No.608168

PEACE ENDS 第3話

ようやく出来た第3話です! ごゆっくりお楽しみください♪

2013-08-13 00:11:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:442

~エピソードⅢ~:復讐の念:

 

 ボク達はマズの村へと急いだ。だが徒歩で1時間かかる道のりだ。馬だからといってすぐにはたどり着けない。この時間がもどかしい。焦る気持ちを抑えながらボクはじぃに話しかけた。

 「なぜボクを探しに?」

 「国王様の命により衛兵と共に王子をお迎えにあがった次第です。」

 質問も簡潔なら答えも簡潔なものだった。ボクは村に着くまでの数分間、質問を続けた。自分はなぜ行方不明になったのか、自分の名前は何なのか、この世界のことも聞いた。その質問に対する答えは以上のものだった。じぃが言うにはボクは一週間前に行方不明になったらしい。だが、居ないとわかったのはその翌日のことだという。というのも、そもそもの原因が王都襲撃だったからだ。この世界は大きく分けて3つの大国と4つの小国から成っている。リーズノフ大陸のクランクォーム王国と、もう一つのヴィリアージュ大陸のフェークヴァル帝国は対立関係にあり、帝国側が先手を打ってきたらしい。その最初の一手が王都襲撃なのだという。現在この大陸各地では争いが行われており、王都襲撃の混乱に乗じて大陸のほとんどがフェークヴァル帝国に占領されているという。ここマズの村周辺は占領されていない残り少ない地域なのだという。港に誰もいなくなっていたのはフェークヴァル帝国軍の仕業だろう。その理由についてじぃは、奴隷として強制労働させるためだと語っていた。ボクの名前はというと、ボクはラグアというらしい。ラグア・ネアフール…。自分の名前のはずなのになんだか不思議な感じがする。自分のものではないような慣れない感じだ。

 そんなことをじぃと話していると、すぐに村の全貌があらわになってきた。一言目の感想は、ただただ酷いの一言だった。村の家という家に火が着けられ、その全てが全焼しつつある。ここまで火が大きいと、ここまで熱風が押し寄せてくる。ボクはぐっと歯を噛み締めた。そしてようやくボク達は村へと入ることができた。

 

 熱い…肌が焼けそうだ。ボク達は村へ入ると市場があった場所にたどり着いた。すると、少し遠くに人影が見えた。村の人達だ。先頭にいるのは…ガンズさんに見える。その向かいにいる奴らは武装している。きっと奴らが帝国軍なのだろう。ボクは近寄ろうとして、やめた。ガンズさんを筆頭に、複数人の村人が包丁などの凶器を持っている。このまま飛び込んでも、状況は何も変わらないだろう。じぃ達はすでに馬から降り、家陰に馬を隠していた。この距離でも気づかれなかったのはガンズさんのおかげでもあり、ある種の奇跡でもあった。ボクはじぃ達にならうと、様子をうかがった。何やら会話がなされているが、熱風や家が燃える音、距離もあることから何を言っているかまるでわからない。じぃが喋りだした。

 「俺達はお前らには従わない…この村から出て行け…」

 …?ボクは疑問符しか出てこなかった。じぃは続ける。

 「一人づつ殺せ…いいな、ゆっくりとだ。」

 「さっきから何を言っているんです…?」

 ボクはできるだけ小さい声で聞いた。

 「彼等が話していることですぞ?王子も集中しなされ。」

 まさか…聞こえるわけがない。帝国軍は少しずつガンズさんの方ににじり寄っていく。

 (このままではまずい…。なんとか…しなければ…。)

 考えなくては…。集中をしなければ…。ボクには何ができる…?そんなことを考えているうちにガンズさんが帝国軍に飛びかかった。

 

大柄な体型とはいえ、訓練を受けた軍隊に敵うはずはない。だがその剛力を活かしてなんとか渡り合っている。今だ。ボクの心のどこかでそう呟く声が聞こえた気がした。ボクは近くの衛兵の腰から剣を素早く抜き取り、帝国軍の後ろに回りこむように走った。後ろからじぃの声が聞こえたが無視した。うまく回り込めたが、気づかれていない保証はない。ボクは手の汗で滑らないように剣を持ち直し、最初はゆっくりと、そして勢い良く走りだした。今まさに斬りかかろうとした所で、何かを投げつけられた。投げられたそれを理解するのと、肩口にそれが当たるのは同時だった。激痛が走り、転びそうになったが、そのお陰で勢い良く剣を振り下ろせた。確かな手応えと振動、肩に響く激痛を感じた。ボクはその反動を受けてさらに、近くの帝国軍を斬った。不意を突かれたようで相手は為す術もなく斬り伏せられた。

 ボクのミスは相手の数をきちんと把握していなかったことだ。視界に入っている人数はあと3人だ。とても今のボクには倒せないだろう。この二人を倒せたのだって半分はまぐれだ。一人が斬りかかってきた。ボクは剣をなげやりに振るった。金属音が鳴り響く。必死に受け止めるのがやっとだった。堪えきれずに後ろに倒された。殺される。諦めかけた所で、そんな必要はないことを確信した。視界のはしに衛兵の姿が見えた。剣を振り上げていたその帝国軍はすぐに崩れ落ちた。ボクはほっとし、すぐに緊張した。

 

 「貴様ら…誰だ!」

 見ると帝国軍の一人の兵士が人質を取り、そしてその横で、その隊の隊長らしき人物が剣を構えていた。その人質の名前をボクは知っていた。…メーシャだった。ボクは急に体が動かなくなり、剣を手から滑らせ、落としてしまった。衛兵等とガンズさん等がそこに対峙している。まさに一触即発の状況だった。

 「王子、大丈夫ですか?」

 じぃが話しかけてきたが、ボクには全く聞こえていなかった。

 ボクは自分の愚かさと無鉄砲さを呪った。人質を取られている以上、ヘタには動けない。衛兵等とガンズさんと帝国軍隊長の位置関係は、隊長を直角部に置いた時にちょうど直角二等辺三角形になる。ボクはというと隊長の真後ろに位置している。状況から見ればボクが行動をするべきだったが、ボクにはその勇気がもう残っていなかった。

――怖い。何が。失うのが怖い。もう、失いたくないんだ。――

 (もう失いたくない…?)

 反射的に思った言葉だが、「もう」とはどう言う意味だろうか。

 (記憶のことか…?いや、そんなことはどうでもいい。今は!)

 ボクは落としてしまった剣の柄を再び握った。力強く。帝国兵は奇襲にパニックになり、奇跡的に視界に入ることのなかったボクの存在を一瞬でも忘れてくれている。今しかないのだ。ボクはすでに一歩踏み出していた。

 

 「うわああああ!!」

 ボクは今まで出したことのない奇声をあげ、人質を取っている兵士に斬りかかった。背中から斬りつければメーシャには当たらない。そう最もな理由を付け、非常に危ない行動をした。だが結果的にそれは成功する。斬りつけられた兵士は不意を突かれ、ボクの一刀のもとに斬り伏せられた。帝国軍隊長は兵士が倒れたことにいち早く気付き、すでにボクにその手に持つ刃をこちらへ向けていた。ボクは怯まなかった。恐怖などという感情はとうに麻痺している。――反射的に体が動いた。ボクは…いや、ボクの体は勝手に剣を振り上げ、右上から袈裟斬りを仕掛けた。予想通りにその一太刀は防がれたがボクの体はそこからさらに動き出した。防がれた剣を宙で固定し、体のみ右方向に素早く回転した。剣を持つ腕が引きちぎれそうだ。だが耐える必要はなかったようだ。剣が腕に勢いよく引っ張られる。切っ先が綺麗な弧を描き隊長の右脇腹を切り裂いた。剣は勢いを失くし隊長の体の中心で止まる。ボクは自分でさえ、自分でしたことを理解できなかった。何が起こったんだ…体が勝手に…。目の前には自分の持つ剣で支えられようやく立つ隊長がいた。その口が開く。

 「お前…は、生きていたのか…貴様あああ!!」

 隊長は体に残る僅かな力を振り絞り剣を振り上げる。今度はボクの体は動かなかった。動けなかった。隊長の咆哮に圧倒され硬直していたのだ。

 斬られる。

 「やめろおお!!うぉおお!!」

 ボクの全身に衝撃が走った。次の瞬間ボクの体は宙に浮き、真横に飛んでいた。何が起きたのか再びわからなくなった。

 

 ボクがそれを理解した時には…全てが終わっていた。

                           エピソードⅢ END

 


 
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