No.610062

『たまなんて、あるわけない』

資源三世さん

魔法少女まどか☆マギカ 二次創作。作者HPより転載

2013-08-18 20:42:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:428   閲覧ユーザー数:428

「君も僕が見えるのかい? なら君にも資格がありそうだ」

 

 真っ赤な夕日に照らされ、部屋がオレンジに染まる中、その中心にちょこんと座り込む白い小さな生き物は淡々と呟く。それがどれだけ不可思議なことだろうかなどと考えていないのだろう。それを見た相手がQBの姿に驚き、呆然としているのに構わずに話し続ける。

 

「僕と契約して魔法少女になって、魔女と戦ってもらえないかい?」

 

「ちょ、ちょっと何言ってるの、QB! あんた、自分が何をしようとしてるか分かってるの?」

 

 それを止めに入るのは、その場に居合わせたさやかであった。魔法少女になった者の結末…… 残酷な死という現実を巴マミを通して知っていたさやかは当然、それを止めに入る。だが、QBは大して気にした様子もなく、むしろ邪魔することがわからないといった様子だ。

 

「何をしたいか……。それは少なくとも美…… 美樹…… 美樹なんとか! 君なんかよりずっと理解しているよ」

 

「なんとかじゃなくて、さやか! 思い切り間違えてるのに思い出した、これだ! みたいな顔して呼ばないでよ! いや、今はそうじゃなくて……」

 

「そう、今は契約が先だよ。君が魔法少女となって魔女と戦い続ける運命を受け入れるなら、僕はどんな願いであろうと一つだけ叶えてあげられるよ。君には戦いの運命を受け入れてでも叶えたい願いがあるんだろう?」

 

「それは…… でも、だからっていいわけない!」

 

「それを決めるのはさやこ、君じゃない。そうだろう…… 上条恭介」

 

 恭介は自分の名前を呼ばれて、やっと呆然とした意識から脱することができたようだ。とはいえ、まだ口をぱくぱくとするだけで反論も何もできていない。

 

「魔法少女って、QB、あんたねぇ……。恭介は男なの。慣れるわけないでしょうが! あと私の名前はさやこじゃなくて、さ・や・か!」

 

 恭介の代わりに険しい剣幕でQBへと詰め寄るさやか。しかし、QBは特に気に止めもしない。

 

「肉体の性別なんて大した問題じゃないよ。単純に最も効率がいいのが少女だったのと、あと僕の趣味だけだからね。それに彼には叶えたい望みがあるみたいだし、魔法少女としての才能もさやこよりも上だ」

 

「だから、さやこじゃなくてさやか! いや、でも、だからって……」

 

「僕としては男の娘というジャンルも結構いいかなって思い始めてきたんだ。だから、恭介、君が女装すれば、なんら問題はないんだ」

 

「いいわけないでしょうが! つか、なんであんたの趣味基準で話しが進んでるのよ!」

 

「君たち人間は他者の趣味趣向が自分にそぐわないものだと、すぐに嫌悪や軽蔑といった行為にでるね。別に誰に迷惑かけてるわけでもないのに……。まったく訳がわからないよ」

 

「趣味で女装させようとしてる奴が何言ってるのよ! 恭介もこんなのの言う事、聞いちゃ……」

 

「わかったよ、女装すれば願いが叶うんだね!」

 

 呆れ気味に忠告するさやかであったが、当の恭介は真剣な表情でQBに問いただす。

 

「ちょ、ちょっと恭介?!」

 

「この腕が治るなら、僕はなんだってするさ。あぁ、女装の一つや二つ! それでそういった趣味に目覚めてしまおうと後悔なんて、あるわけない!」

 

「女装の一つや二つで目覚めないでよ! むしろ、目覚めたら、ちょっとくらい後悔してよ!」

 

「女装の辱めを受け入れてまで、叶えたい望み……。それは君のたまを差し出すに相応しい祈りかい?」

 

「あぁ……」

 

「いや、受け入れないでよ! そもそも女装の辱めじゃなくて戦いの定めでしょうが、なんで二人して女装が優先してるのよ!」

 

「大した違いはないさ、女装して戦うんだから。なにはともあれ恭介、君の祈りはエントロピーを凌駕した。さあ解き放ってごらん、君の新しい性癖を!」

 

 恭介はQBに頷いてみせると、自分の中の強い力を外へと解き放つ。その途端に強烈な痛みが体に走る。

 

「ぐうぅぅっ!」

 

「恭介!」

 

 まるで自分の体の一部をもぎ取られるかのような強烈な痛み。たまらずに苦悶の声を漏らす恭介。その様子を見たさやかはすぐに駆けよろうとするが、恭介は首を振ってそれを止める。

 

「うあぁぁっ!」

 

 一際、強い痛みと共に恭介の体から光る球体が姿を現す。それは夕日よりも美しく輝く二つの黄金色の球体。強い生命を感じさせ、それがまさに恭介の生命だと思わせた。

 

「さあ、受け取るがいい。それが君の金た…… いや、ソウルジェムだ」

 

「ちょっと、今、なんて言おうとしたの?! なんでソウルジェムが二つもあるの! どう見ても違うものが出てきてない?!」

 

「何を言ってるんだい? ソウルジェムの色も形も数も人それぞれだよ。偶然、それっぽいものが出たからって卑猥な発想するなんて、全くわけがわからないよ」

 

「誰が卑猥だ、こらー!」

 

 さやかは顔を真っ赤にして、怒りのままにQBをぶんぶんと振り回す。その傍らで恭介は自分の手を動かして確認していた。

 

「動く…… 動くよ、さやか! また演奏できるようになったんだ」

 

「当然だよ、君の祈りはきちんと果たされたからね」

 

「恭介……。これから女装して戦わなくちゃならないっていうのに、あんなに喜んで……」

 

 これから歩むであろう恭介の将来を思うと色々な意味で泣けてくるさやかであった。もっとも当の恭介はといえば、むしろスッキリとしていた。

 

「なんだろう、ソウルジェムと一緒に雑念なんかも吹き飛んだ気がするよ。これからは異性のことを考えたりして悩まされることもなくなりそうだよ」

 

「君の体からゴールデンボー……じゃなくて、ソウルボールが摘出されたからね。その影響だろう。まあ、問題はないよね」

 

「思い切り問題あるでしょう! なに、とんでもないものを取り出してんのよ! つかソウルボールって何よ!」

 

「何だっていいじゃないか。それより、そのゴールデンジェムの扱いには気をつけてもらえるかい。それが壊れるということは君にとって色々な意味で死と同義だ」

 

「ソウルジェムの名前がどんどんと変わってるじゃない! あと色々な意味って何よ!」

 

「ふっ、女の君にはわからないよ……」

 

「あぁ、そうだろうね……。さやかに分かるわけがないよ……」

 

「なんで変なところで意気投合してるの?! つーか、恭介、もう何を取られたか分かってるでしょ?!」

 

「さやか、君はなかなか勘がいいようだね。あのマミですら最後まで気付かなかったのに」

 

「マミさん関係ないでしょ! 気付くとか言う前に持ってないでしょ!」

 

「恭介は自らのたまと引換に祈りを果たしたんだ。今の君にそれを非難する資格はないよ。出来るのは同じたまを失う運命を背負った子だけだ」

 

「それ、私にはどう逆立ちしても非難する資格ないじゃん!」

 

「そうだよ、さやか……。君はたまを失わなくても魔法少女になれたんだろ? 非難するなら、まず同じ立場になってみろよ!」

 

「なんで性格悪くなってるの?! いや、それにそもそも私、捨てるたまなんてもってないし!」

 

「それはつまり僕と契約して、たまを手に入れたいってことだね。その願いは魂を差し出すに相応しい願いだ、よし契約しよう」

 

「勝手に決めないでよ!」

 

「やっぱり無理だろ? 当然だよな。ただの同情でたまを捨てられるわけないもんな……」

 

「だから、そもそもたまないっていうか……。こ、こうなったら、私が魔法少女になって恭介を男に戻すしか」

 

「やめなさい」

 

 恭介のために…… そう決意しようとしたさやかを止めたのは、いつの間にか病室へとやってきたほむらであった。

 

 さやかは突然、自分の背後に現れたほむらに驚き、振り向きざまにバランスを崩してベッドへと腰を落としてしまう。それに対して、恭介もほむらの存在に驚きこそしたが取り乱すようなことはせず、じっと睨みつけるだけにとどめた。

 

「な、なんで転校生が……」

 

「嫌な予感がして来てみれば、ろくでもないことになっていたみたいね、美樹…… 美樹…… えーと美樹なんとか?」

 

「美樹さやか! なんでみんなしてたった三文字が覚えられないのよ!」

 

「暁美ほむら…… まさか、まどかの魔法少女化を邪魔するだけじゃなく、こっちのも邪魔する気かい?」

 

「えぇ、そうなるかしら。私としてはこっちはどうでもいいけれど、たまを手に入れたりしたら、まどかに欲情して取り返しがつかないことになるでしょう。そんなこと私がさせないわ。こっちのは佐倉杏子にでも手をだしてればいいのよ」

 

「ついに名前じゃなくて、こっちとかいう扱いし始めたよ……。あと、なんで私の願いが男になること確定で進んでるのよ。それに佐倉杏子って誰よ?」

 

「……さやかは願えば男になれるのに、それをしないんだね。僕はこんなにも男に戻りたいって必死で願っても叶わないっていうのに……」

 

「あー、もう面倒くさい! そもそもQBの説明だと女装とか、男の娘とかで済むんじゃなかったの?!」

 

「まあ、女装だけで済ませることも出来たけど……」

 

 QBは恭介のベッドに飛び移ると、二つのゴールデンジェムにその手を乗せる。どうしたことか、それだけで恭介はあまりの痛みに体をくの字に曲げてしまう。

 

「はうあっ!」

 

「ちょっ、恭介!」

 

「こんな弱点を残したまま、魔女と戦ってくれなんてとてもじゃないけどお願いできないよ」

 

「QB、その手をどかしなさいよ!」

 

「さやこ、君は戦いというものを甘く考えすぎだよ。例えば、たまに槍が刺さった場合、肉体の感覚がどれだけの刺激を受けるかって言うとね」

 

 そう言うとQBはどこからか持ち出した槍でゴールデンジェムを貫いてしまう。それはそのまま恭介の肉体に死に直結するほどの痛みとなって襲いかかる。無論、それを一介の魔法少女である恭介が耐えられるわけもなかった。

 

「うわあぁぁーーー!!」

 

「ゴールデンジェム!」

 

「……なんてことを」

 

 恭介は絶叫の末に全身を脂汗でびっしょりと濡らして、そのまま倒れこんでしまう。痛みに耐え切れず、意識を失ったようだ。

 

「これが本来の痛みだよ。ただの一発でも動けやしないだろう?」

 

「バカQB! そんなこと証明するのにわざわざ壊してどうするのよ!

 

「でも、こうしないと痛みを分かってもらえないだろう? さやこが選んだ道はこれだけ険しい道だということを……」

 

「さやこじゃなくて、さーやーかー! じゃなくて、私に分からせるために恭介のゴールデンジェム壊さないでよ!」

 

「よく見ておきなさい。これがあなたがなろうとした魔法少女の結末よ……」

 

「違うでしょ、どう見ても違うでしょ。明らかに違うものの結末じゃない!」

 

「ジェムを壊されたら死ぬという点では同じさ」

 

「ジェムを壊した本人が何、さらっと言ってるのよ!」

 

「うっ…… ぐぅ……!」

 

「恭介…… こんなもののせいで!」

 

 恭介は意識を失いながらも、まだ痛みに打ち震えていた。見るに耐えないその姿を前にさやかはたまらずにゴールデンジェムを奪って走り去ってゆくのだった。

 

「待ちなさい、美樹……」

 

 すぐさま手を伸ばすほむらだったが、それ以上、手を伸ばすことが出来ずに走り去るさやかの後ろ姿を見送るだけだった。

 

「なんで追うのをやめたんだい?」

 

 QBの問いかけにほむらはさやかがいなくなった出口をみたまま、ぽつりと一言、吐き捨てる。

 

「……あなたと同じよ」

 

「そうか、君もか」

 

「えぇ……」

 

 ほむらとQBは出口をみつめたまま、ため息まじりに同じことを呟くのだった。

 

ほむら・「美樹なんだったっけ……」

 

 

 

――そして、月日は経ち

 

「あの日からずっと恭介に会ってないけど…… 会えるわけないよね」

 

 誰もいない校舎の屋上でさやかは一人、切なげに呟く。その手には、あの日、思わず取ってきてしまったゴールデンジェムを握りしめて。

 

「悩んでいるところ悪いけど、それを返してもらえないかい?」

 

「QB?!」

 

 聞き覚えのある声に思わず振り返れば、フェンスの向こう側にQBの姿があった。

 

「これを返したら、恭介は魔法少女として戦わなければならないんでしょ? そんなの…… そんなの出来るわけない! この最後のゴールデンジェムを失ったら、恭介は色々な意味で死んじゃうもの……」

 

 さやかはゴールデンジェムを両手で固く包み込み、更に自分の体を丸めて奪われまいと抵抗を見せる。

 

「暁美ほむらによれば、あと一時間もすればワルプルギスの夜…… 超弩級の魔女がやってくるそうだ」

 

「超弩級の魔女……? そんなの来るなら、余計渡せるわけないじゃない! あたしは恭介が死ぬところも、女装するところもみたくなんかない!」

 

「わかってないなぁ。この街には暁美ほむらと他にもう一人しか魔法少女がいないんだ。候補として鹿目まどかと美樹なんとか…… 君がいるけれど、協力は得られないだろう?」

 

「美樹さやかね。いい加減、覚えなさいよ」

 

「暁美ほむらは二人でやるつもりみたいだけど、まず無理だろうね。そこで恭介の協力が欲しいんだ」

 

「……恭介が加われば、なんとかなるの?」

 

「まさか。ただ、それでも無関係の人間達が避難する時間を少しくらいは稼げるだろう。一人の命とよりたくさんの命、比べられるわけないだろ?」

 

「最低ね……」

 

「君たちは目に見えないだけで多くの命の上に成り立っているというのに、目に見えるところで死というものを感じ取るとすぐに非難を浴びせるね。まあ、僕はそれを愚かと言ったりはしないよ。魔法少女でないものが魔法少女の行いを非難できないように、感情を持たない僕が感情をもつ君たちを理解できない以上、非難もしないさ」

 

 それだけ言うとQBは立ち上がり、さやかに背を向ける。

 

「ただ一つだけ言わせて欲しい。魔法少女が死ぬのは僕の命令じゃない、彼女たちが選んだ道の、その結果の一つにすぎないということさ」

 

「……それでも結果が伴わなければ…… 悲しむ人がいることに変わりないじゃない!」

 

「そう思うなら、君も早く逃げたほうがいい。少しでも多くの人間を連れてね」

 

 

 まるで積み木細工のように次々と倒されてゆく高層ビル群。ほむらと杏子、二人の集中攻撃を受けながら、それを歯牙にもかけない圧倒的な存在感。圧倒的という他ないその力は、太陽の光すらも届かない闇を、空だけでなく心の中までも染め上げてゆく。

 

「くっ!」

 

「なんて…… やつだよ……」

 

 ほむらは瓦礫の中に倒れこんだまま、悠然と空を漂う魔女を見上げる。この時間軸でやっとまどかを魔法少女にせずに済んだというのに、ここまで来たというのに……。あと少しでまどかとの約束を守れると思っていたのにワルプルギスの夜の力に打ち勝つことは出来なかったのだ。

 

 今まで何度も見てきたように、ワルプルギスの夜はこの街を、人を、全てを破壊してゆくだろう。まどかも例外ではない。

 

「ごめん…… ごめんね、まどか……。私、またあなたを守れなかった……」

 

 魔力の消耗と共に絶望がほむらの心にのしかかる。今までやってきたことは無駄だったと思い知らされる。この運命はどうしようもないと認めさせられて、ほむらのソウルジェムに穢れが満ち――

 

「なに、勝手に諦めてるのよ、格好悪い」

 

「……え?」

 

 倒れこむほむらを覗き込む影。それはさやかであった。ここにいるはずのない人影にほむらは驚き、問いかける。

 

「美樹なんとか、なんであなたが……」

 

「なんとかじゃなくて、さーやーかー! QBがあんた達だけじゃ、あれに勝てないっていうから来てあげたのよ」

 

「来たって…… あなた、まさか?!」

 

「……ほら」

 

 さやかはほむらから視線をそらし、自分のソウルジェムを見せる。海のように青く透き通った、まさに宝石のようなソウルジェムだった。

 

「……ゴールデンジェムじゃ…… ない?」

 

「だからなんでそっちに話がいくのよ!」

 

「残念だけど、さやこはそんなに才能がなかったんだよ。だから例え願いを叶えてゴールデンジェムを手に入れたとしても魔法少女になれる可能性は限りなく低いんだ。それで泣く泣く普通の魔法少女になったんだ」

 

「……その、なんて言っていいかわからないけど…… 名前、なんだっけ?」

 

「さーやーかー! 別に気を使う必要はないけど、気を使うのか名前を思い出せないのかはっきりしてよ!」

 

 さやかはぐちぐちと言いながら、ほむらを瓦礫の中から引き起こすと、そのまま自分も魔法少女へと変身する。そして、空を漂う巨大な魔女へと剣を構える。

 

「ともかく、あたしも一緒に戦うから。……守りたいものがあるのは一緒だからね。少しでもあの…… えーとワルギスギスの夜? の注意を惹きつけておくわよ」

 

「ワルプルギスの夜よ。たった六文字も覚えられないの?」

 

「僕は別にそれを愚かとはいわないよ。さやこが残念な子というのはよくわかっているからね」

 

「たった三文字の名前を覚えられないくせに、なんで偉そうなのよ、あんたらは!」

 

「なんだっていいじゃねぇか」

 

 槍を抱えて、杏子もさやかの元へ来る。さやかにとっては初対面であるが、ワルプルギスと戦うという同じ目的を共有する仲間である。不思議と仲良くなれそうな気がした。

 

「あんなの相手にしてるんだ、一人でも仲間は多いほうがいいさ。なあ、さだこ」

 

「だから、さーやーかーだって言ってるでしょうが! あー、もう! こんなことしてないで、さっさと行くよ!」

 

 

 

――こうしてワルプルギスの夜と三人の魔法少女の戦いは誰に知られることなく行われた。結果として街は破壊され、多くの物が破壊の限りに沈んでいった。三人の魔法少女もその運命から逃れることはできなかったのか、その行方を知る人間はいない……

 

「これは暁美ほむらからの君に渡して欲しいと言われたものだ。僕は使いっ走りじゃないのにね。自分でいけばいいのに『私の戦場はここじゃない』って、どこかに行っちゃって……」

 

 愚痴をこぼしながら、それでも律儀に約束は守ったようだ。QBはほむらからの頼まれもの・グリーフシードをそこに置く。

 

「そんな姿になっても、せめて一緒にいさせてやって欲しいそうだ。こういうのを君らは感傷というのだろうね。わけがわからないよって言ったら、暁美ほむらは僕を蜂の巣にしたけど」

 

 そういいつつも、ゴールデンジェムとグリーフシードを重なりあうように置き直す。

 

「これくらいはサービスしておくよ。少なくとも美樹さやなんとかは力を使い果たし魔女となってもワルプルギスの夜と戦い続けた。本人の意思が残っていたのか、単に縄張り争いだったのか知らないけど、それでもそのおかげでより多くの人間が避難することができたことには感謝してるからね。人間の絶対数が減るのは即ち魔法少女や魔女の絶対数に影響を及ぼす。それは僕らとしても避けたい事態だもの。まあ、そういう意味では恭介が魔女にならなかったのはとても残念だったよ……」

 

 QBは空を見上げる。人間は死んだら空へと向かうと思われているから、それに従ったまでだ。本当の魂はそんなところにないのも分かっているのに。

 

「美樹さやか、君の願い…… 恭介にたまを戻すのは叶ったから安心するといい。たまを三個いれたのは街を守ってくれた感謝の印だ。恭介の魔女化を阻止したから、四個はあげられないけどね。それじゃあ、お別れだ」

 

 そう告げて、QBはその場をあとにするのだった。

 

 

――Fin――


 
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