ルイズの部屋を訪れたアンリエッタ王女は、感極まった表情でルイズに駆け寄ろうとする
「ああルイズ、わたくしのおともだち―」
「はい、止まって下さい」
と俺は駆け寄ろうとした王女のフードを引っ掴む
「ちょっ、何ですの貴方は!?わたくしは杖を預けましたわ!」
王女は手を振り足を振り、声も荒げて抗議する
「杖以外にも魔法発動媒体はありますし、『フェイスチェンジ』の魔法を使っている可能性もありますからね」
実際俺も杖以外の発動媒体を持っている。右手と左手の指に嵌めている指輪とデルフ、それにマーキングクナイもそうだ
『フェイスチェンジ』とは風と水のスクウェアスペルで、その名の通り術者の顔をまったくの別人に変えてしまう魔法だ
勿論顔を実在の人物のものに変えることも出来るので、要人を守るときは警戒しなければならない魔法でもある
ワルドは風の単一属性スクウェアと聞いてはいるが、用心は必要だ
「ああもう分かりましたわ!『ディテクトマジック』なり何なりすればよろしいでしょう!?」
ディテクトマジックとは魔力を探知するための魔法で、どんな魔法が発動されているかも分かる便利な物だ
「では、失礼いたします」
俺はまだディテクトマジックをコピーしていないので『白眼』で透視をして媒体が無いかを調べる
結果として発動媒体となりえそうな不審物は見つからなかった
「大変失礼致しました、姫殿下。しかしこちらも、主人を守る為には万全を期する必要があるので」
「本っ当に申し訳ありませんでした姫殿下!!この使い魔が…!」
「もう過ぎたことですし、いいですわ。ルイズ・フランソワーズ。それにその堅苦しい行儀はやめてちょうだい?わたくし達はおともだちじゃないの」
ルイズが顔を真っ赤にして俺を睨みつけるが、それを王女が取り成し話を変える
二人が思い出話に花を咲かせている間に俺たちは雑談をする
「それにしても、ルイズがお姫様と知り合いだったとはねえ…。いや公爵家だから繋がりはあるんだろうけどさ」
「わたしもビックリしたよ。お姫様なんて始めて会ったもん!」
「公爵家だからって誰でも姫殿下に会えるわけではないわよ?マチルダ」
「わたしも姉さんも、数えるほどしか会ったことは無いわね」
「『おともだち』って言ってるからね。エレン、姫殿下とルイズの幼少期ってどんなのだったの?」
そう尋ねるとエレンは渋い顔を、カトレアは笑いを堪えているような表情になった
エレンは重苦しい表情で口を開く
「…一度、私とカトレアも姫殿下と一緒にお菓子を食べたことがあるわ。その時にね…」
「…ルイズは、一体何をしたんだい…?」
その表情から皆は聞いてはいけないような事だったか、と背筋を冷たくする
しかし次に口から出た言葉は予想外にも程があった
「ルイズと姫殿下が、そのときに出たクリーム菓子を取り合ってね。掴み合いの大喧嘩になったの」
「あの時は面白かったわね。姉さん?」
「面白くないわよ…。姫殿下が泣き出したときには背筋が凍る思いだったわ」
予想外過ぎるアクティブな幼少期に、俺とアルビオン姉妹は大口を開けて絶句する
それを面白がる、幼少期カトレアも恐ろしいといえば恐ろしいが―――
―――にっこりと微笑みながらこちらを見ている彼女が怖いので、この話は止めよう
「ええ、そんな事もありましたわ。あの頃は毎日がとても楽しかったわ。何にも悩みなんか無くって…」
深い憂いを含みながら、殿下は溜息を吐いた
「…姫様?」
様子がおかしいと殿下の顔をルイズが覗き込む
「あなたがとても羨ましいわ。自由って素敵ね。ルイズ・フランソワーズ」
「何を仰います。あなたはお姫様じゃない」
「王国に生まれた姫なんて籠に飼われた鳥も同然。飼い主の機嫌一つであっちに行ったり、こっちに行ったり…」
殿下は窓の外の月を眺めながら寂しそうに言った
それからにっこりと微笑みながらルイズに告げる
「結婚するのよ。わたくし」
「…おめでとうございます」
「あら、それはおめでとうございます殿下♪」
ヴァリエールの次女と三女がそれぞれ対照的な声色で応える
長女はというと、『私もですよ』と言わんばかりに俺の腕をしっかと抱いている
エレンに触発されたのか、反対側の腕をマチルダが胸に抱く
それを見た殿下が目を輝かせる
「あら?わたくし、お邪魔だったかしら?」
「いいえ!全っ然そんな事はありません!全く、こいつは使い魔の癖に…」
ルイズが俺に向かってグチグチと説教を始める
その内容に殿下が疑問符を浮かべ、ルイズに質問をする
「使い魔…ですか?彼が?」
「ええ。私の使い魔です」
殿下はきょとんとした顔で俺を見つめる
「失礼ながら、何処からどうみても人間ですが…」
「人間ですわ。…ちょっと自信ないけど」
ルイズは後半を蚊のなく様な声で呟く
失礼な。俺はれっきとした人間だぞ
でも少し、落ち込むなぁ…
俺が部屋の隅で体育座りをしてどよ~んとした雰囲気を醸す
慌てた様子のテファが近づいてきて、俺の頭を優しく撫でる
「大丈夫だよハヤテ。ルイズも本気であんな事を言ったわけじゃないよ~」
テファのぽわぽわしたオーラに当てられ、思わず少し涙ぐむ
その涙にまたテファが俺を撫で、俺が泣くという悪循環(?)
数分続けていると、ルイズと殿下の話の雰囲気がピリピリとした物に変わった
「…ルイズ・フランソワーズ。今から話すことは、誰にも話してはいけません」
重苦しい表情の殿下が告げる
暗に、人払いをして欲しいと言っているのだろう
「では、私たちは外に」
「いえ、メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由がありません」
ですが…と殿下がヴァリエール姉妹とアルビオンの姉妹に目を向ける
メイジと使い魔は一体だが、彼女らはそうではない、という事だ
「彼女らは私の婚約者です。婚約者同士も一心同体ではないのですか?」
『婚約者』という言葉に殿下が綺麗な顔を歪める
結婚に関する、もしくは連想させる言葉はタブーのようだ
結果として、殿下はその事には一切触れず話を続けた
殿下の話を纏めると、結婚の妨げになる手紙をレコン・キスタに取られる前に、アルビオンの皇太子から受け取って来て欲しいということだった
そう今現在『戦争状態』のアルビオンから、だ
ふざけている
話を聞き終わって真っ先に浮かんだのがその言葉だった
結婚の妨げになる物を取ってきて欲しいというのは、まあ良いだろう
このゲルマニアとの婚姻が成立しなければ、アルビオン王家を落としたレコン・キスタが攻めてくるのは十中八九、トリステインだ
ゲルマニアは国力が高く、その高さに比例して戦争も強い
婚姻を妨げる理由なんて、あちらからしたら幾らあっても足りない位だ
しかし戦争中の他国に、幼馴染を潜入させる神経が分からない
それは間違いなく、部下に命じるべき事柄だ
どう考えても途中で死んでしまう可能性のほうが高い
だから言った
言ってしまった
「ふざけないでください」
と
約二ヶ月ぶりの投稿です
遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした
高校が夏休みに入ってやっと時間が取れました
これからは出来るだけ早くに投稿できるようにします
ただ成績が酷かったのでパソコンの存在自体が危ういんですよね←
推薦取れっかな…。正直ギリギリなんですよね
一応自分は理系なんですけど、数学と物理が特に…
何かいい勉強法ありませんか?
さて、次の投稿をお待ちください
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第二十七話です。二ヶ月ぶりの投稿で、大変お待たせいたしました