…酒が不味かった。こんな事は初めてやった。……一刀が居なくなっただけで、
こんなにも、酒が不味う感じるのは。
…いや。だけやない。ウチの中で一刀が大部分を占めていたんやと気付く。
…一刀。何で帰ってしまったんや。一緒に羅馬に行くって約束したやないか。
………本当は羅馬に行かなくてもええ。只、ウチと一緒に居てくれているだけで
良かったんや。
一刀。寂しいわ。
心が無性に寂しいわ。
ウチは今日も自室で浴びるほど酒を飲む。悲しみを紛らわせる為、
味気がない酒を煽る様に、何度も何度も。
そして、重い身体を無理矢理、起こし寝床につく。これが、ここ数日のウチの日課やった。
神速の張遼と天下に名を馳せた武将が、情けないわ自嘲気味に笑う。
…けど、仕方がないんや。
本気で好きやったから。
本気で添い遂げたいと思ったから。
そうして、ウチは眠りにつく。深い悲しみと大切な人を想いながら。
いつもと同じ光景を見ていた。瞬時に夢だとわかる。そう。一刀が消えるいつもと変わらない夢だと。
ウチはその場に佇み、抗う事をせず消える背を傍観していた。…結果がわかっていたから。
けど、様子が違っていた。
消えたと思っていた一刀が、ウチの前に現れ悲しそうな表情で言葉をつむぐ。
「霞。突然居なくなってゴメンな」
…夢でもええと思った。覚めないでほしいと思った。
ウチは一刀に会えなかった分だけ離さないようにギュッと力強く抱きつく。
「霞。聴いてくれ。話したい事があるんだ」
「……嫌や。聴いてしもうたら、終わってまう。一刀に会えたのに
また、別れるのは、………嫌や」
「頼む。霞。こうして会えたこと事態が奇跡なんだ。霞もわかるだろ。
俺の言葉を聴く、聴かないにしろ、この夢が覚めてしまうということが」
ウチもわかってた。けど納得できひんかった。溢れ出る一刀への想いが
邪魔をして、このまま一緒に居られたらと思ってしまったんや。
…ウチは心に矛盾を抱えながら、首を縦に振る。ホンマは聴きとうない。
けど、…結果が変わらへんから。
ウチは一刀の言葉を素直に聴きいれる事にした。
「ありがとう。…実は帰れるかもしれないんだ。そっちの世界に」
一刀の言葉を聞き、抱き締めている腕に更に力がこもる。一刀が帰ってくるかもしれない。
ウチは驚きで胸の中に埋もれていた顔を、勢いよく離し一刀を見つめる
「ホンマか!?ホンマに帰ってこれるんか、一刀!!」
「ああ。いつになるか判らないけど、必ず帰ってくる。
それまで、待っていてほしい」
一刀が帰ってくる。こんなにも嬉しい事はない。けど、一つだけ、
疑問に思うことがあった。
「何でいつ帰ってこれるか、わからないんや?一刀」
「詳しい事はわからないんだけど、帰るには俺が今居る世界と、霞が居る世界を
結ぶ必要があって、時間が掛かるらしい。だから、俺自身いつ帰れるか、
わからないんだ」
一刀が神妙な面持ちで理由を口にした瞬間、一刀の身体が淡く光りだした。
その光景を見てウチは悟る。この夢の終わりが近い事を。
「……残念だけど、時間切れの様だね。まだまだ話したい事が山ほどあるんだけど
・・・霞。みんなをよろしく頼むよ」
「一刀!!!」
ウチは縋る様に愛しい人の名を呼ぶ、夢から覚めてもこの記憶を忘れまいと、
強く心に刻みながら。
「また、寂しい思いをさせてしまうけど待っていてくれ。霞」
「待っとるで。一刀。けどな、余り待たせすぎてもアカンで。
ウチは神速の張遼や。待つのは好きやない。だから、
……一日でも早く帰ってきてな」
「ああ。約束するよ。・・・愛してるよ。霞」
「ウチもや。愛してるで、一刀。」
「…………………一刀!!」
ウチは気がつくと寝床から上半身を起こしていた。
そうや、夢やったんや。そう思うとウチはポロポロと涙を流す。夢とはいえ、
一刀に会えた喜びの涙なのか、はたまた、もう一度、離ればなれなってしまった
悲しみの涙なのかウチ自身わからなかった。けれど、やる事が出来た。
一刀に託された魏のみんなを任せられた役割。ウチは泣いてる暇はあらへんと、
気合をいれ、ゴシゴシと涙を拭く。そして、決意を秘め寝床から起き、
勢い良く扉を開ける。
ウチは夢の出来事を信じることにした。たとえ夢やとしても一刀にみんなを頼まれたから。
夢やとしても一刀は嘘を吐く奴やない、何より、ウチが信じたいと思ったから。
せやから、ウチは直ぐに行動に移した。
その後、ウチは玉座の間にみんなを集めた。一刀は必ず帰ってくる、湿気た面せえへんで
帰ってきた時に誇れるような事をせなアカンと力説した。そして、もう一言付け加えた。
一刀の事を想うなら、悲しみで立ち止まらず、未来に向けて突っ走るしかないと。
華琳やみんなは同調してくれはって、通夜の様な雰囲気だった場に覇気が宿った。
次の瞬間、惇ちゃんが大声をあげ、秋蘭が窘める。そんな、いつもの魏の日常に
戻っていった。
しかし、気がかりな事もあった。この場に凪がいない事。真桜と沙和から話を聞くと
凪は毎晩泣きはらし、活力が失われているという事やった。凪の心の傷は相当根深い。
ウチは凪を真桜と沙和に任せる事にした。ウチが赴いて励まそうとしても、
余り効果がない。気心の知れた二人の方が効果があると思ったからや。何より、
凪には二人の力が必要やとウチの直感が告げていたから。ウチは胸の内を伝えると
同時にどうしようもない時には力を貸すと言った。真桜と沙和は目を潤ませながら
首を縦に振った後、元気良く了承してくれはった。
この日を境に魏は再び活力を取り戻した。
すべては一刀がいつ帰ってきてもええ様に。
季節は巡りウチは今、惇ちゃんと部隊訓練をしていた。あの後、凪は立ち直り警備隊長代理として
民の安寧を守っていた。聞く所によると、一刀が帰ってきた時に甘えてもいい様にと、
頑張っていると耳にした。ウチは凪に問い詰め噂をぶつけると、肯定も否定もせず顔を真っ赤にして
黙ってしまった。全く、凪は相変わらず可愛い奴やなと頬ずりしてしもうたで。一刀が帰ってきたら、
また一緒に風呂でも入ろうなと思ってしまうほどやったわ。
「張遼将軍!!」
ウチは我に返り訓練に集中した。
「何や!」
「それが、夏侯惇将軍が突出し我が軍が押されています。どう致しましょう!!」
「ウチが直接打ち合う。部隊の指揮をよろしく頼むで!」
「ハッ!!ご武運を!」
「オラー!!どかんかい!神速の張遼の道をあけやーーーーー!!!」
一刀。ウチは出来る事を精一杯やり通すで。魏の全員はウチが支えてやるさかい。
これは誓いや。だから安心して帰ってきてな。
一刀!!
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こちらは真・恋姫†無双の二次創作になります。
前回、前々回、霞をすっかりと忘れてしまったので
今回は霞視点のお話となります。
霞好きなのに何で忘れたんだろう。
また、霞の口調がおかしい所があると思います。
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