No.607616

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#109

高郷葱さん

#109:闇を暴く暗


今回は半ば解説回に近い調子ですが、話の切れ目的に一話居れないと繋がらないのでいれることにしました。

続きを表示

2013-08-11 04:45:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1363   閲覧ユーザー数:1293

「態々お時間を頂いてすいません。」

 

「いーのいーの。私も『更識』にはけっこうお世話になってるから、気にしないで。」

 

閑散とした生徒会室。

そこで簪は束と会っていた。

 

…所謂、密会というヤツである。

 

「それで、用件は?」

 

「はい。今回の一件の裏について…情報交換を。」

 

簪は応えながら左角をホチキス止めされた紙束を一つ、差し出す。

 

「これは?」

 

「『更識(われわれ)』が掴んでる情報から推測した、この一件の筋書きです。」

 

「ふぅん…」

 

受け取った束は表紙をめくり、ざっと流し読みしていく。

 

その様子を黙って見守る簪。

…束の表情は読み進めるにつれてだんだんと険しいモノに変わっていく。

 

「…これ、本気?」

 

束の声色には『信じられない』という思いがこもっていた。

 

「そう、思いますか。」

 

簪としても束の反応は想定内だった。

 

「普通、信じられないよ。こんな与太話。」

 

「…でしょうね。」

 

実際、簪だって信じられなかった。

 

―『ISの圧倒的戦闘力を背景にした、世界征服』などという与太話、誰が信じようか。

 

「ですが、今までの流れからしてそれが一番あり得る流れなんです。」

 

簪にそう言われて、束は資料に目を落とす。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事件から始まった各地でのIS暴走事故。

それと同時期に各地で起こったISの強奪事件。

 

そしてキャノンボールファストでの大規模暴走と情報統制の失敗から始まったISコア回収命令。

 

「国際IS委員会がクロ、もしくは委員会に強い影響力を持っているならば、可能か。でも…」

 

「はい。国際IS委員会は国連も一枚噛んでる国際機関です。」

 

正確には、国連安全保障理事会の下に発足したIS対策室が独立する形で発足した機関だ。

故に、国連安保理の影響を強く受けている。

 

国際IS委員会の常任理事は安保理の常任理事国とほぼ同じであるし、他の理事の選任も安保理経由で行われる。

 

「だったら―――」

 

「しかし、」

 

束の声を、簪は遮る。

 

「国連も、完全中立じゃありません。その成り立ち故にアメリカの影響力は大きいものですし、色々な団体がロビー活動を繰り広げたりと様々な影響を受けています。」

 

そもそもで、国が集まって出来た利害調整機関だ。

『中立』など、一番縁の無いものだろう。

 

「『国連はユダヤ・ロビーが各国に介入する為に作らせた』とか、『秘密結社(フリー・メイスンリー)の政治部門が国連だ』なんて話も有りますからね。どれも都市伝説レベルの話ですが…。」

 

噂話と言えど、それは時に真実の一端を照らしている事が有る。

『火の無い所には煙は立たない』とはよく言ったものだ。

 

「それじゃあ、今回のもその『ふりぃめいすんりー』とかいう連中が?」

何処か、震えたような声。

 

束は結局のところ一研究者であったのだ。

故に、陰謀説とか秘密結社とか、物語の中でしかお目にかからないような存在に恐怖を覚えている。

 

「いえ、違います。」

 

そんな様子から心情を察しながらも、簪は淡々と進める。

 

「それじゃあ、誰が?」

 

「我々『更識』、それに警察庁警備局は亡国機業(ファントム・タスク)だと睨んでいます。」

 

「あいつ等、か。」

 

「はい。ISの開発者、槇村 空斗(まきむら あきと)を巡って我々と抗争を繰り広げていましたから、その線が濃厚だと思います。」

 

簪がその名を出したとほぼ同時、束の肩がぴくりと動いた。

 

「…知ってるんだ。私が本当のIS開発者じゃないってこと。」

 

「ええ、まあ。」

 

自嘲するような表情を浮かべる束に、どういう表情を返せばいいのか判らなくて苦笑いっぽいひきつった表情で還す簪。

 

――簪がそれを知ることができたのはついこの間。

色々と隠していた祖父を締め上げて聞きだした為であるが。

 

「…」

「…」

 

ふと、沈黙が辺りを支配する。

 

飲み物でも有ればそれを飲んで誤魔化す事が出来るが、生憎片付け終わった生徒会室に、そんな気の効いたものは無い。

 

「…亡国機業(ファントム・タスク)は確かに秘密結社ではあるんですが、その成り立ちは第一次世界大戦後に生まれた平和維持機関です。」

 

「ふぇ?」

 

唐突に語りだした簪に束は変な声を上げてしまう。

 

「各国の資本家が集まって互いの利害を調整し、資本面から国の暴走を抑える。そんな理念を持ち、『世界平和のための水面下・資本面からの世界征服』を目指した平和維持機関だった(・・・)んです。――ですが、ある一時期からその方針が変わりました。」

 

「ISの発表、だね?」

 

「正確には槇村空斗によるIS開発が始まった頃からですが、手段としての世界征服が目的に変わってしまったんです。」

 

「そして、そのための力としてISが選ばれた…」

 

「どちらかと言えばISがそれに使えそうだからその一派が暴走を始めたと言うべきでしょうかね。」

 

「成る程、ね。」

 

束の呟くような声には、納得の他に何か怒りのようなものが含まれているように簪は感じた。

 

「内部で抗争があったとの話も聞いています。恐らく、急進派が主導権を握る為の抗争を起こしていたのでしょう。」

 

「そして、急進派が勝った。」

 

「はい。それ故に拙さとそれ以上に焦っているような感覚は急進派が急いで事を進めようとして居るからでしょう。」

 

そこまで来て、二人の溜め息が重なった。

 

「まったく、困ったことをしてくれる連中だね。」

 

「はい。この話を公安の担当者とした時も『ウチもFBIもDGPNもBKAも、みんな手を焼いてます』と愚痴をこぼしてましたよ。」

 

俯き気味だった二人が顔を上げる。

その顔はどこか危ない、好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「でも、もうやられっぱなしじゃないんでしょ?」

 

「ええ。今までのツケは足を揃えて全額払わせてやりますよ。」

 

「その心は?」

 

煽るような束―――そして、

 

 

 

『泣いて謝るまで、殴るのを止めない。』

 

 

 

声が重なる。

 

「ふふ、かんちゃんも可愛い顔して物騒な事言うねぇ。」

 

「これでも暗部組織の長ですから。神戸の藤村さんとか、東京の萩原さんとか、大分の嵩月さんとかソッチ系の人とも付き合いはありますし。」

 

「おお、怖い怖い。」

 

「必要悪ですよ。」

 

しれっと言い切る簪。

再び二人はこみ上げてくる笑いを耐える事無く溢れさせる。

 

「あー、久しぶりによく笑った。」

 

目尻を拭いながら、ひとしきり笑い終わった束が切り出す。

 

「そうですね。私も久しぶりです。」

 

「それじゃ、ついでに…箒ちゃんやいっくんにも秘密だよ?」

 

そう言いながら、束はどこからともなく取りだしたアタッシュケースを開いて見せる。

 

その中には、様々な色の菱形八面体が―――

 

「ッ!?」

 

「にしし、ちーちゃんの頼みでね。内緒だからね?ポロリしたら頭に握り跡が付くくらいに痛いアイアンクローをかまされちゃうからね?」

 

「それは、怖いですね。機密遵守は暗部の基礎ですから。言いませんよ。」

 

なんとか平静を取り戻していつも通りを演じる簪。

それでも、内心はびくびくのふらふらだ。

 

「うん。お互いのために、ね。」

 

二人一緒に千冬の制裁を受けている姿を想像してぶるり、と肩がふるえる。

 

「では、今日はこのくらいで。」

 

「何かあったらここに連絡してください。私がダメでも更識の手の物が動きますから。」

 

「ん、おーけー。」

 

簪から手渡された紙片を懐にしまいこんだ束は徐に立ち上がる。

 

「それじゃ、私は解析作業(おしごと)に戻るとするよ。」

 

「はい。時間を取らせてもし訳ありませんでした。」

 

「いいって。それじゃ、ばいびー。」

 

手をふらふらと振りながら部屋を出てゆく束。

 

それを見送り終わった簪は浮かべていた表情を消した。

 

「さて、これで保険は用意できた。次は――」

 

「かんちゃん。」

 

思考の海に沈みこもうとした直前に、先ほどまでと同じ呼び方をされた。

 

「本音。」

 

「少しは休まないとダメだよ。ほら、今日はもう寝て。」

 

「でも…」

 

「明日には出発なんでしょ?それに、管理職が休まないと下は休めないんだよ?」

 

まさか、本音に諭されるとは思ってもみなかった簪は目を丸くするばかりだ。

 

「ほら、早く。」

 

「…判った。判ったから。」

 

椅子から立ち上がらせられ、背中を押されて生徒会室から押し出される。

 

パタン、と扉が閉まる。

 

残されたのはただ、沈黙だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

学園休校が告げられたその二日後、学園は慌ただしさに包まれていた。

 

―――『送迎バス』の到着である。

 

「まったく、政府も思い切った事をするモノだ。」

 

「それだけ、大事だと認識しているからじゃないですか?」

 

その『送迎バス』たちを眺めながら呟いた言葉への返答を聞いて、千冬は同情するような、苦々しいような表情を浮かべながら問う。

 

「…君が煽ったんだろう?」

 

「いえ、誠心誠意お願いしただけです。―――確かに、その手のネタは幾つも持ってますしちらつかせましたけど。」

 

にっこりと、どこか子供っぽい笑みを浮かべる真耶に千冬は改めて思う。

 

――やっぱり怒らせてはいけないタイプだ。

 

きっと、真耶に『ONEGAI』された相手は泣きたくなるような状況に追いやられたのだろう。

 

でなければ最新型ヘリ護衛艦(いずも型)二隻(護衛艦隊付き)を、本来の編成を崩してまでして派遣してくる筈が無い。

 

(後で、菓子折り持って挨拶に行った方がいいな。)

 

そんな事を考えながら、千冬は問う。

 

「そう言えば、何か用があって来たんじゃないのか?」

 

「ああ、そうでした。学園長がお呼びです。至急ではありませんが早めにお願いします、との事です。」

 

「そう言う事は早く言え。――すぐに行く。」

 

IS学園最後の日が、始まった。

 

 

 

 

 

 - - -

『更識』と付き合いのある『ソッチ』系の人の元ネタ

 

神戸の藤村さん⇒『Fate/Staynight』に出てくる藤村組。冬木市のモデルは神戸らしい。

東京の萩原さん⇒『アイドルマスター』の萩原雪歩の実家は二次ネタで『ソッチ』系にされがち。所在は東京都足立区らしい。

大分の嵩月さん⇒『アスラクライン』に出てくる広域指定悪魔結社『嵩月組』。劇中の舞台になった場所が判らないので原作者の出身地(大分)を採用。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択