拠点、瑠理
「母親になって」
今、瑠理は戸惑う献刀が由理の世話をしている光景を見つめている。
(不思議……)
少し前まで、献刀を見たときは、嫉妬などによる怒りを抑える日々が続いた。それが今では穏やかな気分で彼を見つめている。
(何でだろう?)
彼女はその理由を考えてみる。
(権力を捨てたから?)
いや、と首を振って否定する。
(それとも野心が無くなったから?)
これは関係はしているだろうがしっくり来ないのでこれにも首を振る。
(……母親になったから?)
何かが足りない感じがして首を傾げる。
(そうか……一刀との子を産んだからか……)
彼女は自分なり何故かを考える。
恐らく、報われないと思っていた秘めた想いが、彼との子を産んだ事で形を成して、成就したような感覚があるからだろう。その事
実は世に公表される事は無いが、それでもある種の達成感があった。
そこまで考えてふと献刀を見る。彼は彼女の子供だ。憎んで止まなかった彼女の子供だ。
だが、それでも一刀の子供である。今ではそれだけでも彼にも愛しさを感じてくる。
彼女は由理をどう思っているだろうか。彼女はあの子を憎んでいるのだろうか。
(そうだとしても、あの子を産む事を許した)
だとすれば彼女もまた自分同様、変わりつつあるのだろうか。少なくとも以前では考えられない事だ。
(私と共にあの子達を守ってくれるのだろうか?)
難しいかも知れないが、ひょっとしたら出来るかも知れない。その根拠があった。
(私とあいつには……一刀のために何かをしたいという共通点がある)
自分も、彼女も一刀をこれ以上傷つけない、追い詰めないという概念が現在ある。
(……話合ってみよう……一刀のために!)
――後日、二人は話合いを始める。
瑠理の予想どうり美華にも何らかの変化があったようで、以前のような雰囲気にはならず、真剣に彼女の話を聞いていた。一刀のた
めに何が出来るか、何をするべきかを。
瑠理と美華、二人が出会ってから今までで初めての話し合いだった。
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投稿分その二。