつもりがあったのか疑いたくなる」

長安より南にある木々が生い茂る山間部、その山あいにある道を一刀たちは大部隊を引き連れて行軍する。

道といっても地元の猟師などが使うような細い獣道で、本来は軍隊が通れる程のものではなく、事実上切り開いて進んでいる状態だ。

そのあまりの険しさに、隣に居る星も思わず悪態を吐いてしまうほどである。

「恐らく都からの軍令が黄巾党の耳にも入っているんだろうね。それで警戒してこんな場所に陣を構えたんだろう。まったく、余計な事をしてくれたものさ」

「主、これほど険しいと兵達の疲労が心配になります。戦になる前に兵達が動けなくなってはどうにもなりませぬぞ」

「あ、その点は大丈夫だ。この程度でへばるような兵は訓練中に全員裸足で逃げ出してるよ。ただ、この行軍速度だと挟撃に間に合うのかの方が心配だな」

華琳達は黄巾党が通ったものと同じルートを取る可能性が高く、道を切り開くようにして進んでいる一刀達とは行軍速度に於いて、雲泥の差となっている。

いくら州を一つ跨いでの遠征とはいえ、こちらよりも早く出陣している上に、この行軍速度の差では華琳達のほうが早く黄巾党の本隊に着いてしまいかねない。

そうなれば、いくら同盟を組んでの作戦とはいえ、一刀達の不手際を華琳達が尻拭いをしたことになり、手柄事態も対等ではなくなってしまう。

その上、黄巾党の首魁の正体を知らない華琳によって天和達の頸を刎ねられる心配まで出てくる。

諜報部隊が常時天和達の動きを警戒しつつ、黄巾党の近くで待機しているが、一刀達が到着する前に行動を起こしては、確実に彼女達の身柄を確保できるか分からず、仮に出来たとしてもその動きを華琳たちに悟られる可能性が高い。

黄巾党討伐の手柄を華琳たちに譲るのは構わないが、天和達の確保だけは彼女達の身の安全と今後の事を考えると必須であり、身内以外の誰にも悟られるわけにはいかない。

「間に合わないならいっそ、少数精鋭で誰かを先行させた方が良いかも知れないな。俺が本隊を離れるわけにはいかないし・・・・」

「ここは私が行くほかありますまい。三人の中で事情を知っているのは私だけですしな」

星は自分が先行して黄巾党の本隊へ向かう事を一刀に提案する。

一刀が動けない以上、武闘派で行動出来るのは星だけであり、その上事情を知っているとなれば、彼女の申し出を断る理由は何も無かった。

「そうだね、それじゃあ風を連れて先行してもらえるかな。目的地に向かう途中で彼女にも事情を説明してあげて」

「承知」

そう言うと星は一刀の元を離れ、風がいる後方へ向かう。

それを見送ると一刀は誰もいない筈の方向を向き、やや上側を見ながら話しかける。

「聞いていた通りだ、報告は先行する彼女達へ優先的に知らせるように。あと星達が目的地に着く前に君達諜報部隊に出した命令の説明もお願い」

「・・・・御意」

一刀が向いている方向にある木の上から、男のものと思われるやや低めの声で同意の返事が返ってきた。

その返事を聞き終えると、一刀はこれから向かう目的地の方角を見ながら、現在地点と報告の在った黄巾党本隊の距離を概算する。

「俺達の居る場所から天和達の居る場所までの距離を考えると、着く頃には華琳達との戦闘の真っ最中だろうな。先行する星達に期待する他無いかな」

「あの二人なら問題ありませんよ」

現在の自分達が置かれている状況を思慮していると、風と同じく後方で糧食などの補給部隊の指示をしていた筈の稟がいつの間にか隣に立っていた。

どうやら一刀が洩らしていた独り言を聞いていたらしく、その言葉を返すような形で一刀に話しかける。

「あれ?補給部隊の指揮はどうしたんだい?」

「風や星が本隊を離れたので軍全体の指揮をする為に下の者に引き継いで貰いました。・・・・・それより一刀殿、私や風は貴方のなんですか?」

少し不機嫌な様子を見せながら、稟は自分の役職を一刀に問いかける。

「俺の軍師だけど?」

「ならば私や風に相談も無く何かを画策するのはお止め下さい。これでは何のために私達が貴方の下に居るのか分かりません」

「・・・・・ごめん、どうも潜伏生活が長かったから秘密にする癖が付いているみたいだ。今度からはちゃんと皆にも相談するよ」

一刀と諜報員の会話を聞いて機嫌を損ねた稟。

そんな彼女に彼は自分の非を認めて誠心誠意謝罪し、稟もそんな一刀の態度を見て納得したのか、軽くため息を吐きながら大目に見ることにしたようだ。

「それで、一刀殿は諜報部隊にどの様な命令を下し、何をたくらんでいるのですか?風や星たちを先行させてまでとなると、今回の黄巾党討伐の真の目的もそこにあるように思えますが・・・・・・」

「実はね・・・・」

一刀は稟に今回の目的である首魁の張角こと天和たちの身柄の確保、その為に諜報部隊へ出した命令の内容と風達を先行させた理由を要約して説明した。

「なるほど、これほどまでの人身掌握能力に長けた張角を配下に取り込むことが出来れば我々の兵力は大幅に増員できますね」

「ああ、張角達は本来はただの旅芸人なのだから、人々を魅了する歌や踊りを披露するのが目的であって大陸の覇権には大した興味が無い。今回の事だって周りが暴走しているだけなのだから、今後こちらで収拾をつけつつ彼女達の興行の支援をすると言えば必ずこちらに付くよ」

「それでは曹操様と同盟を結んでまで黄巾党の本隊を涼州へ誘い込んだのは・・・・」

「自分の統治下の土地じゃないと証拠の隠滅とか事後処理とかが色々と面倒だからね」

幾らうちの諜報部隊が優秀と言えど、見知らぬ土地で一刀達以外の誰かと戦っている敵の総大将を、誰にも気付かれずに捕まえるとなると確実性に欠けてしまう。表で動く一刀達と裏方の諜報部隊が連携しなければ彼の思惑を成功させるのは難しかったのである。

稟も一刀の言葉からその事情を察し、少し呆れた様な表情で彼の方を見る。

「全く、あなたと言う人は抜け目が無い。・・・・それにしても、一刀殿は何処で張角が旅芸人だと言う情報を得られたのです?」

稟は誰もが気になるであろう、最もな疑問を一刀に投げかける。

本来は彼女達を前世から知っているので調べてもいないのだが、そんな事を正直に稟に言うわけにもいかず、気が引けるがとりあえず一刀は適当に話を作ってごまかす事にした。

「ああ、それはね、この辺一帯の役人が逃げ出して無法地帯になった時に、難民に混ざっていた行商人からこんな話を聞いたんだよ。"この前、聞いた事も無いような歌を歌う三人の旅芸人を見た"ってね。少し気になって他の襲われた所の人からも話を聞いたんだけど、殆どの場所で同じ様な旅芸人を見かけたと言うんだよ。その中にその旅芸人の名前を覚えている人が居て、なんと出てきた名前が・・・」

「張角だったと言うわけですね」

「ご名答。あとはとっ捕まえて牢に入っている黄巾から張角の歌の話を餌に情報を聞き出したという訳さ」

「一刀殿はそれを全てお一人でされたのですか?」

「そうだよ。だからあの時華琳との会話で"どういう人物なのかという報告は受けていない"って言ったのさ」

それを聞いて稟はますます呆れた表情をして一刀を見つめた。

「・・・・・・本当に抜け目の無いお方だ」

 

 

 

 

長安より南の山間にある、木々を切り倒した事で少し開けた状態となった盆地。

その盆地に陣を構えた黄巾党の本隊を、息を潜めて監視する一軍の姿があった。

「華琳さま、全軍配置に付きました。いつでも攻め込む事が出来ます」

兗州の州牧である曹孟徳が率いる曹操軍である。

彼女達は目的地へ到着すると直ちに戦闘の準備を始め、黄巾党側の陣内の構成や、一刀達の動きに気を配りだした。

相手の陣の情報が判明し、それをもとに各隊の配置を完了したと言う報告を桂花から受けた華琳。

彼女はその報告を聞いた後、眼下に広がる敵の陣を眺めながら、未だ報告が来ていない今回の作戦の発案者の事を桂花に問う。

「一刀の軍は?」

「未だ到着しておりません。恐らくこの地に続く山道に足を取られているのではないかと」

「そう・・・・」

桂花の答えを聞きながら、華琳は一刀の率いている軍の状況を自分なりに考えていた。

(優先して私達に情報を伝えると言った事から考えると、一刀が兵を動かしたのは私達が出立して一日から二日後と言う事になるわね・・・)

その予想は的中しており、一刀が出立したのは華琳たちが陳留を出た翌々日。

本来なら華琳達の行軍する距離を考えると、それでほぼ同時に攻め込む事が可能だったのだが、敵が予想に反してこの様な山奥に陣を構えたことによって作戦にずれが生じている。

華琳達は黄巾党の切り開いた道を行軍したため比較的早く到着したが、もし彼女の兵が一刀達の様に道を切り開きながら行軍した場合、到着した頃には疲弊して戦どころでは無かった事だろう。

そんな事を華琳が考えていると、彼女の傍に佇む桂花が言い放つ一刀を貶す様な言葉が耳に入ってくる。

「華琳さまと同盟を結ぶなどと大言壮語を吐いておきながら、この体たらく・・・・。やはり男など我々の足元にも及ばぬ下等な生き物です」

桂花の言葉を聞いて少し機嫌が悪くした華琳は、彼女に少し釘を刺そうとするが・・・・・。

「曹孟徳殿。我が主、仲達様の率いる軍の進行状況をお知らせする為に馳せ参じました」

「「!?」」

ふと聞こえてきた見知らぬ男の声に気をとられて機会を逸してしまう。

声のする方向に目を向けると、そこには陳留まで黄巾党の本隊の位置を伝えに来た、一刀に仕える間諜と思われる者が片膝をついて佇んでいた。

声をかけられるその瞬間まで、全く気配を感じることが出来なかった事に二人は驚愕しつつも、目の前の男に一刀たちの現状を聞くことにする。

「・・・・・・ご苦労様。では早速、一刀達の状況を教えてもらえるかしら?」

「はっ。我が軍の本隊ですが、森の木々に阻まれ思うように行軍が出来ず、到着は半日ほど遅れる模様。ただ、仲達様は遅れる事が判明すると直ちに少数精鋭の部隊を編成し、趙雲様と程昱様の指揮の下この地へと先行させており、間もなく到着する予定です」

「・・・・少数精鋭といったけれど、今回の作戦に支障をきたさないだけの数は揃っているのかしら?」

「はい、後詰となる本体が到着するまでの間ならば十分な数が揃っております」

「そう・・・・。なら趙雲達が到着し次第攻撃を開始するわ。彼女たちが付いたときには貴方が私に報告なさい」

「御意」

「それと、一つ聞きたいのだけれど・・・・」

「・・・・お答えできる範囲でよければ」

表情には出ていないが、呼び止められて質問をされたのが意外だったらしく、返事をするのが一瞬遅れた男。

そんな彼の事など気にも留めずに華琳は話を続ける。

「昔私が一刀に命を助けられたとき、彼に私の危機を伝えたのは貴方なのかしら?」

「それは私の上官に当たる方達です」

「その者達を育て上げたのは一刀なの?」

「・・・・・・はい」

「そう、もう下がっていいわ」

華琳のその一言を聞くと、男は音もなくその場から姿を消す。

男が居なくなったのを確認してから、華琳は隣で一部始終を聞いていた桂花に話しかける。

「桂花、私が一刀に命を救われたのは彼がまだ七つのときの話。そんな年端も行かない子供が今の者と同程度の間諜を育て上げているのよ」

「!?そんな!ありえません!」

「事実よ。そして今となっては、自分が統治する領とはいえこんな山奥に潜んでいる敵の本隊を見つけ出す程になっている。それほどの者をあなたは無能だと思うのかしら?」

「それは・・・・」

「あまり一刀を嘗めないほうがいいわ。そんな事では敵として相対したときに手痛い洗礼を食らう事になる。いいわね?」

「・・・・はい」

華琳の言葉に苦渋の表情を浮ばせている桂花。

だが、そんな彼女の心のうちを気に留める事無く、華琳は桂花に命令を下す。

「桂花、全軍に通達。趙雲、程昱の部隊が到着次第攻撃を開始するわ」

「御意・・・・」

桂花は命令を聞くと直ぐに返事をし、全軍にその旨を伝えに向かう。

目の敵にしていた男の事で華琳から小言を言われ、苦悩していたにも拘らず、直ぐに意識を切り替えて行動する辺り流石は軍師と言える。

桂花がその場を後にし、華琳のみとなると彼女は再び敵陣の方へ目を向ける。

「少しきつく言い過ぎたかしら・・・・・。一刀の事で頭に血が昇らないように気を付けないといけないわね」

敵陣を眺めながら、華琳は誰にも聞こえないほどの小声で己が心を戒めるようにそう呟いた。

 

 

 


 
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