第7剣 新たな技術
キリトSide
ウルズが言った通り、氷の迷宮『スリュムヘイム』の内部は手薄になっており、雑魚Mobとのエンカウントはほぼ0。
フロアの中ボスも居たりするものの、居ないことの方が多く、俺達は現在、第1層のボスである圧倒的攻撃力を誇り、
ハンマーをその手に持つ
―――ぼるぉぉぉぉぉっ!!!
「うらぁっ!」
奴が振り下ろしたハンマーに対し、ルナリオも自身で打ったハンマーを用いて其れを弾く。
お互いに仰け反る体勢になったが、俺とハジメ、クラインとリーファは一気に斬りつけ、
シノンは弓を用いて援護射撃を行い、アスナは支援魔法で俺達のステータスを強化してくれる。
攻撃を受けるも、体勢を整えたボスはハンマーを頭上に向けて振りかざし、奴を中心に冷気が集まるとそれが上空へと辿り着く。
「氷柱が来るぞ!」
―――ぼるるるぅぅぅっ!!!
俺の警告の直後、奴が雄叫びを上げてハンマーを振り下ろすと、部屋全体の天井に氷柱が発生し、一気に降り注いだ。
俺とハジメとルナリオは自分達の頭上に落ちてきた氷柱を破壊し、他のみんなは一斉に回避した。
降り注ぐ氷柱の中を俺達3人は突き進み、無防備となっているボスに攻撃を行う。
ダメージにより怯んだところに、みんなも一斉に攻撃を行う。
「しっ!」
最後に、ハジメが抜刀による強力な一撃を刻んだことで、奴のHPは0になった。
第1層のフロアボスを倒した俺達は回復を済ませ、再び城の中を駆け抜けた。
やはりほぼ敵がいない状況もあり、あっという間に第2層のボス部屋へと辿り着き中へと入った。
そこに立っているのは金色と黒色という、2体の
どちらも巨大なバトルアックスを持っている。
「今度は2体か…」
「……上等だ」
そう呟けばハジメは微かな笑みを浮かべてから応え、みんなも頷く。
そして俺達は2体の牛頭に向けて攻撃を始めた。
まずは相手の動きを見極める為に俺が金色の牛頭へ、ハジメが黒色の牛頭へと攻撃を仕掛ける……が、
俺の二振りの剣による攻撃がHITしたものの、相手のHPは僅かしか減らなかった。
「っ、これは…!」
「キリトの攻撃が、効いてねぇだと!?」
驚くしかない俺、クラインも驚愕の声を上げている。
一方、ハジメが斬り掛かった黒色の方は普通にダメージを受けていた。
どういうことかと考えた時、俺の頭に乗るユイが言葉を放った。
「パパ! どうやらあの2体、金色の方は『物理耐性』が、黒色の方は『魔法耐性』が異常な高さに設定されているようです!」
「なるほど…異常な攻撃力の次は、異常な防御力ってわけ、かっ!」
彼女の説明を受け、俺は苦虫を噛み締めるように口にしながら、相手の攻撃を回避する。
その時、金色の方がバトルアックスを大きく振り上げた…これは、ヤバそうだ!
「全員、左右に回避!」
自身の勘に従い、みんなに指示を出す。
バトルアックスが振り下ろされる前に俺は右に避け、皆もそれぞれ回避行動を取る。
次の瞬間…、
―――ドシャァァァァァンッ!
俺達が立っていたところを縦にショックウェーブが駆け抜け、背後の壁に激突した。
「あぶな…」
「ナイス、お兄ちゃん!」
シノンはさすがに肝を冷やしたようで、リーファは俺に向けて親指を立てた。
さすがにいまの攻撃は危ない方に入るかもしれないからな、特にシノン辺りは…。
「キリトくん! 黒いのから倒して、金色の方をじっくり攻めた方がいいかも!」
「そうだな…全員、標的は黒色からだ!」
アスナの提案を受け入れ、俺達は黒色の牛頭へと集中攻撃を掛ける。
金色の攻撃を防ぎ、逸らしたりしながら黒色に攻撃を行っていたが、
HPが減っていくと、金色の方が激昂したかのように乱入してきた。
一瞬の隙に黒色の方は後方へと下がり、アックスを構えてから眼を瞑り、瞑想を始め、直後に奴のHPが回復してしまった。
そういうことか…今までの攻撃パターンから魔法は使わないが、
それぞれが別々の耐性を持って盾となり、特に黒い方は自力の回復手段を用いるわけか…。
しかも相手の攻撃は直撃しないように回避するものの、範囲系攻撃のスプラッシュ・ダメージは受けてしまうので、
純治癒師ではないアスナのMPが持つか心配なところだ。
全滅だけは避けたいところだかな……ならば…!
「金色に向けてソードスキルによる集中攻撃を掛けるぞ!」
「っ、そういうことっすか!」
「属性ダメージなら、与えられるかもしれないってことね!」
俺の指示に合点がいったルナリオとアスナ。ALOで導入された『ソードスキル』、それに追加されたのが『属性ダメージ』である。
現在の上級ソードスキルには“地”、“水”、“火”、“風”、“闇”、“聖”の6種類の属性が付加されている。
その属性ダメージを用いれば、魔法耐性の低い金色にダメージが与えられるのではないかと判断した。
「技後硬直に注意しつつ、次の大技が出る時に仕掛けるぞ!」
「任せな、キリト!」
「やるしかないってことだね!」
クラインとリーファが応じ、他のみんなも準備に入る。そして、俺はあるスペルワードを唱える。
そこで金色の牛頭がアックス振り上げたところで、奴に向けて魔法を放った。
「《ミスティバーン》!」
黒い霧を発生させ、ダメージこそ与えないものの霧が爆発すればかなりの音量で相手を怯ませる魔法だ。
それを喰らった奴は怯み、攻撃のタイミングを失った。
「GO!」
俺の言葉を聞き、前・中衛が一気に前に躍り出る。
「ぜりゃあっ!」
「むんっ!」
クラインの持つ刀から炎が巻き起こりながら暴れ、ハジメの刀は闇黒に包まれてから刻みつけた。
「ハァッ!」
「セィッ!」
ルナリオのハンマーは雷光を放ちながら唸りを上げ、リーファの長刀には疾風が宿って敵を抉る。
「ふっ!」
シノンは後方から氷結属性の氷矢を、敵の弱点と思われる鼻の頭に命中させた。
後方でアスナが駆けてくる気配を察し、俺も安心してソードスキルを奴に放つ。
「う、おぉっ!」
まずは高速五連突きからの斬り下ろし、斬り上げ、上段斬りの片手剣8連撃ソードスキル、
《ハウリング・オクターブ》による物理4割、火炎6割の攻撃。
最後の上段斬りが決まる直前、俺は右手で放ったソードスキルへの意識をイメージカットし、
即座に左手に意識を集中させ、新たなスキルを発動させる。
対大型モンスターの3連重攻撃スキル《サベージ・フルクラム》による物理5割、氷5割の攻撃。
このスキルが続いたことにより、1つ前に放ったスキルに課される
続け様に、左手が最後の一撃を決めようとしたところで再びイメージカット、右手で垂直斬りから左右へのコンビネーション、
上段斬りを放つ高速4連撃スキル《バーチカル・スクエア》による物理3割、水7割の攻撃。
この段階で仲間達のディレイが終了し、みんながさらなるスキルを放っていく。
俺は4撃目が入る直前に、またもイメージカットを行い、左手に新たなスキルの発動を命じる。
単発重攻撃スキル《ヴォーパル・ストライク》、物理3割、炎3割、闇4割の攻撃がボスに命中した。
ハジメ達のスキルも命中した直後で、俺を含めて
奴のHPはかなりの勢いで減り、HPバーの1%というところで停止した。
俺達を嘲笑うかのように奴が笑みを浮かべた気がしたが、俺もそれに笑みで応える。
「止めだ、アスナ」
「エェェェイッ!」
その言葉を放ったと同時に、俺の隣を青と黒の閃光が駆け抜けた。
細剣の5連続高速剣技《ニュートロン》、物理2割、聖8割の攻撃がHITし、金色の牛頭のHPは0になった。
瞑想を続けていた黒い牛頭は驚くかのように硬直……ディレイの解けた俺達は一斉に振り返りながら笑みを浮かべて…。
「牛野郎、正座しやがれ」
クラインがそう言い放ち、物理耐性の低い牛頭へと、一斉に突撃した。
その際に、牛頭が震えていたり、怯えた鳴き声を上げた気がするが……気にしない!
「やい、キリト! さっきのやつはなんだ!教えやがれ!」
「分かった、分かった。時間が無いが、簡単に説明してやるから落ち着けって…」
2体目である黒い牛頭を倒し終え、アイテムをキッチリと回収し終えると、クラインが問い質してきた。
クラインだけでなく、アスナとリーファ、シノンも同じようであるし、ハジメとルナリオも興味深げだ。
「俺が編み出したシステム外スキル、《
どちらかの武器で連撃系ソードスキルを放った後、
最後の一撃が決まる直前にアミュスフィアに出力される運動命令をイメージで全カットし、
残りの武器でさらにスキルを繋げる技術だ。
ただ、これは二刀流に制限されるうえに、攻撃している方と攻撃していない方のモーションがほぼ一致しないといけない。
さらに両方のスキルに思考を割かないといけないから、マルチタスクが重要になる。ちなみに俺の成功率は8割、以上」
俺の説明を聞き終えた一同の反応は困惑、呆然、感嘆などなど。
「俺には無理ってことだな、解ります」
「なんていうか、無茶苦茶ね…」
「まぁ、お兄ちゃんですから…」
「もぅ慣れたよ…」
とは、クラインとシノン、リーファとアスナの弁。
「……ふむ、私も試してみるべきか…」
「あ~、ボクは振りが大きいスキルばかりっすから、無理かもしれないっすね」
「さすがはパパです♪」
ハジメとルナリオは自分達に当て嵌めており、ユイは賞賛の言葉を掛けてくれた。
「取り敢えず、詳しい説明が聞きたいなら全部終わってからだ。リーファ、時間の方はどうだ?」
「なんとか2時間をきったってところ。一応、急いだ方がいいかも」
「そうっすね。さっさと回復して、先に進むっすよ」
俺は詳細を後回しにして、リーファに時間を聞き、それにはルナリオが応じる。
俺達はHPとMPの回復を済ませ、第3層へと進むことにした。
キリトSide Out
No Side
キリト達がスリュムヘイムを攻略している頃。
ハクヤとリズベット、ヴァルとシリカは『聖剣エクスキャリバー』の入手クエストである、
「あたいらが知ってるのはこんなところさ」
「ありがとう、助かったよ」
「気にしなさんな。それじゃあね」
ハクヤは数人の種族混成パーティーから話を聞き終えたところだった。
「(いい情報が貰えたな…)さてと、そろそろ集合時間だな」
彼は翅を広げて空を飛ぶと、央都アルンの北側テラスへと移動した。
そこには既に他の3人が集まっており、ゆっくりと地に足をつけた。
「ハクヤはどうだった? 何か情報は掴めた?」
「まぁな。3人はどうだ?」
「あたしとシリカは特になし。ヴァルはなんか気掛かりがあるみたいだけど…」
リズベットに訊ねられたハクヤは短く答えた後に聞き返し、彼女は首を振りながら応じた。
「それじゃあ俺から報告するよ。
今回のクエスト、『丘の巨人の討滅』はヨツンヘイムにある最大の城、そこに居る『大公スィアチ』依頼したらしい。
報酬はエクスキャリバーってことになってる。クエストを受けると人型邪神から攻撃されることはなくなるみたいだ」
「僕は報告というわけじゃないんですけど……どうして、
世界樹の根にあるはずの氷の迷宮に存在するキャリバーを報酬に出来るのかということです。
あと、いままで敵であったはずの邪神のボスが、いきなり味方に付いたのかというのも…」
ハクヤは先程得た情報を伝え、ヴァルはいままでの話しから矛盾点を指摘した。
「一体、何が起きているんでしょうか?」
「そうね…。アスナ達が無事に戻ってくれば、何かわかるかもしれないけど…」
シリカとリズベットは少々不安げな表情になる。
「キリトさん達ならきっと大丈夫ですよ」
「ま、アイツらが負ける事なんて滅多にないか…。なら、俺達はもう少し情報を集めよう」
ヴァルとハクヤの朗らかな声を聞き、シリカもリズベットも明るい表情に戻る。
それから4人は、再び情報を集めることにした。
しかし彼らが一連の真実を知るのは、キリト達が帰還してからになるのだが…。
No Side Out
To be continued……
オリジナル魔法
《ミスティバーン》
幻惑魔法の1つ。黒い霧を発生させ、直後に爆発し、大音量で敵を一時錯乱させる。
ダメージは与えられない。
後書きです。
はい、《剣技連携(スキルコネクト)》の話でした~。
まず最初のサイクロプス型邪神のボス部分は原作にて数行でしか表現されていなかったので、少しだけ書いてみました。
さらに金と黒のミノタウロスの邪神ボス、こちらも結構あっさりと決着がつきました。
時間が多く残っているのも原作ではシリカとリズでしたが、本作ではルナリオとハジメという戦力がいるからです。
そしてキリトのスキルコネクト成功率が高いのも、やはりウチのキリトさんの性能ですからww
あともう1つ、《バーチカル・スクエア》の属性ダメージはオリジナルの設定です。
次の話は囚われの神とスリュムの登場です。
それでは次回で・・・。
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第7剣です。
今回はあのシステム外スキルのお話しになります。
どうぞ・・・。